586【番外編】リース契約の区分と分割-富士フイルム
2017/7/22
富士ゼロックスのリース事業は、金融業か、サービス業か、それとも、物品販売業か。
一般にリース会社は“ノンバンク”などと呼ばれるので、金融業を営んでいるイメージがあるだろう。金融業の収益といえば、受取利息がイメージされる。
しかし、大きな駅の近くには“〇〇オートリース”などという看板があって、自動車のレンタルサービスをやっている。この場合の“リース”はサービス業ではないか。サービス業の収益といえば、サービス提供の都度、或いは、サービス期間にわたって計上される収益がイメージされる。
さらにいえば、最近は個人でも自動車の購入にリースを利用することができる。この場合は割賦購入に近い感覚で、売り手から見れば物品販売をしているのに近い。このように、メーカーやその販売子会社が販売の一形態として“リース”を利用する場合、その収益は物品販売、特に割賦販売のようなものに感じられるだろう。
その結果、リースの貸し手側の会計処理は、次のように3パターンが考えられる。
A. 融資のように、受取利息のみを収益計上する。*1
B. サービスの対価としてサービス提供の都度、或いは、契約期間にわたって収益計上する(利息部分はAと同様の認識)。*2
C. 物品の引渡し時に一括して(或いは、リース料入金の都度)売上計上する(利息部分はAと同様の認識)。*3
本稿のタイトルは「リース取引の区分」だが、問題になるのは、富士ゼロックス社のニュージーランド事業(=FXNZ)が上記のどのリースに当たるのか、ということだ。メーカーの販売子会社という位置付けを考えればC(一括売上計上)のパターンを採用するのが自然で、実際にFXNZはこの問題が明るみに出るまでそうしていた。
だが、一つ大きな問題があった。それは、このリース契約が“顧客の機器利用量に応じてリース料を変動させる”ものだったことだ(最低使用量は契約に明示されているが、顧客の義務にはなっていない)*4。割賦販売ならば、利用量に関係なく製品対価を回収できるが、このように利用量に応じて変動させるとなれば原価さえ回収できなくなる可能性がある。逆に、製品対価を大きく超える金額を回収することもあり得る。
僕が監査人なら次の点を疑うだろう。前者なら、製品引渡し時に粗利を含めて売上計上するのは明らかに早すぎるし、後者なら、リース対象となる製品以外のサービス等の存在が疑われ、そのサービス等がいつ提供されるのかが問題となる。後者の僕の疑問について首をかしげる方がいらっしゃるかもしれないが、顧客が著しく過大な製品対価を支払うとは思われないし、もし支払うのなら、その製品以外の何かを期待していると思うからだ。その製品以外の何かが、もし製品納入後に提供されるものなら、製品引渡し時にリース料総額を一括して売上計上することは適切でない。
第三者委委員会報告書では、US-GAAPに照らして、このタイプの契約がCの会計処理の条件に合致しているかどうかを検証している。そしてUS-GAAPでは“最低支払いリース料総額の回収が合理的に予想できる”ことがCの処理の条件となっており、この点を満たさないことが指摘されている*5。
FXNZは、2009年に2つの会計事務所からCを採用することについて意見書を入手しているが、これらの意見書は「リース期間中のミニマムペイメントの現在価値がリース資産の公正価値のほとんどすべてに値する」というFXNZ経営陣の判断を前提に示されたものであり、実態調査の結果ではない。即ち、リース対象となった製品の原価及び粗利をリース料で回収できるかどうかを、両会計事務所は直接調査していない。そこはFXNZ経営者の判断を尊重したということだ。
では実態はどうかというと、前回も記載した通りで、この経営者の判断は間違っていた(或いは、嘘だった?)ことがこの第三者委委員会報告書に記載されている。
ん〜、みなさんはお気づきだろうか。「僕が監査人なら次の点を疑う」で始まる段落には“前者”(=原価と粗利の回収可能性)と“後者”(=製品以外のサービス等の存在)の2つの疑問を記載したが、この第三者委委員会報告では、前者についてしか記載されていない。後者については、僕が“的外れ”だったということか。まあ、それならそれで良いので、一応、もう少し確認してみよう。というのは、気になることがある。
FXNZ主力製品の複写機・複合機のリース料には、消耗品(コピー用紙やインク代等と思われる)などの運用コストも含まれている*6。この部分は特にカラーコピー機になってから、その比率が著しく増加し、会計上も著しく重要性が増しているはずだ(多分、カラーコピーは白黒から10倍以上に単価アップしている)。みなさんのオフィスにも「コピー1枚40円、無駄コピーはやめよう」などと張り紙があるかもしれない。カラーコピー機は運用コストが高いのだ(例えば、提案書・見積書などを大量に印刷する営業部門では、コピー機の値段より運用コストの方がはるかに高い可能性もある)。契約上は運用時に発生する消耗品などメンテナンス部分までリース料総額に含まれているので、もし、製品納入時に全額売上計上されていたら、大変なことになる。運用時に発生する収入は納品時の売上に含まれるべきでなく、運用サービスの提供に応じて売上計上する必要がある。ということで、実際にFXNZは大変なことになった*7。コピー用紙もインクも提供してないのに売上にされた。これは誰にでも不正とわかる手口、大胆な粉飾だ。
だが、もう少し考えてみよう。オフィスに「コピー1枚40円」などと張り紙がある件だ。(ニュージーランドではなく)日本のオフィスに。
ここまでニュージランド事業の話を書いてきたわけだが、日本でもコピー枚数に応じてリース料を支払う契約が行われているのではないだろうか。そうでなければこんな張り紙はないと思う。実は僕は監査法人勤務時代 にOA機器の管理担当をしていたことがあり、カラーコピー機(ネットワークプリンタ複合機)を購入(リース)したことがある。もう、10年以上昔のことだ。それは、確かに、コピー(印刷)枚数連動のリース料支払い契約だった。富士ゼロックス以外からも相見積もりを取ったが、いずれも同じような契約だったと思う。(最低使用量の扱いについては具体的な記憶はないが、“後者”の問題には関係ない。)
ということで、富士フイルムの有価証券報告書(2016/3)を見てみよう。何か複写機・複合機のリース契約に関する収益認識についてヒントがあるに違いない。収益認識の会計方針には次のようにある(関連しそうなところを抜粋。全文は欄外*8を参照)。
・・・
サービスについては、主として顧客に販売した機器のメンテナンスから生じており、サービスが提供された時点で収益を認識しております。販売型リースは、主として複写機及びオフィスプリンターから生じており、当社は、リースの開始時点で収益を認識しております。
・・・
当社は、製品、機器及びサービスが組み合わされた取引については、基準書605-25に規定されて いる別個の会計単位の要件を満たす場合、収益を各々の販売価格の比率により按分しております。 当該要件を満たさない場合には、未提供の部分が提供されるまで収益を繰り延べております。
・・・
販売型リース契約のうち運用に関連する収益を分割し、サービス収益として認識していれば問題ないが、どうもはっきりしない書き方だ。というのは、「製品、機器及びサービス学位合わされた取引については、・・・収益を各々の販売価格の比率で按分」とあるが、リース契約上、機器とメンテナンスサービス価格は分けて記載されておらず、販売価格がわからないと思うからだ。したがって、リース取引はこの記載の対象になっていないようにも読める。ちなみに、同業を持つキャノンの会計方針は次のように記載されている(富士フイルム同様キャノンもUS-GAAPを採用)*9。
・・・
販売型リースでの機器の売上による収益は、リース開始時に認識しております。
・・・
機器のリースとメンテナンス契約が一体となっている場合は、リース取引と非リース取引の相対的な見積公正価値を考慮して、収益を按分しております*10。通常、リース取引は、機器、ファイナンス及び履行費用を含んでおり、非リース取引は メンテナンス契約及び消耗品を含んでおります。
・・・
これは分かりやすい。リース契約を機器リースと運用サービス(=メンテナンス契約・非リース取引)に収益を分割し、機器リース部分はリース開始時に売上計上するが、運用サービス収益はサービス提供に応じて収益認識していると、明確に読める。
さて、みなさんもご存知の通り、富士フイルムホールディングスは、本来6月中に提出すべき有価証券報告書(2017/3)の提出期限を7/31、即ち、今日まで延期した。監査法人から監査報告書を入手できなかったためだ。もし、今日中に提出できないのであれば、事前にニュースが流れるだろうが、今のところ、僕は知らない。したがって、無事に提出されるだろう。
しかし、今後も少し注意が必要かもしれない、と投資家としての僕は感じている。ニュージランドとオーストラリア以外にも同様の問題をはらんだ契約がありそうに思う。そして、その会計処理が、ちゃんとリースとサービスに分割して、それぞれに合う形で収益認識されていることを確認したい。
それはいつ?
多分、会計方針の注記がキャノンのように丁寧な注記に改まるまで、ということになるだろう。今回の有価証券報告書で確認できれば嬉しい。
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*1 これは、リース会計基準適用指針(平成23年3月25日)第51項の以下の条文に該当する取引をイメージしている。
(3) 売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法
リース取引開始日に、リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために支払う付随費用がある場合は、これを含める。)により、リース投資資産を
計上する。
各期の受取リース料を利息相当額とリース投資資産の元本回収とに区分し、前者を各期の損益として処理し、後者をリース投資資産の元本回収額として処理する。
*2 これは、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」の第5項の“ファイナンスリース”の定義に入らないリース、即ち、オペレーティングリース取引に該当するイメージ。オペレーティング取引の会計処理は、同基準15項に「通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行う」とされている。
*3 これは、リース会計基準適用指針第51項の以下のいずれかの条文に該当する取引をイメージしている。
(1) リース取引開始日に売上高と売上原価を計上する方法
リース取引開始日に、リース料総額で売上高を計上し、同額でリース投資資産を計上する。また、リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために
支払う付随費用がある場合は、これを含める。)により売上原価を計上する。
リース取引開始日に計算された売上高と売上原価との差額は、利息相当額として取り扱う。
リース期間中の各期末において、リース取引開始日に計算された利息相当額の総額のうち、各期末日後に対応する利益は繰り延べることとし、リース投資資産と相殺して表示する。
(2) リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法
リース取引開始日に、リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供す
るために支払う付随費用がある場合は、これを含める。)により、リース投資資産を
計上する。
リース期間中の各期に受け取るリース料(以下「受取リース料」という。)を各期 において売上高として計上し、当該金額からリース期間中の各期に配分された利息相
当額を差し引いた額をリース物件の売上原価として処理する。
*4 第三者委員会報告書P12に記載されている。
*5 第三者委員会報告書P16からに記載されている。
*6 第三者委員会報告書P17に、今回の問題となったリース契約の概要が記載されている。それによるとこの契約のサービス内容は次の通り記載されている。
機器代金・消耗品代金・保守料金・金利をまとめて毎月のコピー料金で回収する、機器販売と保守サービス等を一体化させた契約。
*7 僕の読み方が悪いのかもしれないが、第三者委員会報告書には消耗品供給などの運用サービスを含めてリース料総額を一括して製品引渡し時に売上計上したことがはっきり記載されていないように思う。しかし、間接的にそういう処理になっていたに違いないと判断した。それは以下の理由による。
・本文に記載したように、リース契約の内容に運用サービスが含まれていること。
・FXNZは個々の契約ごとに会計処理するのではなく、契約の種類ごとにまとめて販売型リースと判定し会計処理していたとされること。(このような処理方法・プロセスではリース料に含まれる製品対価とサービス対価を区分することはできないように思われる。契約ごとの処理が必要になるからだ。)
*8 2015年度(2016/3)有価証券報告書P112の収益認識の会計方針の全文。
(12) 収益認識基準
当社は、収益が実現し、又は実現可能でありかつ稼得したときに収益を認識しております。当社は、契約書等の説得力のある証拠が存在していること、顧客に対して製品・商品又はサービスが提 供されていること、その価格が確定している、又は確定可能であること、対価の回収が合理的に保 証されていることのすべてが満たされたときに収益が実現、もしくは実現可能でありかつ稼得した と考えております。一般的に、これらの条件は、所有権及び危険負担が当社から顧客に移転した時 点で満たされます。
当社は、コンシューマー製品及び医療・印刷等の業務用製品については、所有権及び危険負担が 当社から顧客に移転する時期に応じて、製品が顧客に引き渡された時点、又は出荷された時点で収 益を認識しております。医療・印刷機器及びオフィス事務機器等、顧客の受入が必要となる特定の 機器については、機器が設置され、顧客の受入が得られた時点で収益を認識しております。サービ スについては、主として顧客に販売した機器のメンテナンスから生じており、サービスが提供され た時点で収益を認識しております。販売型リースは、主として複写機及びオフィスプリンターから 生じており、当社は、リースの開始時点で収益を認識しております。販売型リースにかかる受取利 息相当額については、利息法によりリース残高の残投資額を基準として期間按分し、連結損益計算 書の「売上高」に含めております。オペレーティング・リースからのレンタル収入はそれぞれのリ ース期間にわたって認識しております。
当社は、製品、機器及びサービスが組み合わされた取引については、基準書605-25に規定されて いる別個の会計単位の要件を満たす場合、収益を各々の販売価格の比率により按分しております。 当該要件を満たさない場合には、未提供の部分が提供されるまで収益を繰り延べております。
当社は、基準書605-50に基づき、製品価格の下落を補填するために支給される販売奨励金や販売 量に応じた割戻、一部の現金歩引等を売上高から控除しております。これらは顧客からの請求又は 契約上合意した比率等により算出した額に基づいて計上しております。
サービ スについては、主として顧客に販売した機器のメンテナンスから生じており、サービスが提供され た時点で収益を認識しております。販売型リースは、主として複写機及びオフィスプリンターから 生じており、当社は、リースの開始時点で収益を認識しております。販売型リースにかかる受取利 息相当額については、利息法によりリース残高の残投資額を基準として期間按分し、連結損益計算 書の「売上高」に含めております。オペレーティング・リースからのレンタル収入はそれぞれのリ ース期間にわたって認識しております。
なお、収益認識の新基準である基準書606「顧客との契約から生じる収益」は、平成30年4月1日より始まる連結会計年度から適用するとしている(2015年度有価証券報告書P113)。
*9 キャノン有価証券報告書(2016/12)P82。
*10 FASB-ASC Subtopic 605-25「Multiple-Element Arrangement;複数要素契約」に基づく処理と思われる。僕はUS-GAAPの知識は乏しいが、IFRS15「顧客との契約から生じる収益」にも、概ね同様の規定が採用されていると思う(少なくとも公開草案の段階では)。
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