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2016年9月13日 (火曜日)

579【投資の減損 06】両者の主張〜コロンビア炭鉱事業(ドラモントJV)

2016/9/13

もし、北朝鮮が核兵器を実戦配備したら。考えるのも嫌だが、そうは言っていられない。現実は認めなければならない。議決権比率20%以上だが、実質的な拒否権を持つほどの影響力はない投資に持分法を適用している現状も同様だ。

 

「そんな投資はリスクが高いだけ。同じP/L起点の原価法の会計処理でドラマの共演はしたくない(=一般投資と同様に公正価値測定で良いではないか)」と主張しても、「粉飾防止・阻止のために、(持分法の)未実現利益消去手続の対象となるようにしておく」ことの方が重要性が高いという現実がある。あとは、“20%”が妥当かどうか、“20%”以外のより良い基準はないのかを検討する必要はあると思うが、「拒否権のない投資にも持分法を適用する考え方」を否定するのは難しいようだ。

 

 

さて、グラウカス・レポートが問題提起したのは、持分法適用の関連会社と原則公正価値測定される一般投資の区別だった。具体的には、伊藤忠の会計処理について、次の3点の指摘があった(574-7/28 からの再掲)。

 

 持分法を適用すると巨額の投資損失・減損損失となるため、それを回避するために(再評価せずに)持分法適用の範囲から除外したケース(コロンビア石炭鉱山、減損回避見積額1,531億円)

 

 逆に持分法を適用すべきでない投資へ持分法を適用することで、(2016/3期以降の決算やその後の業績予想へ)利益を取り込んだケース(2015/1の中国中信集団の株式取得)

 

 持分法適用の範囲から除外する際に行われた投資の再評価益の計上が、あからさまな決算対策と見受けられるケース(頂新、不正な特別利益600億円)

 

今回は、コロンビア石炭銅山のケースについて、グラウカス・レポートと、前回(578-9/6)紹介した“お怒り”の伊藤忠CFO氏の記事から、説明を対比させてみたい。まず、グラウカスの主張から(主なもの)。

 

(グラウカス・レポート P8〜21)

 

・投資環境の悪化と損失回避

 

伊藤忠が投資した2011年以降、石炭価格は著しく下落しており、最悪のタイミングの投資だった。2011/10、伊藤忠はドラモントJV社の20%の議決権を15億ドル(当時のレートで1,265億円)で取得。残り80%は米国鉱山大手ドラモント社が保有。

 

(販売価格の下落)

伊藤忠が出資した日から、燃料炭価格の下落率は最大57%に達した。

2011年10月24日 118.10 ドル/トン
2012年3月26日
  105.20
2013年3月25日
  91.22
2014年3月31日
  74.07
2015年3月30日
  56.31
2016年4月5日
 51.18
(出典はBloomberg (COASNE60)とされている)

 

(生産量の減少)

炭鉱事業は運営上の困難にも直面し、伊藤忠が取得時に見込んでいた生産量を大きく下回った。

   伊藤忠の見込み    ドラモントJV実績

  (会計年度;3月末締め)  (暦年)

2012  31.0百万トン      26.0

2013  35.0百万トン      22.0

2014  35.0百万トン      26.8

(出典は伊藤忠の開示資料とドラモント社資料やReutersのニュースとされている

 

以上の結果、グラウカス・レポートは、「いかなる計測値をもってしても、伊藤忠の投資は失敗だったというほかない」ので、「出資持分の帳簿価格に関して評価損または減損損失を計上するべきだった」としている(P10)*1

 

そして、その損失回避のために、2015/3期決算でドラモントJVに対する投資を関連会社から一般投資へ区分変更したと断じている*2。また、「ドラモントJVを一般投資へ分類することで、業績予想と実績の説明から同社の説明を省くことができる」旨の、伊藤忠にとっての区分変更のメリットを指摘している。

 

 

(区分変更が不当な理由1)持分20%を維持している。

 

伊藤忠は炭鉱事業への議決権比率20%を維持している。しかし、伊藤忠CFOはReutersに対し、2014/12期の決算に関連して「優先株を引き受けないので、伊藤忠の議決権比率が20%を切る予定」である旨の説明をした。しかし、実際には優先株は発行されなかった。

 

(区分変更が不当な理由2)重要な影響力を維持している。

 

伊藤忠は2015/3期有価証券報告書(P104)で、「ドラモントJVの予算及び設備投資等の重要な決議事項に対する承認権限を有しておらず、同社の営業及び財務方針に重要な影響力を行使することができないため」であると説明した。しかし、以下の理由により、重要な影響力を引き続き維持していると主張している。

 

・取締役会または同等の経営機関への参加、方針決定プロセスへの関与

 

グラウカス側の調査員が、伊藤忠幹部(鈴木氏)がドラモントJVの取締役会長(兼Itochu Coal Americasの現CEO)であることを確認した。これは調査員が電話で会社に鈴木氏の肩書きを照会したもの。伊藤忠・米州石炭事業の責任者が、ドラモントJV の取締役会長をしているのだから、伊藤忠がドラモントJVの経営意思決定に影響力を持っていると考えられる。この関係は鈴木氏の前任者(2011/8〜)の稲垣氏のときから継続している。

 

・(影響力行使の背景となりうる)重要な取引

 

伊藤忠はドラモンドJVで産出した石炭の対日向け独占販売権に加え、親会社のドラモンドと共同でアジア各国の電力会社をはじめとする顧客にマーケティング・販売する権利を獲得した。伊藤忠とドラモンドJVとの間の重要な取引である。

 

・経営層の人事交流

 

上述の鈴木氏や稲垣氏は、JVの相手方(=ドラモントJVの親会社)であるドラモント社と同じビルに勤務しており、伊藤忠幹部社員とドラモント社の交流があったと推定されている。

 

・技術情報の提供

 

伊藤忠はプレゼンテーションの中で、JVにおける同社の機能の一つとして、同社の短期的・長期的物流ノウハウの活用を挙げている」として、炭鉱物流のノウハウ提供を推定している。

 

以上により、IAS28.6に記載されている“重要な影響力”のすべての要件に合致したとしている。したがって、ドラモントJVは関連会社であり続けており、2015/3期以降についても、持分法が適用されるべきだし、少なくとも2015/3期には減損損失を認識すべきだったとしている。

 

以上が、グラウカス側のコロンビア炭鉱事業の投資に関する主な主張だが、もし、こんな監査調書をスタッフが上げてきたら、僕がどんなパートナー・レビューをするか考えてみた。

 

・減損判定には為替レートの変化を考慮すべき。

 

2012/10ぐらいから為替レートは急激に円安に振れている(80円台〜120円台)。

 

・公正価値測定で損失は出ないのか。

 

持分法は減損会計の対象になる。一方、一般投資へ区分変更すると公正価値測定される。減損が生じるくらいなら公正価値も低下しているはずなので、そこを突っ込む必要がある。要するに、関連会社のままであろうが一般投資へ振替られようが、損失は生じるのではないかと感じられる。

 

とはいえ、「ドラモントJVは関連会社である」という主張には説得力がある。特に、伊藤忠の幹部社員が、パートナーであるドラモント社と同じビルに勤務し、ドラモントJV の取締役会長(=プレジデント)を務めている事実は重い。ドラモントJVが伊藤忠グループのドラマに出演している感じが濃厚に感じられる。

 

 

さて、伊藤忠CFO氏は、これについてどのように回答したか。CFO氏の主な主張は以下のとおり。

 

・毎年度末に(ドラモントJVを直接保有する)Itochu Coal Americasの資産を公正価値評価しているが、減損には至っていない。

 

・Itochu Coal AmericasはKPMGが資産評価を行い、アーンスト・アンド・ヤング(EY)が監査をしている。さらに伊藤忠がその数字を確認し、トーマツが伊藤忠の連結監査をしている。

 

・確かに持分比率は20%のままだが、ドラモント社から追加資金提供の要請があった時に断った。その結果、伊藤忠の持分は(実質的に)20%を下回っている。

 

・資産評価の方法は(グラウカスが採用した売上高マルチプル)だけではない。資源事業ではディスカウント・キャッシュ・フロー*3の方が一般的。

 

・伊藤忠幹部の肩書きなどにミスが見られる。事実誤認がある。

 

さて、スタッフから「CFOにインタビューしたらこんな感じでした」と報告を受けた、或いは、これが自分でCFO氏にインタビューした時に得られた回答だとしたら、やはり、減損テストや公正価値評価についてより詳細な質問を追加するだろう。そして、追加資金の要請を断った経緯やそれがドラモントJVの経営に与える影響を確かめるにはどうすればよいかを考えるだろう。

 

それともう一つ、なぜ、伊藤忠と100%子会社であるItochu Coal Americasの監査法人が異なるのかを聞くと思う。監査法人が異なれば色々流儀が変わるので、同じ監査法人に担当させた方が、情報のやりとりがスムーズで効率が良く、監査の質も上がるはずだからだ。

 

みなさんはどのように感じられただろうか。

 

 

コロンビア炭鉱事業であるドラモントJVが関連会社かどうかというのは、なかなか判断が難しそうだと思われただろうか。一方で、減損テストに使う使用価値と公正価値の計算方法と計算結果は、両者ともDCF(=ディスカウント・キャッシュ・フロー)なので、このケースではそんなに違わないのかな?なんて印象を持たれかもしれない。

 

僕の感想は、グラウカスは詳細な根拠を示して迫力があるが、一つの結論に向かって有利な情報のみを載せている印象がある。一方、CFO氏については、雑誌のインタビューだから仕方ないが、根拠が今ひとつ具体的でない。監査のとっかかりにはなるが締めには程遠い感じがした。

 

グラウカス・レポートに従って関連会社かどうかの区分にこだわるとすると、僕は20%の形式基準より、取締役会長が相変わらず伊藤忠から出ていてドラモントJVの経営に重要な影響を与えている可能性の方を注目する。伊藤忠がドラモントJVと同じドラマを共有する意思を失っていないと思うからだ。ただ、これは一般的な考え方ではない。一般的には、このCFO氏の主張の(前提にある)ように、20%かどうかをより重視するだろう。それが IAS28.5の規定の素直な読み方だと思う(578-9/6*1を参照のこと)。

 

ただ、監査ではこのポイントを後回しにすると思う。グラウカス・レポートも最終的には伊藤忠株式の評価を目的にしているのであり、一般投資家と変わらない。それにはP/Lをしっかり固める必要がある。関連会社か一般投資かは損益に大きな影響を与えない印象があり、評価損益(=減損テストや公正価値測定)が正しいかどうかの方が、情報価値が高い。まず、それに精力を集中させると思う。すなわち、減損テストや公正価値測定のプロセスおよび結果のチェックから始めると思う。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 グラウカス・レポートは、詳細なデータで主張を根拠づけているが、なぜか、アベノミクス&黒田バズーカによる著しい円安の影響を分析していない。円安は外貨建て投資の採算を向上させるので、もしかしたら、伊藤忠がこの投資に関して減損を回避できていたのは、円安が理由かもしれない。

 

*2 区分を関連会社から一般投資へ変更するとなぜ損失回避できるのか、そのロジックは分からない。しかし、グラウカス・レポートはそう断じている。

 

*3 ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF法)とは、将来キャッシュフローを見積もり、割引率で割り引いて現在価値を求める方法で、会計で使用価値や公正価値を計算する方法と基本的に同じだ。

なお、グラウカスが売上高マルチプル(=売上高から事業価値を推定する方法)を採用したのは、公開情報が限られているからで、もし、ドラモントJVのコストや利益の情報が開示されていればDCFによる試算が示されたのではないかと思う。CFO氏はおそらくそれを分かった上で、「資源事業はDCFが一般的、売上高マルチプルは適切ではない」などと述べていると思われるが、フェアな姿勢とは思えない。

 

 

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