TPPとIFRS
「国論を2分している」とも言われるTPP問題を11日に首相が判断するという(10日かも知れない)。きっと、このような状況で判断を行うプレッシャーはとてつもなく大きなものなのだろう。せっかくなら、どちらの判断が下されても日本は良い結果を得たいものだ。しかし、残念ながらそんな楽観はできないというのが僕の意見だ。みなさんも同じではないだろうか。
(環境の変化、日本の変化)
日本を取巻く環境が激変していて、それにどう対応しようかという話なのに、周りは変わっても日本だけは変わらなくていい、変わらなくても生活水準を維持する方法がある、そんな暗黙の前提で議論されている気がする。日本は、FTAに出遅れたうえにその原因である農業政策に行き詰って農業分野の改善は進んでいないにもかかわらず、自動車や家電といった日本の看板産業は厳しい状況に追い込まれている。そして中国にはGDPで追越され、尖閣諸島から五島列島周辺の排他的経済水域の安全を脅かされている。
(日本の戦略)
技術立国と経常収支の黒字。僕は、この2つが日本の戦略でありKPI(Key Performance Indicator)だと思っていた。しかし、日本の人口は減少に転じているのに世界の人口は爆発的に増加していて、これらが地球環境、天然資源や農産物の配分に及ぼす影響、天然資源や農業生産能力の偏在を考慮すると、日本の戦略とKPIをどうしていけばよいのか。そういう議論が必要ではないだろうか。
(コミュニケーションの重要性)
外交交渉を止めると残された国益実現の手段は戦争ということになる。TPPが直接戦争に結びつくとは思えないが、外交交渉というコミュニケーションの重要性は認めるべきだ。多国籍間の枠組みを一緒に構築しようと誘われたのにも拘らず、その検討プロセスに加わることさえも断った場合、のちのち日本にどのような影響があるのだろうか。
特にTPPがよく分からないからこの段階で参加すべきでないという意見は子供じみている。良く分からないのは日本の国内事情(政治家やマスコミの不作為)によるもので、外国に主張できる話ではない。そんな理由でコミュニケーションの窓口を閉ざしてよいものか。なぜ協議に参加して理解しようとしないのか。
(国益の基準)
TPPへ参加することが有利か、不利かといった議論をする場合、どうもTPPへ参加した場合と現状とを比較して議論しているようだ。例えばTPPに参加すると農業にひどい影響があるとされているが、TPPに参加しなくてもジリ貧ではないか。両方の5年後、10年後、20年後を比較すると、不幸なことに意外と不利でなかったりするかもしれない。
(アメリカの策略)
アメリカの策略に乗せられるな、アメリカに騙されるな、日本は損するぞ、こういう意見は、日本に戦略がないことの裏返しに思えて少し恥ずかしい。日本に戦略があって、ちゃんと将来を見据えて意思決定しているのであれば、乗ってもよいはずだし、乗ってもよいようにTPPを変えていけばよい。
さて、みなさんも様々な意見をお持ちだと思うが、僕の意見は上記のとおりTPP協議には参加すべきで、結果としてTPP協議から離脱することになっても、それが日本の戦略に基づいたものであるとすれば、まだ納得がいくだろうと思う。戦略はTPPに参加して時間を稼いでいるうちに国論をまとめていくしかない。農業や混合医療といった個別問題の議論に終始し、どちらの団体の声が大きいか、などというレベルで決まってほしくない。
さて、実はTPPのことを書いたのは専門外のことに関する僕の粗雑な意見をみなさんに披露したかったためではない。上記の文章の「TPP」を「IFRS」に置き換えて読んでみて欲しかったからだ。TPP協議へ参加するかどうかという問題と、IFRS開発へ参加するかという問題の議論の仕方は、役者こそ違うが、妙に重なってくる。
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