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2018年6月 6日 (水曜日)

597【番外編】今そこにある危機

2018/6/6 欄外の*2に追記した。

2018/6/6

今回のタイトルは1994年のハリソン・フォード主演の映画だ。親友一家を麻薬組織に虐殺された米国の大統領が怒りに任せて大統領補佐官に違法な対応を“示唆”する。大統領補佐官はそれを“忖度”し、麻薬組織のあるコロンビアで違法な軍事活動を行うようCIA高官に指示する。ハリソン・フォードはCIAの一介の情報分析官に過ぎなかったが、上司が癌治療で入院するとその代行となってホワイトハウス勤務となり、この違法な軍事活動に巻き込まれていく。(もちろん、ハリソン・フォードはこの違法活動と闘っていく。)

 

「今そこにある危機」の原題は「CLEAR AND PRESENT DANGER」だから、直訳すれば「明白に存在する危機」ということになる。あるブログによれば*1 元々法律用語で『混雑した劇場内で虚偽に「火事だ!」と叫ぶ場合など、その結果明らかに急迫した害悪の危険が予測される場合には言論は合法的に規制される』という部分の「明らかに急迫した危機」の部分が「CLEAR AND PRESENT DANGER」だという。

 

即ち、“言論の自由”という民主主義の根本を支える大原則であっても制限される例外的な場合がある。それが「CLEAR AND PRESENT DANGER」な時だ。何やら、IFRS概念フレームワークの「(状況によっては)IFRSを逸脱せよ」という規定を連想させるが、この映画のタイトルは「違法行為が正当化されうる例外的な状況、危機」を意味していると思われる。

 

この映画では様々な登場人物にとっての「CLEAR AND PRESENT DANGER」な状況が出てくる。

 

まず、大統領。親友一家の虐殺事件といういわば私憤、私ごとを「CLEAR AND PRESENT DANGER」だとした。次に、大統領補佐官は、大統領の暗黙の指示を拒否することで怒りが自分に向けられることを「CLEAR AND PRESENT DANGER」と感じたらしく、忖度する道を選ぶ。CIA高官は大統領補佐官の命令を違法と指摘するが、結局、大統領補佐官に大統領の命令書を偽造させ保身した上で、命令を受け入れる。このCIA高官にとっては、「違法なことができない無能な意気地なし」と上司から思われることが、「CLEAR AND PRESENT DANGER」なことだったらしい。

 

主人公のハリソン・フォードも例外ではない。やはり「CLEAR AND PRESENT DANGER」な場面に出くわす。部下に上記CIA高官のパソコンをハッキングさせ、違法活動の記録を違法に閲覧する。まあ、これは米国映画によくある、正義のためにはちょっとしたルール違反も許されるという典型シーンだ。従って、ハリソン・フォードには一片の躊躇もない。

 

 

ここまで読んだみなさんは「今回は映画評論か?」と思われたかもしれない。もちろん違う。気づいた方もいらっしゃると思うが、違法な軍事活動を“公文書改竄・廃棄”、“国会虚偽答弁”、“入退室記録廃棄”、さらには“財務大臣辞任拒否”などに置き換えれば、モリカケ問題だ。さらに、近畿財務局にはハリソン・フォード的な職員もいたらしいから、ますます似ている*2

 

さて、みなさんは誰が一番罪深いと思うだろうか。大統領か、大統領補佐官か、CIA高官か。もしかしたら、ハリソン・フォードという意見もあるかもしれないが、何れにしても「CLEAR AND PRESENT DANGER」の意味をよく考える必要があると思う。法律やルールは万能ではないから、「CLEAR AND PRESENT DANGER」的な判断の余地を残すことは良いと思う。しかし、濫用にならないよう権力者には厳しい自制が求められる。

 

とはいえ、自制に頼るのは心許ないので国会のチェックが必要となるが、国会が不効率で機能不全を起こしている。何か仕組みの改善が必要だと思う。文部省の時も、今回の財務省のケースも、廃棄指示に従わず文書が残っていた。ただ、それが怪文書と呼ばれるような出方をしたり、検察からのリークといった形でしか表面化しない。その生かし方が今ひとつな気がする。ハリソン・フォード的な官僚が生きやすくなるような国会(特に野党)の仕組み、国会と官僚の関係がヒントになりそうな気がするが、いかがだろうか*3

 

🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー🍁ー・ー

*1上級英語への道」というtempus fugit さんのブログ。参考にさせてもらったのは以下の記事。

 

clear and present danger 「今そこにある危機」と集団的自衛権の容認  2014/7/2

 

*2 ちなみに、違法な軍事活動を“危険タックル”に置き換えれば、日大アメフト部の問題にも似ている。大統領は監督、大統領補佐官はコーチ陣、CIA高官はタックルをした選手に該当する。(ただ、この選手は途中からハリソン・フォードへ転じた。) ということは、日大アメフト部と安倍政権には共通の構造があるのかもしれない。

  さらに、米国には1986年に発覚したレーガン政権の“イラン・コントラ事件”がある。この映画に比べて遥かに複雑な事案で、よりまともな「CLEAR AND PRESENT DANGER」な状況からスタートしたものの、この映画のCIA高官に当たる位置付けのノース中佐らが暴走し、より深刻な問題となった。詳細はWikiをご覧いただきたい。

  加えて、米国にはグアンタナモ収容所の拷問事件がある。最近、この拷問の責任者がCIA長官に任命されることで、また脚光を浴びている。これについては、当事者の生々しいインタビュー記事がある。

 

「拷問したのか?」と元CIA工作員の本誌コラムニストに聞いた Newsweek日本語版 6/5

 

  「CLEAR AND PRESENT DANGER」への対処は、“違法行為を正当化する”非常に重い判断を伴うので、判断する人は大きなリスクを負うことになる。それゆえ隠蔽され、暴走しやすい。隠蔽が許されない状況下でのみ認められるのではないかと思う。少なくとも事後的に世間を納得させる内容でなければならない。そう考えると、極めて限定的な場合にのみ容認される判断といえると思う。

 

*3 ちなみに、この映画でハリソン・フォードは上院の委員会で証言する道(=内部告発者になる道)を選択した。恐らく、その後弾劾手続に入るのだろう。米国には弾劾手続があるが日本にはない。ただ、米国の弾劾手続は罷免はできるが刑罰を科すことはできないらしい。日本は国会議員(首相は国会議員)に対する弾劾手続はないが、出席議員の2/3以上の賛成で除名することができる(Wikipedia)。しかし、1/2で内閣不信任決議や問責決議ができるので、その方が早い。

 

 

 

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