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2016年2月14日 (日曜日)

551【投資】ドイツ銀行が破綻懸念?

 

2016/2/14

北朝鮮のロケットは軌道に乗ったのに、黒田バズーカ第3弾は外れてしまったようだ。呆れた話だが、その一因は欧州銀行株の暴落にある。その引き金を引いたのがドイツ銀行だ。すでにみなさんもご存知と思うが、何やらよく分からない債券に問題があったらしい。今回はそれに注目してみようと思う。

 

まず、REUTERSの記事を紹介する。

 

コラム:問題児に転落したドイツ銀のハイブリッド債 2/10

 

非常にざっくり要約すると、業績が悪化しても財政状態の健全性が保たれるよう工夫された“AT1債”が、逆に、ドイツ銀行の株価暴落させた。皮肉なもんだ、という内容のようだ。

 

この記事もなかなか難しい。一体、“AT1債”とは何者なのか? そこで、Edinetでドイツ銀行を検索してみた。すると有価証券報告書(2014/12/31)が出てきた。そのB/S注記(P655)に“その他Tier1規制上の資本の金融商品”という見出しがあった*1。これが“AT1債”だ。

 

それを読むと、どうやら次のようなものらしい。

 

A. 社債だが、ドイツ銀行が破綻した場合は真っ先に消滅する(=社債権者には何も返済されない)。また、償還期限は一応あるが、ドイツ銀行の都合で延期される可能性がある。ドイツ銀行の財政状態が一定レベル以上悪化した場合は、元本が減額される。

 

B. その代わり、高い利子率が設定され、無配の場合でもその利払いが優先される。但し、利払いが保証されているわけではなく、停止されることもあり得る。加えて優先株のように、株主総会議決権が発生することはなさそうだ(ドイツ銀行側に都合が良い)。

 

返さなくても良いかもしれない社債、限りなく株式に近い社債だ。そのために、BIS規制上は、資本金や資本準備金などと同様に(Tier1として)扱われる。ただ一方で、利率が高いので(=資本コストが高いので)、ドイツ銀行の業績向上によって利益剰余金が厚くなるなど財政状態が改善すれば、ドイツ銀行の判断で償還ができる。

 

社債権者から見れば、株式より確実に、かつ、高利回りの利子を稼げるが、ドイツ銀行の都合で償還されたり、財政状態によって元本が減額されたり回収できない可能性があるから、高リスク商品だ。

 

ふむ、だが、なぜこれがドイツ銀行の株価を暴落させたのか。

 

ドイツ銀行は、先月、2015年度の業績を68億ユーロ(=約8,800億円)の赤字と公表した*2。そういえば昨年は、LIBOR不正操作事件で、米英当局に25億ドル(=約3,000億円)の和解金の支払いもしている*3。すでに、第2四半期や第3四半期にも悪い決算を発表しており、昨秋に無配転落も分かっている。これらの状況を反映し、すでに、株価は下落していた。第4四半期に突然悪いニュースが舞い込んできたわけではない。

 

一部には、ドイツ銀行が破綻するかのような噂もあるが、2014年末の自己資本は468億ユーロ(=約6兆円)もあり、BIS規制上の資本比率(=新しい規制を完全適用した場合のTier1資本比率)は12.9%となっている(2015年の損失68億ユーロを考慮しても10%を下回らない)。ちなみに、2015/3期の三菱UFJは12.3%*4BIS基準は2019年までに8.5%*5以上。冒頭のロイターの記事にもあるが、「破綻する」と大騒ぎするにはまだ早いような気がする。

 

ところが、この“AT1債”の利払いが止まる可能性が報道されると、ドイツ銀行の株価が暴落し、ヨーロッパの株価だけでなく、米国や日本の株価にも波及し、この騒動となった。

 

もともと高リスク商品のリスクが顕在化しただけだ。しかも、そのリスクは銀行本体の財務健全性を守るためのものだ。そのおかげで、銀行本体の危機が防がれる仕組みだ。ところが、利払い停止の噂は、銀行本体の価値である株価までも引き摺り下ろした。まるで、まだ警戒水位に十分な余裕があるうちから、避難所に駆け込むようなものだ。相当、堤防(=AT1債)に信用がないらしい。

 

結局12日にドイツ銀行は、このAT1債ではないが、他の社債を買入償還(公開買付)すると公表し、資金的な不安がないところをマーケットに見せた。その結果株価は大反発したそうだ*6。おまけにWSJの記事では、ドイツ銀行の幹部が「発行価格を下回る価格での買い戻しにより利益を得る」と発言したことが紹介されている。要するに、AT1債価格の下落が、ドイツ銀行本体の破綻につながるという連想が、誤解だったということだ。

 

するとAT1債は大騒ぎを引き起こしたが、結局のところ、財政状態悪化を防ぐだけでなく、利益まで出してくれてその改善にまで貢献することになる。ドイツ銀行にとっては、堤防と思っていたものが、放水路の役目まで果たしてくれた。きっと、ありがたいだろう。しかし、それは投資家の損失でドイツ銀行が儲けることになる。ひどい話だ。

 

こうなった原因は、外野席からマーケットの不安を煽った趣味の悪い“専門家”にあるのか。それとも、それに乗せられた投資家が悪いのか。何れにしても、軌道を外れた黒田バズーカが元の軌道に戻るのは、もはや、難しいに違いない。日本の投資家は、ドイツから飛んできたロケットを恨むしかない。でも、ドイツ人は「日銀のマイナス金利こそ引き金だ」というかもしれない。

 

せっかくのバレンタイン・デーに色気のない話になってしまった。こういう時こそ、難民問題に孤軍奮闘するメルケル首相にチョコレートを贈るような、心の余裕を持ちたいものだ。

 

 

 

 🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 有報のPDFファイルはコピペができない設定となっているので、該当ページのスクリーン・ショットを貼り付けた。クリックすると別画面で拡大表示する。

Tier1_3

*2 ドイツ銀行の2015決算

 

ドイツ銀、2015年は過去最大の赤字 リストラや訴訟費用が圧迫 REUTERS 1/29

 

*3 LIBOR不正操作の和解金

 

ドイツ銀行に制裁金25億ドル、LIBOR不正操作問題で最高額 REUTERS 2015/4/23

 

*4 三菱UFJの連結Tier1資本比率は、同行の2015/3期有報(PDF版)P26の表“連結自己資本比率(国際統一基準)”による。

 

*5 Wikipediaの以下のページの“バーゼルⅢ”による。

 

国際決済銀行

 

*6 以下の報道がある。

 

ドイツ銀行、54億ドルの社債買い戻しを発表 WSJ 2/12(有料記事かもしれない)

ドイツ銀行、6070億円相当の債券買い戻しを計画-懸念払拭へ (2) Bloomberg 2/13

欧州株式市場=大幅反発、ドイツの銀行株が大幅高 REUTERS 2/13

 

 

 

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