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2016年5月12日 (木曜日)

563【投資】ソフトバンク、また、単体の減損を連結へ反映せず?

2016/5/12

レスターのプレミア・リーグ優勝を心から祝福したい。岡崎慎司選手は、成し遂げた偉業を信じられないほど喜んでいるが、一方で、ジェイミー・ヴァーディ選手やリアド・マレズ選手のようなチーム・メイトが活躍し成長する脇で、自分が5得点に終わった(5/8、第37節終了時点)ことを悔しがっている。おそらく、喜びが大きい分、悔しさも深いのではないだろうか。だが、これが彼の来季の活躍につながる。みなさんも、そう思われると思う。良くても悪くても現状に満足せずに、さらに上を目指す並外れた向上心。これが岡崎選手の魅力なのだ。

 

なんて具合に、一人、悦に浸っていたところに冷水を浴びせたのは次の記事だ。

 

ソフトバンク、米子会社株で1531億円損失  5/10 日経電子版無料記事

 

抜粋は以下のとおり。

 

ソフトバンクグループは10日、2016年3月期の単体決算で、傘下の米携帯端末卸、ブライトスターなどの株式を減損処理し、1531億円の株式評価損を計上すると発表した。… 今回の評価損は、ソフトバンクグループの連結決算には反映されない。

 

「え〜っ、また、やったのか?」と思ったが、完全に僕の勘違いだった。今回の“連結決算には反映されない”理由は、前回とは異なり、「連結上、すでにそれに相当する損失は計上されている。改めて減損損失を反映させるとダブることになる」ためであることが分かった。“前回”とは、覚えておられる方もいらっしゃると思うが、米国子会社のスプリントの減損処理の件だ。

 

 

以下、この過程を記載する。まずは、疑問が湧いてきた様子から。

 

このブログでは、昨年の2月に、ソフトバンクが米子会社スプリントが2014/12期に計上した減損損失を連結に反映させなかった会計処理を検討した。ソフトバンクは、子会社が単体決算で減損と判断したものを覆し、スプリントが行った減損処理をソフトバンクの連結決算で取り消したのだ。もしかして、2年連続で、また、同じようなことをしたのか?

 

会社の公式説明としては、「会計基準の相違により、US-GAAPで減損されるものがIFRSでは減損にならないため」とされていた。しかし、疑問を感じたので、検証してみたのだ。

 

僕の結論としては、この処理が容認されるには、「親会社であるソフトバンクのレベルで、スプリント業績向上の秘策が、すでに、そして密かに進行している必要がある」みたいなものだった。減損テストにおいて、子会社のスプリントには見えていないが、連結レベルで親会社には認識できる追加の将来キャッシュフローの存在が必要と考えた。その追加の将来キャッシュフローのおかげで、親会社のレベルでのみ、減損が否定できたのだろうと想像した。

 

実際にそんな秘策があったかというと、なかったようだ。その後の経過を観察していたが、僕が期待したような、スプリントに不足する経営資源を補完し劇的な業績改善につながるM&Aのような案件は、その後、公表されることはなかった。今考えてみると、その半年ほど前に、マルセロ・クラウレ氏を外部からスカウトし、新しくスプリントのCEOに迎えたことが、その僕の言うところの秘策だったようだ。孫正義氏は、クラウレ氏とともに、スプリントの地道な経営改善、顧客獲得とコスト削減を積み上げている。(但し、それが許されるなら、US-GAAPでも減損不要だったのではないか、との疑問を感じるが…)

 

しかも、今回減損された“ブライトスター”は、そのマルセロ・クラウレ氏に関連して購入した株式だ。その減損損失を、連結に反映させないとは、一体どういうことだろう?

 

 

そして、この疑問が解消された過程が次の通り。

 

新聞報道のネタとなったソフトバンクの開示を確認してみよう。そこにもっと詳しい情報があるに違いない。

 

当社個別決算における関係会社株式評価損(特別損失)の計上に関するお知らせ
ソフトバンクグループ
HP 5/10

 

ポイントは次の箇所。

 

連結決算(IFRS)では、Brightstar Corp.の業績は子会社として連結損益計算書に反映されています。このため、上記の関係会社株式評価損が連結業績に与える影響はありません。

 

これ、連結会計の初歩だ。「そうか、連結手続の中でもう反映されてるんだ」と、ここでようやく気がついた。

 

親会社が計上した連結子会社株式に対する評価損は、連結開始仕訳で取り消し、その代わり、連結財務諸表に引き継ぐ子会社の利益剰余金を直接減らす。その結果、上記の会社の説明にあるように、期末連結剰余金はその子会社株式評価損を計上した場合と同じ金額に調整され、かつ、その損失は子会社株式評価損ではなく、(子会社に関係する事業の)業績の悪化として、損益計算書に表現される。

 

これにここまで気付かなかったとは、ちょっとショックだ。

 

 

実は、今回の記事を書き始めた時は「(冒頭の)新聞記事の表現が悪い」が結論になるかもしれないと思っていた。しかし、事実は「会計士として恥ずかしい初歩のミス、勘違い」だった。思えば、連結実務から遠ざかって、早くも5年の月日が経とうとしている。僕の会計脳がサビつき始めたことは否めない。

 

でも、「良くても悪くても現状に満足せずに、さらに上を目指す」岡崎選手なら、「錆びたら磨き直せば良い」と、事もなげに言うに違いない。「そんなこと、簡単だよ」と。そうか、簡単だ。なんかホッとする。

 

岡崎選手の楽観と飽くなき向上心。そういえば、孫正義氏もそんな人だ。将来に期待させる。改めて、ソフトバンク株は、まだ売り時ではないと思った。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 もし、ご関心のある方は、以下の記事をご覧いただきたい。

 

437.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~疑問 2015/2/7

 

さらに興味を持たれた方には、次の記事もある。

 

438.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~検証~資金生成単位の見直し① 2015/2/9

439.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~検証~資金生成単位の見直し② 2015/2/11

440.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~検証~減損テストの支配権 2015/2/13

441.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~あと書き 2015/2/17

442.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~補筆~なぜ、固定資産の減損テストに子会社株式の公正価値を使うのか 2015/2/18

 

 

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