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2016年8月

2016年8月23日 (火曜日)

577【投資の減損 04】持分法〜関連 会社、その存在の危うさ

2016/8/23

リオ五輪では、日本は史上最高の41個ものメダルを獲得し、多くのドラマと感動を我々に提供してくれた。勝利に喜び駆け寄ったコーチを、受け止めると見せかけて投げ飛ばした女子レスリングの金メダリスト川井梨紗子選手、銀メダルをとりながら強い責任感から謝罪した「霊長類最強女子」の吉田沙保里選手など、もう数えたらきりがない。どれも強烈だ。

 

僕が思うに、すべてのドラマに共通しているのは、選手の競技と勝負に対する強い意志だ。ドラマが生まれるのは、選手たちの“強い意志”の存在が一つのキーワードかもしれない。もし、受動的な姿勢が見えたら、感動は霞んでいただろうと思う。

 

 

さて、前回(576-8/16)は、持分法という会計手法に次のような特徴があると書いた。

 

・B/S価額は原価ベースとなること(よって、減損会計の対象となる)。

 

・投資先のP/Lを集約して連結P/Lに取り込むという、P/L起点の会計処理であること。

 

原価ベースのP/L起点の会計手法ということは、持分法が適用された関連会社は、連結グループの物語・ドラマの一部になる。但し、主要な登場人物としての活躍が期待されていないようで、持分法は関連会社のP/Lを極端に簡略化して連結P/Lに取り込む手続きとなっている。

 

現実には、関連会社絡みで連結グループの財務業績(=物語・ドラマ)が大きく変わることがあり得るので、会計手法と現実の間に齟齬が生じている。それを埋める努力を開示企業に期待したいところだ。

 

グラウカス・レポートは、そんな持分法に絡んだ伊藤忠商事の会計処理について、問題提起をした。具体的には、関連会社かどうかの伊藤忠の判定に疑問を呈したのだ。ということで、今回は、IFRSが関連会社をどのように規定しているかを検討していきたい。

 

 

さて、IAS28「関連会社及び共同支配企業に対する投資」(2015/3に適用されるもの)は、“関連会社”および“重要な影響力”について次のように定義している(IAS28.3)。

 

関連会社とは、投資者が重要な影響力を有している企業をいう。

 

重要な影響力とは、投資先の財務及び営業の方針決定に参加するパワーであるが、当該方針に対する支配又は共同支配ではないものをいう。

 

重要な影響力については、IFRSにしては珍しく、数値基準がある。

 

企業が、投資先の議決権の20%以上を、直接的に又は(例えば、子会社を通じて)間接的に保有している場合には、重要な影響力がないことが明確に証明できない限り、企業は重要な影響力を有していると推定される*1(IAS28.5の前半部分)

 

そしてIAS28.16では、次のように記載して、関連会社の投資には、持分法を適用しなければならないとしている。

 

投資先に対して共同支配又は重要な影響力を有する企業は、関連会社又は共同支配企業に対する投資を持分法で会計処理しなければならない。ただし、当該投資が第17項から第19項に従って免除の要件を満たす場合を除く。

 

 

これらの規定を読んで、ちょっと、想定外の方向へ思考が飛んだ。それは、“関連会社の危うさ”だ。それは20%という数値基準に根拠が見当たらないからだ。20%の議決権を持つと、企業統治上の何が変わるというのか?

 

上述したように、前回は「重要性がない会社に適用すべき会計手法(持分法)が、企業グループの連結業績に重大な影響を与える可能性のある企業に適用されている」旨を指摘した。これは情報開示上の問題に過ぎない。しかし今回は、企業統治・企業グループ経営のリスクとして、関係会社の危うさを感じた。

 

特に実質的な拒否権を確保できていない場合、かつ、他に多数派がいる場合、“出資比率に応じたリスク負担”というのは割に合うのだろうか? そのような関連会社における企業統治上の立場は、むしろ、20%以下の一般会社の方へ近いのではないか。仮に取締役会に人を出していたとしても、だ。

 

 

企業経営は、民主主義ではない。民主主義では少数派意見の尊重が強調されるが、企業経営は一貫した戦略・戦術を決定し徹底する場だ。例えば、賛成派と反対派の双方の顔を立てて、足して2で割るような中途半端な経営方針で顧客に喜ばれるのか、或いは、競合先に勝てるのか。そうではないだろう。他社がやらないことをやり、他社の上を行くには、一方向へエネルギーを集中させることが重要だろう。足して2で割ってなどしていられない。

 

すべての株主が同じ方向を向き、協力・協調できている間は良いが、そんな理想的な状況が永遠に続くとは限らない。経営環境が厳しさを増すにつれ、意見が割れ、一部の投資者・株主のポリシーに反したり、利益にならない決定が下される場合が増えるだろう。そのような時、少数派が我慢を強いられる可能性が高いのではないか。拒否権を持っていれば別だが。

 

結局、拒否権なしの他に多数派が存在する関連会社については、ピンチを戦うのに多数派頼みになりやすい。少数派にとっては、経営にタッチするといっても受動的になりがちだ。多数派が成功すれば恩恵をえ、失敗すれば損害を受ける。上述したように、重要な関連会社の場合、連結グループの経営戦略・戦術に悪影響を与えたり、評判(=ブランド)に傷がつくといった無形資産の価値が毀損する可能性もある。

 

要するに、連結グループのドラマ・物語、のれんに傷がつく。出資額の問題だけで済むとは限らない。そもそも、ドラマになるほどの主体的な強い意志を持てる環境が整っていないのではないか。

 

 

一方、僕の経験では、企業が投資先を子会社でなく関連会社とする場合、リスク軽減策のように監査人たる僕に説明するケースが多かったように思う。実質的な拒否権を持っていればそうかもしれないが、そうでない場合は本当にリスク軽減になるのだろうか。その事業が失敗した場合の損失額を、子会社にした場合より減らせるという意味ではそうだが、失敗の確率を高めはしないだろうか。

 

このように考えてみると、グラウカス・レポートが伊藤忠の持分法・関連会社に着目したのは、単に会計処理の問題を超えて、鋭いかもしれない。拒否権なしの関連会社は、どうも危ない気がしてならない。しかし、その割に、一般的にはより手軽な出資のように考えられている面があるように思う。

 

なお、直近の伊藤忠の終値は1,202円(8/22)。グラウカス・レポート公表日終値の1,182円より上昇している。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 IAS28.5の続き(後半部分)は、以下のとおり。

 

反対に、企業が、直接的に又は(子会社を通じて)間接的に、投資先の議決権の20%未満しか保有していない場合には、重要な影響力が明確に証明できる場合を除き、企業は重要な影響力を有していないと推定される。他の投資者が大部分又は過半数を所有していても、ある企業が重要な影響力を有することを必ずしも妨げるものではない。

 

本文に記載した通り、IFRSには珍しい数値基準で、かつ、「他の投資者が大部分又は過半数を所有していても、ある企業が重要な影響力を有することを必ずしも妨げるものではない。」に、非常に違和感を感じている。

 

僕には、IFRSの根底にある経営実態重視の考え方に反しているように思える規定だ。

 

グラウカス・レポートが指摘した3つ問題は、いずれも、拒否権なしで他に多数派がいるケースのようだ。IAS28の20%という数値基準に従えば、関連会社として識別し持分法適用の対象となっても不思議はない。一方で、企業統治上の立場としては、20%未満の一般の投資先とあまり変わりがない(=多数派の意志に逆らえず、経営に受動的に関わっているにすぎない)ような実態を持っている可能性も考えられる。

 

僕には、これらが数値基準の弊害の例のような気がしてならない。

 

 

2016年8月16日 (火曜日)

576【投資の減損 03】持分法〜ドラマの共有

2016/8/16

サッカー手倉森ジャパン、イチロー、体操、柔道、水泳、フェンシング、7人制ラグビーなどなど、そして天皇陛下のお気持ち表明。どれもドラマだなあと思う。DoCoMo のCMのキャッチ・コピー、“世界はひとりの複数形でできている”が頭に浮かんでくる。勝敗、ヒット数、メダルの色や数、ご公務への思いなどは、それぞれの人生の切り取られた一断面に過ぎない。しかし、それぞれの“ひとり”たちは、そこにこだわって生きてきたから、結果を万感の思いを持って受け止める。我々一般人もそれぞれの人生に同じようなシーンが思い当たる。だから、(一部に過ぎないが、)その感覚がジーンと伝わってくる。そして、企業にもドラマがある。

 

 

さて、IAS28「関連会社及び共同支配企業に対する投資」(2015/3に適用されるもの)は、持分法を次のように定義している(IAS28.3)。が、長い割につまらないので読み飛ばしてもらって問題ない。

 

持分法とは、投資を最初に取得原価で認識し、それ以後、投資先の純資産に対する投資者の持分の取得後の変動に応じて修正する会計処理方法をいう。投資者の純損益には、投資先の純損益に対する投資者の持分が含まれ、投資者のその他の包括利益には、投資先のその他の包括利益に対する投資者の持分が含まれる。

 

ただ、次の点は押さえておこう。重要だと思う。

 

・B/S価額は原価ベースとなること(よって、減損会計の対象となる)。

 

・投資先のP/Lを集約して連結P/Lに取り込むという、P/L起点の会計処理であること。

 

要するに、日本基準の持分法と同じだ。異なるのは、投資差額(連結子会社への投資の場合の旧連結調整勘定、のれんに相当する部分)を償却しないことぐらいか。

 

上に、“原価ベース”と“P/L起点の会計処理”を別なものとして2段書きしたが、これらはとても密接な関係があると思う。もしかしたら、一つのことの裏表と言えるかもしれない。

 

 

まず、原価について考えてみよう。

 

“原価”を“歴史的原価”と呼ぶことがある。どこかのテレビ番組で見たが、歴史を意味する英単語の“history”とは“his story”、すなわち、“彼(=勝者・支配者)の物語”なのだそうだ。すると歴史的原価とは、その企業が資産を取得してから収益化(=例えば、加工して販売)するまでの物語と考えることができる。

 

なるほど、原価は数字であり言語ではないが、付随費用を賦課したり原価計算したりといったプロセスは、まさに、その企業と資産の関わりの物語を表しているといっても良いのかもしれない。

 

これは、原価ベースゆえの会計プロセスであり、時価主義であれば不要だ。もし、時価主義ならば、期末の数量と時価さえ分かれば B/S 価額を決定でき、期首評価額との差額を P/L へ計上するだけで良い。したがって取得時点、場合によっては取得前からその資産に合わせてコストを集計するような作業・プロセスは全く不要になる。したがって、時価主義だとストーリーは生まれにくい。

 

 

次に、P/L だ。

 

これには、IASBのB/SやP/Lなどへの期待、すなわち、「B/SやP/Lがどの様に利用されるべきとIASBが期待しているか」を知ると良いと思う。現行概念フレームワーク(2010/9)の第1章「一般財務報告の目的」を読むと分かる*1

 

僕の結論は、B/Sは結果の表示、一方、P/Lはドラマや物語りだと思う。要するに、持分法がP/L起点の会計処理だとすれば、持分法の対象である関連会社の物語りは、連結グループのドラマの一部になる。もちろん、敵対する役どころではない。関連会社の利益が増えれば連結グループの利益も増えるのだから、両者は同じ方向を向いた味方同士のはずだ。

 

 

このように、持分法は原価ベースとP/L起点という特徴を持つことで、連結グループのドラマを表現する会計手法ということになる。

 

ただ、連結子会社のように、売上高のような科目ごとの詳細を連結P/Lへ引き継ぐわけではない。引き継がれるのは、純損益とその他の包括利益それぞれの区分を集計・要約した持分法による投資損益だけだ。同じドラマの味方同士だが、これでは関連会社のドラマは見えてこない。見えなくても良いのだろうか。

 

今回、もっとも強調したいのは、この点だ。

 

恐らく、関連会社という登場人物は、ドラマの本筋を味わう上で詳細を知らせる必要のない程度の存在感の薄さが想定されているのではないか。例えば通行人のような。エキストラが演じるような。

 

まあ、IASBが「関連会社はエキストラ」と考えているかどうかは別にして、持分法については、連結グループの主要企業や個性の際立った企業への適用を想定していないように思われる。想定しているのは、連結グループのドラマの筋書きへ大きな影響を与えない程度の、人的要素の際立たない、個性の目立たない役柄・人物だ。実際には強い個性の企業かもしれないが、持分法の性格上、連結グループのドラマの行方を左右しない程度の重要性のない投資先が想定されているように思われる。

 

しかし、グラウカス・レポートは、本来重要性がないはずの持分法を問題とした。2015/3期の伊藤忠商事の決算では、幾つかの関連会社(或いは、関連会社と一般会社の出入り)が、重要な役割を果たしたようだ。その影響たるや、もしグラウカスの主張が正しければ、伊藤忠の株価が半分程度に下落するほどだという。ここまで書いてきたような、持分法の地味なイメージではない。

 

ところが、理屈と実際は異なるのだ。持分法は理屈の上では地味な会計手法だが、現実には重要な影響を及ぼすケースがある。例えば、みなさんもご存知のように、ソフトバンク・グループは、アリババという巨大企業を関連会社にしている。

 

ということで、会計手法としての持分法の性格は別にして、持分法かどうかは、経営上の重要性と関係ないと考えた方が良さそうだ。この理屈と実際の不整合さは、持分法の欠点といえるだろう。それは、会計を行う企業が補う必要がある。例えば、次のような工夫をして。

 

もし、持分法適用会社が決算に重要な影響を与えるなら、その会社の個性やドラマが理解できるよう注記で情報を充実させる。

 

ちなみに、持分法が地味な、決算に影響の少ない企業に対する会計手法だとすれば、IFRS9が適用される一般株式投資などはどう考えれば良いのだろうか。これらは、原則として決算日時点で公正価値測定される資産であり、B/S起点で会計処理が適用される。その結果がP/Lへ影響する。すなわち、P/L起点の原価ベースの会計処理のようなドラマ性はない。

 

一般株式と連結グループは、共有するドラマがない。一般株式は赤の他人のようなものだ。統治は相手企業には及ばない。したがって、期末評価手法は受動的な方法(=外部データに基づく客観的な方法)に寄らざるをえない。公正価値は受動的な測定方法だ。

 

(公正価値における企業の見積もりは能動的であってはならない。あくまで客観性が重要となる。見積もりを能動的に行えるのは、原価ベースの資産に適用される減損会計の使用価値測定の算定時のみ。)

 

ということになりそうだ。これらの点を伊藤忠の開示とグラウカス・レポートを読む際に考慮すると良いかもしれない。今後、注意していこうと思う。

 

なお、直近の伊藤忠商事の終値は1,196円(8/15)。グラウカス・レポート公表日終値の1,182円より上昇している。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 ご存知のように、IASB 概念フレームワークの改定作業中だが、ここでは現行のバージョンを対象に、B/SとP/Lに対する IASB の役割期待を考えていく(改定後もB/SとP/Lの役割期待に大きな変化はないと思う)。

 

まず、利用者が財務情報を使う目的・必要性について。

 

現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者は、企業への将来の正味キャッシュ・インフローの見通しを評価するのに役立つ情報を必要としている。(OB3の末尾)

 

そして、上記の目的を果たすためのより具体的な情報の説明は以下のとおり。

 

将来の正味キャッシュ・インフローに関する企業の見通しを評価するために、現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者が必要としているのが、企業の資源、企業に対する請求権、及び企業の経営者や統治機関が企業の資源を利用する責任をどれだけ効率的かつ効果的に果たしたかに関する情報である。(OB4の冒頭)

 

ここでの“企業の資源”とはB/Sの資産のことであり、“企業に対する請求権”とはB/Sの負債のことだ(資産や負債の定義を見ていくと分かる)。さらに、“企業の経営者や統治機関が企業の資源を利用する責任をどれだけ効率的かつ効果的に果たしたかに関する情報”という長い文章は、その後“経済的資源及び請求権の変動”という表現に置き換わっていく(例えば、OB15と16を括る見出しに使用されている)。すなわち、一時点の企業の資源や偉業に対する請求権の情報がB/Sであり、それらの変動についての情報がP/L、持分変動計算書、キャッシュフロー計算書を示すことになる。さらに、これらからP/Lを抜き出して“財務業績”という言葉が使われていく(OB15〜)。

 

さて、いよいよB/SやP/Lはどのように利用されるとIASBが期待しているか。

 

B/S項目については以下のとおり。

 

報告企業の経済的資源及び請求権の内容及び金額に関する情報は、報告企業の財務上の強みと弱みを利用者が識別するのに役立つ。当該情報は、報告企業の流動性及び支払能力、追加的な資金調達の必要性、企業がその資金調達に成功する可能性はどのくらいかを利用者が評価するのに役立つ。現在の請求権の優先順位と支払要求に関する情報は、将来のキャッシュ・フローが報告企業に対する請求権を有する者の間でどのように分配されるのかを利用者が予測するのに役立つ。(OB13)

 

要するに資産や負債の種類・大きさから、支払能力や財務的安定性、配当能力などを読み取る参考になることを期待している。対象企業の物理的・法的側面に焦点が当たっており、不確実性の程度が低く、分析作業は比較的楽だ。しかし、経営者や組織風土など人的要素の香りがしない。

 

P/Lについては以下のとおり。

 

報告企業の過去の財務業績、及び経営者がどのように責任を果たしたかに関する情報は、通常、企業の経済的資源に対する将来のリターンを予測するのに役立つ。(OB16の末尾)

 

過去の財務業績(=過去数期のP/L)の分析や経営者の能力評価は、その企業のビジネス・モデル、それによって成し遂げようとしたことと結果を理解することであり、ドラマ性がある。人が活躍する様子が目に浮かぶよう。分析や評価は手間がかかるし難しい作業だが、将来キャシュフローの見通しという将来予測を行う利用者にとって、人的要素の理解は欠かせない。そこにはB/Sに計上されない企業の無形資産、自己創設のれんの存在があると僕は思う。

 

上記は、B/SとP/Lに記載された情報に優劣をつけようとしたものではない。ただ、人的要素の香りがする、企業のドラマが見えるのは、プロセスが記載されたP/Lということだ。オリンピックを見る際に、結果を知りたければハイライト情報を見れば良い。それはB/Sだ。しかし、ドラマを楽しみたければ P/Lの方が合っている。

 

 

 

2016年8月 2日 (火曜日)

575【投資の減損 02】検討方針

2016/8/2

元横綱千代の富士の九重親方が、7/31に亡くなったという。僕は相撲にあまり興味はないが、一時だけ夢中になったことがある。千代の富士が“前廻しを取ってからの一気の寄り”のスタイルを確立し、大関・横綱へ昇進していった頃だ。大学受験を控えた高校時代と重なっていたせいか、“最短距離での勝利”を恰好良く感じた。ご冥福を祈りたい。

 

 

さて、前回(574-7/28は、例のグラウカス・レポートが、持分法適用範囲の変更を中心に伊藤忠商事の会計処理を批判している一方で、僕の関心は、次のようなものだった。

 

 コロンビア炭鉱事業の投資の評価がどのように行われたか。持分法かどうかで評価額に大きな違いが生じるのだろうか。

 

 コロンビア炭鉱事業の投資と頂新の投資は、前者が大きな損益なく持分法適用範囲から除外されたのに、後者はなぜ巨額の特別利益が発生したのか。

 

これらを検討するには、次のようなステップを踏むことが予想される。(これらはあくまで予想であり、やりながら変更するかもしれない。)

 

① IFRSで、持分法がどのように描かれているかを理解する。

 

皆さんも、持分法を連結と一緒に習ったのではないか。僕もそうだ。そのため、持分法は投資先の業績を企業業績に取り込む手法というP/L面のイメージが強い。持分法の“投資の評価手法”という側面はあまり意識してこなかったように思う。一方で、持分法を資産評価の手法とする考え方も聞いたことがある。

 

今回のグラウカス・レポートは、“持分法を適用するかどうかで評価額が変わる”ことに焦点を当てているので、持分法を資産評価の手法という側面から見ているのかもしれない。僕は、持分法かどうかより、減損テスト(特に使用価値の見積もり)や公正価値の測定手法がどうであったのか、これらに差異が生じるのかについて関心を持っている。

 

どちらの見方がより妥当性を持つかについては、IFRSが持分法をどのように扱っているかが重要になると思う。

 

IFRSの減損の種類や、見積もり要素の強い公正価値(レベル3)測定の相違の理解を深める。

 

このレポートの中で引用されているIFRSの個別基準は、ざっと見たところ、IAS28 「関連会社及び共同支配企業に対する投資」のみだ。例えば、IAS36「資産の減損」の引用はない。このことは、上述したように、このレポートが“持分法を適用すべきかどうか”へ焦点を当てていることを示している。

 

一方、僕が関心を持っている減損については、関連会社(IAS28)、子会社(IFRS10)、共同支配企業(IFRS11)についてはIAS36が適用され、それ以外の金融商品の減損については、IAS39「金融商品:認識と測定」を参照することとされている(IAS36.4。但し、実際にはIFRS9「金融商品」やIFRS13「公正価値測定」の規定も関連する)。

 

すなわち、持分法が適用されるならIAS36の減損会計、適用されないならIAS39の減損会計か公正価値測定となることから、グラウカス・レポートは、両基準における減損会計の差異、或いは、IAS39の公正価値測定(実際はIFRS13「公正価値測定」)との差異を伊藤忠が利用して減損を逃れていると言いたいのかもしれない。

 

よって、これらの個別基準の関連規定に関する理解を深める。

 

グラウカス・レポートの指摘する3点を具体的に検討する。

 

検証する3点に関しては、グラウカス・レポートは詳細な情報がある一方、伊藤忠側の説明は極めてざっくりしている。おまけに、グラウカス側は“実態”、伊藤忠側は“契約(形式)”を根拠にしているので、“実態重視のIFRS”に照らすとグラウカス側の主張の方が妥当に思えるかもしれない。

 

しかし、予断を持たずに、① や ② の理解に基づいて、何が起こっているのかについて可能性を想像・妄想してみたい。

 

金融商品については、IASBが大幅改定中であることもあって、あっちこっちの規定を、行ったり来たりしながらの神経質な読み解き作業になりそうだ。とても千代の富士関のような、一気・一直線での勝負は難しい。でも、慎重こそが最短の道であると信じてやっていこうと思う。

 

 

ところで、伊藤忠商事は8/1に以下の追加開示を行った。

 

当社の会計処理に関する一部報道について(その3)

 

グラウカスの投資手法(空売りしているので、株価が下がると儲かる)を強調し、投資家等に冷静な対応を求めている。しかし、提示された疑問に対する回答はない。8/1の終値は1,170円なので、今の所、同社の株価は落ち着いている(レポートが公表された7/28の終値は1,182円)

 

 

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