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2016年5月24日 (火曜日)

564【番外編】企業と株主の建設的な対話〜答申

 

2016/5/24

このところ多くの地域で真夏日が続いているが、みなさんは変わらずお過ごしだろうか。このブログは、最近、記事と記事の間が長く空き、ツツジの花も散るなど、季節も変わってたりする。大変申し訳ない。

 

さて、この間、僕の関心を惹いたのは、4/18の下記の答申だった。

 

 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」

 

「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」(PDF:368KB)

(参考資料:「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」の概要(PDF:68KB)

 

例によって、ワープロの初心者がベタ打ちしたものにページ番号をつけただけのような、そっけない資料で、添付の“概要”なるものも、キーワードやキャッチ・フレーズを箱で囲って矢印で関連付けしたA4一枚の資料だ。見た目が全然楽しくない。しかし、どこの審議会も同じような答申を出す。“事務局”という官僚の創作物だ。

 

 

では、何に関心を惹かれたのか。「建設な対話の促進に向けて」というタイトルだ。ここでいう「対話」とは、投資家や株主と企業経営者の間のものと思うが、直接的には、繰返される粉飾決算と監査への批判が、企業情報開示制度が変わることで起きにくくなるかもしれないという期待があった。

 

さらには、企業統治の面から、次のような疑問が今後繰り返されにくくなることへの期待もあった。

 

  • 3年間の円安という莫大な補助金(=為替差益)をもらいながら日本企業はどれぐらい経営・事業を戦略的に改善できたのかという疑問

 

  • その補助金は消費者などが輸入物価上昇という社会的犠牲を払って、特定の企業が受け取ったものだが、それヘ報いようとしたかという企業経営者の倫理観に対する疑問。

 

前者は、以前から日本企業に対する批判としてよく聞く“戦略性の不足”の改善につながるのではないかという期待。後者は、労働分配率や仕入先対価の改善への期待。この後者の労働者や仕入先に関しては、企業に発生した為替差益の分配を巡って投資家と利害相反の関係にあるので、企業情報開示制度で改善しようというのは欲張りかもしれないが、「建設的な対話の促進」につながるのであれば、投資家が高い目線を持つことで、経営者に良い影響を与えられるかもしれない。全く、方向違いというわけでもないような気がする。

 

 

さて、この答申を読んでみて、期待は実現しそうか? 僕の感じでは、答えはNoだ。

 

証券取引所規則による企業開示制度(決算短信など)や、国の制度である会社法、金商法の開示制度・様式を共通化させようとか、四半期の短信には監査(正確にはレビュー)は不要であることを明確化させようとか、短信の速報性を生かすため開示内容の合理化を図るとか、株主総会における建設的対話の促進を図るための情報提供日と総会日の日程を改善するとか、非財務情報の開示の充実を図るとか、単体決算にもIFRSの適用を認めようとか。

 

要するに、開示にかかる手間・コストを省きたいという項目がたくさん並んでいる。それぞれはとても良い話だが、果たして「建設的な対話の促進」に対する効果はいかばかりか。

 

このほか、フェア・ディスクロージャー・ルール*1の導入や「中長期的な視点からの投資判断」という見出しもある。だが、「中長期的な視点からの投資判断」は、焦点のボケた短い段落で終わっている。というのは、別に“スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードの フォローアップ会議”なるもので議論するかららしい。ただ、これらの制度では個人投資は蚊帳の外、機関投資家と経営者が主役だ。いやいや、個人投資家については、申し訳程度に、教育してリテラシーを高めると書いてある。

 

 

ん〜、何かしっくりこない。もっと根本的な開示の改革が必要ではないか。対話の基礎になる企業情報、建設的な対話のネタになる企業情報とはなんだろう。

 

といっても、多くの方は「他にやりようがないじゃないか」と思われるかもしれない。でも、もし、このブログの最近の“使用価値”に関する長々とした退屈なシリーズを読まれた方がいらっしゃれば、僕の意図するものを感じられるかもしれない。僕は、“使用価値”こそ、キーになり得ると思う。

 

“使用価値”こそは事業の現況に関する経営者の見積りであり、意図であり、見通しであり、戦略も一部含むので、長期的な投資家が興味津々の情報のはずだ。しかし、それは減損会計の減損テストでのみ使用される企業の内部情報で、開示対象になっていない(減損損失を計上した時のみ、減損後の新しい簿価として表に出る)。

 

実際には、減損会計で使う目的以外に使用価値を計算している企業などないだろう。即ち、経営管理に使用価値を利用している企業はないと思うので、「開示のためだけに計算される使用価値に意味はあるのか」という疑問があると思う。それに使用価値は、本来、会計では扱ってはならない“自己創設のれん”を含んでいる可能性が高い。したがって、開示する場合でもその方法が難しい。

 

難しいが、ただ、ここで思考停止しない。(どうせ、自己満足の妄想に過ぎないが。)

 

なぜなら、投資家や株主が経営者と長期的・建設的なコミュニケーションをするには、経営者が事前に到達目標を示して投資家や株主と実績値について対話するという関係が必要だからだ。現在はその到達目標に関する情報が少なすぎる。抽象的でもビジネス・モデルの説明があればかなり良い方で、具体的な情報としては、精々、進行期に関する売上や利益の目標しかない(=業績予想。任意で中期経営計画などを開示する企業もある)。それより先の具体的な目標はない。それで「長期間建設的にお付き合い願います」と言われても…、ねぇ。

 

ということで、これに使用価値を利用できないだろうか。そうすることで、経営者の見積りの強気・弱気のバイアスを、投資家や株主が評価する材料も、新たに加えられる。監査の限界を補う材料にもなるだろう。

 

考えていると長くなりそうなので、使用価値をどのように使うかに関しては、次回にしたい。さつきの花が散る頃かもしれない。

 

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 “公平な情報開示”のルールだが、具体的には、企業が未公表かつ重要な情報を特定の市場関係者に明かした場合、一般投資家にも速やかに公表しなければならないこと。例えば、企業が一部のマスメディアやアナリストにのみ情報開示することは許されない。日本では証券取引所のルールはあったと思うが、法制化・制度化はされていないらしい。

 

 

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