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2016年7月14日 (木曜日)

572【CF4-28】(ちょっと横道)ヘリコプター・マネー

2016/7/14

“ヘリコプター・ベン”の異名を持つベンジャミン・シャローム・ バーナンキ氏が来日し、安倍首相や黒田日銀総裁と会談したそうだ。ご存知の方が多いと思うが、同氏は前FRB議長(=米国中央銀行総裁)で、リーマンショック以降の金融政策を主導した。現在は、経済政策や金融政策をブログで論じているという。大恐慌や日本の平成不況の研究が有名で、デフレ経済から脱出する方法として、マネタリズムを主唱したノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマン氏の“ヘリコプター・マネー”を推奨している。

 

“ヘリコプター・マネー”とは、“空から降ってくるような(タダで貰える)お金”のことで、そのようなお金を政府がばら撒けば、人々はモノやサービスの購入を増やすので物価が上昇し、デフレを克服できるということらしい。その代わり、お金の価値の下落が止まらなくなるリスク、すなわち、ハイパー・インフレのリスクがあると批判されている。一度美味しい思いをした国民は、借金返済にまともに向き合わず、何度も“ヘリコピター・マネー”を政府に要求する可能性が高いからだ。そうなれば、為替レートは円安に極端に大きく振れる、暴落する可能性がある。

 

このハイパー・インフレの裏側には、僕は、“中央銀行の(実質的な)債務超過”があるのではないかと思う。というのは、例えば、日銀が発行する貨幣、すなわち、“円”が信用を失い価値が下落すると、日銀のB/Sの(円)資産はどんどん目減りしていくからだ。

 

ただ、負債も円建なので同様に目減りしていき、形式的には日銀は債務超過にならないかもしれない。しかし、一般的な意味での日銀の“信用”、信頼感はガタ落ちし、日銀ののれんは輝きを失う。日銀は、実質的に債務超過会社であるかのような不名誉な烙印を押されることになるのではないか。

 

この日銀の“のれん”は自己創設のれんであり、M&Aの時の買取のれんのようには会計処理の対象にならなず、簿外にある。しかし、もし、こののれんが会計処理の対象になってB/Sに計上されていれば、ハイパー・インフレの際には減損が発生し、多額の減損損失が計上されるだろう。

 

この自己創設のれんと買取のれんの扱いの差にこそ、会計の本質が隠されていると僕は思う。IFRSを含め、会計基準は、企業価値を示すようには設計されていない。企業価値は財務報告の利用者が見積もるものとされている*1

 

会計は企業価値を(直接的には)示さない。会計は自己創設のれんを会計処理の対象にしない。この2つの事実は、何を語っているのだろうか。実は、自己創設のれんこそが、企業価値なのではないか。次回は、この点をもう少し考えてみたい。

 

ということで、“ヘリコプター・マネー”政策は、通貨価値、すなわち、日銀ののれんの輝き(=自己創設のれんの価値)を上手にコントロールできるかどうかが、重要となりそうだ。政策決定者は、法律判断や官僚的な判断ではなく、経営者的な判断を適切に行うことが要求されている気がする。相当難しそうだ…

 

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 概念フレームワークの公開草案(2015/5)には、次のように記載されている。

 

(1.7)一般目的財務報告書は、報告企業の価値を示すようには設計されていないが、現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者が報告企業の価値を見積るのに役立つ情報を提供する。

 

(6.79)一般目的財務諸表は企業の価値を示すようには設計されていないため、持分合計は以下のものと一般的には等しくならない。

(a) 企業の株式の市場価値の総額

(b) 企業全体を継続企業ベースで売却することによって調達できる合計額

(c) すべての負債を決済した後にすべての資産を売却することによって調達できる合計額

 

個々の資産や負債を組み合わせて利益を獲得する企業の能力は自己創設のれんだが、それが会計処理の対象にならないため、資本の部や持分合計額は、企業価値とはならない。それは、あくまで財務報告の利用者が見積もるべきもの、ということになっている。

 

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