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2016年4月 5日 (火曜日)

558【番外編】決算対策

    2016/4/5

    会計は、企業の財政状態や経営成績の実態を、投資家・株主等の利害関係者に報告するためのツールだ。それが株式市場、延いては国民経済の健全な発展の礎となる。この重要なツールが有用であるためには、何が何でも“実態”が報告されなければならない。そのために、会計基準や内部統制基準、それらを支える関連法制度があり、外部監査も行われる。

     

    とはいえ、みなさんもご存知の通り、しばしば粉飾決算のニュースが新聞紙面を賑わせる。残念だが、これが現実だ。

     

    いわゆる“決算対策”というのは粉飾であることも多い。しかし、メディアではこの“決算対策”を肯定するかのような記述がなされることがある。一つ、格好の材料がある。みなさんは、どう感じられるだろうか。

     

     

    以下に紹介する記事は、東芝の医療系子会社の売却取引について、次の2点を指摘している。

     

    ・この3月期(2016/3期)決算に売却益を計上することの問題提起。東芝はこれによって当期の赤字を大幅に減らすことを狙っているという。

     

    ・この売却益が、米原子力子会社ののれんの減損損失計上とセットと考えられているという。

     

    焦点:東芝、債務超過回避に自信 医療事業売却スキームには異論も REUTERS 4/2

     

    REUTERSは登録不要の上に無料なので、時間のある方は是非お読みいただきたい。ただ、もう既に読まれた方には申し訳ないが、一応、簡単に(僕の理解で)内容を紹介しながら、僕の意見を記載していきたい。但し、僕の意見は間違っているかもしれない。おそらく、間違っている。

     

     

    しばらく前から話題になっているように、東芝は優良子会社の東芝メディカルシステムズをキャノンへ売却することを決めた。しかし、我が国を含め、世界各国の独占禁止法上の規制があって、通常なら売却取引の確定は2016/3期決算には間に合わない。そこで、キャノン側から提案されたのが、両社の間にペーパー・カンパニーを介在させた規制回避の奥の手だ。このスキームについて、2人の独禁法専門家(弁護士)の次のようなコメントが、上記の記事に紹介されている。

     

    「形式的には違法な形にしていないが、全体のスキームとしては脱法的な行為ではないかという疑義は持たざるを得ない」

     

    「東芝を救済する利益と、企業結合で守るべき市場での競争維持という利益のバランスだと思う」

     

    弁護士のコメントは、独禁法に関するものであり、会社法や金融商品取引法によるコーポレート・ガバナンスや企業開示制度を考慮したものではない。もし、それを考慮すればどうなるだろうか。まずは、会計原則に照らして、考えることになる。

     

    しかし、逐条解説的な小難しい話はなしにしよう。要は、実態があるかどうかだ。

     

    実態とは、企業結合と事業分離だ。キャノンにとっては東芝の医療事業を自らの事業と不可逆的に統合する作業を開始できること。東芝にとっては、医療事業を永遠に切り離すこと。これを確認するには次のことに注目したら良いと思う。

     

       
    1. キャノンが2016/3に企業結合の会計処理をするか否か。もしするなら、キャノンから近日中にその旨の適時開示がなされるだろう。
            
    2.  
    3. もし、後日、いずれかの国の独禁法により企業結合(の一部)が否定されても、東芝に医療事業が戻ってくることはなく、キャノンから支払われた譲渡代金を返金する可能性もない。

     

    Aは必要条件、Bは十分条件。まずAだが、キャノンが当該子会社を取得したと認識していないのに、東芝だけが売却処理することはありえないと思う。キャノンは自らの医療事業と統合を行うので、独禁法対応をその子会社と共同で主体的に進めていくことになる。統合や独禁法対応の情報は東芝よりキャノンに集まる。キャノンはその子会社のすべてを知り得るが、東芝はキャノンの医療事業のことを詳しくは知らないはずだ。だから、東芝が先走る事はできないはず、と思う。

     

    しかし、キャノンが独禁法に関する判断を誤ることも考えられる。それでも、東芝がすでに受取った譲渡代金を返金する義務を負わない、即ち、一旦切り離した医療事業がその一部でも、東芝に戻ってこないのであれば、2016/3期の売却益計上に問題はない可能性が高い。よって、Bが十分条件。

     

    Bが成立するなら、独禁法により買収が否定された国の事業は、東芝ではなく第三者へ売却されることになる。その売却価額が低ければ、ペーパー・カンパニーに売却損が生じるが、おそらくこれはキャノンが、実質的に、補填・負担しなければならないだろう。そういう契約になっているのだろうか。東芝が売却益を計上するなら、このような点についても丁寧に説明してほしい。

     

    最後に、これらが成立しても、独禁法の脱法行為とみなされペナルティを受けるリスクを考慮する必要があるだろう。上記のREUTERSの記事のコメントでは、二人の専門家がいずれも法的なリスクを指摘している。日本の当局が良くても、海外の当局は厳しいのではないか。適切な注記やリスク情報の開示が必要になる可能性が高いように感じられる。

     

    REUTERSによれば、この会計処理について東芝は「現在慎重に検討を進めている」(3月17日の報道資料)としているそうだ。決算は、経営者が、その経営実態を把握する重要な機会でもある。余計なことを優先させれば、経営実態を誤解することにつながる(だから、東芝はここまで悪くなった)。金額が巨額なこともあり、本当に慎重であることを期待したい。

     

     

    さて、もう一つ、この売却益と原子力事業の減損が対になっているという記載についてだが、これは独禁法とは関係のない、純粋に会計の話だと思う。…あってはならない。

     

    期末日時点の状況で、売却取引が成立していれば売却益を認識するし、減損が生じていれば減損損失を計上する。それらが異なる期なら、異なる期に計上しなければならないし、どちらが先ということもない。実態次第だ。それを、時々、このようなタイミングを合わせる“決算対策”を可とするようなメディアの記事を見かけるが、それ自体が会計基準違反であることは論を待たない。たとえそれが債務超過を回避するためであったとしても、粉飾は粉飾だ。

     

    とはいえ、このような記事を書くメディアに悪意があるわけではない、とも思う。読者にそのような損失の可能性と、それが明るみに出るタイミングやイメージを知らせたいのだろう。確かに、それも重要な情報だと思う。ただ、それは本当のことなのか?

     

    もし、単なる憶測記事であれば、“決算対策”という粉飾行為を肯定するイメージを与えることになる。「そんなことしていいんだ」と投資家や経営者も誤解をする。“決算対策”が横行する。経営幹部が無駄な仕事に精を出す。悪い影響の方が大きい。

     

    この手の記事については、メディアの側に、より一層慎重であることを期待したい。

     

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