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2016年3月 4日 (金曜日)

553【番外編】米国のiPhoneロック解除問題と、日本のJR認知症事故問題

 

2016/3/4

ブログを更新するのは、半月ぶりになる。そんなに空けるつもりはなかったのだが、あっという間に過ぎてしまった。もし、このブログを楽しみにしていらっしゃる方がいたら、半月も音沙汰なくて、大変に申し訳ない。しかし、今後も時々こういうことはあるかもしれない。ご容赦願いたい。

 

 

さて、皆さんもご存知のとおり、米国ではFBI(=米連邦捜査局)とApple社が、銃乱射テロ事件の容疑者が使用していたiPhoneのロックを解除するかしないかでモメている。FBIはカリフォルニア州で「解除せよ」と命ずる連邦裁判所命令を得てAppleに対応を迫ったがAppleは拒否した。また、Appleはニューヨーク州で別の麻薬事件でのiPhoneロック解除要求を拒否した対応を連邦地裁から支持された。裁判所の判断が、カリフォルニア州とニューヨーク州で分かれている。

 

FBIは「協力が可能(Appleがそう認めている)なのだから、捜査に協力すべきだ」と主張し、Appleは「FBIはこれを今後発生する全てのケースの前例にしようとしている」と考えているらしい。FBIの主張はシンプルだが、Appleの主張がちょっと分かりにくいかもしれない。僕の理解では、Appleの懸念は次のようなものだ。

 

最初は(このケースで協力したのだから)他のケースも協力せよと個別に迫り、そのうち、個別対応ではApple及びFBIの双方に手間がかかるから、システム的にバックドアを作って、FBI簡単にユーザーのプライバシーへアクセスできるよう、環境作り(=新OS)を要求してくるに違いない。

 

そのバックドアは、使い方が漏洩したり、外部のハッカーに探知されたりする可能性がある。そうなれば、iPhoneなどのApple製品のセキュリティ機能は、根本的な欠陥を抱え、全世界の数億人のユーザーのプライバシーを危険に晒すことになる。もちろん、このような要求を受けるのはAppleだけではない。

 

このAppleの主張に正当性を認めるかどうかは、米国ではかなり大きな議論を呼んでいるようだ(Apple批判派の方が勢いがあるらしい)。WSJでは、次のような真っ向から対立する意見を掲載している。タイトルだけでも雰囲気がわかると思う。

 

【オピニオン】iPhone解除拒むアップルの「腐った芯」 2/29 多分、有料記事

【社説】アップルの暗号化めぐる姿勢は正しい 3/2 多分、有料記事

 

記事のタイトルから分かるように、上ではAppleの主張を「芯が腐ってる」と非難し、「合理的な捜査への協力はAppleの義務」だとしている。逆に下は、Appleを擁護している。Appleにバックドアの開発を強制したところで、テロリストは他の手段で通信を暗号化できるので、国家安全保障上の貢献はほとんどないとしている。

 

ただ、両記事ともに共通しているのは、FBIが根拠としている法律が古く、現在のデジタル化された時代に合っていないので、議会が新しいルールを決めるべきと主張しているところだ。

 

 

一方、日本で最近気になったニュースは、徘徊中に電車にはねられて死亡した認知症患者の家族に対し、JR東海が損害賠償を求めていた訴訟の判決についてだ。みなさんは直感的に、「認知症患者が線路に入り込んで電車に轢かれたとして、なぜ、家族に損害賠償が?」と思われないだろうか。しかし、一審ではJR東海の主張した遺族5名のうち、妻と長男について責任を認め、二審では同居してない長男は免れたが高齢の妻(事故当時85歳)については責任を認めて損害賠償をJR東海に支払う判決となっていた。それが3/1に最高裁で、妻にも損害賠償責任はないとされた*1

 

法律上、この認知症患者は責任能力がないと認定された。したがって、この認知症患者に直接損害賠償責任が生じることはない。これは一審から最高裁まで共通の判断だ。このような場合、民法では、損害賠償責任は“監督責任義務者”が負うのだという。

 

問題は、この“監督責任義務者”を適用する範囲の判断だ。一審はこの“監督責任義務者”に妻と長男が該当するとし、二審は妻のみが該当するとし、最高裁は妻も該当しないと判断した。

 

しかし、認知症患者の徘徊を止めるのは本当に大変だと思う。だから、一審・二審の判決は非常に酷だ。いったいどういう法律解釈でそうなったのか。そして、最高裁判決は良かったと思う。

 

一審では、別居していたとはいえ介護方針を決めるなど親の介護に中心的に関与していた長男も“監督責任義務者”と認定されたが、二審では20年も別居しているなどの理由から外された。しかし、二審では夫婦の協力扶助義務(民法第752条)や事故当時の精神保健福祉法、成年後見人の身上配慮義務の趣旨(民法858条)などを理由として、配偶者が認知症患者に対する法定の監督義務者に該当すると判断していた。

 

一審・二審は、なんて形式的な判断だろう。色々な法律を並び立てても、(当時)85歳の妻のうたた寝を罰するような損害賠償なんて判断は信じがたい。いくら法律知識が豊富でも、生活者としての常識が感じられない。

 

 

これら日米の訴訟問題は、一つの事案が、今後、社会に広く影響を与える可能性を秘めている点で共通している。社会が変化しているのだ。米国では、デジタル時代の安全保障・治安と、国民のプライバシーやセキュリティーの新しいバランスが問われているし、日本では少子高齢化社会の到来と急増中の認知症患者の介護にあたる家族のあり方に焦点が当たっている。いずれも、司法判断が社会変化に揺れている。

 

しかし、これらの事案をどう生かしていくかについては、だいぶ方向性が違いそうだ。

 

iPhoneのロック解除問題は、環境変化を反映した新しい国民の合意作りが求められるが、認知症患者の監督義務責任問題は、地裁・高裁レベルの裁判官の資質とか裁判制度の改善の必要性が示唆されているように思う。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 以下の記事を参考にした。

 

家族の賠償責任認めず 最高裁、認知症JR事故訴訟 中日新聞 3/1

認知症患者の鉄道事故裁判、「逆転判決」の理由 東洋経済ONLINE 3/3

 

その他、アイエム法律事務所 裁判例解説 の名古屋地判平成25年8月9日の5つと名古屋高判平成26年4月24日の1つの記事。

 

 

 

 

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