580【番外編】日銀はやった。政治と国民は?
2016/9/27
先週日銀が公表した歴史的な政策転換について考えてみた。もちろん、僕は金融の専門家ではないので詳しいことはわからないが、どうも日銀は、(広義の)ヘリコプター・マネーをやってしまったようだ。政府が増発した国債を、日銀が買い入れる仕組みができてしまった。もはや、国債市場は国家財政の健全性に警鐘を鳴らしたり、健全性維持をサポートする機能を果たせなくなった。そのことを、政治家や国民はよく理解する必要があるのではないか。
総括的検証の結果、日銀が公表した新しい金融政策方針は、以下のように要約される*1。
- イールドカーブ*2・コントロール
従来の短期金利だけでなく、10年国債の長期金利までもコントロール対象とする。要するに、国債市場は短期から長期まで日銀に支配される官製相場となる。
短期は従来通り金融機関等から預かる当座預金に日銀が金利をつけることでコントロール(現在はマイナス0.1%)。長期は日銀が国債市場の売買取引に参加することで、当面、10年ものの金利をゼロ程度(=現状と同程度)で推移させることを目指す。
「長期金利はコントロールできない、市場に任せるしかない」というのが過去の日銀の立場だし、世界の常識だった。しかし、このイールドカーブ・コントロールによって次の状況となる。
この4年間大量に購入し続けたことで日銀には大量の国債があって、金利が目標を下回れば(=国債価格の上昇)売りを出してマーケットを冷やせる。
金利が上がり過ぎれば(=国債価格の下落)いくらでも買うことができる。というのは、年間80兆円という従来の国債購入枠は、実質的に取り下げられたからだ。枠より金利コントロールの方が優先される。
- オーバー・シュート型コミットメント
物価上昇率が2%を達成するまで上記の緩和を継続する(上記には記載していないが、他にETFやCP、社債などの資産買入れも7月の決定を継続する)。
従来は2年という目標達成期限を設けていたが、それを止めて、その代りに「達成するまで継続する」という“しつこさ”を全面に出したようだ。
本来であれば、政府が財政赤字を拡大させ国債を大量発行すれば、引受手がいなくなって金利が上昇する(=国債価格は下落する)はずだ。しかし、上記の金融政策によって日銀が国債を購入するので、その心配はなくなった。よって、政府はいくらでも赤字国債を発行できる。それを日銀が(形式的に市場を通して)全て引き受けてくれる。
この政策は、物価上昇率が2%を超えるまで続けることができる。2%を超えないと、永遠に続く可能性がある。そうなると、政府はデフレが続く限り実質的に国債の償還財源を心配する必要がなくなる。そして財政規律がボロボロに緩む可能性がある。
結局、これは(広義の)ヘリコプター・マネーと言えるのではないだろうか。
もはや、日本の財政規律維持に国債市場は貢献しない、と思う。このまま国家財政が悪化し続ければ、いずれ、円は国際的な信用を失い、暴落するのではないか。
あとは、政治家と国民が考えるしかない。デフレのぬるま湯に浸かりながら円の暴落を待つか、それともデフレから脱却し国債市場の機能を取り戻すか。デフレ脱却には、成長戦略に真剣に取り組むしかない。日銀は、我々にボールを投げたのだ。そもそも、アベノミクスの中で金融緩和の役割はカンフル剤であって時間稼ぎにすぎない。日銀はその役割を果たしている。
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*1 9/21に公表された日銀金融政策決定会合の「金融市場調節方針に関する公表文」は、以下のページに掲載されている。
*2 (この場合は国債の)市場金利の期間別のグラフ、利回り曲線のこと。通常は、機関が長くなるほど金利が大きくなるため、右肩上がりの曲線となる。しかし、1月末のマイナス金利導入以降、長期金利が日銀の想定以上に下がってしまい、7月末の日銀会合までは、ほぼ、水平線となっていた。(8月からは若干長期金利が上昇している。)
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