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2016年1月14日 (木曜日)

542【CF4-14】重要性とコスト制約の記述に見える概念フレームワークの役割

 

2016/1/14

ようやく冬らしい寒さになってきた。おかげで、539-1/5の記事に記載したタンポポや菜の花は枯れてしまった。残念なことだ。僕としては、寒いのは嫌いだが、地球温暖化を考えればそうも言ってられない。むしろ、寒いことを喜ばなくてはならない。

 

さて、以上の文章には次の判断が働いている。

 

僕の個人的な寒さを嫌う感情より、人類の将来が脅かされる温暖化の脅威の方が重要。

 

これは、人々が普通に行っているメリットとディメリットを比較衡量する選択だ。みなさんも、何か行動を起こす際にはその価値があるかどうか意識して、或いは、無意識のうちに考えているだろう。これと同じことを「財務情報を開示・作成するかしないか」という局面で行うのが、会計における重要性の判断だ。

 

財務情報作成者にとっては面倒なことでも、その情報の有用性が上回るのであれば重要性ありと判断され、作成・開示されることになる。要するに情報の有用性が作成コストを上回れば重要なのだ。このことは、企業会計原則にも重要性の原則として、注解1に記載されている*1

 

IASB は、以前から概念フレームワークにこれと同趣旨の重要性(=Materiality)に関する記載を行っているが、企業会計原則とは多少ニュアンスが異なっている。また、これとは別に有用な財務報告に対するコストの制約(=The cost constraint on useful financial reporting)についても述べている。今回は、このニュアンスの違いとコスト制約の記述の2点に焦点を当てる。

 

 

  1. IFRSの重要性(ED2.11

 

今回ED=公開草案)は、現行の概念フレームワークとほとんど同じ文章になっている。そこには2つのことが書いてある。

 

 財務情報の主要な利用者*2の意思決定に影響を与えるなら重要性あり。

 重要性は企業ごと、開示項目ごとに固有のもの。量的基準はない。

 

 は日本基準*1と大差ないが、② 原則主義の IFRS の特徴を示している。

 

①については、重要性は財務情報の基本的な質的特性である目的適合性に関連しており、目的適合性は財務情報の利用者の意思決定に違いを生じさせるものとされているので、上記のような表現になる。日本流に言えば、財務情報の利用者の判断を誤らせるものは重要性がある、というところか。

 

②については、重要性の判断は、企業の状況や開示項目の性質などに固有のものであり、一律に決められるものではないと強調されている。その結果、IASBが会計基準の中で統一的な量的基準(=閾値)を決定することはないとしている。この点は、会計基準に重要性の量的基準を規定する日本基準とは異なる。

 

どうやら IFRS の重要性は、その性質上「財務諸表作成者が判断するもの」という特徴がある。①も②も、企業が役割を果たすことが期待されている。

 

 

  1. コストの制約(ED2.38-2.42)

 

一方、会計基準を開発する際にも、上記と同じような重要性の判断が行われる。どのような財務情報を財務諸表作成者へ要求するかを決定するために、その情報の有用性とコストが比較考慮される。但し、この判断は企業ごとの状況に基づくものではなく、より一般的な状況を想定したものだ。

 

IASB は、財務情報が有益かどうかや企業のコスト負担が大き過ぎないかを、自らが評価するとしている。(この手続きは、IASBの上部機関であるIFRS財団評議会が定めるデュー・プロセスに基づく基準開発段階のリサーチや基準発効後の適用後レビューなどによって行われると思われる。)

 

この部分の文章も現行の概念フレームワークとほとんど変わらない。企業会計原則にはこのような記述はない。

 

 

以上を合わせて、次のように読むことができると思う。

 

IASBは一般的な状況に基づいて財務情報の重要性を判断し、会計処理や開示を決めて IFRS を開発していく。それを受けて財務諸表作成者は、自らの状況に照らして判断し、読者の判断に違いを生じさせるような重要な財務情報を開示する。

 

 

いずれも現行の概念フレームワークから大きな変更はない。では、なぜ敢えて取り上げたかというと、この重要性とコスト制約の記述から、今まであまり気にしていなかった概念フレームワークの性格・役割に気付かされたからだ。

 

概念フレームワークの役割は、企業会計原則が財務諸表作成者の判断を要求する 1 の①の記述しかないのに対し、概念フレームワークは、1 の②や IASB への要求事項である 2 をも記述していることに現れている。概念フレームワークの最も優先される目的は、IASBの基準開発をサポートすること、逆に言えば、IASBの判断に枠をはめることだ。上記にはそれが表れていると思う。

 

我が国でも、企業会計原則を「会計基準の憲法」など説明することがある。それは、企業会計原則が我が国の会計基準の最上位に位置するものだからだ。しかし、憲法が「国の権力行使に縛りをかける」役割があることを考慮すると、そこまでは強くなさそうだ。ところが、上記の 1 の②や 2 の記述がある概念フレームワークは、まさに「IFRS の憲法」というに相応しいような気がする*3

 

 

日本時間の14日、サッカー・オリンピック代表チームは北朝鮮に辛勝した。僕は個人的には、サンフレッチェ広島のスーパー・サブ浅野拓磨選手の活躍を見たかったが、手倉森誠監督はその機会を与えなかった。次のタイ戦を楽しみにしたい。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 企業会計原則 注解1、重要性の原則の適用について

 

企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。

 

*2 財務情報の主要な利用者

 

“財務情報の主要な利用者”とは、このED1.5 によれば「現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者の多く」のこと。

 

*3 とはいえ、概念フレームワークと不整合な個別基準を作ってはいけない、というほどは強くない。この点は企業会計原則と同じだ。もし、これが憲法なら憲法が優先され、個別の法律が修正される。

 

 

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