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2016年9月 6日 (火曜日)

578【投資の減損 05】持分法〜“重要な影響力”の意図

2016/9/6

前々回(576-2016/8/16)は、持分法が P/L 起点会計処理であり、連結財務諸表の中で連結グループのドラマに能動的な役割を果たす企業に適用されるものの、子会社のように各科目ごとに集計されるのではなく、持分法適用による投資損益を計上するためのたった2科目に要約されて連結 P/L に計上されることから、おそらく、重要性のない端役のような企業を想定しているのだろうと書いた。しかし、実際には決算に大きな影響を与える可能性があったり、規模の大きな投資先に対しても持分法は使われている。

 

前回(577-2016/8/23)は、持分法が適用される“関連会社”は連結グループにとって、出資額(実質的な投資とみなされる長期貸付などを含む)の有限責任では割に合わない、危険な存在になりえると書いた。特に、他に意思決定を牛耳る多数派が存在し、実質的な拒否権がないままに 20% 以上議決権を所有している状況は、その多数派が連結グループの守るべき価値を無視した意思決定を行って企業イメージを損ねたり、損失を出したりする可能性があり、投資額を超えるリスクがあるのではないかと書いた。

 

持分法という会計手法、及び、関連会社という存在は、一見地味だが、実は会計や経営上の問題を孕んだ急所だという気がしてきた。グラウカス・レポートは、そこを突いてきたのだ。

 

そして、僕には一つの疑問が浮かんできた。

 

“重要な影響力”という捉えどころのない抽象的な表現と、“20%”という具体的な根拠のない数値基準がいけないのでは? なぜ“拒否権”にしなかったのか。実態判断上も、経営上も、より明確で重要なラインなのに。

 

こうなっているのは、IFRSも日本基準も同じだ。きっと何か理由があるに違いない。もう少し、規定をじっくり読んでみよう。

 

 

IAS28の“重要な影響力”というセクションは、5から9までの5つの段落で構成されている。5は、例の“20%”基準、6は投資先の意思決定機関や方針決定プロセスへの参加など“重要な影響力”の実質的な中身の例示列挙、7と8は潜在的議決権の考慮、9は“重要な影響力”の喪失について記載されている。

 

そして、“重要な影響力”の定義は、IAS28.3 に次のように記載されている。

 

重要な影響力とは、投資先の財務及び営業の方針決定に参加するパワーであるが、当該方針に対する支配又は共同支配ではないものをいう。

 

ん〜、やはり分からない。捉えどころがないし抽象的すぎる。

 

 

いやいや、本当にそうか。実はちゃっかり本質を表現しているのではないか? というのは“投資先の財務及び営業の方針決定”という書き方に「あれっ?」と思ったからだ。なぜ、営業(方針)より前に財務(方針)が来てるのか。財務は営業のサポート役ではないのか。財務が営業に優先するとはどういうことか・・・(ここにポケモンがいる! うまくモンスターボールを当てればゲットできる。)

 

そこで想像だが、もしかしたら、“重要な影響力”とは「粉飾決算に加担させるパワー」のことではないか。「財務及び営業の方針決定に参加するパワー」とは、例えば、企業が押し込み販売で粉飾しようとすれば、その受け手となって在庫をたくさん持ってくれる会社を探さなければならない。その時役に立つほど強い影響力、パワーこそが、“重要な影響力”ではないか。

 

相手を支配する必要はない。連結財務諸表を作成すると、グループ内での未実現利益は消去されてしまうので、むしろ、支配関係にない(=連結子会社でない)協力者が必要になる。このような通常の商取引とはいえない取引、はっきり言えば、不正取引への協力を求めるには、何か特別な関係や力が必要になる。それが“重要な影響力”の意図するところではないか。

 

Great!  或いは、Excellent!

 

と、自分で自分を褒めたいところだが、残念ながら、これでは“議決権20%基準”を明確に説明できない。「逃げられたっ! ダダダン」って感じだ。

 

 

とはいえ、やはり“重要な影響力”の意図するところの本質は、ここにあると思う。連結財務諸表は、企業の経済実態を単体財務諸表より適切に表現するため、企業グループとしての経営成績や財政状態を表そうとするものだが、その裏には、子会社を利用した粉飾を無効化することがある。持分法も同様で、子会社ではないため連結では無効化できない粉飾を無効化する目的がある。未実現利益消去の手続きはその重要な手段だ。

 

ということは、関連会社にするかどうか(=持分法を適用するかどうか)は、本来、粉飾決算に協力しそうな相手かどうかで決定すべきだ。しかし、会計基準にそう書いてあったら、どんな会社も関連会社に指定されることを拒むだろう。名誉に関わるからだ。企業ののれんを汚すことになる。形式基準である20%に引っかからないよう、あらゆる手を尽くそうとするに違いない。すると、実態を映す鏡であるべき会計が、逆に実態を歪めかねない。

 

IFRSなどの会計基準はこの理由から、ネガティブな印象を与えないような関連会社や重要な影響力の定義・判断基準等を採用しているのではないかと思う。その結果が、根拠や背景がよく分からない“20%基準”というわけだ。しかし、そのものズバリの定義や判断基準が採用できないのは、やはり弊害がある。こんな数値基準に、経済の本質を表現させる力はない*1、と思う。

 

 

さて、IFRSの関連会社の規定を批判するために、このシリーズを始めたわけではないが、考えれば考えるほど、難しい規定であることは分かってきた。次回からは、グラウカス・レポートを見ながら、さらにIFRSの規定を読んでいきたい。

 

 

古い話で恐縮だが、1ヶ月ほど前に伊藤忠のCFOのインタビュー記事が日経ビジネスに載った*2。「…怒りの大反論」というタイトルで分かるとおり、このCFO氏は怒っている。が、違和感を感じた。この記事は、最後に次のようなCFO氏の発言で締められている。

 

「法的対応も選択肢の1つだが、皆様の意見を参考にして決めていきたい。少なくとも、私どもには一点の曇りもない。こういう対応を許していいのかと言うのは、私どものだけの問題なのか、証券市場全体の問題なのか、日本全体の問題なのかという問題意識を、僕は持っている」

 

僕の感想は次の通り。

 

・やるべきは、法的対応などではなく、投資家・株主との対話だと思う。

 

・一点の曇りがないかどうかは、疑問への合理的な説明によって証明してほしいと思う。

 

・許す、許さないは、伊藤忠ではなく、株主や投資家が判断することだと思う。

 

・関連会社に関する疑問は、伊藤忠の問題というより、IFRSなど会計基準に起因する問題かもしれない。という意味では、市場全体、日本全体、いや、世界全体の問題かもしれない。

 

但し、IFRS規定の弱点を伊藤忠が突いた、悪用したと言うなら、伊藤忠固有の問題にもなる。舛添氏の都知事辞任やPCデポ炎上でも分かるとおり、今や人々は、適法性や準拠性より適切性・適正性で判断する。

 

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 もちろん、IFRSも日本基準も“20%基準”だけでない、実質的な判断を求めている。しかし、特にIFRSに顕著だが、“20%基準”への依存も大きい。IAS28.5を見てみよう。

 

企業が、投資先の議決権の20%以上を、直接的に又は(例えば、子会社を通じて)間接的に保有している場合には、重要な影響力がないことが明確に証明できない限り、企業は重要な影響力を有していると推定される。反対に、企業が、直接的に又は(子会社を通じて)間接的に、投資先の議決権の20%未満しか保有していない場合には、重要な影響力が明確に証明できる場合を除き、企業は重要な影響力を有していないと推定される。他の投資者が大部分又は過半数を所有していても、ある企業が重要な影響力を有することを必ずしも妨げるものではない。

 

実質判断で、20%未満の議決権で関連会社にする場合、逆に、20%超の議決権を持ちながら関連会社にしない場合は、企業に“明確な証明”を求めている。この書き方だと、“20%基準”に従っていれば、楽だし、安全だ。繰り返しで恐縮だが、僕はこの形式基準のあり方には疑問を持っている。

 

*2 伊藤忠CFO、「不正会計」指摘に怒りの大反論 日経ビジネス 8/3

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