543【CF4-15】“純利益とOCIの区分”を先送り。で、いつまで?
2016/1/19
リオ五輪のサッカー・アジア最終予選(=ドーハ・ラウンド)で、日本は2連勝でグループ・リーグ突破を決めた。手倉森誠監督は、第1戦の北朝鮮戦と第2戦のタイ戦で先発メンバーを大きく入れ替えたが、入れ替えられた選手がそれぞれ活躍したので、レビューラー争いは熾烈を極めていると思われる。要するに、代表チーム23名のそれぞれが優劣つけがたく、先発組とベンチ組に容易に分けられない。我々にとって喜ばしい状況にある。
IASBも、このED(=公開草案)で、純利益とOCI(=その他の包括利益)を分けられなかった。ただ、我々と違って、苦々しい思いを抱いているだろう。純利益やOCI(或いは包括利益)は、財務業績を表示する最も重要な要素であるにもかかわらず、それを明確に定義できなかったのだから。
この経緯は、このEDの結論の根拠に詳しく記載されている。今回は、それを辿ってみようと思う*1。
まず、IASBの結論から見てみよう。
…、IASB は、純損益の堅牢かつ適切な定義は、「概念フレームワーク」では実行可能ではないであろうと考えた。(BC7.41)
その理由は、「世の見解が定まっていないから」ということだと思う。それは、次のような記載から読み取ることができる。
IASBは、DP(=ディスカッション・ペーパー)でのIASBの提案の要約や、それに対する様々なコメント(=フィードバック)を紹介し、「コメント提出者は、…提案の大半について賛否両論を示した」(BC7.29)、「多くのコメント提出者が、純損益及びOCI の使用にはさらに思考と分析が必要であると述べた」(BC7.31)などと記載した。
コメント提出者ばかりでなく、「投資者及びアナリストが表明した見解も賛否両論に分かれ、寄せられた他のフィードバックとおおむね整合的であった」とした(BC7.32)。
DP作成時などに行った現行基準の分析や理論的な検討から、「すべての基礎にある単一の概念的根拠はない」とも記載している(BC7.35)。
それでも、IASBは、コメント提出者やその他の多くの人が、「IASB が純損益又はOCI を定義するか又はより適切に記述すること、あるいは財務業績を定義することを一貫して要望してきた」(BC7.34)ことに鑑み、次の方針でEDを開発した。
BC7.38 本公開草案では、「概念フレームワーク」は次のようにすべきであると提案している。
(a) 純損益計算書を企業の当期の財務業績に関する情報の主要な源泉として記述する。
(b) 純損益に係る合計又は小計を要求する。
(c) 純損益計算書の目的は次の両方を行うことである旨を明記する。
(i) 企業が当期中に自らの経済的資源に対して得たリターンを描写する。
(ii) 将来キャッシュ・フローの見通しの評価及び企業の資源についての経営者の受託責任の評価に際して有用な情報を提供する。
ということで、「“明確な定義”はできなかったけども、現時点で可能なかぎり、多くのみなさんの要望に応える最善の努力はした」と、IASBは主張しているようだ。確かに、現行の概念フレームワークが純利益に全く言及していないことに比べれば、改善したのかもしれない。
以下は、ちょっと余分なことを書く。完全な僕の主観・感想だ。
改善かなあ? 現状のIFRSを追認しただけの、あってもなくてもどちらでも良い記述、という気もしないではない。もしかしたら、IASBは、この問題の解決に、あまり乗り気でないのかもしれない。
IASBは、この問題に関するASBJ(=企業会計基準委員会)の美しい提案*2を「例えば、あるコメント提出者は、純損益を不可逆な成果の包括的な測定値として記述することを提案した」(BC7.31)としか記載しなかった。
その一方で、「こうした定義を開発することの困難さを認め、こうした定義の作成に向けての数十年間の調査研究や数多くの試みが満足のいく成果を生み出していないことを指摘したコメント提出者もいた」と、恐らく、たった一名の後ろ向きなコメントをわざわざ紹介している。
もしかしたら、IASBは、上記の当たり障りのない記述が確定したら、この“純利益とOCIの区分”の議論を当面封印しようとしているのではないか。財務業績という会計の“超”基本テーマだけに、もっと深めてほしいのだが。
さて、手倉森監督は、今夜のサウジ戦までは先発メンバーを試すことができる。しかし、その後は負けたら終わりの決勝トーナメントなので、もう、先発組・ベンチ組を固めなければならない。IASBと異なり、時間を区切られているのだ。とりあえず、手倉森監督のアイディアに注目しよう。
🍁ー・ー🍁ー・ー
*1 「財務業績に関する情報(7.19 項から7.27 項)」というタイトルがついたBC7.24〜BC7.57の段落に記載されている(“BC”は結論の根拠の段落番号)。日本語版だと約6ページに渡っている。
*2 ASBJの提案の詳細については、521-2015/10/20 の記事の欄外*2に参照先が示されている。
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