562【投資】日銀、シュート・チャンスを逃す!
2016/5/3
今日は憲法記念日。改憲の要否とか、改憲するならその内容などを議論するには丁度良い日だ。しかし、僕の頭の中には、4/28の日銀金融政策決定会合で、報じられていた追加緩和策が決定されなかったことでいっぱいだ。議論もしてないという。一体、なぜ?
もちろん、黒田東彦総裁の会見の記事は読んだし、テレビのニュースも見た。識者の解説も読み聞きした。それでも、納得がいかない。日銀は分かり難い。
ふっと思い出したのは、サッカーW杯(2006年ドイツ大会)、日本代表グループ・リーグ第2戦のクロアチア戦で、柳沢敦選手が外したシュートだ*1。柳沢選手は、守る人のいない目の前のゴールにシュートを決められなかった。その結果、この試合はスコアレス・ドローとなった。翌日、上場希望のクライアントの女性経営者と面談した際、僕はこのプレーをネタにした。
思うように売上が上がらず、深刻に思い悩む社長。資金繰りも心細い。「もう、上場は無理? 会社の存続も…」と、言外に訴えかけてくる。
その張り詰めた暗い雰囲気を脱したい僕は、クロアチア戦の、逆の意味のMVPである柳沢選手のプレーを一通り振り返って笑いを誘った後、ジーコ・ジャパンの窮状を説明した。もう、次のブラジル戦に2点差以上で勝利する以外に、決勝トーナメントに残る道はないと。ブラジルは、2002年の日韓大会の覇者だし、日本との実力差は歴然としている。したがって、ジーコ・ジャパンのグループ・リーグ敗退は決まったも同然だった。ほとんど、決勝トーナメントへ進める希望はない。
しかし、それでもみんなジーコ・ジャパンのブラジル戦を応援しますよ。そして、僕は御社を応援します。御社の方が、まだ希望がありますから。
こんな品のよい話し方ではなかったが、このような趣旨を話した。ちょっとキツイかな?と思ったが、社長は腹を抱えて笑ってくれた。さぞや、ひどい会計士と思われたことだろう。だが、状況は深刻だ。慰めなど何の解決にもならない。気持ちを切り替えてもらうぐらいしか、監査人にできることはない。
さて、その時の柳沢選手のプレーを説明しよう。
加地亮選手が相手ゴール右側からキーパーの脇を抜けてゴロのクロスを通した。綺麗なラスト・パスだ。相手キーパーは、加地選手に気を取られていたので、ゴール前左寄りに走りこんできた柳沢選手の前はガラ空きだった。柳沢選手は、そのパスを目の前のゴールへちょこんと流し込めば先制ゴールだった。しかし、ボールをキーパーへ向かって蹴ってしまい、ボールはキーパーの股の間を抜けて、逆側のゴール・ポストの外へ転がっていった。万事休す。
なにも、ここで股抜きしなくても…。みんなそう思ったと思う。それで、目の前のゴールを外すなんて。
試合後、柳沢選手は「急にボールが来たので…」と発言したそうだ。確かに、右から来たクロスは左足でシュートする方が自然と思うが、柳沢選手は右足で蹴っていた。余裕がなかったことが窺える。それでボールが、目の前のゴールではなく、右にいたキーパーの方へ転がってしまったのだ。キーパーも驚いて足を閉じようとしたが、見事に股を抜かれてしまった。が、ボールはゴールを外れた。
ん〜、日銀も、そうだったのだろうか?
急に市場が追加緩和で盛り上がって、それについていけなかったのだろうか。全くの準備不足で、“貸出支援基金”に対する新しいマイナス金利制度などできる状況ではなかったのか?
そもそも、日銀は、デフレ・マインドから脱却するために、即ち、程よいインフレにするために、金融緩和を行っている。そのため、黒田バズーカーは、黒田総裁がたびたび口にするように、一般(市民・企業)のインフレ“期待”に働きかけている。
とはいえ、一般の我々には、日銀が国債を買ったりマイナス金利を付すことが、なぜ、インフレにつながるのか、何度聞いてもピンとこない。だから、より具体的に、円安(で輸入品の値段が上がる)とか、株高(になって景気が上向く)など、インフレを想起させるような現象を起こさないといけない。
ところが、最近は円高・株安の影響か、また原油安も絡んで、インフレ期待の低下が顕著になってきている*2。また、日銀決定会合当日の朝には、各種の消費者物価指数(CPI)も公表され、実際の物価上昇率もマイナスで、3月の実質消費支出に至っては前年同月に比べ5.3%も減少していることが明らかになっていた*3。ますます、デフレ傾向を強めている。
即ち、日銀がデフレ脱却をいうのなら、次の一手のタイミングが到来していたのではないか。おまけに、このブログの前回の記事(561-4/25)のように、観測気球は市場の、またとない良い反応を引き出していた。次の一手を打てば、円安・株高を演出できることは分かっている。
多分、ボールは、キーパーの脇を擦り抜けて、日銀の前に転がってきていたはずだ。柳沢選手は、それでも右足を振ってシュートを試みたが、日銀は、ただ、スルーした。「今はマイナス金利の影響を見極める時だ」として。即ち、「あとに、もっと良いゴール・チャンスがくる」ということだ。しかも、2%の物価上昇率目標達成時期を後ろへずらした。「君たちにゴールと言ってあったものは、もうゴールじゃない。ゴールは遠ざかってしまった」ということらしい。
中国経済成長の減速、原油市場の低迷、政府の構造改革や財政政策など、日銀にはどうにもならない様々な要因が、ゴールの位置までを変えてしまったということか。
まあ、いずれにしても、僕はまだ株などを持っている*4。日銀への信頼がなくなれば、処分してしまうが、そこまでには至っていない。黒田総裁は「半年・1年もかかるものではない。秋には見極められる」と言われているので、もうしばらくは日銀プレーを観戦し続けようと思う。ジーコ・ジャパンのブラジル戦よりは期待して。
🍁ー・ー🍁ー・ー
*1 もし、柳沢選手のゴールを外したシーンをご覧になりたい方は、次の記事からご覧になれる。第2位に挙げられている。
【動画あり】現役引退を発表した「柳沢敦選手」の記憶に残るプレーベスト5
Rocket News 24 2014/12/5
柳沢選手は、数々の素晴らしいゴールを残してくれた超イケメンの名プレーヤーだが、こういうお茶目な一面もあった。
*2 最近、インフレ期待の後退に関する報道は多い。
異次元緩和から3年 後退するインフレ期待 テレビ東京 モーニング・サテライト 4/4
UPDATE 2-縮小続く家計の物価上昇見通し、比率はQQE前に=日銀調査 REUTERS 4/11
*3 日銀金融政策決定会合当日の朝にも、デフレ状況のような指標が公表されている。
3月全国消費者物価0.3%下落 5カ月ぶりマイナス 日経電子版無料記事 4/28
3月実質消費支出5.3%減 予想より落ち込む 日経電子版無料記事 4/28
*4 以前(541-1/12)、撤退宣言をしたのだが、まだ売りそびれている。
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