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2016年2月

2016年2月16日 (火曜日)

552【CF4-22】AIに会計上の見積りができるか?〜使用価値〜減損テスト

2016/2/16

日経平均株価は、15日、1,000円・7%を超える上昇を記録し、16,000円台に戻した。551-2/14の記事に記載したドイツ銀行の破綻懸念の後退や、米国の小売売上高指標の堅調さが、投資家の気分を落ち着かせたらしい。 (551-2/14の記事に記載したように)ドイツ銀行の件は誤解に端を発したものだし、米国の小売売上高については、前月に伸び率がマイナスに転じて心配されていたが、今月それが遡及訂正されてプラスになり、さらに最新データの伸び率が市場予想を超えた。マーケットは、誤解と訂正に揺れたことになる。

 

投資家が虫の居所の悪い時、市場価格は、ちょっとしたことで乱高下する。それを会計では“公正価値”と称して利用するが、自ずとそれ特有の限界がある。良い点もたくさんがあるが、欠点もある。客観性はあるが、それほど中身・実態に信頼性があるわけではない。

 

同様に、使用価値についても、良い点もあれば欠点もある。ゲームを見てないので詳しいことは分からないが、このシリーズの前回(550-2/12)に記載した岡崎選手は、2/14のアーセナル戦で、まだ早い時間帯(後半16分)に途中交代させられたようだ。ラニエリ監督は岡崎選手の働きに不満があったのだろう。今度は、交代時に、あの熱烈な抱擁はなかったに違いない。チームも1-2で負けた。監督の評価は変わっただろうか? それとも揺るぎない信頼が続いているだろうか。経営者目線の使用価値は、確実性や実現可能性の点で問題がある。経営者の夢・想い・戦略が分かって良いが、主観を排除できない。

 

 

さて、一般的に“使用価値”というと、減損テストに利用されるものが想起されるだろう。IFRSは、取得原価などの歴史的原価を適用する資産を除き、B/S価額は公正価値で測定される。使用価値で測定されるのは、歴史的原価が付された資産で行われる減損テストに合格せず、減損された資産だ。

 

この結果、使用価値による測定には次の特徴がある。

 

・使用価値は、減損損失が計上されたときのみB/S価額となる。

 

・(公正価値とは異なり)使用価値で評価益が計上されることはない*1

 

これらは、上述した公正価値と使用価値の良い点、悪い点(以下“性質”)を反映したものだ。公正価値も使用価値も完全ではないが、それぞれの性質に合わせて、測定対象や測定方法が規定されている。減損テストに落ちたものだけに使用価値が付されるのであれば、使用価値は利用される機会があまりないので、AIに算出させるメリットも少ないか?

 

もちろん、そうではない。減損テストは取得価額が付された全ての資産に課されるので、測定に利用されなくても、使用価値は非常に多くの資産・資産グループについて算出しなければならない。手間がかかるのだ。手間がかかるのと同時に、使用価値があまりに楽観的・主観的だと、減損テストがいい加減になってしまう。では、楽観的・主観的にならないための歯止めはなんだろうか。それは、IAS36「資産の減損」の44に次のように記載されている。

 

将来キャッシュ・フローは、資産の現在の状態で見積らなければならない。将来キャッシュ・フローの見積りには、次のことから発生すると見込まれる見積将来キャッシュ・インフロー又はアウトフローを含めてはならない。

(a) 企業が未だコミットしていない将来のリストラクチャリング

(b) 当該資産の性能の改善又は拡張

 

このシリーズの前回、僕はラニエリ監督が岡崎選手の使用価値として、次のことを見込んでいるのではないかと書いた。

 

岡崎選手は他の選手を輝かせるという間接的な影響力を持っている。

 

これは、岡崎選手が“将来”このような影響力を持つという話ではなく、“現在”の話を記載した。岡崎選手の将来の成長に対する期待ではなく、現在の能力について書いたのだ。僕は上記に「経営者の夢・想い・戦略」と書いたが、減損テストで算定される使用価値には、夢も想いも含まれない(戦略については、すでに着手され実行されることが確実であれば、見込めるかもしれない)。だが残念なことに、この点が、経営者のイメージと合わないのだろう。しばしば、悲しいニュースを目にする。例えば…

 

楽天の三木谷社長「減損を除けば営業増益」 日経電子版 2/12 有料記事

 

この中で、三木谷氏はM&Aで発生したのれんの減損処理をしたことに関して、次のように言ったとされている。

 

10年に買収したフランスのネット通販会社、プライスミニスターの業績が当初計画から少し乖離(かいり)しているという監査法人の判断だが、‥‥

 

これでは、まるで監査法人の判断で減損したかのようだが、会社の決算は会社が行うものだ。監査人が決めるものではない。減損テストは、簿価を上回る将来キャッシュ・フロー(の現在価値)、即ち、使用価値が見込めるかどうかであり、それは経営者が“現在の状況で”判断するものだ。

 

経営者が「このままでは買収した効果が得られない。何か対策を打たなければ」と考えた時の「このままでは」を金額にしたものが、減損テストで利用される使用価値だと考えれば良いと思う。その対策が、期末までに打たれていれば対策込みの使用価値が算定されると思うが、未着手であれば見込むことはできない。

 

この発言からは、監査人が三木谷氏のイメージする使用価値対して“楽観的”と指摘したことが想像されるが、それは三木谷氏が打った対策のタイミングがこの決算に対して遅すぎたか、或いは、簿価を回収するに十分でなかったと考えるべきだと思う。M&Aに投下した資本を回収する意思決定者としての責任を果たすために、より早く、より十分な対応が必要だったと考えるべきだと思う。

 

或いは、投下した資本をより多く、より確実に回収するためには、ここで減損損失というコストを一旦認識しておく方が良い、という判断もあるかもしれない。というのは、買収先の経営を軌道に乗せるには、当初の想定を上回る時間が必要な場合もあるからだ。全てを買収前(或いは、買収直後)に見込むのは難しい。

 

何れにしても、減損は監査人の判断でもなければ、監査人の責任でもない。使用価値は、経営者によって決定されるものだ。

 

ということで、「このような経営者が行う高度な判断は、AIではできないだろう」と、改めて結論付けたいが、次のようなFinancial Timesの記事を見てしまった。

 

[FT]科学者が人工知能による大量失業に警鐘  日経電子版 2/15 無料記事

 

驚いたことに、売春婦でさえ、AIに置き換わるという。僕は詳しくないが、相手を喜ばせるために、嘘もつけるようになるのではないか。感情を操るのだから極めて高度だ。もしかして、いずれは経営者もAIに置き換わるかもしれない。そうなると、使用価値もAIで算定できることになる。まあ、少なくても25年は先のことらしいが。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 IFRS5「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」では、売却目的保有に分類する際に評価益が計上されることがあるが、それは使用価値ではなく、公正価値の変動により生じるもの。売却目的保有に分類された非流動資産(または処分グループ)は、“簿価”と“処分価値控除後の公正価値”のどちらか低い方で測定される。

 

 

 

2016年2月14日 (日曜日)

551【投資】ドイツ銀行が破綻懸念?

 

2016/2/14

北朝鮮のロケットは軌道に乗ったのに、黒田バズーカ第3弾は外れてしまったようだ。呆れた話だが、その一因は欧州銀行株の暴落にある。その引き金を引いたのがドイツ銀行だ。すでにみなさんもご存知と思うが、何やらよく分からない債券に問題があったらしい。今回はそれに注目してみようと思う。

 

まず、REUTERSの記事を紹介する。

 

コラム:問題児に転落したドイツ銀のハイブリッド債 2/10

 

非常にざっくり要約すると、業績が悪化しても財政状態の健全性が保たれるよう工夫された“AT1債”が、逆に、ドイツ銀行の株価暴落させた。皮肉なもんだ、という内容のようだ。

 

この記事もなかなか難しい。一体、“AT1債”とは何者なのか? そこで、Edinetでドイツ銀行を検索してみた。すると有価証券報告書(2014/12/31)が出てきた。そのB/S注記(P655)に“その他Tier1規制上の資本の金融商品”という見出しがあった*1。これが“AT1債”だ。

 

それを読むと、どうやら次のようなものらしい。

 

A. 社債だが、ドイツ銀行が破綻した場合は真っ先に消滅する(=社債権者には何も返済されない)。また、償還期限は一応あるが、ドイツ銀行の都合で延期される可能性がある。ドイツ銀行の財政状態が一定レベル以上悪化した場合は、元本が減額される。

 

B. その代わり、高い利子率が設定され、無配の場合でもその利払いが優先される。但し、利払いが保証されているわけではなく、停止されることもあり得る。加えて優先株のように、株主総会議決権が発生することはなさそうだ(ドイツ銀行側に都合が良い)。

 

返さなくても良いかもしれない社債、限りなく株式に近い社債だ。そのために、BIS規制上は、資本金や資本準備金などと同様に(Tier1として)扱われる。ただ一方で、利率が高いので(=資本コストが高いので)、ドイツ銀行の業績向上によって利益剰余金が厚くなるなど財政状態が改善すれば、ドイツ銀行の判断で償還ができる。

 

社債権者から見れば、株式より確実に、かつ、高利回りの利子を稼げるが、ドイツ銀行の都合で償還されたり、財政状態によって元本が減額されたり回収できない可能性があるから、高リスク商品だ。

 

ふむ、だが、なぜこれがドイツ銀行の株価を暴落させたのか。

 

ドイツ銀行は、先月、2015年度の業績を68億ユーロ(=約8,800億円)の赤字と公表した*2。そういえば昨年は、LIBOR不正操作事件で、米英当局に25億ドル(=約3,000億円)の和解金の支払いもしている*3。すでに、第2四半期や第3四半期にも悪い決算を発表しており、昨秋に無配転落も分かっている。これらの状況を反映し、すでに、株価は下落していた。第4四半期に突然悪いニュースが舞い込んできたわけではない。

 

一部には、ドイツ銀行が破綻するかのような噂もあるが、2014年末の自己資本は468億ユーロ(=約6兆円)もあり、BIS規制上の資本比率(=新しい規制を完全適用した場合のTier1資本比率)は12.9%となっている(2015年の損失68億ユーロを考慮しても10%を下回らない)。ちなみに、2015/3期の三菱UFJは12.3%*4BIS基準は2019年までに8.5%*5以上。冒頭のロイターの記事にもあるが、「破綻する」と大騒ぎするにはまだ早いような気がする。

 

ところが、この“AT1債”の利払いが止まる可能性が報道されると、ドイツ銀行の株価が暴落し、ヨーロッパの株価だけでなく、米国や日本の株価にも波及し、この騒動となった。

 

もともと高リスク商品のリスクが顕在化しただけだ。しかも、そのリスクは銀行本体の財務健全性を守るためのものだ。そのおかげで、銀行本体の危機が防がれる仕組みだ。ところが、利払い停止の噂は、銀行本体の価値である株価までも引き摺り下ろした。まるで、まだ警戒水位に十分な余裕があるうちから、避難所に駆け込むようなものだ。相当、堤防(=AT1債)に信用がないらしい。

 

結局12日にドイツ銀行は、このAT1債ではないが、他の社債を買入償還(公開買付)すると公表し、資金的な不安がないところをマーケットに見せた。その結果株価は大反発したそうだ*6。おまけにWSJの記事では、ドイツ銀行の幹部が「発行価格を下回る価格での買い戻しにより利益を得る」と発言したことが紹介されている。要するに、AT1債価格の下落が、ドイツ銀行本体の破綻につながるという連想が、誤解だったということだ。

 

するとAT1債は大騒ぎを引き起こしたが、結局のところ、財政状態悪化を防ぐだけでなく、利益まで出してくれてその改善にまで貢献することになる。ドイツ銀行にとっては、堤防と思っていたものが、放水路の役目まで果たしてくれた。きっと、ありがたいだろう。しかし、それは投資家の損失でドイツ銀行が儲けることになる。ひどい話だ。

 

こうなった原因は、外野席からマーケットの不安を煽った趣味の悪い“専門家”にあるのか。それとも、それに乗せられた投資家が悪いのか。何れにしても、軌道を外れた黒田バズーカが元の軌道に戻るのは、もはや、難しいに違いない。日本の投資家は、ドイツから飛んできたロケットを恨むしかない。でも、ドイツ人は「日銀のマイナス金利こそ引き金だ」というかもしれない。

 

せっかくのバレンタイン・デーに色気のない話になってしまった。こういう時こそ、難民問題に孤軍奮闘するメルケル首相にチョコレートを贈るような、心の余裕を持ちたいものだ。

 

 

 

 🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 有報のPDFファイルはコピペができない設定となっているので、該当ページのスクリーン・ショットを貼り付けた。クリックすると別画面で拡大表示する。

Tier1_3

*2 ドイツ銀行の2015決算

 

ドイツ銀、2015年は過去最大の赤字 リストラや訴訟費用が圧迫 REUTERS 1/29

 

*3 LIBOR不正操作の和解金

 

ドイツ銀行に制裁金25億ドル、LIBOR不正操作問題で最高額 REUTERS 2015/4/23

 

*4 三菱UFJの連結Tier1資本比率は、同行の2015/3期有報(PDF版)P26の表“連結自己資本比率(国際統一基準)”による。

 

*5 Wikipediaの以下のページの“バーゼルⅢ”による。

 

国際決済銀行

 

*6 以下の報道がある。

 

ドイツ銀行、54億ドルの社債買い戻しを発表 WSJ 2/12(有料記事かもしれない)

ドイツ銀行、6070億円相当の債券買い戻しを計画-懸念払拭へ (2) Bloomberg 2/13

欧州株式市場=大幅反発、ドイツの銀行株が大幅高 REUTERS 2/13

 

 

 

2016年2月12日 (金曜日)

550【CF4-21】AIに会計上の見積りができるか?〜使用価値〜レスター岡崎選手の価値は?

2016/2/12

イングランドのプレミア・リーグでは、岡崎慎司選手が所属するレスター・シティFCが、マンチェスター勢やロンドン勢のビッグ・クラブを抑えて首位を快走している。NHK BS1で直近の試合(現地2/6、第25節マンチェスター・シティ戦。3-1でレスター勝利)を見たが、レスターのクラウディオ・ラニエリ監督の“岡崎愛”が凄かった。ラニエリ監督は、後半36分に岡崎選手を交代させたが、熱烈なハグで迎えた。いや、ほんと、熱烈。男同士でこれ以上のハグはないだろう、というぐらいのハグ。しかも、公衆の面前で。

 

そういえば、前節(リバプール戦。2-1でレスター勝利)後のラニエリ監督の記者会見も流れていた。そこでもラニエリ監督は岡崎選手をべた褒めしていた。「慎司はファンタスティック。なぜって、みんなにエネルギーをくれるんだ。彼が動き出すと、みんなも動く」みたいなことを、熱く語っていた。僕は、この監督は岡崎選手のことが相当好きなんだと思った。

 

前季の今頃、レスターは最下位(20位)だった。ところが、今季は1位。一体、何が違うのか。ラニエリ監督の様子を見ていると、岡崎選手がその理由のように思えるが、どうだろう?

 

選手の一覧表*1を見ると、先発メンバーで今季加入選手は、岡崎選手のほか、左サイドバックのフックス選手、ボランチのカンテ選手の3名。あとは、監督が変わった。

 

今季大活躍してレスター躍進の立役者といえば、まず、ヴァーディ選手とマレズ選手が思い浮かぶ。ヴァーディ選手は、今季11試合連続ゴール記録を樹立し、すでに18ゴール3アシスト。マレズ選手は14ゴール9アシスト。ところがこの両名は前季から在籍している。岡崎選手は4ゴールで、チーム内では3位だが、ヴァーディ選手やマレズ選手に比べると寂しい実績だ。チームのゴール数は合計で47。要するに、客観的で分りやすいゴールやアシストでは、昨季からのメンバーが活躍している。

 

コスト面を見てみよう。レスターの選手人件費は、プレミア・リーグの中ではかなり安い。昨年末時点(シーズン折り返し時点)のデイリー・メール紙の報道では、レスターが49億円なのに対し、昨季の覇者チェルシーは177億円*2。この49億円のうち、岡崎選手の分を推定すると約4.5億円(移籍金と年棒の推定額を期間按分*3)。レスターの中では1割近いので、決して安くない。フォワードとしては、ゴール数に見合ってない。

 

ということは、上記で見る限り、岡崎選手のコスト・パフォーマンスが特に良いとは言えない。なのに、ラニエリ監督の“岡崎愛”は凄い。なぜだろう?

 

すでにご存知の方が多いと思うが、岡崎選手の評価は、ゴール数やアシスト数ばかりではない。数字にならない“献身的な動き”に対する評価も大きい。守備面や味方の攻撃陣をサポートする動きだ。敵陣を駆け回り相手の攻撃の起点を妨害したり、相手守備陣を撹乱して味方が攻撃しやすくする動き。

 

しかし、これらもドイツ時代から高く評価されており、移籍金や年棒にすでに反映されているだろう。移籍金や年棒は、言って見れば“公正価値”だ。“公正価値”に見合う働きをしたからといって、チェルシーやユベントス、インテルといったビック・クラブの監督を歴任した経験豊かな64歳のラニエリ監督が、こんな“岡崎愛”を示すだろうか。

 

僕の想像では、ラニエリ監督は岡崎選手のもっと違う部分も評価している。それは周りの選手やチーム全体に対する影響力だ。その一端が、上述のリバプール戦後のインタビューに現れていると思う。「慎司はみんなにエネルギーをくれる」という部分だ。さらに、岡崎選手は動き続ける、プレスし続ける、すると後ろの選手が動き出す、みたいなことを述べているが、レスターの選手はとにかく攻守によく走る。そして、そのエネルギーを岡崎選手が供給していると、ラニエリ監督は見ているようだ。

 

恐らく、それは試合の時だけでなく、練習の時からそうなのだ。ラニエリ監督は、リーグ戦第2節に岡崎選手がプレミア・リーグでの初ゴールを決めた時、「これはまぐれではない」とか「これは当然の結果だ」みたいなコメントを述べていた。この監督は当時から岡崎選手を高く買っている。そして、岡崎選手を褒めることで、他の選手に「岡崎のように献身的になれ」とメッセージを送っていたのだと思う。それは、リーグ戦が始まる前の練習時から、他の選手が岡崎選手の献身性に目を惹かれていたからであり、それをラニエリ監督がもっと引き出したかったのだろう。他の選手への化学変化を期待したのだ。

 

それが実現した。その結果、前季から所属するヴァーディ選手やマレズ選手が突然ブレイク、その他の選手も変わった。ラニエリ監督は、岡崎選手をそれぐらいに思っているのかもしれない。(僕はそう思っている。)

 

昨年、残留争いをしていたチームが、数倍の選手人件費予算を持つビック・クラブを相手に、今年は優勝争いをしている。それが岡崎選手の影響だとすれば、岡崎選手獲得に要した移籍金や年俸など安いものだ。それが、ラニエリ監督の“岡崎愛”になっているのではないか。それなら、本当の岡崎選手の価値はいくらだろう?

 

プレミアのビック・クラブは、100億円以上かけて補強し、優勝を目指す。それを考えれば、岡崎選手の本来の価値はそれに匹敵するものかもしれない。但し、100億円以上かけて補強されるような選手は、スペインやイングランドなどの一流リーグで、ゴール数やアシスト数などのとてもわかりやすい実績を持っている。岡崎選手にはそれがない。その代わり、岡崎選手は他の選手を輝かせるという間接的な影響力を持っている。しかし、これはなかなか評価が難しい。

 

僕は、この難しい評価が、まさに“使用価値”だと思う。次の2点が特徴だ。

 

・(選手の移籍)市場では評価しきれない価値がある。

 

今まさに進行中のシーズンで初めて認識された価値で、ラニエリ監督には見えているが、まだ市場には浸透していない。

 

・(他の選手を通して)間接的に創出される価値を含む。

 

監督の指導の仕方や他の選手との相性など、岡崎選手の個性・能力以外の要素も影響する。よって、その効果の発現は不確実性が高く、監督の(或いは、チーム・マネジメントの)チーム戦略が重要となる。

 

岡崎選手の獲得に、レスターは2年を要したという。監督だけでなく、レスター・シティFCというクラブが、岡崎選手を溺愛していたのだ。公正価値以上の使用価値を、予め、見込んでいたに違いない。優勝争いは出来過ぎだが、岡崎選手がチームを変えてくれるという期待があり、また、そういう化学反応を起こしやすいチーム運営をする方針があったのだと、僕は感じている。

 

こんな“使用価値”をAIが見積もれるだろうか? 仮に、世界のどこかに岡崎選手にこのような高評価をしている文献が存在していたとして、それをAIがメイン・シナリオに据えて将来キャッシュ・フローを見込むだろうか。いや、しないだろう。こんな判断は、事業(=サッカーとリーグとチーム事情)を熟知した経営者にしかできない。そして、チームに違う未来を引き寄せる。これが経営だ。

 

 

企業に当てはめれば、AIが見積もることのできる公正価値的な思考では、製品/サービス市場で競合する他の企業と、差別化することは(可能だが)限界がある。そうではない使用価値の部分にこそ、経営上の価値がある。そんな風に僕は考えている。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 下記のページによる。

 

http://www.siraida.com/team.php?team=leicester_city

 

*2 下記の記事による。

 

英プレミアリーグの費用対効果、岡崎のレスター1位 英紙 1/4 日経電子版無料記事

 

昨年末時点の英デイリー・メール紙の試算によると、勝ち点1あたりの人件費はレスターが71万ポンド(=125百万円)で、前覇者のチェルシーはその7倍の500万ポンド(=890百万円)だという*1。もし、これが人件費への投資効率を表しているとすれば、レスターはチェルシーの7倍を超える。

 

*3 下記のホームページを参考にした。

 

岡崎慎司レスターでの年俸や年収!プレミア移籍金高騰の背景とは すぽかね 2015/7/17

 

・移籍金移籍金1000万ユーロ(約13億8200万円)

・年棒5億、6億

なんて記載から、4年契約であることを考慮して次のように計算しました。

 

移籍金の期間按分)14億円4年✖️半期=1.75億円

年棒の期間按分)5.5億円✖️半期=2.75億円

合計 )            4.5億円

 

 

2016年2月 9日 (火曜日)

549【CF4-20】AIに会計上の見積りができるか?〜公正価値

2016/2/9

会計上の見積りは、IASBにとっては会計情報の価値を高める極めて重要なツールである一方で、その信頼性や手間(=コスト)の多さが批判の的になっている。僕は、このテーマを考えるために、勝手に次のような問題設定をしたが、この設定にみなさんはご納得いただけるだろうか?

 

A. 本当に会計情報の価値は高まるか?

B. 会計情報に求められる信頼性とは何か?

C. そのうち会計業務は人工知能(=AI)に置き換わるのだから、手間など掛からなくなる?

 

Aが最も本質的な問題だと思うが、そのためにはBをはっきりさせなければならない。Cは、ABをシンプルに考えるための思考実験といった感じ。

 

最初に、現在時点での僕の結論を書くと、「会計上の見積りは会計情報の価値を高めるが、その価値は公正価値(公正価値測定も見積りの一手法)の量に比例しない」となる。言い換えれば、「公正価値以外の見積りの方が、会計情報の価値を高める効果がある」ということだ。ただ、恐らくこれは、IASBが考えていることと合わないかもしれない。

 

 

ということで、Cから入って話をシンプルに整理することにトライしよう。まず今回は、公正価値測定について考えてみよう。

 

古いネタで恐縮だが、ちょっと前に「AIの進歩によってこの先10〜20年でなくなる仕事」みたいなことが、あちこちのメディアで話題になった。それには会計士も含まれている*1。すでに1990年代から、システムで検収や出荷の操作をすると、裏で仕入や売上の自動仕訳が発生するような仕組みはあったが、AIはそれだけにとどまらない。ビックデータを読み込んで、相当高度な判断もするようになるらしい。恐らく、会計基準は当然のこと、各種文献や各社開示データも学習して、会計業務をこなすと期待されているのだろう。これはすごい。

 

でも具体的に、どこまでAIに任せられるだろうか。ん〜、多分、公正価値測定のほとんどは任せられそうだ。

 

このブログでも、IFRS13号「公正価値測定」を何度か勉強した。それによれば、「公正価値は、市場を基礎とした測定であり、企業固有の測定ではない」(IFRS13.2)。したがって、公正価値測定に必要な評価モデル(評価技法)やそれへのインプット(情報)は、概ね、企業外部にある。AIが得意顔で必要な情報を探してくるだろう。恐らく、“非金融資産の最有効使用”の組合せ*2さえ、その業界の最新の専門情報から導き出してくるに違いない。

 

ではもう少し具体的に、公正価値ヒエラルキー*3ごとに考えてみよう。

 

レベル1のインプット(市場価格)

 

これは問題なく、AIが探してくるだろう。「取引市場が複数ある場合に、どの市場の価格を優先するか」意外は、大した判断要素もない。AIには楽勝だろう。

 

レベル2のインプット(評価モデルへの投入や若干の調整がなされる市場価格)

 

これも問題ないだろう。評価モデルや調整方法についてもAIが探してくると思う。公正価値は、市場参加者が行う評価だ。AIが、それに合わせて恣意性のない中立な測定値を計算するだろう。評価モデルや調整方法の首尾一貫性にも問題は起こらないだろう。

 

レベル3のインプット(測定値の計算に重大な影響を及ぼす市場で観察不能のデータや調整)

 

これには、インプットの作成方法次第で、問題があるかもしれない。AIは鉛筆ナメナメは苦手だろう。観察不能なインプットでも、生成方法が明確であれば、AIは前年と同じ処理をやり続けるだろう。

 

ただ、前年の処理を変更した方が実態を表している場合の判断を、AIができるかどうか、またその場合に、どのような処理を選ぶかのルールが確立していない場合の判断を、AIができるかどうかについては、疑問がある。

 

それでも、市場参加者の目線で測定値を計算することは不可能ではないかもしれない。AIが入手可能な情報の質次第では、計算可能かも知れない。公正価値は外部目線の測定値なので、AIが役割を果たせる可能性は否定できない。

 

以上のように、僕は、AIが外部目線で、中立性・客観性(恣意性の排除)といった“忠実な表現”の中核を成す要素を得意とすると考えた。だから、公正価値測定は、概ね、任せられると思ったのだ。AIは、導入コストは高いかもしれないが、運用コストは極めて安いだろう。公正価値測定に限れば、「会計上の見積りに手間がかかる」ことはなくなると思う。

 

では、企業独自の評価を行う使用価値はどうだろう。使用価値は、減損テストに利用される会計上の見積りで、企業経営者独自の事業見通しがより重要な役割を果たす。主観的な要素が重要となる見積りでも、AIは活躍できるだろうか。そして、経営者の主観は会計情報にどのような価値を与えるだろうか。それは次回に繰り越したい。

 

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

 

*1 例えば、下記のもの。

 

機械に奪われそうな仕事ランキング1~50位! 会計士も危ない!激変する職業と教育の現場 DIAMOND online 2015/8/19

 

元になったオックスフォード大学マイケル・A・オズボーン氏の論文は、2013年に公表されたもの。この記事の中で『ある監査法人の会計士は「確かに会計士の仕事の8割は機械に代わる作業かもしれない」と述べる』という箇所があるので、会計士が100%不要というわけではない。

 

上記では会計士が危ないことになっているが、他では弁護士業務が例示されている。例えば、下記の記事。

 

オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」702業種を徹底調査してわかった 現代ビジネス 2014/11/8

 

これを読むと、なくなるのは事例を調査するなど定型的な業務だが、定型的といってもかなり高度な知識が必要で、かなり専門的な判断も要求される業務も置き換えられると予想されていることが分かる。

 

*2 非金融資産の最有効使用(IFRS13.31-33)

 

金融資産には、概ね、それを取引するマーケットがあるため、公正価値測定は、その金融資産単独の売却価格(=出口価格)を利用する(ヘッジ等の場合を除く)。ところが、生産設備などの事業性の非金融資産は、その資産単独より、それを補完する他の資産・負債と組合せた方が(資産単独より、事業として括った方が)企業にとって有利な評価が得られる場合がある。そのような場合に、一定の制限はあるが、その有利な組合せ(=最有効使用)を仮定して評価を見積もることが容認されている。このブログでは、以下で詳しく扱った。

 

346.DP-CF35)公正価値~“最有効使用”の仮定(非金融資産)

(上半分は前置きなので、上半分は読み飛ばした方が良いと思う。)

 

*3 公正価値ヒエラルキー(IFRS13.72〜)

 

多用される公正価値測定の首尾一貫性や比較可能性を向上させるため、IFRSでは公正価値測定に利用するインプット(=入力データやその調整方法)の性質の違いで3段階に区分し、それぞれに開示が求められる。レベル1のインプットは、そのまま測定値に利用される市場価格。レベル2は、評価モデルに投入される(調整される)市場で観察可能なインプット。レベル3は市場で観察できないインプット。即ち、企業独自の入力値や調整手法。このブログでは、下記で詳しく扱った。

 

432.【QC02-15】会計面の比較~会計上の見積りのヒエラルキー(分類・区分)

 

 

 

2016年2月 4日 (木曜日)

548【CF4-19】“会計上の見積り”は行き止まりか、乗り越えるべき壁か

2016/2/4

このシリーズの前回(547-2/2)、前々回(545-1/27)と、概念フレームワーク ED における、資産等の定義や認識・測定規準の変更箇所を見てきたが、僕の勝手な感想では、IASBに次のような意思・目標があるように見えた。

 

IASBは、財務情報が会計上の見積りに依存することを、より一層、正当化させたいと思っている。

 

それは財務情報の価値(目的適合性)を高めるためであり、そのために作成者(経営者を含む)に一層の努力(忠実な表現)を求めている。

 

これに対して僕は、財務情報が不確実性を取り込むことで、返って、その価値を下げる可能性があると心配した。なぜなら、会計上の見積りには、客観的な証拠を入手しえない不確実なことに関する作成者の判断が、含まれることが多いからだ。会計上の見積りに依存することは、不確実性を財務情報へ取り込むことになる。結果的に、見積りが外れれば、財務情報の信頼性を揺るがしかねない。

 

会計上の見積り(の多用)は、作成に手間がかかるばかりでなく、不安定で信頼性に欠けるので財務情報の価値を下げる。

 

これは、最近は目立たなくなったIFRS反対派の、大好きな主張だった。特に、評価益を計上することもある公正価値の見積りは強く批判された。また時には、減損会計の使用価値の見積りに向けられることもある。「見積りの前提となった見込みが外れたらどうするんだ」まではないかもしれないが、「(楽観的な)バイアスがかかる」とか、「作成者の不正な意図が介入しやすい」というのはよく見られる。

 

僕は、これらの批判は一面から見れば正しいが、他の見方もあると思う。もっと俯瞰してみれば、これらの批判は行き止まりの袋小路を示すものではなく、乗り越えるべきもの、課題として克服を目指すべきものだと思う。それには、利用者の意識改革とか教育も必要かもしれない。

 

長くなりそうなので、続きは次回以降に。今回は短くコンパクトに終わりたい。

 

2016年2月 2日 (火曜日)

547【CF4-18】資産等の定義・認識規準・測定規準と会計上の見積り

2016/2/2

U23日本代表がアジア・チャンピオンになった。韓国との決勝戦は、このドーハでの戦いを象徴する厳しい内容で、かつ、劇的だった。反撃開始の1点目と決勝点の3点目のゴールを挙げた浅野拓磨選手、50代のおっさんの僕もテレビの前でジャガー・ポーズさせてもらいましたよ。ありがとう!

 

 

さて、このシリーズの前回(545-1/27)では、今回の準備として、有用な財務情報の2つの基本的な質的特性である、“目的適合性”と“忠実な表現”を、僕の独断と偏見で次のようにおさらいした。

 

“目的適合性”には、財務情報の利用者の視点を代表し、「情報価値を高めよう」という意図が見える。

 

“忠実な表現”は、財務情報の作成者に、「(自らが作成した)財務情報は経済実態か?」と問いかけることを求めるものだと思う。

 

このような観点から、ED(=概念フレームワークの公開草案)の資産等の定義や認識基準、測定基準の改正案を眺めてみようというのが、今回の趣旨だ。なお、具体的には資産について検討する*1

 

現行の概念フレームワークとEDの比較の詳細については脚注の*2をご参照願いたいが、僕の分析結果は以下のとおりだ。

 

  • 以前から何度か記載しているが、不確実性に関する記述が定義や認識規準から追い出されて、測定へ吸収された。その結果、特に定義は非常にシンプルで分かりやすくなった。

 

  • 不確実性と“会計上の見積り”がぴったり対になった*3。“会計上の見積り”とは測定手法の一つで、現在価額だけでなく、償却原価など歴史的原価の一部にまで幅広く利用されている。作成者(経営者)の“判断”が重要な役割を果たす場合がある。作成者にプレッシャーがかかる。

 

  • “会計上の見積り”の欠点は手間(=コスト)と不確実性だが、

 

  • IASBはそれらの批判を“目的適合性”でかわそうとしている(脚注*3の第2章1など)。即ち、手間や不確実性の問題より、情報価値を高めることをできる限り優先すべきと主張しているようだ。

 

  • IASBはそれらを“忠実な表現”で補おうとしている(脚注*3の第2章2など)。即ち、不確実性下における慎重性の発揮や適切なプロセス(内部統制)の適用を求めている。

 

こうしてみると、IASB “会計上の見積り” に思いっきり肩入れしているように思える。実は、“会計上の見積り”が、隠れた主役なのかもしれない。IASBは“会計上の見積り”をもっと使いたいらしい。それは、利用者目線で財務情報の価値を高めるためだ。但し、そのために、財務情報の作成者(経営者や経理マン)に一層の努力を求めている。“判断”を監査するのは難しいので、監査人にも、間違いなく大きな負担となる。

 

さあ、これをどう評価すれば良いのだろう。会計の価値を高めることは、他の産業で考えれば製品・サービスの価値を高めることなので、当たり前に必要なことだ。IASBはそれをやろうとしているにすぎない。しかし、“会計上の見積り”を神推しすることが正しいだろうか。不確実性は、返って、財務情報の価値を下げてしまうのではないだろうか。

 

 

手倉森誠監督は、アジア・チャンピオンになったU23日本代表がもっと強くなると言った*4。確かに、A代表やJリーグ・チームと比べても、このチームには改善すべきところが多い。IFRSも同じなのだろう。ただ、IFRSには具体的に比較したり、目標にする財務情報が乏しい。改善の方向性を決めることは簡単ではない。“会計上の見積り”をさらに多用することが正しいかどうか、じっくり考えてみたい。

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 資産のみを検討することについて

 

財務諸表の構成要素の定義や認識基準をおおまかに理解するには、資産だけ見ておけば良い。負債は、資産に於ける権利を義務に置き換えた、“負の資産”ともいうべき資産とパラレルな定義になっているし、収益・費用・持分は、資産・負債の増減や加減算で定義されている。これらは、すべて、資産の定義の応用・利用なので、資産を押さえておけば対応可能だ。

 

ちなみに、このような定義の体系から、必然的に期間損益は包括利益が計算される。期末時点のすべての資産や負債の評価額が決まると、差引計算で期末持分額が決まり、期首持分額との期中増減で期間損益計算が行われるからだ。このような損益計算には、事業から獲得した利益のほか、資産・負債の評価額の増減から生じた利益まで、すべての損益が含まれることになる(=包括利益)。

 

IFRSの根本概念が、このような包括利益の枠組みによる期間損益計算であるにもかかわらず、今回のEDIASBが、“純利益”を(或いは、“純損益計算書”を)「当期の財務業績に関する主要な情報の源泉」と表現し、P/Lの必須の区分利益とすることを提案したことは、IASBの大きな方向転換といえると思う。ただし、この提案は表示上の改善に過ぎず、会計理論の根本に変化を与えるような扱いではなさそうだ。

 

というのは、純利益については、“第7章 表示及び開示”に記載が追加されたからだ。会計理論の根本に影響を与えるなら、“第4章 財務諸表の構成要素”に、もっとしっかりと記載されるべきだったろう。

 

 

*2 定義等の改正案の内容 

 

現行とEDの比較は以下の通り。水色は、現行の概念フレームワークやEDからのコピペ箇所。黒やオレンジには、僕の意見が含まれている。

 

                               
 

項目

 
 

現行

 
 

ED

 
 

EDの特徴等

 
 

定義

 
 

(4.4)資産とは、過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源をいう。

 
 

(4.4)資産とは、企業が過去の事象の結果として支配している現在の経済的資源である。

 

 

 

経済的資源とは、経済的便益を生み出す潜在能力を有する権利である。

 
 

・現行の不確実性の記述(蓋然性規準、“将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される”)の削除。

 

不確実性は測定基準へ吸収

 

・経済的資源を別定義

 
 

認識規準

 
 

(4.38)構成要素の定義を満たす項目は、次の場合に認識しなければならない。

 

(a) 当該項目に関連する将来の経済的便益が、企業に流入するか又は企業から流出する可能性が高く、かつ、

 

(b) 当該項目が信頼性をもって測定できる原価又は価値を有している場合

 
 

(定義を満たすものを全て認識する。但し、IASBが)5.10)ある項目を認識すべきかどうかを決定する際には判断が必要となり、認識の要求事項を基準間で異なるものとする必要がある場合がある。

 

(この“判断”は、目的適合性・忠実な表現・コスト制約に照らして行われる)

 
 

・現行の(a)、即ち、不確実性の記述(蓋然性規準)は削除。

 

不確実性は測定基準へ吸収

 

・現行の(b)、即ち、信頼性基準は、“忠実な表現”に照らして行われる“判断”に吸収。

 
 

測定基準規準

 
 

(4.55)財務諸表においては、いくつかの異なる測定基礎が、異なる程度に、また、種々の組合せによって使用されている。測定基礎には、次のものがある。

 

(a) 取得原価

 

(b) 現在原価

 

(c) 実現可能(決済)価額

 

(d) 現在価値

 
 

(6.4)測定基礎は、次のいずれかに区分することができる。

 

(a) 歴史的原価

 

(b) 現在価額

 

 

 

ちなみに、

 

・歴史的原価には、取得原価や償却原価(金融資産・負債も含まれる)が含まれる。それらを生じさせた過去の取引又は事象からの情報を用いた測定値。

 

・現在価額には、公正価値、使用価値(資産)及び履行価値(負債)が含まれる。測定日現在の状況を反映するように更新した情報を用いた測定値。

 
 

具体的な測定規準は個々の資産等の項目ごとに、個別IFRSへ規定される。そのためと思われるが、不確実性に関連する記述は、このEDの“第6章 測定”には、この表の下の第6章の1を除き見当たらない

 

 

 

 

 

*3 上記*2の分析の結果、このEDが不確実性に言及しているのは、以下の部分となった。

 

(第2章:有用な財務情報の質的特性)

 

  1. 目的適合性の一部として“測定の不確実性”を説明している。内容は“会計上の見積り”が目的適合性の高い情報作成に有用なため、不確実性のレベルが高くても見積りが正当化されうるという主張。

 

  1. 忠実な表現の一部(慎重性や、不確実性の開示)で“会計上の見積り”に関連して説明している。その内容は、見積りに大きな影響を与える不確実性がある場合でも、適切なプロセスが適用され(その説明も適切であ)れば、忠実な表現となる可能性があり、その適切なプロセスには、不確実性の状況下で慎重な判断が行われることが含まれる。

 

(第5章:認識及び認識の中止)

 

  1. 第2章の1の言い換えをしている箇所がある。

 

  1. “存在の不確実性”の説明。これはディスカッション・ペーパーでは存在感のある扱いだったと思うが、EDではほぼ無形資産と条件付債務限定のような扱いになっている。何れにしても、これも“会計上の見積り”の話だ。

 

  1. 第5章にも“測定の不確実性”という見出しがある。内容はほぼ上記に記載した第2章の1と2を合わせたようなもので、“目的適合性”だけでなく“忠実な表現”にも強く関連させている。これも“会計上の見積り”が対象だ。

 

(第6章:測定)

 

  1. 公正価値の説明の中で“(将来キャッシュ・フローに固有の)不確実性”が何度も使用されている。これも“会計上の見積り”に関連している。

 

 

*4 手倉森監督「できすぎなくらいのシナリオ」「神様のプレゼント」 産経WEST 1/27

 

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