2016/1/5
新年早々、中東はキナ臭い。今度は、サウジアラビアがイランと断交した。しかし、日本は暖かで穏やかな正月を迎えた。昨日は散歩中に、菜の花とタンポポが咲いているのを見つけた。まるで3月下旬か4月上旬の景色だ。ん〜、しかし、これはこれで問題かもしれない。もし今が4月なら、半年後の夏場は何月の陽気になるのか? 少なくとも涼しい10月ではあるまい。
ということで、ここから、あたかも地球温暖化問題が展開されていくかのごとく始まったが、実はそうではない。今回のテーマは、「新聞記事のタイトルと内容の違い」についてだ。
みなさんは「こんな風に、記事のタイトルや書き出しと記事のテーマや内容が関係ないのは、非常識だ」とお怒りになるかもしれない。そうなのだ。しかし、現実は、しばしばそういうケースに遭遇する。
例示するのは日経電子版の記事だが、他のメディアも同様かもしれない。「新聞も、時々、週刊誌みたいなことをやるので気をつけましょう」ということと、しかも、「内容が疑わしい場合がある」ということを説明したい。
僕は、主に、WSJとREUTERS、そして日経をネットで読む。ネットでは、タイトルで記事を選択し、内容へ入っていくので、タイトルが内容を反映していない記事は非常に困る。WSJやREUTERSではそれほど気にならないが、日経ではしばしば遭遇する。特に編集委員が書く記事は要警戒だ。
ピケティ氏の警句、株式市場を揺らした3つの不均衡 2014/12/28 日経電子版有料記事
僕は編集委員のコラムは原則としてパスしているので、読むのを止めれば良かったのだが、“ピケティ氏の警句”というタイトルに惹かれて、ついつい、読んでしまった。しかし、それが間違いだった。
記事の内容は、“ピケティ氏の警句”とは、全く、何も、関係ないものだった。それでも、内容が面白ければ良かったが、それも期待外れだった。
ピケティ氏は昨年日本でも話題になった「21世紀の資本論」を書いたフランスの経済学者。各国の税務資料を可能な限り過去に遡って丹念に分析し、資本主義が富の偏在(=富裕層と貧困層の格差拡大)を生むと主張した。そして、その是正のために、国際的に整合性ある資産課税制度などを提案した。
この記事のタイトルを見て、僕は、「貧富の格差が株式市場にも影響を与えているらしい。しかも、そこにキーとなる3つの何かが不均衡を起こしているようだ」という印象を持った。みなさんも、このタイトルからそうイメージされるのではないか。そして、「やっぱり、貧富の格差が大きいのは良くないことだ。株式市場も例外ではない」と思えるような記事の内容を期待するのではないだろうか。
しかし、実際は、貧富の格差はほぼ出てこない。3つの不均衡というのは、次のもの。
第1:資源を巡る消費国の黒字と輸出国の赤字という経常収支を巡る不均衡
第2:世界的な製造業と非製造業の景況感の格差
第3:日欧(金融緩和)と米(利上げ)の金融政策の違い
第1は、オイルマネーが株式市場から退出し、株価を大きく揺さぶったという内容。確かに、これは今まで株を買ってきた産油国が売り始めたので、株式市場への影響は大きかった。ただ、株をやっている人にはよく知られたことで、改めて読んで感心する話ではない。しかし、株に関心のない一般の人が読んだら、「へぇ〜」と思ったかもしれない。しかし、ピケティには関係ない。
ただ、中東産油国の所得配分政策(=貧富の格差是正策)とフランスのテロとの関係に言及している部分があった。しかし、軽く取って付けた感じで、株価との関連性には及んでいない。実際、昨年のフランスのテロは、2回とも、株価にはあまり影響はなかった(ほんの一時的な影響しかなかった)。
第2、第3は、そもそも“株式市場に影響を与える3大要因”に掲げるようなものだろうか? それに、ピケティとも全く無関係だ。
第2は、単に業種や会社ごとに景況感に差があるという話で、当たり前のことではないか。それを製造業と非製造業に大括りするから大ごとのように感じるだけだ。製造業の中にも良いものも悪いものもある。非製造業も同様だ。
例として、アマゾン株の上昇とアップル株の下落を挙げているが、アマゾンはクラウド事業が時流に乗って絶好調で、アップルは主力商品のiPhoneがマイナー・チェンジの年だったにすぎない。それぞれ、個別の事情が大きいと思う。
そしてこの記事は、この項目の最後を次のように締めている。
「非製造業の景気も製造業の生産性や所得の制約を受けると考えれば、製造業の低迷ぶりは、経済の先行きに影を落としかねない。」
では、非製造業の好調さが、製造業への需要を喚起する効果はどうなの? そこの違いをちゃんと解説すべきではなかっただろうか。
第3の説明箇所には「マイナス金利の弊害」が書いてある。「日欧と米の金融政策の違い」はどこへ行ったのか。一体なんだこの文章は。
このコラムの締め括りの見出しは「1万6000円割れから2万3500円まで、割れる日経平均の市場予想」となっていて、その出だしは「16年に3つの不均衡はさらに拡大するのか、それとも縮まるのだろうか。」とある。そして最後に「強弱感が極端に対立しており今年同様、波乱の展開を覚悟したほうがいいかもしれない。」と締めている。
みなさんはお分かりと思うが、“不均衡”と言えるのは第1だけで、第2・第3は、“不均衡”ですらない。それらが「拡大するのか」と問うているが、その答え(=この編集委員の意見)はない。そして、このコラムの結論(=この編集委員の結論)は「株式アナリストの見方が分かれているから気をつけなさい」だ。
ん〜、ピケティが行方不明だ。それに日経平均の予想がなぜ分かれているか、その理由がない。唐突に、「分かれているから気をつけなさい」と言われても、何を気をつければ良いのか分からない。要するに、文章の起承転結が繋がってない。この編集委員は、自分の確たる意見がないのだろう。ただ、警告しとけば良いと思っている。恐らく、現場の記者は、こんな文章は書かないと思う。もし書けば、上司に怒られるに違いない。
さて、ここまで読み進められた方は、何人いるだろう。ほとんどの方が、批判ばかりに嫌気がさして、途中で力尽きてしまったに違いない。新年最初の記事が、こんな内容で、本当に申し訳ない。しかも、実は、もう一つ批判用の記事を用意している。
消費増税、再延期ない? 反動減は小規模の可能性 2016/1/4 日経電子版有料記事
この記事のタイトルにも騙された。5%を8%に上げた当時(=2014/4)、日経新聞は財務省の主張に沿って、消費税率の引上げによる消費の減少、即ち、消費の反動減は夏場には回復し、日本経済に大きな影響はないとの予想を書いてきた。しかし、ご存知のように、未だに消費は低迷している。GDP成長率は2014年に2四半期連続マイナスとなり、“リセッション(=不況入り)”と言われた。昨年も、もう少しで2期連続マイナスとなるところだった。現実には、とても影響が大きかった。
恐らく、経済報道機関として、「西のFinancial Times、東の日経」ぐらいのプライドを持つ日経新聞は、予想を大きく外したことを反省し、10%に上げる時はもっと慎重になるだろうと僕は思っていた。そこに「反動減は小規模の可能性」という見出しだ。きっと、今度こそ、しっかりした根拠を持って記事を書くだろうと期待したのだ。
ところが、この記事の内容は、期待外れ。タイトルに合わない上に根拠の薄い憶測記事だった。しかも、(特定個人の意見であることを示す)署名記事ですらない。
この「反動減は小規模の可能性」に関しては、「今回は2%の引上げなので、3%の時より反動減は相応に小さくなる」としか書いてない。こんなことは小学生でも想像できる。それでも心配なのが、ほとんどの読者なのではないか。
ちなみに、西のFinancial Timesは、「安倍氏の問題は、2017年に消費税を再び引き上げると誓ったことだ。危機的な状況が訪れかねないのは、そのときだ。」と書いて、消費税の引上げを警戒している*1。2014/4の引上げについては「安倍晋三首相率いる政府は、消費税を早計に引き上げることで問題を悪化させた。消費者が支出してくれることを望んでいたまさにそのときに、人々のポケットからお金を奪ってしまったのだ。」としている。
一昨年には、朝日新聞が慰安婦報道などで報道姿勢を問われたが、根拠の薄い憶測を事実であるかのように紹介することは、他でも行われている。それによって国民が惑わされる。「主張と事実の紹介を明確に区別し、主張にはしっかり根拠を提示せよ」といった当然の要求を、読者がするべきだと僕は思う。そして、新聞社には、「読者を、タイトルで釣って記事を読ませ、主張をこっそり刷り込ませる」みたいなことをやって欲しくない。
冒頭に記載したように、中東はますます混沌としてきた。その上、今年は温暖化の影響もさらに強まるかもしれない。国政選挙もある。日本の株式相場の格言では申年は「騒ぐ」とされているそうだ。上記の編集委員氏に指摘されるまでもなく、今年は気をつける必要がありそうだ。そのためにも、情報収集を怠れない。マスコミ報道の役割は大きい。
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*1 [FT]FT執筆陣が大胆に占う2016年の世界の4ページ目 2016/1/1 日経電子版無料記事
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