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2015年12月17日 (木曜日)

535【番外編】監査業界は厳冬

2015/12/17

一体、いつ、冬が来るのか? そんな暖かい陽気が続いているが、この記事が公開される17日は、東京でも最高気温が12℃とかなり寒い予想となっている。ようやく冬らしくなるだろう。しかし、それより一足早く、しかも、吹きすさぶ寒風にさらされている業界がある。監査業界だ。

 

15日、公認会計士・監査審査会(=CPAAOB)は、新日本監査法人に対する検査結果を公表した*1。内容は厳しいもので、冒頭に「運営が著しく不当」(運営とは、経営のこと)とされている。素直に読めば「経営者はクビ」ということだろう。

 

今回は、どんな点が不当だったかについて、僕の理解できる範囲ではあるが、公表文の趣旨に沿って、専門用語をなるべく避けながら記載したい。

 

但し、注意していただきたいことがある。すべての社員・スタッフ・監査業務に問題があったということではない。多くの監査業務を検証した結果、幾つかの監査で発見された問題に関して、法人全体の対応、例えば、個々の問題点を改善したり、他の監査業務へも展開し問題を未然に防ぐといった対応の徹底が不十分だった。

 

問題があったのは間違いないが、みなさんがご存知の新日本監査法人の方々のこととはお考えにならないでいただきたい。

 

  1. 経営陣の問題ー過去の指摘事項への対応が悪い。

 

以下の2〜4を総括して、経営陣の責任としている。過去の指摘事項の改善が十分でない。(経営陣は、監査サービスを熟知している。一般企業の会計不正とは異なり、知識が不足していた、などという言い訳はできない。経営陣には、より直接的な責任がある。) 

 

  1. 組織の問題ー過去の指摘事項への対応が悪い。

 

検査等による指摘事項への対応は、品質管理部門を中心に分析され対策へ落とし込まれたものが経営陣によって承認され、それを各事業部門が個別の監査業務へ導入する。品質管理部門は、もともと備わっている Plan-Do-Check-Action の仕組みの中でその導入状況を検証し、改善へ導いていく。各事業部門は個別の監査業務のDoを指示・サポートする役割だ。

 

問題とされたのは、Check-Actionの部分の実効性と、その態勢だ。どうやら、Check-Actionのやり方が悪く、早急に変更すべき監査計画を適時に修正できないとか、以前から(CPAAOBが)繰返し指摘している“分析的実証手続”と呼ばれるP/L項目を中心に適用される監査手続の不備が、現在の態勢で改善されなかったらしい。

 

その他に、地方事務所の監査業務の不備が前回に引続き今回も発見されたとか、各事業部門のDoの指示・サポートが徹底してない、一部社員の監査業務の指揮が不十分(調書査閲不十分)といった指摘が挙げられている。

 

最後に、「当監査 法人の品質管理態勢は著しく不十分である」と、恐ろしい言葉で締め括られている。これはまるで、飲食店が「衛生管理が全然ダメ」といわれているようなもの。

 

  1. 社員の問題ー監査人としての心構えや姿勢が不足する人がいる。

 

社員とは、個別の監査業務を指揮し監査報告書にサインする人のこと。監査人としての心構えや姿勢(=職業的懐疑心)は、監査法人が社員昇格させる際に最も重視する、基本中の基本。監査人が監査人たる所以ともいえる。

 

これを指摘された人は、社員失格の烙印を押されたに等しい。また、外部からそういう指摘を受けるまで気がつかない人事評価制度の不備やそういう状況の放置の責任など組織の問題が滲んでいる。

 

CPAAOBがこのような評価を下したのは、監査計画におけるリスク・アプローチ(=リスクの大きいところに監査の重点を置く考え方)不十分、重要な会計上の見積りに対する監査手続の不備、重要な勘定残高の異常値の放置、経営者による内部統制無効化の検証が未完成(というか、ほぼ未実施)、という状況を(一部に)発見したかららしい。

 

  1. 審査の問題ー甘い

 

審査とは、監査報告書の内容と発行を法人として承認・許可するチェック手続のこと。その監査業務と無関係の社員が担当し、必要があれば(=難しい問題があれば)、品質管理部門の応援を受ける。時には、監査法人の経営会議(取締役会)まで進むことがある。

 

この公表文では、審査担当社員が監査チームが審査用に作成した資料を閲覧するだけで、重要な不正リスクについても、監査チームの対応を監査調書で確認していないと指摘している。審査は、誰が担当するかで厳しい・甘いの差は確かにある。ただ、そのやり方は規定や慣習的なルールで、概ね、法人内で統一されていると思う。したがって、これは一部の問題ではなく、法人全体に共通する問題かもしれない。

 

 

一つ、この公表文の異常な点を指摘しておきたい。

 

この公表文には“東芝”の文字は一つもない。一見、東芝の件とは全く関係がないような内容になっている。しかし、CPAAOBは、もう10年も前から大手監査法人を少なくとも2年に1回は検査してきた。なのに、なぜ、突然、今回だけ、新日本監査法人にこれほどひどい評価を下したのか。別に新日本監査法人が突然怠け出したわけではない。それに、新しい問題の指摘はない。

 

東芝の件があったからだろう。間違いない。(欄外に紹介した日経新聞の記事では、東芝の監査業務に重点の一つが置かれていたことが記載されている。)

 

今回ひどい評価をするなら、もっと以前からそうすべきだったのではないか。ひどくない、或いは、以前と同じレベル、ということなら、そういう内容の公表文にすべきではないか。以前と同じレベルだが、それではダメだと考えを変えたので、処分を勧告した。これが実態ではないか。それなのに、その説明が全くないこの公表文は、まるで、CPAAOBの責任逃れのように思えてしまう。

 

或いは、別の意図があるかもしれない。それは、他の監査法人に対する警告だ。

 

今回のような問題を起こせば、手の平を返して金融庁に処分を勧告しますよ、過去の評価とは関係ないですよ、という脅しだ。実は、一見、分かりにくいこの公表文の指摘事項の内容を、僕はかなり確信をもって理解できる。というのは、現役の監査人だった当時、同じような指摘を読んだ記憶があるからだ(但し、審査の指摘は除く)。もう、辞めて4年半も経つ。かなり過去のことだ。

 

新日本では、それらがまだ改善されてなかったのか。僕のいた監査法人は治っただろうか?

 

治っていなければ、いつでも、CPAAOBは今回のような評価を下すネタを持っていることになる。同じ指摘を受け続けている監査法人がもしあれば、背筋の凍る思いがしているだろう。

 

しかし、それでは処分が基準もなく極めて恣意的に決められることになる。監査人にとっては暗黒時代だ。見えるのはCPAAOBの検査官の顔だけで、クライアントや投資家・株主といった本来責任を負うべき相手の顔は、ますます霞んでいくだろう。このやり方は良くない。

 

それに今回の件では、CPAAOB自身にも反省すべき点があるはずだ。恐らく、東芝のような大規模な監査業務は、過去に検査の対象になっていただろう。その検査結果はどうだったのか。(もし、検査されたことがないというなら、サンプルの取り方がおかしい。)

 

加えてもう一つ。同じ指摘事項が指摘され続ける本当の原因も考えてみるべきだ。簡単に、監査人の心構えや姿勢(=職業的懐疑心)だけで片付けられる問題ではない。

 

リスク・アプローチのためと称して、様式化した形式的で膨大な監査計画の調書を作らせる監査基準を見直すべきだ、と僕は思う。そんな様式など、国の制度として(国際監査基準に準拠しているのだが)コピペを推奨しているようなものだ。むしろ、監査業務ごとに、異なる形やアプローチがあってしかるべきだ。膨大な量の様式の穴埋め作業は無駄だし、人は育たないし、それこそ、監査が形骸化する原因になっている。もっと原則主義の規制が良い。日本からそういう発信はできないものだろうか。

 

監査法人の品質管理は改善が必要かもしれないが、国の監査を規制する仕組みも見直しが必要だと思う。僕は、何度かこのブログに書いている通り、監査法人や監査人の過去の業務内容(特に問題業務)に関する情報開示を徹底し、市場原理を利用して不良サービスが自然淘汰される仕組みにするのが良いと思う*2。その方が、シンプルに、監査人がその責任と結果を感じ取れるに違いない。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 CPAAOBのホームページに掲載されているのは、印刷すればA4で1〜2枚の短いもの。

 

新日本有限責任監査法人に対する検査結果に基づく勧告について

 

抽象的な記述しかないので、取材も加味した日経新聞の記事がわかりやすい。

 

新日本監査への行政処分を勧告 東芝手続きで重大不備  12/15 無料記事

 

*2 例えば、最初に書いたのは、下記の記事だと思う。

 

【期待ギャ】「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」(企業会計審議会監査部会)の「不正の端緒」 (2012/10/20)

 

 

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