567【番外編】英国の大脳皮質
2016/6/22
Jリーグ第1ステージがいよいよ大詰めだ。先週末は、浦和レッズが優勝戦線に残れるかどうかを賭けて、因縁のサンフレッチェ広島と戦った。この好カードを、珍しく録画ではなくテレビ放送を直接見ようと思った僕は、ゲーム開始前の暇つぶしに他のチャンネルを窺っていた。すると、AKB総選挙が行われていた。
「16位、にゃんにゃん仮面」
ん!? 詳しくはないものの、AKBにそういうキャラクターがいるとは意外だったので、思わず、目が止まった。すると、にゃんにゃん仮面の正体は、僕が贔屓にしている“こじはる”こと、小嶋陽菜さんで、その正体を明かす流れで、彼女はAKBを卒業すると宣言した。
う〜ん、ついに、こじはるも卒業かあ。それじゃあ、英国もEU卒業(=Brexit)かなあ。こじはると英国に何のつながりもないが、そう思った。
こじはるは一昨年に、一度、卒業を匂わせたらしい(僕は知らない。忘れたのかもしれない)。その時は残留したものの、その後の総選挙には参加していなかった(これは知ってる。覚えている)。しかし、今回は最後の総選挙なのでAKBへ何か貢献したいと思い、仮面をかぶって参加したとのこと。そして、その仮面を剥いで、卒業宣言した。
そういえば、ちょうど1年前に大騒ぎしていたGrexit(=ギリシャのユーロ圏離脱)問題について、当時の名だたる英国メディアは、ギリシャに離脱を勧める意見を、結構、掲載していた。勇ましいと思ったものだ。離脱のショックは大きいが一時的なもので、長期的にはその方がギリシャのためになると。ユーロのような財政制度を伴わない不完全な通貨制度から飛び出して、通貨・金融政策の主権を取り戻せと。
その昨年7月のギリシャ国民投票でギリシャ国民は、EUやECBなどの債権者たちの提案を拒否した(但し、ギリシャ・チプラス政権はそうしなかった)。そして今年は、英国がEU離脱を決めるかもしれない。先週時点では離脱派に勢いがあるとの報道だったが、もしかすると1年前の英国メディアは、今年を踏まえた仮の姿、にゃんにゃん仮面だったのか。その時点で、実は、彼らは密かにEU離脱の決心を固めていたのではないか。
いや、違う。というのは、当時、ギリシャにGrexitを勧めていたメディアは、今回、明確に残留を主張しているからだ。Financial TimesやThe Economistは、現在、離脱した場合の悲惨な経済効果を盛んに警告している。驚くほど厳しい表現で離脱派を批判している。ん〜、ギリシャには「混乱は一時的」と言っておきながら、自らのことになると安全第一か。
僕は英国に離脱を勧めたいわけではない。それは英国人が決めること。重要なのは議論の中身だ。だが、ちょっと期待はずれな印象を持っている。
英国といえば、市場で働く“神の見えざる手”を発見し、自由貿易を掲げて世界覇権を確立し、市場が破綻して大恐慌が起こると市場の不備を(賢い?)政府が補うケインズ理論を生み、その政府が肥大化するとサッチャー改革を行った。2度の世界大戦でも常に勝者の側にいる。要するに、大きな環境変化に柔軟に対応し、政治や経済の舵を切ってきた。EUを離脱するか留まるかという大問題を判断するに際しても、きっと興味深い議論がなされるに違いない。そう、期待していたのだ。
しかし、みなさんもご存知の通り、残留派は離脱リスクを強調して人々の不安を煽るばかりだし、離脱派はテロ・難民(移民)問題を足がかりに離脱楽観論を展開しているそうだ。テロも難民も(特に難民問題について)、傍観しているがごとき日本にいて、無責任な言い方かもしれないが。
でも一つ、“さすが”と思うことがあった。
「Britain First!」と叫んだ暴漢(=離脱派と推定されている)による残留派下院議員殺害事件、Jo Cox 氏の悲劇への対応についてだ。両派は投票1週間前という重要な時期に、丸2日間も活動を停止した。
同じことが日本であったらどうだろうか。もし、国論を2分する大激論の最中に、一方の陣営の中枢にいる人物が他方に賛同する者に殺害されたら。
国論を2分する議論、ん〜、なんだろう。アベノミクスの是非か、原発問題か、或いは、憲法9条改正問題か。それで殺人事件? まあ、リアリティがないが、それでも頭に浮かんだのは、「弔合戦だ」と騒いで、悲劇を利用することだ。活動を中止するどころか、敵意剥き出しのキャンペーンを始めてしまうのではないか。もはや、冷静な議論は期待できず、扇動的な感情論に支配される …かもしれない。僕の妄想だ。
とにかく、英国は、この悲劇を反省のきっかけにしたようだ。先週まで議論がヒートアップし、お互いの非難・中傷合戦になっていたらしいが、平静を取り戻した。このような急激な感情の流れが正常な判断力を鈍らせることが予想されるときに、それをコントロールできる社会は素晴らしい。社会全体として、大脳皮質、理性を働かせたのだ。
さて、広島と浦和の試合は4対2で広島が勝利した。この結果、浦和の第1ステージ優勝の可能性はなくなった。広島がトドメを刺したのだ。かつて広島は、浦和に監督や主力選手をごそっと引き抜かれたが、その後4年間で3回もリーグ王者に輝いた。その当初こそ、広島は浦和に分が悪かったが、2014/9 以降は負けがなく、現在2連勝中だ。今や広島は、浦和の天敵なのかもしれない。
この両チームでは、明らかに残留した広島の選手たちに福があった。いや、こういう言い方はおかしい。“福”ではなく、努力と戦略の結果だ。浦和のようなビック・クラブではない広島が、限られた予算の中で素晴らしいチームを育成し、かつ、維持できるのは、もう驚異としか言いようがない。
全く関係ないが、英国も残留の方が福があるだろうか。いや、何に向かってどのように努力するか、議論の中から戦略を見出す必要があるように思う。それが重要だ。
ただ、大脳皮質の働きがしっかりしている英国社会のこと、実際には大切な議論が行われているのかもしれない。いずれ、日本にも報道・紹介されることを期待したい。
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