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2016年2月16日 (火曜日)

552【CF4-22】AIに会計上の見積りができるか?〜使用価値〜減損テスト

2016/2/16

日経平均株価は、15日、1,000円・7%を超える上昇を記録し、16,000円台に戻した。551-2/14の記事に記載したドイツ銀行の破綻懸念の後退や、米国の小売売上高指標の堅調さが、投資家の気分を落ち着かせたらしい。 (551-2/14の記事に記載したように)ドイツ銀行の件は誤解に端を発したものだし、米国の小売売上高については、前月に伸び率がマイナスに転じて心配されていたが、今月それが遡及訂正されてプラスになり、さらに最新データの伸び率が市場予想を超えた。マーケットは、誤解と訂正に揺れたことになる。

 

投資家が虫の居所の悪い時、市場価格は、ちょっとしたことで乱高下する。それを会計では“公正価値”と称して利用するが、自ずとそれ特有の限界がある。良い点もたくさんがあるが、欠点もある。客観性はあるが、それほど中身・実態に信頼性があるわけではない。

 

同様に、使用価値についても、良い点もあれば欠点もある。ゲームを見てないので詳しいことは分からないが、このシリーズの前回(550-2/12)に記載した岡崎選手は、2/14のアーセナル戦で、まだ早い時間帯(後半16分)に途中交代させられたようだ。ラニエリ監督は岡崎選手の働きに不満があったのだろう。今度は、交代時に、あの熱烈な抱擁はなかったに違いない。チームも1-2で負けた。監督の評価は変わっただろうか? それとも揺るぎない信頼が続いているだろうか。経営者目線の使用価値は、確実性や実現可能性の点で問題がある。経営者の夢・想い・戦略が分かって良いが、主観を排除できない。

 

 

さて、一般的に“使用価値”というと、減損テストに利用されるものが想起されるだろう。IFRSは、取得原価などの歴史的原価を適用する資産を除き、B/S価額は公正価値で測定される。使用価値で測定されるのは、歴史的原価が付された資産で行われる減損テストに合格せず、減損された資産だ。

 

この結果、使用価値による測定には次の特徴がある。

 

・使用価値は、減損損失が計上されたときのみB/S価額となる。

 

・(公正価値とは異なり)使用価値で評価益が計上されることはない*1

 

これらは、上述した公正価値と使用価値の良い点、悪い点(以下“性質”)を反映したものだ。公正価値も使用価値も完全ではないが、それぞれの性質に合わせて、測定対象や測定方法が規定されている。減損テストに落ちたものだけに使用価値が付されるのであれば、使用価値は利用される機会があまりないので、AIに算出させるメリットも少ないか?

 

もちろん、そうではない。減損テストは取得価額が付された全ての資産に課されるので、測定に利用されなくても、使用価値は非常に多くの資産・資産グループについて算出しなければならない。手間がかかるのだ。手間がかかるのと同時に、使用価値があまりに楽観的・主観的だと、減損テストがいい加減になってしまう。では、楽観的・主観的にならないための歯止めはなんだろうか。それは、IAS36「資産の減損」の44に次のように記載されている。

 

将来キャッシュ・フローは、資産の現在の状態で見積らなければならない。将来キャッシュ・フローの見積りには、次のことから発生すると見込まれる見積将来キャッシュ・インフロー又はアウトフローを含めてはならない。

(a) 企業が未だコミットしていない将来のリストラクチャリング

(b) 当該資産の性能の改善又は拡張

 

このシリーズの前回、僕はラニエリ監督が岡崎選手の使用価値として、次のことを見込んでいるのではないかと書いた。

 

岡崎選手は他の選手を輝かせるという間接的な影響力を持っている。

 

これは、岡崎選手が“将来”このような影響力を持つという話ではなく、“現在”の話を記載した。岡崎選手の将来の成長に対する期待ではなく、現在の能力について書いたのだ。僕は上記に「経営者の夢・想い・戦略」と書いたが、減損テストで算定される使用価値には、夢も想いも含まれない(戦略については、すでに着手され実行されることが確実であれば、見込めるかもしれない)。だが残念なことに、この点が、経営者のイメージと合わないのだろう。しばしば、悲しいニュースを目にする。例えば…

 

楽天の三木谷社長「減損を除けば営業増益」 日経電子版 2/12 有料記事

 

この中で、三木谷氏はM&Aで発生したのれんの減損処理をしたことに関して、次のように言ったとされている。

 

10年に買収したフランスのネット通販会社、プライスミニスターの業績が当初計画から少し乖離(かいり)しているという監査法人の判断だが、‥‥

 

これでは、まるで監査法人の判断で減損したかのようだが、会社の決算は会社が行うものだ。監査人が決めるものではない。減損テストは、簿価を上回る将来キャッシュ・フロー(の現在価値)、即ち、使用価値が見込めるかどうかであり、それは経営者が“現在の状況で”判断するものだ。

 

経営者が「このままでは買収した効果が得られない。何か対策を打たなければ」と考えた時の「このままでは」を金額にしたものが、減損テストで利用される使用価値だと考えれば良いと思う。その対策が、期末までに打たれていれば対策込みの使用価値が算定されると思うが、未着手であれば見込むことはできない。

 

この発言からは、監査人が三木谷氏のイメージする使用価値対して“楽観的”と指摘したことが想像されるが、それは三木谷氏が打った対策のタイミングがこの決算に対して遅すぎたか、或いは、簿価を回収するに十分でなかったと考えるべきだと思う。M&Aに投下した資本を回収する意思決定者としての責任を果たすために、より早く、より十分な対応が必要だったと考えるべきだと思う。

 

或いは、投下した資本をより多く、より確実に回収するためには、ここで減損損失というコストを一旦認識しておく方が良い、という判断もあるかもしれない。というのは、買収先の経営を軌道に乗せるには、当初の想定を上回る時間が必要な場合もあるからだ。全てを買収前(或いは、買収直後)に見込むのは難しい。

 

何れにしても、減損は監査人の判断でもなければ、監査人の責任でもない。使用価値は、経営者によって決定されるものだ。

 

ということで、「このような経営者が行う高度な判断は、AIではできないだろう」と、改めて結論付けたいが、次のようなFinancial Timesの記事を見てしまった。

 

[FT]科学者が人工知能による大量失業に警鐘  日経電子版 2/15 無料記事

 

驚いたことに、売春婦でさえ、AIに置き換わるという。僕は詳しくないが、相手を喜ばせるために、嘘もつけるようになるのではないか。感情を操るのだから極めて高度だ。もしかして、いずれは経営者もAIに置き換わるかもしれない。そうなると、使用価値もAIで算定できることになる。まあ、少なくても25年は先のことらしいが。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 IFRS5「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」では、売却目的保有に分類する際に評価益が計上されることがあるが、それは使用価値ではなく、公正価値の変動により生じるもの。売却目的保有に分類された非流動資産(または処分グループ)は、“簿価”と“処分価値控除後の公正価値”のどちらか低い方で測定される。

 

 

 

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