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2017年7月19日 (水曜日)

585【番外編】重要性のない子会社に潜む悪魔-富士フイルム

2017/7/19

一昨日、日経電子版での『富士ゼロ会計不祥事、HDの責任追及「不十分」 *1という記事を読んだ。「そうだそうだ」と思い、改めて、先月富士フイルムホールディングスに提出された第三者委員会報告書*2を読もうと思った。“改めて”というのは、一回挫折したのだ。この報告書、AAだのHHなど、短縮略号・記号が多すぎて、内容が頭に定着しない。僕の頭は、ワーキング・メモリーの容量が乏しいので、この手の文書は苦手だ。更に言えば、会計処理の記述が分かりにくい。

 

さて、文句は脇に置いて話を進めよう。

 

真正面から勝負を挑んでダメな場合でも、ほかの方法でなんとかなることがある。そこで、目次を眺めながら「僕が本当に興味があるのはどの領域だろう」と考えてみた。要するに、全部読むことは諦めて、関心のある領域に集中することにした。妥協したのだ。

 

すると、次の領域に目が留まった。

 

第3章 FXNZにおける問題点
(注:“FXNZ”とは富士ゼロックスのニュージーランドの会計単位、2つの子会社を同国において連結したもの)

 

第10章 会計監査人による監査

 

その結果、異常な会計処理の内容(粉飾の具体的手口)と、監査人の監査対応に関する第三者委員会の評価に関心を持っていることを、自分で自覚することになった。

 

みなさんは「冒頭の“HDの責任追及”、即ち、企業統治の話はどうなった?」とご不満かもしれない。しかし、その前にこの問題の性質・本質を僕なりに理解したいのだ(と後付けで解釈した)。企業統治の話はこれを理解した後が良かろう。もし、上記の2つの章を読んで、まだ企業統治への関心が続いていれば企業統治へ話を進めれば良い。(だが、きっと気力が続かず事切れるだろう・・・)

 

というわけで、全部で12章もある報告書をたった2章で済まそうという僕のいい加減さに呆れない方は、どうぞ、この先をお付き合いいただきたい。とりあえず、これらの概要を記載することにして、力が残っていれば、続きを次回以降に繰り越したい。

 

「第3章 FXNZにおける問題点」の概要

 

FXNZについては、純資産を318億NZドル(75%の持分比率を勘案し2016/3/31基準日で換算すると185億円)の減額修正を要するとしており、そのうち、247億NZドルは“リース取引に係る会計処理の修正等”によるものとしている。

 

富士フイルムは米国会計基準を採用しているが、日本のリース会計基準でいうところのオペレーティングリースとファイナンスリースの区分に問題があり、本来オペレーティングリースとして契約期間にわたって収益認識すべきものを、ファイナンスリースとして契約時にリース料総額を一括して売上計上していた、ということのようだ(社内でMSA契約・GCSA契約と呼ばれているものが対象)。

 

オペレーティングリースは長期契約であっても(レンタル)サービスの提供として、サービス提供期間にわたって収益を期間配分すべきだ。しかし、それを物品販売のように一時に売上計上していた。したがって、収益の計上が年単位で早過ぎたことになる。大胆な粉飾だ。巨額(=247億NZドル)になるわけだ。

 

しかも、これらの契約ではリース料はコピー機等の使用量に応じて回収される契約になっていた。そのため、契約時に見積使用量を計算して売上計上していたがこれが過大であったり、また、最低使用量が決まっていても顧客側に義務を負わせる契約でないため、コピー機等の原価を回収できないものまであったらしい。要するに、売上時のリース料総額の見積もり(=売上高)が過大となっており、その相手勘定の売上債権(=リース債権)の回収可能性に問題が発生していた。これらについてリース料債権を減額したり、貸倒引当金の追加計上が必要とされている(それぞれ23億NZドル、12億NZドル)。

 

上記のほか、いわゆる未受注・未出荷売上のようなもの(架空取引を含む)で23億NZドル、費用の繰延べに係る不正処理12億NZドルが指摘されている。

 

以上が、上述の318億NZドルの内訳となる。

 

同種の問題はオーストラリアでも発生しており、その必要修正額は111豪ドル(持分比率を考慮した2016/3/31時点の円換算額は96億円)となるという(第4章)。全て合計すると、日本円で281億の純資産のマイナスとなる。(なお、これら以外に、付随してリース資産の減損や税効果に関するさらなる修正が必要になるが、この報告書では金額を算定していない。)

 

 

「第10章 会計監査人による監査」の概要

 

会計監査人は、2016/3期までが会計事務所1-1*3、2017/3期から会計事務所2-1*3が担当しており、海外子会社はそれぞれの海外メンバーファームが行なっている*3。連結監査においては、ニュージランド子会社もオーストラリア子会社も、親会社(=富士フイルムホールディングス)の監査責任者(監査報告書に署名する公認会計士)が、これらのメンバーファームの業務を、監査上の重要性を考慮して管理する。また、両子会社とも各国の会社法の規定による法定監査も受けているという。

 

この報告書では、日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書600号「グループ監査」に照らして、会計事務所1-1や2-1の評価を試みたようだ。しかし、限られた期間に過去数年にわたる詳細まで調査することは現実的でないと判断し、結論は留保している。

 

以上がこの章の概略だ。

 

思わず引き込まれたのは、この事案が現地ニュージーランドで報道され(2016/9/22)、その情報が会計事務所2-1にもたらされた後の、会計事務所2-1の対応について記載された部分だ。会計事務所2-1は、2017/3/21、ついに不正に関する追加の調査が必要である旨、富士フイルムホールディングスの経営陣へ正式に通知した。

 

しかし、この問題を理解する上で僕が重要と思ったのは、親会社の監査責任者が各現地監査人の専門能力や業務をどう評価するか、および、連結子会社のグループ監査上の重要性の評価に関する記述だ。特にニュージーランド子会社は、いずれの監査人にも、この件が発覚するまで重要性なしと判断されていた。

 

この報告書は、複数の財務数値などに基づいて行われたというこの重要性の判断について、具体的な問題を指摘していない。仮に僕が調査したとしても、指摘できないだろう。しかし、どうも引っかかる。どうもすっと先へ進めない。

 

というのは、この問題のニュージーランド子会社が法定監査の対象になっているからだ。現地監査人は、法定監査において、この子会社の業務内容(経営環境、業務フロー、内部統制、および会計処理プロセス)をどのように理解していたのか。法定監査は連結監査とは別物なので、グループ監査上の重要性の基準とは別に、法定監査のための重要性、即ち、遥かに細かい基準値を利用して、会社を理解しチェックしていたはずだ。上記のリース取引区分のような本業の根幹の問題に気づく機会、リスクを感じる機会はなかったのだろうか。

 

何れにしても、今後、親会社監査人が行うニュージランド事務所の専門能力や業務の評価は、今までと同じ「メンバーファームなので限定的な手続きでOK」というわけにはいかなくなるのではないか。いや、ニュージーランドだけではないかもしれない。例えば、日本の会計事務所から派遣された駐在員が安いスタッフを使って数日で監査を仕上げる、現地事務所での審査も特別扱いで緩い、監査報酬も激安、みたいな実態があるかどうかわからないが、もしあるなら、そうした現地会計事務所の評価は、メンバーファームであっても特別な注意が必要になるのではないか。

 

さて、こんなことを書きながら、ちょっと後ろめたいものを感じている。実は、僕も監査人だった頃、重要性のないものを軽視していたからだ。当時も「重要性のない子会社こそが危ない」と、審査部門から口を酸っぱく何度も言われていた。しかし、僕は、そのたびに「重要性がないものには重要性がないんだよ」と、叫んでいた。もちろん、心の中で。マンパワーもないし、コストの無駄使いに繋がることは極力避けたかったのだ。

 

しかし、改めて考えてみると、本業でない事業をひっそり行っている重要でない子会社であっても、粉飾が発覚すると連結財務諸表に相当なインパクトを与えることがある。最近では、この富士フイルムのように、株主総会までに監査報告書が入手できず、有価証券報告書の提出期限を延長しなければならないような大事になる。

 

覚えていらっしゃる方も多いと思うが、次のような事例がある。

 

 ・本田技研工業

誰もが知る超有名自動車会社だが、子会社のホンダトレーディングの食品事業部で150億円の損失(2011年)。このニュースが流れるまで、ホンダに食品事業があることを知っていた人は少なかったと思う。詳細は同社ホームページ

 

 ・メルシャン

これも有名ワイン会社で当時はキリンの上場子会社(この反省からキリンが100%子会社にした)。地方の水産飼料事業で循環取引が発覚、65億円の損失(2010年)。同事業部は、メルシャンの子会社ではなく事業部だが、本業とかけ離れており、メルシャン社内での関心が薄かったとされている。詳細は第三者委員会報告

 

 

監査上の重要性の判断は、会社およびそのグループの事業内容(事業環境、内部統制、会計処理プロセスなど)を全て理解していることが前提で、金額基準はその上で成り立つものだ。これは、外部監査も内部監査も同じだと思う。

 

そう書くのは簡単だが、実行にはコストがかかる。規模が大きい会社ほど大変だ。しかし、やらなければならない。経営者がそのコストを低く抑えたいのであれば、社内コミュニケーションが重要だ。部門・子会社の垣根を低くして風通しを良くし、光が当たらない影の部分を減らす努力をするのが賢明だと思う。(これが賢明な策なのは、“監査のため”ばかりではない。)

 

 

ここまで考えて、改めて、今回の第三者委員会報告書の目次に戻って眺めてみると、さっきと違って見えてくる。

 

読み飛ばした第5章から第9章、第11章には、きっと、富士ゼロックスの隠蔽体質・風通しの悪さが、特にアジア・パシフィックエリアの組織を中心に、色々な角度から記載されているのだろう。そしてその改善に積極的に取り組まなかった富士フイルムホールディングス経営陣への批判も記載されているに違いない。そして最終章の第12章には、社風を変えるための組織改革とか、内部監査体制の改善とか、内部通報制度などが記載されているのではないかと思う。

 

ん〜、ここまで整理できるとだいぶ読みやすそうだ。じゃあ、もう一度チャレンジしてみようか。

 

いや、多分しないと思う。僕のパソコンの中でもう1ヶ月以上開きっぱなしになって、貴重なメモリを占有し続けているこの第三者委員会報告書のPDFファイルを早く閉じてしまいたい思いが強いのだ。でもその気持ちを抑えて、リース会計にかかる粉飾のところを、次回、もう少し詳しく書いてみようと思う。

 

富士フイルムホールディングスは米国会計基準を採用しているが、リース会計に関しては、日本基準とそう違わないはずだ(僕の記憶だが)。それをお読みいただければ、ニュージランド子会社の会計基準の解釈の何が悪いのか、そして、僕が“大胆な粉飾”と書いた理由について、もう少しわかっていただけるように思う。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 この記事へのリンク。

 

富士ゼロ会計不祥事、HDの責任追及「不十分」  7/17 日経電子版有料記事

 

有料記事の内容を記載することは憚られるが、最終段落の見出しが(富士フイルムホールディングスの)「ガバナンスは最低ランク」であり、その文章の最後が『カーン氏は「株主の代表である社外取締役が最高権力者の古森氏を監督するガバナンス体制作りが何より必要だ」と指摘する。』であることを紹介しておこう。かなり辛辣に経営者を批判した記事となっている。

 

翌日の日経ニュースメールでは「これでよかったのか 富士フイルムの富士ゼロ不正対応」というタイトルで、同じ記事へのリンクが配信されていた。

 

*2 富士フイルムへの第三者委員会報告書へのリンク

 

(差替)「第三者委員会調査報告書の受領及び今後の対応に関するお知らせ」の ファイル差替について 6/12 同社ホームページ

 

*3 監査法人の名称がなぜか報告書に記載されていないが、次のようになる。

 

会計事務所1-1 = 新日本有限責任監査法人

会計事務所1-2 = アーンスト・アンド・ヤング(EY)のニュージランド事務所

 

会計事務所2-1 = 有限責任あずさ監査法人

なお、あずさ監査法人はKPMGのメンバーファームなので、会計事務所2-2はそのニュージランド事務所と思われるが、会計事務所2-3という記述もある(P177)。僕にはそれが何を指すのかよくわからなかった。

 

 

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