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2015年12月24日 (木曜日)

537【CF4-12】不確実性の引越し〜財務報告の価値

2015/12/24

先週金曜の日銀の“追加緩和の補完措置”で、円や日本株の相場は、すっかり冷えてしまった。ありがとう、日銀。おかげで僕の気分は、実際のお天気がどうであれ、吹雪のホワイト・クリスマスだ*1

 

さて、そんなことはどうでも良い。このところ番外編が続いたが、今回は本題に戻って概念フレームワークの公開草案(=EDの検討に戻りたい。

 

前回(535-12/10)は、“不確実性”に関する記述が、財務情報の基本的な質的特性の1つである“忠実な表現”のところから、もう一つの基本的な質的特性である“目的適合性”へ引越しし、かつ、記述が拡充されたことを記載した。不確実性は忠実な表現に反しない範囲で受容されるものから、目的適合性に合えば許容されるものへ変わったように見える。その結果、読者が関心の高い分野(=重要性が高い分野)では不確実性が高くても会計上の見積りを企業へ要求し、読者の関心の低い分野(=重要性が低い分野)では会計上の見積りを要求しないといった、会計基準上の扱いがしやすくなったのではないかと思われた。そして僕は、この引越しを良い引越しと評価した。

 

今回は、前回の末尾で予告した通り、この変更の意図を読み解いていく。

 

ところで、IASB議長のハンス・フーガーホースト氏が来日しており、21日に開催された報道機関向けの説明会で、東芝の粉飾事件に関する質問に対して、次のような発言をしたらしい。

 

不正の起きない会計基準を作ろうとしているが、企業側の会計操作の意志があればそれを100%回避できない*2

 

何ら目新しいことはなく、むしろ、当たり前の発言だ。会計基準開発に携わる人々が、ずいぶん昔から繰返し発している鉄板フレーズだと思う。僕は、それが、今回のテーマに深く関わっていると考えている。

 

不正の起きない会計基準を作ろうとしている」にも関わらず、IFRSUS-GAAPは、不確実性が高く、かつ、経営者の判断に依存するため恣意性の介在しやすい会計上の見積りを、どんどん会計基準に取り込んできた。日本基準も同様だ。これは、反IFRS派や反公正価値測定派などから、格好の批判材料になってきた。会計上の見積りは信頼性が低く、会計基準で多用すべきでないと。

 

ならば、不確実性の記述を“忠実な表現”から移して良いのか。むしろ、もっと不確実性と“忠実な表現”の結びつきを強めるべきではないか。なぜなら、“忠実な表現”は、2010年以前の概念フレームワークで用いられていた質的特性である“信頼性”のことだからだ(EDの結論の根拠(日本語)P24の脚注9)。

 

しかも、2010年以前の“忠実な表現”である“信頼性”は、“検証可能性”という補強的な質的特性をその一部に含んでいた。しかし、“忠実な表現”に変わる過程で、それは外された。即ち、IASBは、「検証できるから信頼できる」という考え方を概念フレームワークから遠ざけた。

 

このように考えると、鉄板フレーズの「不正の起きない会計基準を作ろうとしている」という発言の真意を疑いたくなるだろう。反IFRS派や反公正価値測定派などの主張も、分からないではない。また、僕は監査人出身だから、監査が困難な会計基準を敬遠したくなる気持ちもある。

 

では、「IASB議長は嘘つきだ」だろうか?

 

もちろん、そうではない。ただ、我々が期待するほど、このフレーズに対する思い入れは強くなさそうだ。というのは、IFRS等では「不正の起きない会計基準」より「読者に価値のある情報を提供できる会計基準」の方が、優先されていると思うからだ。

 

みなさんの中には、「財務情報が信頼できないなら、価値もないだろう」と思われる方もいるかもしれない。しかし、恐らくIASBは、その懸念より「“信頼できても価値のない財務情報”には意味がない」という思いの方が強そうだ。

 

例えば、既に確定した取引のみを集計し、すべて取得原価で財務諸表を作成すれば、かなり見積もりは不要になるし、情報に嘘はないかもしれない。その結果、市場価格の変動も、資産の減損も除去債務も考慮されなくなる。しかし、それを見たがる読者はどれぐらいいるのか。そういう情報に高い価値があるだろうか。恐らく、IASBでは、こういう疑問の方が優っているのだ。

 

2010年の改定では、信頼性を質的特性から外した。今回は、不確実性(会計上の見積り)の記述を、忠実な表現から目的適合性へ引越しさせた。これは、「信頼性より目的適合性を優先させる」というIASBの意思の現れだと僕は思う。

 

会計基準に頼れないとすれば、信頼性はどうやって担保すれば良いのか?

 

もちろん、それは監査だ。しかし、会計上の見積りは検証困難ではないか。経営者の判断とか、心の内にしかない根拠をどうやって検証するのか。

 

それでも、監査だ。監査しかない。但し、監査人だけで達成できるものではない。究極的には、経営者が説明責任を果たすこと、これに尽きる。まずは監査人に説明し、監査人を納得させられるか。監査人が納得しないものは、恐らく、外部からも納得が得られないだろう。監査人がそういう存在になり、かつ、経営者が説明責任を強く自覚することが最も重要だ。

 

これも昔から言い古されてきた鉄板フレーズだが、決して錆びていない。むしろ、会計上の見積りが重要性を増してくればくるほど、さらに輝きを増していくと思う。

 

今回のEDでは、前回(535-12/10)の欄外でも分かる通り、不確実性に関する記述が引越ししただけでなく、分量が倍ぐらいに増やされている。そこには、会計上の見積りの必要性や不確実性と目的適合性のトレードオフ関係が、以前より明確に記載された。

 

僕には、IASBが「財務報告の価値を上げるのは企業自身の努力だ」「経営者や監査人が役割を果たすことだ」「会計基準はそれをサポートする」と思っているように感じるのだが、みなさんはどう思われるだろうか。

 

 

最後にもう一つ鉄板フレーズを。「投資は自己責任」 メリー・クリスマス!

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 ここでいうホワイト・クリスマスは、「外は雪で寒くても、家の中は暖炉と団欒でほっこり」ではない。お分かりと思うが、「吹雪の中に放り出されて、懐も心も凍えそう」だ。

 

 

*2 IASB議長「日本やアジア企業のIFRS導入広がっている」 日経電子版 12/21 無料記事

 

 

 

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