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2016年7月28日 (木曜日)

574【投資の減損 01】伊藤忠のグラウカス・レポート

2016/7/28

ポケモンGOも面白いが、これはもっと興味をそそる。元監査人の僕としては、“気の引き締まる思い”というか、スリルを感じる。グラウカス・リサーチ・グループ(=Glaucus Research Group California, LLC.)*1は、公表資料から企業の不正をあぶり出して、その企業の株を空売りするファンドだそうだ。株価が下落すると、このファンドは儲けが増える。

 

今回は、伊藤忠商事の株式評価に関する会計不正・粉飾決算を発見したとして、レポートが公表されている。40ページを超える詳細なもので、ざっと目を通したところ、迫力満点な出来栄えとなっている。要点は、すでに報道機関が報じている*2

 

それらによると、レポートには、2015/3期決算において3つの投資(コロンビアの石炭鉱山への投資、中国中信集団(CITIC)への投資、頂新(ケイマン)ホールディングへの投資)の評価に問題が指摘されており、伊藤忠商事の株価は、50%下落すると予想している。

 

レポートのサマリー部分の記載によると、上記投資の評価の問題点は、主に持分法を適用するかどうかの観点から論じられている。すなわち、

 

 持分法を適用すると巨額の投資損失・減損損失となるため、それを回避するために(再評価せずに)持分法適用の範囲から除外したケース(コロンビア石炭鉱山、減損回避見積額1,531億円)

 

 逆に持分法を適用すべきでない投資へ持分法を適用することで、(2016/3期以降の決算やその後の業績予想へ)利益を取り込んだケース(2015/1の中国中信集団の株式取得)

 

 持分法適用の範囲から除外する際に行われた投資の再評価益の計上が、あからさまな決算対策と見受けられるケース(頂新、不正な特別利益600億円)

 

伊藤忠商事といえば、資源投資の巨額の減損損失でガタガタだった三菱商事や三井物産を尻目に、非資源分野の安定した収益で、ついに商社トップに躍り出たと大評判だった(2016/3期)。上記の指摘がもし事実なら大ショックだが、伊藤忠商事側の反論が、同社のホームページに開示されている*3

 

グラウカスのレポートが「実態が従前と変わらないのに持分法適用を除外した」とか、「実際には経営に重要な影響を及ぼしえないのに持分法を適用した」といった“実態”に関するポイントを突いてきているのに対し、伊藤忠商事側の反論は“契約内容の変化”の観点から簡潔に説明している。数十ページに及ぶ迫力満点の問題提起に対して、たった1ページの反論であることもあり、ちょっと噛み合わない印象もある。

 

伊藤忠商事の株価は、このレポートが公表された7/27に 6.3%下落した(1,262円1,182円)。この下落幅は決して小さくはないが、この程度で済むのであれば、証券取引所も、金融庁も、日本公認会計士協会も、特別な対応は取らないかもしれない。しかし、今後さらに株価が大きく下落し、市場関係者や投資家が騒ぎ出せば、このレポートが言及している東芝の時のような展開へ向かうかもしれない。第三者による調査委員会の設置や、特設注意市場銘柄への指定、監査法人に対する特別の検査などだ。真相に興味をお持ちの方は、それを待つと良いだろう。

 

その間、このブログはどうするかというと、IFRSの金融商品や持分法の規定に照らして、両者の主張を検討してみたい。真相や実態は、僕には分からない。でも、このレポートが詳しい情報をまとめくれてるおかげで、IFRSの個別規定の勉強にはうってつけの材料になる。

 

とりあえず、現時点で感じているのは、関連会社(持分法)とその他の投資で、評価方法にどのような違いがあるか、及び、このような分類・区分を変更する際にどのような会計処理が要求されているかだ。

 

持分法は、投資先の期間利益を投資損益として連結財務諸表に取り込む手法で、原価主義ベースの会計処理だ。原価主義ベースの会計処理には減損会計が適用されるはず。一方、その他の投資は原則として公正価値評価されると思うが、仮に原価評価されるにしてもやはり減損会計が適用される。

 

持分法であれ、その他の投資であれ、同じ減損会計が適用されるのなら両者に発生する損益に大きな違いはないと思う。であれば、持分法かどうかでこの指摘ほど大きな違いが出るのだろうか。また、市場価格のない株式に対する公正価値評価と減損会計の使用価値評価にどんな差が生じるのだろう(コロンビアの石炭鉱山)。

 

そして、持分法適用範囲から除外された2つの投資(コロンビアの石炭鉱山と頂新)は、一方には大きな損益が発生しなかったのに、なぜ、もう一方には多額の特別利益が生じたのか。

 

レポートの問題提起とはちょっとずれるが、興味の湧くテーマとなりそうだ。“債務超過の優良会社”シリーズは、いよいよ自己創設のれんに焦点が当たり始めて面白いが、その一方で僕には荷が重くなっていた。そこでちょっとお休みして、こちらの問題を検討していきたい。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 ホームページはこちら。

ここで、話題のレポートを入手できる。僕はメールアドレス等を登録したが、登録しなくても入手できるかもしれない。

 

https://glaucusresearch.com

 

*2 グラウカス・リサーチに関して、或いは、今回の伊藤忠の開示に関して、次のような報道がある。

 

企業の不正を調査・空売り、米グラウカスが日本株投資へ 7月めど REUTERS 6/23

 

この記事は、今回の件に先立ち、グラウカスの紹介がされている。「これまでに米国、香港、インドなどの計22銘柄に投資をし、うち5社の経営者は証券詐欺で告訴された。」とされている。

 

伊藤忠を日本初の標的に、空売り投資家グラウカスが会計手法批判 Bloomberg 7/27

伊藤忠株が下落、米グラウカスのレポートを嫌気 REUTERS 7/27

伊藤忠、米社が不正会計指摘 議論の焦点は連結の範囲 日経電子版 7/27 有料記事

 

これらの記事には、レポートの要点が記載されている。特に、有料だが、日経電子版の記事は詳しい。

 

*3 当社の会計処理に関する一部報道について(その2)

 

“その2”とあるが、“その1”はグラウカス側の40ページに及ぶ詳細な問題指摘に対して、全く具体性のない、そっけないものだったため、改めて、より多少詳しい反論を“その2”として出したもののようだ。

 

 

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