584【番外編】「粉飾の傷口広げた“第三者”の助言」
2017/6/28
前回(5/16)、東芝のことを書いて自損事故を起こしたような気持ちになった(=自分で自分の気分を悪くした)僕は、もう2度と東芝に触れまいと思っていた。しかし、日経ビジネス(6/26号)の「粉飾の傷口広げた“第三者”の助言」という記事を読んで、また戻ってきてしまった。ありえない、と思いたい。
この記事は、4つのパートの2つ目、即ち、起承転結の“承”の部分に当たる。内容は、デロイトトーマツが、ウェスティングハウス社に関連する減損損失不計上や、有償支給取引を利用した“バイセル取引”という不正行為の隠蔽に関連した助言を行い、当時の東芝の経営陣が監査人を欺く手助けをしていたというのだ。それだけではない。前回の記事に書いた「第三者委員会の調査対象から原子力事業を外した東芝経営陣の判断の軽さ」にも関わっているという。これらが、東芝が真面目に問題に向き合う機会から遠ざけ、その傷口を広げた、というわけだ。
これらは新しい話ではない(=以前から日経ビジネスなどが主張していた*1)が、今回のように問題全体の中で整理されると説得力が増す。
これが事実なら、業界を代表する大監査法人(の実質的子会社)が、自らの利益のために、公認会計士の社会的存在意義を否定するような反社会的行為を行ったことになる。東芝同様、監査法人トーマツも天に唾を吐いたのか。
おっと、待て。日経ビジネス誌の巧みな論理展開と熱い主張の勢いにのまれて大事なことを忘れてないか。そう、情報を理解し受け入れるには検証が必要だ。
そこで冷静に読み返してみると、デロイトトーマツに関連する記述は直接的な証拠・事実を押さえておらず、状況証拠から推測したものになっていることに気づく。例えば、日経ビジネス誌は、契約案件「名」は入手できたが、契約の詳細とか、その契約による成果物は確認できていないようだ。だから、東芝の社内メールや粉飾隠蔽のマニュアルなどの間接証拠からキャッチーなキーワードを取り出して、デロイトトーマツと関連付けている。即ち、東芝がデロイトトーマツに何を依頼しどんな助言を受けたかは、具体的な事実として記事になっていない。だが本来は、それこそがデロイトトーマツ関与の決め手だろう。
日経ビジネス誌は状況証拠から問題提起型のストーリーを作り、それに沿って入手した材料を解釈しているようだ。従って、そのストーリーが正しいかどうかについては、読者が判断することになる。
でも、どうやって?
それは日本公認会計士協会や公認会計士・監査審査会の検査だと思う。日経ビジネス誌には、取材上の限界があるが、これらの検査では監査法人内のあらゆる情報を入手できる。契約前のプレゼン資料から契約内容の詳細や遂行プロセス、その成果物(助言の内容も含む)も閲覧できるし、監査法人には「そんなものはありません」と言い訳することは許されない。財務省や文科省とは違うのだ。保管してなければ、それ自体が重大な問題だ。
ただ残念ながら、これらの検査では個別の案件について「〇〇は白でした」などと分かりやすい結果報告はしてくれないかもしれない(“黒”なら、その内容がある程度公表される)。でも、もし、これらの、通常は決まり文句しか記載されない検査結果に余計な記述があれば、そこは日経新聞がきっちり取材し報道してくれるだろう。それを待つしかない。いつ検査が行われ終了するかは分からないが、必ず行われるはずだ(もう行なっているかもしれない)。そして、早く白黒がはっきりすることを期待したい*2。
何れにしても、繰り返しこのような報道がなされることの影響は大きく、この先、トーマツのブランド毀損は免れないのではないか。そして、このようにタチの悪い話は一監査法人のブランドに留まらず、公認会計士全体や監査制度への信頼にも影響しかねない。
そう考えると、トーマツには説明・釈明の機会があっても良いと思う。だが、記事によれば秘守義務があるためにトーマツ関係者は取材に応じていないようだ。昔は秘守義務が会計士や監査制度を守ったかもしれないが、社会一般に情報開示が進んだ今もまだ同じだろうか。
やるべきことをやっている、或いは、問題があったので改善した、などとタイミング良く知らせる方法があると良いのだが。日本公認会計士協会や公認会計士・監査審査会の検査が、企業の第三者委員会調査のようにタイミングよく機能すると良いかもしれないが、現実的でない。それより外部法律事務所に調査を依頼し報告書をまとめてもらうといった対応が、秘守義務に抵触しないでできると良いと思う。
今日は東芝の株主総会が開催される。長期保有株主の方々は、この日経ビジネスの記事を読んでどんな感想を持たれただろうか。会計士に愛想をつかしていなければ良いのだけれど。それを想像すると、また自損事故を起こしたような気持ちになる。会計士が業界内で生臭く共食いしてる、或いは、会計士のコンサルはなんでもありだ、みたいなイメージが定着しないことを祈りたい。
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*1 このブログでも、以前、この件に関連する文藝春秋の記事を扱ったことがある。
556【番外編】3/15公表の東芝報告書と文藝春秋の記事をざっと読んでみた。(2016/3/16)
*2 白か黒か、早く結果を公表してほしい。
*1の記事にも記載したが、僕の経験からは、日経ビジネス誌が主張するような内容の契約が、監査法人の受注承認プロセスを通過できるとは思えない。一方で、いかに良いルールでも、その目的が正しく理解され賛同されない限り、不正な運用がなされる可能性がある。
したがって、日経ビジネス誌が問題提起型の報道をするのは、マスメディアの役割として大切なことと思う。しかし、社会全体としては、それだけでは中途半端だ。結果に白黒をつけ、黒であれば責任を取るべき人に責任を取らせ、再発防止を図るところまで見届ける必要がある。白であれば嫌疑を晴らしてもらわなければならないし、おそらく、この問題の起承転結には別の“承”があるだろう。日経ビジネス誌や他のマスメディアには、そこまでのフォローを期待したい。
このようにメディアの関心が続くことで、日本公認会計士協会や公認会計士・監査審査会などの検査も洗練されていくと思う。だが、社会の関心がそこまで続くかが問題だ。途中で忘れ去られてグレーな印象だけがもやっと残る、というのが最悪だ。
というわけで、検査結果を早く、分かりやすく公表してほしいと思う。
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