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2016年1月22日 (金曜日)

544【CF4-16】純利益を勝手に定義

2016/1/22

リオ五輪最終予選に出場しているサッカー日本代表チームは、日本時間で20日へ日付が変わった頃、2-1でサウジを破り、3連勝でグループ・リーグを終えた。次の試合は、今日深夜キック・オフの決勝トーナメント準々決勝イラン戦となる。

 

サウジ戦で手倉森誠監督は、またも大幅に先発メンバーを入れ替えてきた。これで代表メンバー23人全員が出場したことになるらしい。首尾よくオリンピック出場権を得られた場合、本番のオリンピックのためになるべく多くの選手が代表の試合を経験していることは、戦略的に重要かもしれない。

 

いやその前に、日本がオリンピック出場権を手にするために、この決勝トーナメントでトップ3に入る必要がある。あと2勝必要だ。手倉森監督はグループ・リーグの各選手の活躍から貴重な情報をたくさん入手できたことだろう。まずは、今夜の采配に注目したい。

 

 

さて、前回(543-1/19)の記事では、IASBが純利益とOCIを区分する明確な定義を先送りし、しかも、それに決着をつけることにあまり前向きでないのではないかと記載した。理由は「世の見解が定まってないから」ということらしい。では、今回は、どういう純利益が理想か、僕の勝手な意見を書いてみたい。

 

すでに、ASBJ(=日本の企業会計基準委員会)は、我々日本の実務家に馴染みやすい“実現利益”に近いイメージの「企業活動の成果が不可逆的に確定した利益」を純利益とする提案を行い、一方FASB(=米国財務会計基準委員会)は、米国企業が任意に開示している“非GAAP利益”の実務を背景にした議論を紹介している。

 

僕の印象では、ASBJの提案は、評価損益のような将来再評価されて変動する損益の一部をOCIへ追い出し、純利益を、その期間の確定した(不可逆の)数字として表現しようとしている。理論的で美しいが、財務報告の読者の要望・ニーズに合っているかどうか(=目的適合性)については、まだ確認ができていない。

 

一方FASBの議論は、異常項目や特殊要因を除いた企業本来の実力を表現した利益を投資家が求めているが、それをルールに落とし込んで規定化することは、非常に難しいという印象を持っている。何が異常で特殊であるかを一律に決めることは困難だ。

 

どちらも、一長一短あるが、じゃあどうするか? もちろん、今までも繰り返してきたように、“目的”へ戻ってそこから考える。IASBFASBは、一般財務報告の目的として次の2項目を挙げている。

 

 将来キャッシュ・フローを生み出す企業の能力の評価

 

 経営者の受託責任遂行能力の評価

 

これらの目的は、“純利益”のような特定の指標によって単純に達成されるものではなく、財務報告の利用者が財務報告全体から読み取り評価することで達成されるもの、としている。(前回記載したように、IASBは、“純利益”が財務業績を表す主要な指標であると提案しているが、それが全てではなく、財務報告の他の情報にも注意を向けてほしい、という意味。)

 

このような目的を持つ財務報告のうち、P/Lの役割は、「企業が当期中に自らの経済的資源に対して得たリターンを描写する」ことだ。IASBは“経済的資源”とか“リターン”などと表現するが、まあ、簡単に書けば、「当期中の企業活動の成果」で良いと思う。

 

まず、この①と②を見ると、これらが同じ利益ではないことに気付く。そして、財務報告の利用者がこれらの評価をするためには、数字だけでなく文章による説明が不可欠なことにも気付く。

 

 

(①と②が同じ利益ではないことについて)

 

①を評価するには、異常項目や特殊要因を排除した、翌期以降も獲得可能な利益が表示されることが望まれる。例えば、大規模なリストラによる減損などの損失や、多額の資産売却による損益は、翌期以降に繰り返し計上される可能性が低いので排除してほしい。これは、FASBの議論にあった非GAAP利益に近いかもしれない。

 

しかし、②を評価するには、リストラや資産売却の合理性も重要な評価対象になるから、排除されては困る。さらに言えば、経営者を評価するにあたって、P/Lから除くべき取引・損益などあるのだろうか?

 

例えば、当期発生した多額の損失が前任者の負の遺産だったとしても、そう評価・解釈するのは読み手であって、経営者が主張してよいものかどうか。災害損失にしても、他の企業に比べて多すぎるとか、軽微だとかの評価は行われるだろう。市場変動に対する対応も、経営者の役割であることは、今や一般的な認識となっていると思う。やはり、除いてよいものを特定するのは難しい気がする。

 

以上から、①は非GAAP利益のようなものだが、②は包括利益なのかもしれない。何れにしても、両者は異なる利益だ。純利益を定義するなら、①に役立つ利益を目指すべきだろう。

 

(文章による説明が不可欠なことについて)

 

①を評価するには、事業環境の説明が欠かせない。需要像が見込める環境なのか、競争が厳しさを増しているのか、相場変動の影響を受けやすい環境なのか、コスト増につながる規制強化の動きがあるのか、といった事業の将来に関わる情報が必要だ。

 

②を評価するには、環境変化に対する企業の戦略的対応の説明が必要だ。例えば、リストラや資産売却も、経営戦略の一環として前向きな動きなのか、それとも環境変化に後手をとって受動的に強いられた行動なのかを評価したいだろう。それには、数字だけでは不十分で、文章による説明が必要になる。

 

しかし、これらの説明は、有価証券報告書を見ても“経理の状況”には書いてない。財務報告ではなく、非財務報告を見なければ分からない。さらに言えば、例えば“事業の状況”を見ても、将来の見込みについては抽象的な表現しかなく、読み手はアナリストなどの第三者の解説や新聞などから自分で情報を入手した上で分析するしかない。

 

このように考えてみると、IASBFASBが想定している一般財務報告の目的は、特に①についてはかなり理想的というか究極のものであり、現実の財務報告とはだいぶ距離が遠いことが分かる(IASBもそれは認識している)。したがって、もう少し近いところに目的を設定し直した方が考えやすいかもしない。すなわち、財務報告は、利用者が入手する情報の一部でしかなく、かつ、純利益以外にも色々な箇所を分析しなくてはならない。そういう中で、純利益が最も有用になるには、どういう純利益であるべきか。

 

②の目的には(純利益にOCIを加えた)包括利益が役立つだろう。するとやはり、純利益は ①の目的に役立つものを考えた方が良い。ただ、将来キャッシュ・フローの予測にそのまま使える平準化された純利益をルール化・規定化することは難しい。むしろ、利用者が財務情報以外から入手する将来情報を利用して、自ら異常・特殊項目を除く加工・分析することを容易にする純利益が良い。

 

そこで考えられるのは、包括利益を以下の2つに分けることだ。

 

A. 対象期間に確定した利益(=実現した取引から生じる損益)

B. 市場要因で将来変動する利益(=期末における資産・負債の評価損益)

 

Aは、ASBJのいう不可逆な企業活動の成果に近いかもしれない。僕は、これを純利益にするのが良いと思う。Bは、分析者が自己の相場観で将来を予想しやすいようにAから分離する。例えば、退職給付債務は市場金利が低下すると増加するので費用が発生するが、それはBとして扱う。期末外貨建資産の為替レート変動による影響や、売買目的のものを含めた金融資産の評価損益も同様だ(この点はASBJの純利益とは異なる)。ただ、売却・決済するなどB/Sから消滅したものは、その際の損益をA、即ち、純利益へ計上する。

 

企業は(金融商品取引や商品取引を事業とする場合を除き)顧客との製品・サービス市場で社会的役割を果たし、主要な稼ぎを得ている。企業の事業目的は顧客や製品・サービス市場へ繋がっている。金融市場や商品市場は、この事業目的を果たすための手段として利用しているにすぎない。だから、この製品・サービス市場から得る利益と、金融市場や商品市場から一時的に生じる評価損益を分けたいのだ。それによって、企業が事業目的を首尾よく追求できているかがわかる。また、Bを見ると、事業を遂行するために、どのようなタイプの市場リスクを負っているかが分かりやすくなると思う。

 

このような純利益は、FASBの議論に出てくる非GAAP利益のように異常項目や特殊項目を除いたものではないため、①の目的のためには、財務報告の利用者が自分で異常性や特殊性を判断して除く必要がある。それは手間になるが、異常性や特殊性を一律に規定することが困難なので、利用者の判断に委ねるしかない。あとは企業がそういうものを容易に分離できるようP/Lの表示や注記を分かりやすくするのが良いと思う。

 

ということで、僕がイメージする純利益は、ASBJ型の純利益に近い。定義もASBJ式に「当期中の企業活動の不可逆な成果」とするのが良いと思う。要するに、基本的にはASBJの純利益の考え方に賛成なのだ。

 

ただ、このような純利益が、財務報告の利用者に歓迎されるかどうかは、実際に調査する必要がありそうだ。異常項目・特殊項目の開示の仕方を含めて利用者の反応を確かめ、欠点があれば改善したり、啓蒙活動も必要かもしれない。その上で IASB へ再提案すれば、ASBJ式の純利益が採用されるかもしれない。グループ・リーグでの手倉森采配と同様に、実践的にテストしてブラッシュ・アップするのが良さそうだ。

 

 

 

 

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