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2016年8月16日 (火曜日)

576【投資の減損 03】持分法〜ドラマの共有

2016/8/16

サッカー手倉森ジャパン、イチロー、体操、柔道、水泳、フェンシング、7人制ラグビーなどなど、そして天皇陛下のお気持ち表明。どれもドラマだなあと思う。DoCoMo のCMのキャッチ・コピー、“世界はひとりの複数形でできている”が頭に浮かんでくる。勝敗、ヒット数、メダルの色や数、ご公務への思いなどは、それぞれの人生の切り取られた一断面に過ぎない。しかし、それぞれの“ひとり”たちは、そこにこだわって生きてきたから、結果を万感の思いを持って受け止める。我々一般人もそれぞれの人生に同じようなシーンが思い当たる。だから、(一部に過ぎないが、)その感覚がジーンと伝わってくる。そして、企業にもドラマがある。

 

 

さて、IAS28「関連会社及び共同支配企業に対する投資」(2015/3に適用されるもの)は、持分法を次のように定義している(IAS28.3)。が、長い割につまらないので読み飛ばしてもらって問題ない。

 

持分法とは、投資を最初に取得原価で認識し、それ以後、投資先の純資産に対する投資者の持分の取得後の変動に応じて修正する会計処理方法をいう。投資者の純損益には、投資先の純損益に対する投資者の持分が含まれ、投資者のその他の包括利益には、投資先のその他の包括利益に対する投資者の持分が含まれる。

 

ただ、次の点は押さえておこう。重要だと思う。

 

・B/S価額は原価ベースとなること(よって、減損会計の対象となる)。

 

・投資先のP/Lを集約して連結P/Lに取り込むという、P/L起点の会計処理であること。

 

要するに、日本基準の持分法と同じだ。異なるのは、投資差額(連結子会社への投資の場合の旧連結調整勘定、のれんに相当する部分)を償却しないことぐらいか。

 

上に、“原価ベース”と“P/L起点の会計処理”を別なものとして2段書きしたが、これらはとても密接な関係があると思う。もしかしたら、一つのことの裏表と言えるかもしれない。

 

 

まず、原価について考えてみよう。

 

“原価”を“歴史的原価”と呼ぶことがある。どこかのテレビ番組で見たが、歴史を意味する英単語の“history”とは“his story”、すなわち、“彼(=勝者・支配者)の物語”なのだそうだ。すると歴史的原価とは、その企業が資産を取得してから収益化(=例えば、加工して販売)するまでの物語と考えることができる。

 

なるほど、原価は数字であり言語ではないが、付随費用を賦課したり原価計算したりといったプロセスは、まさに、その企業と資産の関わりの物語を表しているといっても良いのかもしれない。

 

これは、原価ベースゆえの会計プロセスであり、時価主義であれば不要だ。もし、時価主義ならば、期末の数量と時価さえ分かれば B/S 価額を決定でき、期首評価額との差額を P/L へ計上するだけで良い。したがって取得時点、場合によっては取得前からその資産に合わせてコストを集計するような作業・プロセスは全く不要になる。したがって、時価主義だとストーリーは生まれにくい。

 

 

次に、P/L だ。

 

これには、IASBのB/SやP/Lなどへの期待、すなわち、「B/SやP/Lがどの様に利用されるべきとIASBが期待しているか」を知ると良いと思う。現行概念フレームワーク(2010/9)の第1章「一般財務報告の目的」を読むと分かる*1

 

僕の結論は、B/Sは結果の表示、一方、P/Lはドラマや物語りだと思う。要するに、持分法がP/L起点の会計処理だとすれば、持分法の対象である関連会社の物語りは、連結グループのドラマの一部になる。もちろん、敵対する役どころではない。関連会社の利益が増えれば連結グループの利益も増えるのだから、両者は同じ方向を向いた味方同士のはずだ。

 

 

このように、持分法は原価ベースとP/L起点という特徴を持つことで、連結グループのドラマを表現する会計手法ということになる。

 

ただ、連結子会社のように、売上高のような科目ごとの詳細を連結P/Lへ引き継ぐわけではない。引き継がれるのは、純損益とその他の包括利益それぞれの区分を集計・要約した持分法による投資損益だけだ。同じドラマの味方同士だが、これでは関連会社のドラマは見えてこない。見えなくても良いのだろうか。

 

今回、もっとも強調したいのは、この点だ。

 

恐らく、関連会社という登場人物は、ドラマの本筋を味わう上で詳細を知らせる必要のない程度の存在感の薄さが想定されているのではないか。例えば通行人のような。エキストラが演じるような。

 

まあ、IASBが「関連会社はエキストラ」と考えているかどうかは別にして、持分法については、連結グループの主要企業や個性の際立った企業への適用を想定していないように思われる。想定しているのは、連結グループのドラマの筋書きへ大きな影響を与えない程度の、人的要素の際立たない、個性の目立たない役柄・人物だ。実際には強い個性の企業かもしれないが、持分法の性格上、連結グループのドラマの行方を左右しない程度の重要性のない投資先が想定されているように思われる。

 

しかし、グラウカス・レポートは、本来重要性がないはずの持分法を問題とした。2015/3期の伊藤忠商事の決算では、幾つかの関連会社(或いは、関連会社と一般会社の出入り)が、重要な役割を果たしたようだ。その影響たるや、もしグラウカスの主張が正しければ、伊藤忠の株価が半分程度に下落するほどだという。ここまで書いてきたような、持分法の地味なイメージではない。

 

ところが、理屈と実際は異なるのだ。持分法は理屈の上では地味な会計手法だが、現実には重要な影響を及ぼすケースがある。例えば、みなさんもご存知のように、ソフトバンク・グループは、アリババという巨大企業を関連会社にしている。

 

ということで、会計手法としての持分法の性格は別にして、持分法かどうかは、経営上の重要性と関係ないと考えた方が良さそうだ。この理屈と実際の不整合さは、持分法の欠点といえるだろう。それは、会計を行う企業が補う必要がある。例えば、次のような工夫をして。

 

もし、持分法適用会社が決算に重要な影響を与えるなら、その会社の個性やドラマが理解できるよう注記で情報を充実させる。

 

ちなみに、持分法が地味な、決算に影響の少ない企業に対する会計手法だとすれば、IFRS9が適用される一般株式投資などはどう考えれば良いのだろうか。これらは、原則として決算日時点で公正価値測定される資産であり、B/S起点で会計処理が適用される。その結果がP/Lへ影響する。すなわち、P/L起点の原価ベースの会計処理のようなドラマ性はない。

 

一般株式と連結グループは、共有するドラマがない。一般株式は赤の他人のようなものだ。統治は相手企業には及ばない。したがって、期末評価手法は受動的な方法(=外部データに基づく客観的な方法)に寄らざるをえない。公正価値は受動的な測定方法だ。

 

(公正価値における企業の見積もりは能動的であってはならない。あくまで客観性が重要となる。見積もりを能動的に行えるのは、原価ベースの資産に適用される減損会計の使用価値測定の算定時のみ。)

 

ということになりそうだ。これらの点を伊藤忠の開示とグラウカス・レポートを読む際に考慮すると良いかもしれない。今後、注意していこうと思う。

 

なお、直近の伊藤忠商事の終値は1,196円(8/15)。グラウカス・レポート公表日終値の1,182円より上昇している。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 ご存知のように、IASB 概念フレームワークの改定作業中だが、ここでは現行のバージョンを対象に、B/SとP/Lに対する IASB の役割期待を考えていく(改定後もB/SとP/Lの役割期待に大きな変化はないと思う)。

 

まず、利用者が財務情報を使う目的・必要性について。

 

現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者は、企業への将来の正味キャッシュ・インフローの見通しを評価するのに役立つ情報を必要としている。(OB3の末尾)

 

そして、上記の目的を果たすためのより具体的な情報の説明は以下のとおり。

 

将来の正味キャッシュ・インフローに関する企業の見通しを評価するために、現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者が必要としているのが、企業の資源、企業に対する請求権、及び企業の経営者や統治機関が企業の資源を利用する責任をどれだけ効率的かつ効果的に果たしたかに関する情報である。(OB4の冒頭)

 

ここでの“企業の資源”とはB/Sの資産のことであり、“企業に対する請求権”とはB/Sの負債のことだ(資産や負債の定義を見ていくと分かる)。さらに、“企業の経営者や統治機関が企業の資源を利用する責任をどれだけ効率的かつ効果的に果たしたかに関する情報”という長い文章は、その後“経済的資源及び請求権の変動”という表現に置き換わっていく(例えば、OB15と16を括る見出しに使用されている)。すなわち、一時点の企業の資源や偉業に対する請求権の情報がB/Sであり、それらの変動についての情報がP/L、持分変動計算書、キャッシュフロー計算書を示すことになる。さらに、これらからP/Lを抜き出して“財務業績”という言葉が使われていく(OB15〜)。

 

さて、いよいよB/SやP/Lはどのように利用されるとIASBが期待しているか。

 

B/S項目については以下のとおり。

 

報告企業の経済的資源及び請求権の内容及び金額に関する情報は、報告企業の財務上の強みと弱みを利用者が識別するのに役立つ。当該情報は、報告企業の流動性及び支払能力、追加的な資金調達の必要性、企業がその資金調達に成功する可能性はどのくらいかを利用者が評価するのに役立つ。現在の請求権の優先順位と支払要求に関する情報は、将来のキャッシュ・フローが報告企業に対する請求権を有する者の間でどのように分配されるのかを利用者が予測するのに役立つ。(OB13)

 

要するに資産や負債の種類・大きさから、支払能力や財務的安定性、配当能力などを読み取る参考になることを期待している。対象企業の物理的・法的側面に焦点が当たっており、不確実性の程度が低く、分析作業は比較的楽だ。しかし、経営者や組織風土など人的要素の香りがしない。

 

P/Lについては以下のとおり。

 

報告企業の過去の財務業績、及び経営者がどのように責任を果たしたかに関する情報は、通常、企業の経済的資源に対する将来のリターンを予測するのに役立つ。(OB16の末尾)

 

過去の財務業績(=過去数期のP/L)の分析や経営者の能力評価は、その企業のビジネス・モデル、それによって成し遂げようとしたことと結果を理解することであり、ドラマ性がある。人が活躍する様子が目に浮かぶよう。分析や評価は手間がかかるし難しい作業だが、将来キャシュフローの見通しという将来予測を行う利用者にとって、人的要素の理解は欠かせない。そこにはB/Sに計上されない企業の無形資産、自己創設のれんの存在があると僕は思う。

 

上記は、B/SとP/Lに記載された情報に優劣をつけようとしたものではない。ただ、人的要素の香りがする、企業のドラマが見えるのは、プロセスが記載されたP/Lということだ。オリンピックを見る際に、結果を知りたければハイライト情報を見れば良い。それはB/Sだ。しかし、ドラマを楽しみたければ P/Lの方が合っている。

 

 

 

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