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2016年4月12日 (火曜日)

559【番外編】セブンイレブンのコーポレート・ガバナンスとアベノミクス

2016/4/12

アベノミクスも、最初の黒田バズーカから3年が経ち、曲がり角を迎えている。金融政策と財政政策で時間稼ぎをし、その間に成長戦略を進めてデフレを脱却しようとしたアベノノミクスは、果たして成果を上げられただろうか。先週大きく報道されたセブンイレブン社長人事の件は、日本が抱えている問題の本質と、その改善が遅々としている現状を象徴しているような気がする。

 

 

セブンイレブンの社長人事にかかる報道ぶりを僕なりに、ざっとまとめてみると、次のようになる*1

 

セブン&アイ・ホールディングス(以下、“7&”と記載)CEOの鈴木敏文氏は、子会社セブンイレブン・ジャパン(以下“7-11”と記載)の井阪隆一社長を交代させようと7&の指名報酬委員会に諮るが、承認を得られずに取締役会にかけた。しかし、そこでも承認を得られなかったため、逆に鈴木氏が7&のすべての役職を退くと先週7日に会見を開いて公表した。

 

鈴木氏が指名報酬委員会の反対を振り切って取締役会にかけた強引さの理由について、メディア(例えば、4/7のBSジャパンの日経プラス10)では、(鈴木氏は会見で明確に否定したのに)鈴木氏には社内に子息(鈴木康弘7&CIO)がおり、彼を後継者に引き立てようとしたとの見方が報道された。指名報酬委員会は、4名のうち2名が社外取締役で、その2名が反対した。その理由は「7年間最高益を続けた社長を辞めさせるのは世間の常識が許さない」だった(正確には5期連続最高益)。その他、米国の物言う株主として名高いサード・ポイントが、なぜか鈴木氏の人事案を知っていて、それに反対する書簡が届いていたという。

 

一方、鈴木氏が会見で明らかにした井阪氏降板の提案理由は、次のようなものだった。

 

・会社全体としてみると物足りなかった(“全く新しいこと”をしなかった*2)。

・慣例の在任期間7年が経過した。

・社長交代内示後の井阪氏の反応・態度(自分の貢献を過度にアピールしたなど)。

 

鈴木氏が明らかにした自らの引退理由は、次のようなものだった(が、これは僕が書きたい問題とあまり関係がない)。

 

・この件から、ヨーカ堂創業家の伊藤雅俊名誉会長の信任が得られなくなった。

・取締役会で、社内取締役全員からの賛同が得られなかった。

 

この一連の流れに関するメディアの評価(主に日経)は、次のようなものだったと思う。

 

お家騒動はいただけないが、鈴木氏の強権に歯止めをかけ世襲を防いだことは、コーポレート・ガバナンスが機能していると言えそうだ。

 

サード・ポイントからも「セブン&アイ・ホールディングスの企業統治が安倍政権の掲げる第3の矢である成長戦略に沿って進化を遂げたことを喜ばしく思う」とのコメントが発せられたという*3

 

 

僕は、このメディアの評価が腑に落ちない。特に、鈴木氏が経営者に「新しいこと」を求めた点を、メディアは過小評価してないか。日頃、イノベーションの必要性や経営環境激変への対応を説き、日本企業のアニマル・スピリット不足を嘆いているのに、なぜ、同じ目線で鈴木氏の「新しいこと」へのこだわりを見ようとしないのだろう。鈴木氏が、7-11のトップに立つ人へ「新しいこと」を求めるのは、メディアの普段の主張と同じではないか。

 

すでにメディアによって言い尽くされているが、現状改善を積み上げていく能力と、無から有を生み出すような、或いは、現状破壊的なイノベーションを生み出す能力は、かなり根本的な部分で異なる。鈴木氏は、7-11の現任者の能力・特性をこの7年間で見極め評価した。その結果、慣例の7年間を超えてまでトップを任せられる人材ではないと判断し(、よりイノベーティブな人材を当てようと考え)たことは、それほどおかしなことなのだろうか?

 

もちろん、日経の記者が、日頃から質の高い豊富な量の情報を集めていることを否定することはできない。“世襲批判”も、社内で囁かれていて、社外取締役の2名やサード・ポイント、そしてヨーカ堂創業者の伊藤氏も耳にしていたかもしれない。そして、鈴木氏の意識の奥底には、本当に“世襲”があったのかもしれない。

 

しかし、僕は思う。これって、リスク過敏症ではないか。社外取締役や委員会設置会社といった形、器ばかりを評価して、どういう能力を持った人が経営者になるべきかという経営の本質に関わる重要な問題を見逃していないか。このままで、日本企業に不足しているアニマル・スピリットを回復できるのか。これこそ、デフレ・マインドの根本原因の一つなのに。

 

 

アベノミクスが第1の矢、第2の矢で行っている“時間稼ぎ”は、成長戦略だけでなく、日本企業のアニマル・スピリット復活を待つものでもあったはずだ。しかも単なる“時間稼ぎ”ではなく、円高を是正して業績と手許現金に余裕を持たせ、投資や賃上げ、仕入先との協働を促した。さらにマイナス金利で借入もしやすくなった。これでアニマル・スピリットが復活しなければ、どういう時に復活するのか? 企業は、この3年の間に、政府にこれ以上はないお膳立てをしてもらったのだ。

 

それでも、経常的な経営・運営能力とアニマル・スピリットの持ち主が異なるとすれば、経営陣の顔ぶれが変わらない限り、企業が新しいことに“チャレンジ”することは難しい。

 

みなさんもご存知の通り、鈴木氏は、間違いなく、全く新しいことに(勝算を持って)果敢にチャレンジするアニマル・スピリットの持ち主だった。日本を代表する大経営者だ。今回のことは、その鈴木氏が引退して、鈴木氏からそれが欠けると評価された人が、7-11の社長に留まる結果となりそうだ。それが、アベノミックスのコーポレート・ガバナンス改革の成果だとすれば、僕にはなんとも皮肉なことだと感じられる。みなさんはどうだろうか。

 

もし、僕が7&の株主で、今年の総会に取締役人事に関する議案が上程されたら、とりあえず反対票を投ずると思う。残念ながら株主ではないが*4

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 ベースは、下記の記事によっている。

 

セブン会長、引退会見で見せたお家騒動の恥部 日経ビジネス 4/8

 

*2 これは会見で語られたことではなく、記者の取材で明らかにされた。

 

鈴木氏守ったセブン&アイの否決  日経電子版 4/7 有料記事

 

 *3 以下の記事による。

 

流通のカリスマ退場 セブン&アイ鈴木氏「私の不徳」 日経電子版 4/8 無料記事

 

*4 鈴木氏をここまでべた褒めしながら、なぜ僕は株を買わなかったか。

 

お金がない、というのが最も大きい理由だが、それ以外にもう一つある。実は、昔の悪いイメージが残っていて、なんとなく気が進まなかったのだ。その悪いイメージとは、僕が監査スタッフの頃のことだが、確認状をヨーカ堂に送っても、全く回答を返してくれなかった。もちろん、当時からヨーカー堂は大会社で監査を受けており、自分は確認状を発送して他社からその回答をもらっていたはずだが、自らは、“会社の方針として”回答を拒否していた。自己中な会社というイメージがある。今もそうなのかは分からない。

 

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