575【投資の減損 02】検討方針
2016/8/2
元横綱千代の富士の九重親方が、7/31に亡くなったという。僕は相撲にあまり興味はないが、一時だけ夢中になったことがある。千代の富士が“前廻しを取ってからの一気の寄り”のスタイルを確立し、大関・横綱へ昇進していった頃だ。大学受験を控えた高校時代と重なっていたせいか、“最短距離での勝利”を恰好良く感じた。ご冥福を祈りたい。
さて、前回(574-7/28)は、例のグラウカス・レポートが、持分法適用範囲の変更を中心に伊藤忠商事の会計処理を批判している一方で、僕の関心は、次のようなものだった。
① コロンビア炭鉱事業の投資の評価がどのように行われたか。持分法かどうかで評価額に大きな違いが生じるのだろうか。
② コロンビア炭鉱事業の投資と頂新の投資は、前者が大きな損益なく持分法適用範囲から除外されたのに、後者はなぜ巨額の特別利益が発生したのか。
これらを検討するには、次のようなステップを踏むことが予想される。(これらはあくまで予想であり、やりながら変更するかもしれない。)
① IFRSで、持分法がどのように描かれているかを理解する。
皆さんも、持分法を連結と一緒に習ったのではないか。僕もそうだ。そのため、持分法は投資先の業績を企業業績に取り込む手法というP/L面のイメージが強い。持分法の“投資の評価手法”という側面はあまり意識してこなかったように思う。一方で、持分法を資産評価の手法とする考え方も聞いたことがある。
今回のグラウカス・レポートは、“持分法を適用するかどうかで評価額が変わる”ことに焦点を当てているので、持分法を資産評価の手法という側面から見ているのかもしれない。僕は、持分法かどうかより、減損テスト(特に使用価値の見積もり)や公正価値の測定手法がどうであったのか、これらに差異が生じるのかについて関心を持っている。
どちらの見方がより妥当性を持つかについては、IFRSが持分法をどのように扱っているかが重要になると思う。
② IFRSの減損の種類や、見積もり要素の強い公正価値(レベル3)測定の相違の理解を深める。
このレポートの中で引用されているIFRSの個別基準は、ざっと見たところ、IAS28 「関連会社及び共同支配企業に対する投資」のみだ。例えば、IAS36「資産の減損」の引用はない。このことは、上述したように、このレポートが“持分法を適用すべきかどうか”へ焦点を当てていることを示している。
一方、僕が関心を持っている減損については、関連会社(IAS28)、子会社(IFRS10)、共同支配企業(IFRS11)についてはIAS36が適用され、それ以外の金融商品の減損については、IAS39「金融商品:認識と測定」を参照することとされている(IAS36.4。但し、実際にはIFRS9「金融商品」やIFRS13「公正価値測定」の規定も関連する)。
すなわち、持分法が適用されるならIAS36の減損会計、適用されないならIAS39の減損会計か公正価値測定となることから、グラウカス・レポートは、両基準における減損会計の差異、或いは、IAS39の公正価値測定(実際はIFRS13「公正価値測定」)との差異を伊藤忠が利用して減損を逃れていると言いたいのかもしれない。
よって、これらの個別基準の関連規定に関する理解を深める。
③ グラウカス・レポートの指摘する3点を具体的に検討する。
検証する3点に関しては、グラウカス・レポートは詳細な情報がある一方、伊藤忠側の説明は極めてざっくりしている。おまけに、グラウカス側は“実態”、伊藤忠側は“契約(≒形式)”を根拠にしているので、“実態重視のIFRS”に照らすとグラウカス側の主張の方が妥当に思えるかもしれない。
しかし、予断を持たずに、① や ② の理解に基づいて、何が起こっているのかについて可能性を想像・妄想してみたい。
金融商品については、IASBが大幅改定中であることもあって、あっちこっちの規定を、行ったり来たりしながらの神経質な読み解き作業になりそうだ。とても千代の富士関のような、一気・一直線での勝負は難しい。でも、慎重こそが最短の道であると信じてやっていこうと思う。
ところで、伊藤忠商事は8/1に以下の追加開示を行った。
グラウカスの投資手法(空売りしているので、株価が下がると儲かる)を強調し、投資家等に冷静な対応を求めている。しかし、提示された疑問に対する回答はない。8/1の終値は1,170円なので、今の所、同社の株価は落ち着いている(レポートが公表された7/28の終値は1,182円)。
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