番外編

2017年2月16日 (木曜日)

582【番外編】東芝ドタバタ劇場

2017/2/15

日米でドタバタが世間の注目を集めている。両者の共通点は、情報開示が規格外なことだが、相違点は動機だ。自国民のためにやっているトランプ大統領に対して、東芝は保身に手一杯で、周囲にまで思いが及んでいないようだ。

 

 

すでにみなさんもご存知の通り、東芝が決算発表を1ヶ月延期した。もし詳しい経緯が知りたい方は、例えば日経電子版の無料記事*1、シンプルに延期理由を知りたい方は、Reutersの記事*2がコンパクトだ。東芝のホームページにはプレスリリース*3が開示されている。

 

これらを読んでみると、どうやら、ウェスチングハウス経営者が会計上の見積もり(2015/12の原子力施設建設会社の買収資産に関連したもののようだ。特に未成工事支出金が疑われる)に不適切なプレッシャーを与えていた可能性があるらしい。要するに粉飾決算の可能性が示唆されている。内部通報は1/8と1/19にあり(タイミングからすると、連結パッケージに絡んでいるようだ)、通報者へのインタビューは1/28に行われたという。しかし、まだプレッシャーの存否やその影響の大きさに関する評価が終わらない。経営陣は、この状況を決算発表予定日の前日、すなわち、2/13の午後に把握したという。

 

なぜすぐ(2/13)に決算発表や四半期報告書提出の延期を申し出なかったのか。なぜ決算発表開始時間を過ぎてもなおバタバタしていたのか。

 

以下は、全く想像に過ぎないが、あえて書こうと思う。というのは、これは単なる企業情報開示の問題ではなく、企業がその存在を社会に許されている原点・理由を東芝上層部が忘れているように見えるからだ。すなわち、重症なのは財務状況だけではない。

 

13日に分かっていたことへの対応が、14日の昼過ぎまでバタバタしたのは、その現実を受け入れ、如何に対応するかについて、東芝の上層部がまとまらなかったからだと思う。予定通り決算発表を強行しようとする一派がいて、そんな状況ではないと対抗するもう一つの派とせめぎ合い、時間切れが後者に味方したと想像される。

 

しかし、報道やプレスリリースなどを見る限り、常識的に後者の対応が当然ではないだろうか。それ以外に選択肢があったように思えない。それにも関わらずここまで縺れたのは、前者の勢力が強大だったこと、すなわち、前者が東芝上層部の主流派・多数派だったから、と想像される。後者は、時間の助けを借りてギリギリ主張を貫いた、という感じがする。(だからといって、後者が今後の主導権を勝ち取ったとは限らない。)

 

今回の東芝の決算は減損金額の確定が予告されていたことや、内容によっては日本の原子力戦略に影響を与えかねないために、世間の注目を集めていた。それを分かった上でもなお繰り広げられた東芝ドタバタ劇場は、その主流派・多数派が如何に世間常識から外れ、自己中心的で閉鎖的な井の中の蛙集団であったかを示しているように思う。

 

 

TBS系列の日曜夜9時“日曜劇場”は、最近では「倍返しだ!」の『半沢直樹』が話題になるなど、永く世間の注目を集めてきた。遡るとかつては東芝が一社でスポンサーを務め、“東芝日曜劇場”と呼ばれていた。長い歴史があるのだ。

 

今回のドタバタ劇場も、繰り返されて長い歴史を刻んでいくのだろうか。主流派・多数派の頭の中を変えるのは容易ではない。しかし、東芝に残された余裕・時間はわずかしかない。

 

 

 

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*1 東芝迷走の1日 「不適切」の影再び 」(日経電子版 2/14

 

*2  東芝、決算発表を1カ月延期 提出期限延長を申請」(Reuters 2/14)

 

*3 第178期第3四半期報告書(自 2016年10月1日 至 2016年12月31日)の 提出期限延長に関する承認申請書提出に関するお知らせ (東芝ホームページ)

 

 

2016年11月 3日 (木曜日)

581【番外編】Pokémon GO

2016/11/3

みなさんは、Pokémon GO を楽しんでおられるだろうか。このゲーム、なかなか奥の深いところがあって、考えさせられる。もしかしたら、我々人間社会の縮図かもしれない。

 

プレーヤーを青・赤・黄の3チームに分けてポケモンをバトルさせ、チーム間で“ジム”と呼ばれるバーチャルな施設を奪い合うのだが、どうも多くの地域で青チームが圧倒的に強いようだ*1。しかし、恐らく、かなり多くの青チームのプレーヤー(以後、“青プレーヤー”と記載する)は、あまり幸せを感じてないと思われる。実は、意外と多くの青プレーヤーが劣勢である赤や黄プレーヤーより不遇なのだ。そのため、敵である赤や黄プレーヤーに、期待を託しているようだ。何を? それが信じられないことに、「青チームが支配しているジム(以後、“青ジム”と記載する)への攻撃を」だ。

 

こんなチーム戦にあるまじき思考がなぜ生じるのだろうか。それは邪悪な考えなのだろうか、それとも、何か前向きな意味があるのだろうか。ちなみに、僕は赤チームだ。

 

 

Pokémon GO にはポケモン採集や健康的な運動促進など色々な側面があって、もっと違う遊び方、楽しみ方もあると思うが、上記に関連する部分について、ちょっと書いてみようと思う。

 

僕の理解では、Pokémon GO は現実世界をゲーム盤に見立てたモノポリーのような面がある。 ジムポケモンのバトルに勝利して、ジムをより多く占有したチームのプレーヤーが、多くの利益を得られる仕組みになっている。そうしたプレーヤーは、ポケコインというゲーム上の通貨による配当を得られるのだ。一つのジムについて最大10名までがポケモンを配置でき、その10名が配当を受けられる。

 

ところが、そう単純ではない、モノポリーより複雑な面がある。

 

ゲーム盤を(青・赤・黄のいずれか)一色に染めてしまえば、そのチームが勝ちというわけではない。いや、仮に全てのジムが青一色に染められたら、即ち、すべてのジムが青チーム10名によって“完全支配”されたら、もはや青プレーヤーはポケモンのバトルができなくなる。バトルという楽しみが奪われる。それでも、ジムにポケモンを配置して配当をもらえるプレーヤーはまだいいが、配当をもらえないプレーヤーは、一切、配当をもらう道が絶たれる。青チームは貧富の差が完全に固定化される。

 

なぜなら、プレーヤーは自分が所属するチームが“完全支配”したジムを攻撃できないからだ。やってもいいが、徒労に終わる。何も得るものはない(というか、バトルさせたポケモンの元気を回復させるために、手持ちの道具を消費する分、持ち出しとなる)。というわけで、青プレーヤーはバトルという楽しみがなくなってしまうとともに、配当も増やせない。もはや、このゲームにおける自分の状況を向上させられない。

 

一方、赤や黄プレーヤーは、青チームのジムを自由に攻撃できる。青チームが支配しているジムがたくさんあるから、辺り一面にバトル・チャンスがゴロゴロある。ポケコインという金貨がそこら中に転がっているようなものだ。スマホ片手に、そこら中歩き回って良いポケモンをゲットし、進化・強化させてバトル力を高めれば、ゲームにおける自分の環境をいくらでも向上させられる。

 

青プレーヤーにはさらに悲劇がある。青ジムを、他のチームが攻撃するよう願うようになるのだ。即ち、味方の悲劇・損失を望むようになる。

 

例えば、もし、10人で完全支配している青ジムを赤プレーヤーが攻撃すれば、10人のうち何人かが削られて、ポケモンの配置に空きができるかもしれない。そうなれば、自分のポケモンを配置して配当をもらえるチャンスが出てくる。或いは、赤プレーヤーが完全に勝利して青プレーヤー10人全員のポケモンを削れば、そのジムは赤ジムになるので、青プレーヤーが攻撃できるようになる。バトルという楽しみ、配当への期待が復活する。

 

おまけに、青ジムの10人は、多くの場合、お互いに面識があるわけではない。中には、集団でジム・バトルを仕掛け、リアルな仲間でジムを支配することもあるが、大概は、たまたま同じ船に乗り合わせた程度の間柄でしかない。いや、お互いに顔も知らないのが普通だろう。

 

だから無理もない、不遇な状況にある一部の青プレーヤーは、味方の悲劇を願い、敵を応援するという居心地の悪い願望を持つようになる。中には、もう一つ、赤や黄チームのアカウントを持っていて、そのアカウントで青ジムを攻撃して仲間のポケモンを削って自分のポケモンの空きを作ってしまう青プレーヤーもいるようだ(青プレーヤーだけじゃないけど)。ここまでやると、本当に邪悪だ。

 

この状況は、まるで“独占”、或いは、“寡占”が経済に与える影響を表しているようだ。或いは、既得権者が支配する社会の縮図と言えなくもない。ジム支配にも参加できず、バトルする場を奪われた青プレーヤーは、息苦しいにちがいない。

 

ジムに参加し配当を受取っている青プレーヤーにとっても、Pokémon GO がつまらないゲームになってしまうと思う。もう何もやることがない。ポケモン採集しても、それを使う機会がないから、楽さ半減だ。そんな時に、赤や黄プレーヤーが青ジムを攻撃しているところに出くわすと、思わず、嬉しくなるだろう。「この野郎!」と思う反面、また「バトルができる」とほくそ笑むに違いない。

 

既得権者や支配層が入れ替わるなど、社会の流動化を促す現象を、人々が望むのは自然なことだ。だから、青プレーヤーが、ジムの既得権を持った仲間が他チームに削られるのを願うのは、自然なことなのだ。それによって、青チームの活性化が促される。赤や黄プレーヤーの活躍で、青プレーヤーも生き返る。

 

 

社会は、既存の枠組みを壊す新しい勢力が台頭できるようにしておかないと楽しくない。既得権がのさばり、強固なガードを築き上げてしまうと、変化も進歩も止まってしまう。階層が固定されてしまい、頑張っても報われないから、希望もない。Pokémon GO では、3つにチーム分けすることで、その固定化を防いでいる。

 

さて、日本社会は、現在どんな状況なのだろう。階層の流動性が失われてないか。新しいものが既存の“常識”によって排除されてないか。既得権が固定化されてないか。多数派の青をも楽しくする少数派の赤や黄の価値は尊ばれているだろうか?

 

という、疑問形でこの記事を書き終えるが、僕は、「尊ばれていない」と感じている。それは僕が赤チームだから、というわけではない。ニュー・カマーや新世代への注目やサポート、多様性の尊重などが足りないように感じるのだ。恐らく、みなさんの周囲でも、様々な場面でみられるのではないだろうか。(とまた、疑問形で終わる。)

 

 

 

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*1 青チームが強い理由は、青チームに所属することを選んだプレーヤーの人数が一番多い、という単純な理由によるものらしい。青チームが優遇されるようなゲーム上の仕様はないと思う。

 Pokémon GO を起動したスマホの画面は、 800m ぐらい先までの現実世界の地図に、ゲーム上のジムやポケスポットが表示されたバーチャル・リアリティになっている。例えば、電車の中でスマホの Pokémon GO の画面を見ていると、ほとんどのジムが青チームに支配された青ジムになっている。たまに赤ジム、稀に黄ジムがある。新幹線に乗っても同じ状況だ。

 

 

“ジム”とは、プレーヤーが捕獲したポケモンをバトルさせる場で、このバトルに勝つために、各プレーヤーはより多くのポケモンを探してGet、進化させ、強化する。バトルに勝つと、ジムはそのプレーヤーが所属するチーム(青・赤・黄の3チームがある)のものとなり、そのチームのプレーヤーはジムに自分のポケモンを置くことができるようになる。ジムにポケモンを配置すると“ポケ・コイン”と呼ばれるゲーム上の通貨で配当を得る権利を与えられる(実際に配当を得るには、別の操作が必要)。ポケ・コインは、ゲームを有利に進められるグッズ購入に使用できるので、とてもありがたい。

 

だが、オセロのように対面勝負のゲームではないから、ゲーム参加者(=プレーヤー)ははるかに多く、かつ、青・赤・黄の3チームに分かれているから、なかなか決着がつかない。ポケモンのバトルによってジムの占有は覆され、改めてジムを占有するための競争・バトルが繰り返される。但し、争いに敗れたプレーヤーが諦めない限り、だ。この点が重要だ。プレーヤーが諦めたらこのゲームは誰もいない寂しい世界になってしまう。

2016年9月27日 (火曜日)

580【番外編】日銀はやった。政治と国民は?

2016/9/27

先週日銀が公表した歴史的な政策転換について考えてみた。もちろん、僕は金融の専門家ではないので詳しいことはわからないが、どうも日銀は、(広義の)ヘリコプター・マネーをやってしまったようだ。政府が増発した国債を、日銀が買い入れる仕組みができてしまった。もはや、国債市場は国家財政の健全性に警鐘を鳴らしたり、健全性維持をサポートする機能を果たせなくなった。そのことを、政治家や国民はよく理解する必要があるのではないか。

 

 

総括的検証の結果、日銀が公表した新しい金融政策方針は、以下のように要約される*1

 

  1. イールドカーブ*2・コントロール
        
         従来の短期金利だけでなく、10年国債の長期金利までもコントロール対象とする。要するに、国債市場は短期から長期まで日銀に支配される官製相場となる。

 

短期は従来通り金融機関等から預かる当座預金に日銀が金利をつけることでコントロール(現在はマイナス0.1%)。長期は日銀が国債市場の売買取引に参加することで、当面、10年ものの金利をゼロ程度(=現状と同程度)で推移させることを目指す。

 

「長期金利はコントロールできない、市場に任せるしかない」というのが過去の日銀の立場だし、世界の常識だった。しかし、このイールドカーブ・コントロールによって次の状況となる。

 

この4年間大量に購入し続けたことで日銀には大量の国債があって、金利が目標を下回れば(=国債価格の上昇)売りを出してマーケットを冷やせる。

 

金利が上がり過ぎれば(=国債価格の下落)いくらでも買うことができる。というのは、年間80兆円という従来の国債購入枠は、実質的に取り下げられたからだ。枠より金利コントロールの方が優先される。

 

  1. オーバー・シュート型コミットメント

物価上昇率が2%を達成するまで上記の緩和を継続する(上記には記載していないが、他にETFやCP、社債などの資産買入れも7月の決定を継続する)。

 

従来は2年という目標達成期限を設けていたが、それを止めて、その代りに「達成するまで継続する」という“しつこさ”を全面に出したようだ。

 

 

本来であれば、政府が財政赤字を拡大させ国債を大量発行すれば、引受手がいなくなって金利が上昇する(=国債価格は下落する)はずだ。しかし、上記の金融政策によって日銀が国債を購入するので、その心配はなくなった。よって、政府はいくらでも赤字国債を発行できる。それを日銀が(形式的に市場を通して)全て引き受けてくれる。

 

この政策は、物価上昇率が2%を超えるまで続けることができる。2%を超えないと、永遠に続く可能性がある。そうなると、政府はデフレが続く限り実質的に国債の償還財源を心配する必要がなくなる。そして財政規律がボロボロに緩む可能性がある。

 

結局、これは(広義の)ヘリコプター・マネーと言えるのではないだろうか。

 

もはや、日本の財政規律維持に国債市場は貢献しない、と思う。このまま国家財政が悪化し続ければ、いずれ、円は国際的な信用を失い、暴落するのではないか。

 

あとは、政治家と国民が考えるしかない。デフレのぬるま湯に浸かりながら円の暴落を待つか、それともデフレから脱却し国債市場の機能を取り戻すか。デフレ脱却には、成長戦略に真剣に取り組むしかない。日銀は、我々にボールを投げたのだ。そもそも、アベノミクスの中で金融緩和の役割はカンフル剤であって時間稼ぎにすぎない。日銀はその役割を果たしている。

 

 

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*1 9/21に公表された日銀金融政策決定会合の「金融市場調節方針に関する公表文」は、以下のページに掲載されている。

 

金融市場調節方針に関する公表文 2016年

 

*2 (この場合は国債の)市場金利の期間別のグラフ、利回り曲線のこと。通常は、機関が長くなるほど金利が大きくなるため、右肩上がりの曲線となる。しかし、1月末のマイナス金利導入以降、長期金利が日銀の想定以上に下がってしまい、7月末の日銀会合までは、ほぼ、水平線となっていた。(8月からは若干長期金利が上昇している。)

2016年6月30日 (木曜日)

569【金融商品/番外編】英国EU離脱と欧州不良債権問題

2016/6/30

以前、「欧州には不良債権問題がある」と書いた*1。当時、欧州版の自己査定が始まるので、不良債権額が意外に膨らむかもしれない。新たな危機が生じないだろうか、と危惧したわけだが、大きく市場を揺るがすようなことはなかった。でも、くすぶっている。ん〜、熟成してきたというべきか。実は、蔵出しのタイミングも決まっている。2018年だ。まだ先だが、東京オリンピックよりは近い。

 

今回は、久しぶりにこのブログの本題であるIFRSにも絡む話題だ。

 

IFRS9の金融商品の減損についての規定が、2018年(に開始する事業年度)に適用される。すると、貸倒引当金の積増しが懸念されるのだ。みなさんもご存知かもしれないが、貸付金や売掛金などの評価規定が厳しくなる(“発生損失”から“予想損失”による減損計上へ変わる)。

 

非常に大雑把に言うと、現行IFRSの規定では、日本基準で言うところの、不良債権を認定して個別引当するようなケースしか貸倒引当金が計上されない。いわゆる、“一般繰入れ”の部分がほぼない。損失発生の事実を確認してから貸引計上するので、どうしてもタイミングが遅くなる(too little too late.)。リーマン・ショックの際にこれが批判されて、予想される損失を予め計上する考え方へ変更することになった。これが上述の2018年のIFRS9の改定(の一部)だ。

 

欧州の銀行は2014年に自己査定を始めたので、不良債権額は十分な精度で把握できるようになった。しかし、日本や米国から見ると、まだ引当不足の状態にある。それが2018年に解消され、積増しされる(ことが予想される)。そうなると、もっとも状況の悪いイタリアなどでは、銀行が資本不足に陥ることが予想される。これが蔵出しだ。

 

とはいえ、みなさんは「これと英国のEU離脱とは関係がないのでは?」と思われたかもしれない。僕もそう思う。しかし、現実には、次のような記事があって、どうも、この件を材料にしたヘッジ・ファンドの攻撃を心配しているようなのだ。

 

取り付け騒ぎ回避であらゆる手段=ユンケル欧州委員長 6/29 REUTERS

UPDATE 1-イタリア、銀行セクター支援策を準備 英EU離脱受け=関係筋 6/28 REUTERS

 

Brexitが確定した6/24以降急落していた欧州銀行株は、幸いなことに、6/28には一転反発した*2。これらの報道も影響したかもしれない。

 

マネックス証券のチーフ・アナリスト 大槻奈那氏(金融分野に強い)は、Brexitに関する最近のレポート*3の中で次のように指摘している。

 

中でもイタリアは、不良債権の総額は約30兆円と欧州の中でダントツである(図表5)。貸出に対する不良債権の比率は16.8%と日本の金融危機時を上回る高い比率となっている。引当金は計上されているが、不良債権額の約半分程度であり、残りは今後の損失に繋がりやすい。

 

・・・英国からの資本流出など悪い条件が重なった場合に、欧州側の金融システムの脆弱な部分(これがイタリアなど)にも刺激が及ぶ可能性が、指摘されている。それにしても、イタリアの状況は相当悪そうだ。

 

確かに、ヘッジ・ファンドが攻撃のネタにしそうな感じだ。単なる杞憂ではすみそうにない。恐ろしい話だ。でも、EUは対応の準備ができているようだ。これが大事。

 

金融市場は、変動することで実体経済の弱点を知らせてくれる。会計もそれに寄与している。これは便利な機能だが、行き過ぎると実体経済を過度に刺激し、悪化させる。これが難点だ。「Brexitなど、精々、関税がかかるぐらいなもので大したことない」と達観できれば、本当に大過なく過ごせるのだが、さて、どうなるだろうか。

 

特に、英国内、或いは、英国とEUの間で感情的なもつれが生じると、影響が大きく広がりそうだ。人々が冷静でいられるように祈るしかない。

 

 

 

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*1 404.【番外編】欧州の不良債権問題 2014/10/5

 

*2 欧州株は反発、金融株持ち直す 6/29 REUTERS

 

*3 BREXIT後の日・欧金融セクター:株価暴落の背景と今後 6/28 マネックス証券HP

 

 

 

2016年6月28日 (火曜日)

568【番外編】英国EU離脱とアベノミクス第4の矢

 

2016/6/28

実は、このブログも今週で6年目に突入した。その記念すべき最初の記事にふさわしくないのだが、今回は、全くのおふざけ記事になる。申し訳ない。

 

というのは、みなさんが、もう耳にタコができて、飽き飽きしている思われているであろう“英国のEU離脱問題”について書きたいのだ。おふざけでなければ、読んでもらえないだろう。僕の推理は、「これはアベノミクスならぬ、EUノミクスの隠された矢、“危機を煽って通貨安を誘導”する情報戦略の矢、情報操作の一環ではないか」というものだ。

 

世界中の権威あるニュース・メディアが悲観論を拡散しているが、ん〜、そんなに大変なことだろうか? これが、僕の率直な印象だ。英国の首相が辞任を表明し、EU主要国の指導者が失望感をあらわにするという凝った演出で、こんな小事を大事のごとく嘆き悲しむ結果、通貨ユーロとポンドは安値に沈み、そのうちに、英国とEU(特にドイツ)は輸出が増加し、経常黒字がチャリンチャリンと溜まっていく。

 

一方、円は“安全資産”などと言われて急騰し、日本株は下落し、アベノミクスが崩壊する。だが、日本もこれを参考に、金融政策、財政政策、構造改革の3本の矢に加え、情報戦略を第4の矢に加えたらどうだろう?

 

 

みなさんは「これが小事か?」と疑問を持たれると思う。なんせ、英国にとっては、第2次世界大戦後で最も大きな決断の一つなのだから。しかし、もし、英国と欧州の指導者が裏で結託していたらどうだろう。例えば、「英国はEUの単一市場からは離脱するが、安保・政治的な立場は従来通りEUと協調する」みたいな暗黙の了解があればどうか。

 

実際、安全保障は北大西洋条約機構(=NATO)による同盟関係が維持される。ロシア対応で協調できれば、英国と欧州は親しい友人のままでいられるのではないか。今後、英国は米国との結びつきを強め、対ロシアでは、より強硬な立場を強めるという見方をする専門家もいる。EUにとっては、内部に強硬派の大国を抱えるよりも、強硬な英米との間を取り持つような形でロシアと接する方が、心地良いだろう。

 

一方、単一市場から離脱した際に問題になるのが、関税や国際取引に係る規制や手続だ。英国とEUの間でFTAなどの貿易に関する取決めが(離脱通告から2年以内に)まとまらない場合、関税および貿易に関する一般協定(=GATT)のルールが適用されるらしい。

 

GATTのウルグアイ・ラウンドの合意に基づいて設立された世界貿易機関(=WTO)のアゼベド事務局長は追加負担が巨額になると警告した*1が、仮に全ての輸出に10%の関税がかかったとしても、為替レートが10%安くなれば相殺できる。上述の大芝居のおかげで、問題は軽くなるのでは? 日本と異なり、英国は通貨安が輸出増に直結する普通の経済構造がある*2ので、景気浮揚効果も大きい。(但し、輸入物価が上昇するので、消費者には、それに見合う所得増や政策経費が必要になるかもしれない。日本はアベノミクスで80円から125円の約5割の通貨安を経験したが、経常黒字が増えたのは原油などエネルギーの輸入価格の低下によるもので、景気は十分良くならなかった。)

 

国際取引に係る規制や手続、そしてサービス取引については、両者の意見が相違する分野となろう。しかし、英国の主要な不満の一つは、EU規制の細かさにあったわけで、EUと取引を継続するなら妥協が必要だし、むしろ、EU以外とは自由にやれると喜ぶことだろう。とはいえ、この分野の交渉は難しいし長引くに違いない。だが、これぐらいは仕方ないだろう。

 

このように考えてみると、ポンドが急落し、ユーロが連れ安するこの離脱問題は、英国やEUにとってそれほど悪いイベントではない。いやいや、もっと複雑な問題があると思うが、ロシアが重しになって、「なんとかの終わりの始まり」みたいな大袈裟なものにはならないかもしれない。なったとしても、たっぷり時間があるので、状況の進展に応じて対応を考えればよいのではないか。

 

 

しかし、そう悠長なことを言ってられない人々もいらっしゃるだろう。株や為替の取引をやっている方は(僕もそう)、思わず天を仰いだら日光で目眩しにあって、足元がふらついたような状況かもしれない*3

 

でも大丈夫。おそらく近日中に財務省のHPに、日本政府の貸借対照表が公表される。それを見ると国債が300兆も減っている。同時に、日銀が「300兆円の国債券を紛失し、同額の損失が発生しました」と臨時報告書を公表する。そう、ヘリコプター・マネーだ。日銀は大幅な債務超過に陥るから、きっと、円は大暴落するだろう。アベノミクスの第4の矢、情報戦略の矢だ。

 

海外の格付け会社が日本国債を格下げするが、損をするのは為替差損を被る海外の投資家だけ。そしてその後は、円が“安全資産”などと言われることは2度となくなるに違いない。(あくまで冗談。)

 

 

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*1 英国、EU離脱なら巨額の関税負担の可能性=WTO事務局長 REUTERS 5/25

 

*2 アベノミクスでは、円安が輸出を数量ベースで増加させなかった。そのため、円安の景気浮揚効果は限定的で、トリクル・ダウンが起こらなかった。しかし、英国経済は事情が異なるようだ。次のような報道がある。

 

英国EU離脱問題、期待できる好影響とは WSJ 2/23(多分、有料記事)

 

2008年の金融危機のポンド下落と翌年の輸出の増加、1992年の欧州為替相場メカニズム(ERM)脱退後のポンド急落とその後5年間の輸出の増加を例に挙げている。

 

4月の英貿易赤字は予想下回る120億ポンド、モノの輸出が大幅増 REUTERS 6/9

 

この記事にはないが、4月の対ドル平均レートは近年で最も安い(1.4310ドル/ポンド)。

 

 

*3 こんな報道もある。

 

円急騰で自殺者続出か 英EU離脱でFX投資家“数千万円損”も 日刊ゲンダイ 6/27

 

ちょっと大げさなタイトルになっているが、もし、本当にこのような個人投資家がいれば、ご愁傷様としか言いようがない。

 

 

2016年6月22日 (水曜日)

567【番外編】英国の大脳皮質

2016/6/22

Jリーグ第1ステージがいよいよ大詰めだ。先週末は、浦和レッズが優勝戦線に残れるかどうかを賭けて、因縁のサンフレッチェ広島と戦った。この好カードを、珍しく録画ではなくテレビ放送を直接見ようと思った僕は、ゲーム開始前の暇つぶしに他のチャンネルを窺っていた。すると、AKB総選挙が行われていた。

 

「16位、にゃんにゃん仮面」

 

ん!? 詳しくはないものの、AKBにそういうキャラクターがいるとは意外だったので、思わず、目が止まった。すると、にゃんにゃん仮面の正体は、僕が贔屓にしている“こじはる”こと、小嶋陽菜さんで、その正体を明かす流れで、彼女はAKBを卒業すると宣言した。

 

う〜ん、ついに、こじはるも卒業かあ。それじゃあ、英国もEU卒業(=Brexit)かなあ。こじはると英国に何のつながりもないが、そう思った。

 

こじはるは一昨年に、一度、卒業を匂わせたらしい(僕は知らない。忘れたのかもしれない)。その時は残留したものの、その後の総選挙には参加していなかった(これは知ってる。覚えている)。しかし、今回は最後の総選挙なのでAKBへ何か貢献したいと思い、仮面をかぶって参加したとのこと。そして、その仮面を剥いで、卒業宣言した。

 

 

そういえば、ちょうど1年前に大騒ぎしていたGrexit(=ギリシャのユーロ圏離脱)問題について、当時の名だたる英国メディアは、ギリシャに離脱を勧める意見を、結構、掲載していた。勇ましいと思ったものだ。離脱のショックは大きいが一時的なもので、長期的にはその方がギリシャのためになると。ユーロのような財政制度を伴わない不完全な通貨制度から飛び出して、通貨・金融政策の主権を取り戻せと。

 

その昨年7月のギリシャ国民投票でギリシャ国民は、EUECBなどの債権者たちの提案を拒否した(但し、ギリシャ・チプラス政権はそうしなかった)。そして今年は、英国がEU離脱を決めるかもしれない。先週時点では離脱派に勢いがあるとの報道だったが、もしかすると1年前の英国メディアは、今年を踏まえた仮の姿、にゃんにゃん仮面だったのか。その時点で、実は、彼らは密かにEU離脱の決心を固めていたのではないか。

 

いや、違う。というのは、当時、ギリシャにGrexitを勧めていたメディアは、今回、明確に残留を主張しているからだ。Financial TimesやThe Economistは、現在、離脱した場合の悲惨な経済効果を盛んに警告している。驚くほど厳しい表現で離脱派を批判している。ん〜、ギリシャには「混乱は一時的」と言っておきながら、自らのことになると安全第一か。

 

僕は英国に離脱を勧めたいわけではない。それは英国人が決めること。重要なのは議論の中身だ。だが、ちょっと期待はずれな印象を持っている。

 

英国といえば、市場で働く“神の見えざる手”を発見し、自由貿易を掲げて世界覇権を確立し、市場が破綻して大恐慌が起こると市場の不備を(賢い?)政府が補うケインズ理論を生み、その政府が肥大化するとサッチャー改革を行った。2度の世界大戦でも常に勝者の側にいる。要するに、大きな環境変化に柔軟に対応し、政治や経済の舵を切ってきた。EUを離脱するか留まるかという大問題を判断するに際しても、きっと興味深い議論がなされるに違いない。そう、期待していたのだ。

 

しかし、みなさんもご存知の通り、残留派は離脱リスクを強調して人々の不安を煽るばかりだし、離脱派はテロ・難民(移民)問題を足がかりに離脱楽観論を展開しているそうだ。テロも難民も(特に難民問題について)、傍観しているがごとき日本にいて、無責任な言い方かもしれないが。

 

でも一つ、“さすが”と思うことがあった。

 

Britain First!」と叫んだ暴漢(=離脱派と推定されている)による残留派下院議員殺害事件、Jo Cox 氏の悲劇への対応についてだ。両派は投票1週間前という重要な時期に、丸2日間も活動を停止した。

 

同じことが日本であったらどうだろうか。もし、国論を2分する大激論の最中に、一方の陣営の中枢にいる人物が他方に賛同する者に殺害されたら。

 

国論を2分する議論、ん〜、なんだろう。アベノミクスの是非か、原発問題か、或いは、憲法9条改正問題か。それで殺人事件? まあ、リアリティがないが、それでも頭に浮かんだのは、「弔合戦だ」と騒いで、悲劇を利用することだ。活動を中止するどころか、敵意剥き出しのキャンペーンを始めてしまうのではないか。もはや、冷静な議論は期待できず、扇動的な感情論に支配される …かもしれない。僕の妄想だ。

 

とにかく、英国は、この悲劇を反省のきっかけにしたようだ。先週まで議論がヒートアップし、お互いの非難・中傷合戦になっていたらしいが、平静を取り戻した。このような急激な感情の流れが正常な判断力を鈍らせることが予想されるときに、それをコントロールできる社会は素晴らしい。社会全体として、大脳皮質、理性を働かせたのだ。

 

 

さて、広島と浦和の試合は4対2で広島が勝利した。この結果、浦和の第1ステージ優勝の可能性はなくなった。広島がトドメを刺したのだ。かつて広島は、浦和に監督や主力選手をごそっと引き抜かれたが、その後4年間で3回もリーグ王者に輝いた。その当初こそ、広島は浦和に分が悪かったが、2014/9 以降は負けがなく、現在2連勝中だ。今や広島は、浦和の天敵なのかもしれない。

 

この両チームでは、明らかに残留した広島の選手たちに福があった。いや、こういう言い方はおかしい。“福”ではなく、努力と戦略の結果だ。浦和のようなビック・クラブではない広島が、限られた予算の中で素晴らしいチームを育成し、かつ、維持できるのは、もう驚異としか言いようがない。

 

全く関係ないが、英国も残留の方が福があるだろうか。いや、何に向かってどのように努力するか、議論の中から戦略を見出す必要があるように思う。それが重要だ。

 

ただ、大脳皮質の働きがしっかりしている英国社会のこと、実際には大切な議論が行われているのかもしれない。いずれ、日本にも報道・紹介されることを期待したい。

 

2016年6月10日 (金曜日)

566【番外編】企業と株主の建設的な対話〜3つの企業価値

2016/6/10

今回は「564【番外編】企業と株主の建設的な対話〜答申」の続編だ。ところで、“建設的な対話”って、なんだろう。

 

首脳会談などのインタビューで「建設的な対話だった」と首脳が答える場合は、議論が決着せず物別れに終わった時だ。でも、「お互いが納得・共有できる結論に向かっている」という雰囲気を醸し出そうとする印象・意図を感じることができる。おそらく、“建設的な対話”とは、結論を得られたかどうかの問題ではなく、お互いの共通認識の幅が広がったかどうかを指すのだろう。

 

企業と株主に結論が必要な場合は、株主総会の議題にあげれば良い。企業開示制度の改善・充実を図る場合の“建設的な対話”とは、株主(や投資家)が、その企業への投資を継続するかどうか、追加の投資を行うかどうか、経営者をどのように評価するかを判断するために、有用な情報を効率的に提供できる状況のことだと思う。

 

これは、IFRSの概念フレームワークに記載されている一般財務報告の目的と概ね同じだ。ただ、IFRSと違うのは、このテーマには財務情報のみならず非財務情報も含まれる。財務情報は会計基準や場合によっては監査基準によって厳密に範囲が限定されている。例えば、自己創設のれんは財務報告・財務情報には含まれない。会計上の見積りは財務情報だが、将来情報・予想は財務情報ではない。

 

今回のテーマは、財務情報の範囲にとらわれず(=財務情報も非財務情報も含めて)、株主や投資家が企業を理解するために、どんな情報があったら効率的かを考えてみたい。僕は3つの企業価値を企業が提供することで、現状を大きく改善できると思う。

 

 

3つの企業価値とは次のものだ。

 

A. B/Sの純資産(=会計上の企業価値。これのみ財務情報)

 

これは現在も提供されている情報なので特に説明は不要かもしれない。上場企業の場合は一株あたり純資産(=BPS:Book-Value Per Share)や株価純資産倍率(=PBR:Price Book-value Ratio)として、株価との比較で分析に利用されることが多い。しかし純資産は、企業の特定の価値を表しているわけではなく、資産と負債のそれぞれの項目を各々の基準で評価して差し引きした結果であり、計算上の差額に過ぎない(IFRSにしても日本基準にしても、会計基準は企業価値を算定するようには設計されてない*1)。即ち、実は、それほど意味のある数字ではなく、利用価値は高くないと思う。

 

例えば、極端に悪い場合(例えば、債務超過など)は上場維持が困難になったり、金融機関から融資の返済を迫られたりするケースがあるが、企業は純資産が小さいから倒産するのではない。手元資金が不足するから倒産する。純資産の大小は、上場規則や財務制限条項で規制の対象となっているなどの極端なケースを除き、企業価値をダイレクトに表現するものではない。

 

とはいえ、資産は金を生むもの、負債は逆に金を流出させるもの、という会計上の定義(大雑把な言い方で申し訳ない*2)を考慮すると、為替換算調整勘定などの資産・負債評価の調整項目を除く株主資本については、企業所有者の新たな意思決定や新たな減損が発生しない限り「外部流出せず企業内部にとどまる可能性が高い資源」と考えることはできる。

 

但し、それを企業価値と言うかどうか。言ったとしても、限定的・消極的な意味しかないと思う。(財務情報は、業績を表すP/Lの方が利用価値があると思う。)

 

B. 期末時点の使用価値(=Aに自己創設のれんを加えたもの。企業の自己評価価値。非財務情報)

 

企業は資産・負債を、概ね公正価値か原価でB/S計上する。原価計上される資産は、必ず、減損テストを受ける。減損テストとは、原価と使用価値を比較し、原価が過大評価でないことを確認する手続きだ。使用価値とは、資産をそれが使われている事業の一部として評価した価値だ。それには、その企業が資産を使用してキャッシュ・フローを生み出す事業運営能力の評価・価値が含まれる。すなわち、自己創設のれんが含まれる。

 

その資産を利用する企業の能力がプラスである限り、BAより大きい。即ち、企業が事業からプラスのネット・キャッシュ・インフローを獲得することが見込まれる限り、BAより大きくなる。

 

将来キャッシュ・フローの見込みは経営者の見積りなので、Bは企業の自己評価価値と考えることが可能だ。また、おおよそ、投資家の株価評価とも理論的にある程度の親和性がある。したがって、Bと市場株価を比較すると、興味深い分析が可能なように思われる。特に、B(=企業の自己評価)より株価が著しく低い場合、経営者が企業の先行きに過度に楽観的でないか(減損テストが甘くなっていないか)について、投資家や株主に警告を与えてくれる可能性がある。

 

企業の多角化・グローバル化の状況を考慮すると、大きくてもセグメント情報の単位では使用価値を公表すると良いと思う。一株あたり使用価値と株価の差の分析は、企業と株主の対話の良い材料になると思う。

 

減損テストのために、現在の企業会計制度の中でBはすでに算定されているか、或いは、すでに算定されているものを改良すれば算定できる。

 

C. 将来時点の使用価値(=将来の企業像を金額的に示したもの。経営目標となる価値。非財務情報)

 

5年後、10年後、その企業は、どんな事業を営み、どれぐらいのキャッシュ・フローを生み出す能力を持っているか。そのイメージを金額にしたものがこのCで、これを計算している企業はあまりないに違いない。

 

でも、日本企業に足りないと言われる戦略的思考をスタートさせるには、長期的な目標を持つことが必要だ。その目標は実績と比較しやすいよう会計上の概念と親和性の高いものであることが望ましい。それはABとの共通概念である“(事業が生み出す)将来キャッシュフローの現在価値”だと思う。それがCだ。

 

Cを計算するには、製品/サービス市場の変化を予想し、戦略的対応行動の計画を立てることになる。と言っても、大雑把なものにならざるえないが、目標となるイメージを持つことが重要だ。

 

長期的な投資家や株主は、BよりCをイメージして投資する。現在ではなく将来を想像して株式を購入するかどうかを決める。企業が自らの将来イメージをCとして公表すれば、投資家や株主がAB、その他過去のP/L情報、事業モデルの情報などから実現可能性を評価し、投資の意思決定を行えるようになる。

 

投資家や株主が、このCABとの差、Cを実現するシナリオを企業へ質問すれば、企業の戦略性がみえそうな気がする。企業がおとぎ話をしているのか、それとも、事業環境の変化・事業の進化を真剣に考えているのか、或いは、真剣に変化に対応する気がないのか。このような対話をして投資を決めた株主は、その後の企業の経営状況に関心を持つことができて、その株式を長期保有するのではないだろうか。

 

 

子供と将来について語り合おうとすれば、その子の夢が分かっているかどうかで会話の内容が随分変わってくるだろう。夢が分かっていれば、そこへ向かう経路をある程度特定できるから、親としては、“いくらぐらいかかりそうだ”という現実的なイメージにもつながる。これがちょうど Cに当たる。Cは子供の夢のようにきっちりしたものにはならないだろうが、子供じゃないのだから事業のプロとしての先見性やセンスが求められる。

 

子供の現在の実力・能力が分かると、その経路の出発点を確認できる。特に、子供が自分自身や身の回りの状況をどう評価・理解しているかは重要だ。親は、単なる希望なのか、本気でやる気があるのかの見当がつく。これがBだ。

 

親としては、さらに、子供の過去の行動を振り返ることだろう。この子はすぐ諦めてしまう子なのか、それとも言い出したら止まらない子なのか。これが過去の財務情報、ここではAに当たる。

 

企業と株主、或いは投資家との対話も、このようなABCの材料が必要なのではないだろうか。親が子供の夢の実現にコミットするかどうかは、このような対話によって、夢を実現する経路のイメージを互いに共有できるかどうかにかかっている。同様に、企業と株主・投資家にとっても、ABCを材料とする対話こそが、共通認識の幅を広げる“建設的な対話”じゃないかと僕は思う。

 

 

さて、僕は、このテーマの前回の「564【番外編】企業と株主の建設的な対話〜答申」で、次のように記載した。

 

これに使用価値を利用できないだろうか。そうすることで、経営者の見積りの強気・弱気のバイアスを、投資家や株主が評価する材料も、新たに加えられる。監査の限界を補う材料にもなるだろう。

 

使用価値の利用方法について記載してきたが、果たしてこれが監査の限界を補うことになるだろうか。

 

Bのところに記載したように、現在の使用価値であるBと株式市場の評価である株価を比較すれば、面白い分析ができそうに思う。株価は将来の使用価値であるCを織り込むので、通常であればBより高くなるはずだ。しかし、意外に多くの会社でそうならないことが予想される*3。そうなると、簡単に経営者の見積りの強気・弱気のバイアスを株主や投資家が察知するのは難しいかも知れない。

 

このABCが監査の限界を補えるかどうかについて結論を出すには、もっと具体的な検討が必要だ。BCが開示されてないので難しい検討になるが、引き続き、考えてみたい。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 例えば、IFRSの概念フレームワークには次のように記載されている。

 

一般目的財務報告書は、報告企業の価値を示すようには設計されていない・・・(OB7

 

IFRSも日本基準も、会計期間における企業の変化をP/Lに業績として表現するものだと思う。資産や負債について公正価値測定を多用しても、それは前期末との変化を記録するためであって、B/Sは企業価値にならない。

 

もし、企業価値を算定するなら、自己創設のれんや企業ブランドの価値評価を避けることはできないが、会計はそれを行っていない。

 

*2 これは僕のお気に入りの言い回しだが、詳しくは次の記事をご覧いただきたい。IFRSにおける資産の定義について記載している。

 

IFRSの資産~会計上の「資産」とは 2011/11/1

 

*3 例えば、現在、銀行の株価は株価純資産倍率が1を割り込んでいるところが多い。日銀のマイナス金利政策の影響もあるが、それだけではない。株価はBどころか、会計上の企業価値であるAよりも低いのだ。ということは、株式市場は、銀行のB/Sに減損すべき不良資産がたくさんあると評価しているのだろうか。

 

米国のエネルギー関連企業に多額の融資をしている銀行は、昨年来の原油価格の下落による信用不安で株価が低下している可能性がある。しかし、日本の地銀にそのような心配はない。日本では企業倒産が減少を続けており、信用不安はない*4。では、何が原因だろう。

 

僕は、Cを十分に投資家や株主に理解させていないからだと思う。或いは、そもそも、投資家や株主にしっかり説明できるようなCを持っていないか。即ち、戦略性にかけると評価されている可能性が考えられる。そのような場合、自己創設のれん(或いは企業のブランド価値)に対する株式市場の評価が低くなる。例えば、人口減少や産業空洞化に対する銀行の対応の不透明さがこれに当たるのではないかと思う。

 

株価純資産倍率が1を割り込んでいるというのは、自己創設のれんがマイナス評価されている。異常事態だ。株式市場が銀行業界へ強烈な警告を発していることになる。もちろん、銀行も理解しているはずだが、まだ業界再編などの動きは低調。また、M&Aだけでは対応不足だ。地銀の海外展開も時々話題になるが、インパクトに欠ける。銀行業界がどのように経営環境の変化に対応しようとしているか、よくわからない。

 

 

*4 例えば、東京商工リサーチのHPには、昨年2015年の倒産件数について次のように記載されている。

 

倒産件数が8,812件 25年ぶり9,000件割れの低水準

 

 

2016年5月31日 (火曜日)

565【番外編】消費税増税の延期の仕方

2016/5/31

伊勢志摩サミット終了後の世論調査は、安倍内閣の支持率が上昇したという*1。オバマ米大統領の広島での格調高い演説が功を奏したか、或いは、G7各国首脳をリードした安倍首相の指導力が評価されたか。確かに、今までの首相とは違う存在感があったと思う。ん〜、確かに、明確な違いがあった。

 

しかし、すでに数多く指摘されている通り、現在の世界経済情勢を「リーマン危機」に関連づけようとしたことは、行き過ぎだった。安倍氏は、(消費税増税延期に関する国内的な言い訳にするため)G7リーダーたちに「リーマンショック直前に似ている」と分析して見せたらしい。その突拍子のなさに、Financial Timesなど海外メディアは「ホスト国の安倍首相に恥はかかせられないので云々」などと、苦笑交じりの報道をしていた*2 ようだ。

 

これについて、僕が愛読する豊島逸夫氏のコラム(日経電子版)には、『(参加首脳たちが、)日本流「おもてなし」に、日本経済への「思いやり」で答えた』と記載されていた*3が、言い得て妙だ。ゴールデン・ウィークの欧州歴訪や伊勢志摩での温かいおもてなしから感じられた安倍首相の努力に、それぞれの厳しい国内事情を抱える各国首脳たちが共感の想いを寄せてくれたのかもしれない。

 

 

さて、これで、ふっと思い出したことがある。みなさんが、もし、上場企業の監査人だったとして、企業経営者が減損損失を回避するために“屁理屈”をこねてきたらどうするか。ちょうど、安倍首相がリーマン・ショックを持ち出したように。

 

例えば、東芝の経営陣は未だに新規原発受注計画を維持している。減損はしたが、それは割引率を見直したためであり、その元となる将来キャッシュフローの見通しを引き下げたわけではない。確かに中国やインドなど、多数の原発新設計画を持つ国は多いが、本来は、“福島”後に徹底的な見直しが必要だったはずだ。(東芝の経営は、経営体制が変わっても中身が変わっていない。)

 

いや、これでは例が悪すぎる。もっと、共感できるようなケース。じゃなくて、話を戻そう。

 

 

消費税の増税については、何度か記載している通り、税率を上げても税収が減るようでは増税の意味がないと僕は思っている。消費税の税収が多少増えても、法人税や所得税など他の税収が減るようでは、経済を萎縮させるだけなので、長期的に見て国の財政再建にマイナスの効果しかない。

 

本来は、「税率を上げることで税収を増やせるのかどうか」という議論がもっと行われるべきだが、なぜか、「国際的な信用が云々」とか「財政規律が…」などという話になってしまう。国際的な信用も、財政規律も、税収増加を実現・達成できなければ意味のないことだ。増税の結果税収が減るようでは、納税者にしてみれば、取られっぱなしで何の見返りもないことになる。(増税分で社会福祉予算を増やすというのは、税収増が実現して初めて可能になることだ。)

 

そういう的外れの議論が大手を振っていて、本来の税収増減の議論が端に追いやられている現状に、僕は同情する。安倍氏にしてみれば、違和感を感じながらも専門家の意見に一生懸命耳を傾ける姿勢に徹っしているのだと思う。最後は自らが判断するとしているものの、その際に、本筋である税収の見通しを理由にできないもどかしさがあるに違いない。

 

「リーマン級の危機がない限り消費税を上げる」と過去に言ってきたことは、安倍氏の失敗だ。失敗だが、そんな言葉のせいで、増税を課せられる国民の立場になってほしい。消費が停滞している時に、消費税を上げようなんて普通に考えてありえない。

 

そういえば、数年前、「5%を8%に上げても消費はすぐ回復する」そう言っていた人が多かった。特に、財務省やそれに近いといわれるエコノミスト。実際には間違っていた。その反省はなされたのだろうか。麻生太郎財務大臣は「消費税増税を延期するなら解散すべき」と未だに財務省の肩を持っているようだが、麻生氏は部下にその反省をさせたのか。

 

そういう環境で、消費税増税を延期しつつ、政権を維持するための屁理屈が、“リーマン前夜”なのだろう。気持ちはわかる。でも、監査人は、屁理屈には「No」を返さなければならない。

 

 

と、ここまで書いて「日経プラス10(BSジャパン)」を見てたら、キャスターの山川龍雄氏が「安倍首相は国内問題の言い訳にサミットを利用(悪用)した、と海外メディアが報じた。ここは正直に、8%にした後の消費の具合が良くないから延期すると言えば良いのではないか」のような話をしていた(勝手な要約で正確ではないかもしれない)。

 

その通りだ。僕は山川氏のコメントにいつも注目している。さすがだ。簡潔に言えばそういうことになる。

 

さらに山川氏は「構造改革に集中するために、ここでダブル選挙をやって、しばらく選挙がない期間を設けた方が良い」旨のことも言われていた。なるほど、そういう考え方もあるなあ、とは思ったが、それより僕は次のように思う。

 

増税についてまっとうな議論のできない現在の環境を整える必要がある。

 

具体的には、増税時期を単に2年半延長するのではなく、“GDPが600兆円になったら”などといった経済状況に関する要件を加えるべきだと思う。別に“550兆円”でも、“2年間でGDPが40兆円増えたら”でも良い。

 

要は増税しても経済が悪くならない確証を持てるようにしてもらいたい。或いは、先に国民の取り分を増やしてから増税してほしい。もう、20年以上もGDPが増えてないのだから。

 

こうすることで、財務省など財政重視派の人たちの目が、もっと税収の土台となる経済へ向かうようにして欲しい。(ちなみに、財政規律面を言うなら、5兆とも10兆とも報道されている経済対策について、僕は心配している。少子化対策だけで十分だと思う。)

 

こうして共有しやすい目標を持った方が、最重要の構造改革に力を集中しやすくなるのではないだろうか。2年半後に、また、同じ議論が繰り返されないためにも。(屁理屈をこねるのに無駄なエネルギーを使わなくて良いように。)

 

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 サミット後の世論調査については、以下のものを見た。

 

内閣支持率56%に上昇、サミット外交評価 本社世論調査 5/29 日経電子版有料記事

内閣支持率55%に上昇 米大統領広島訪問98%評価 共同通信世論調査 5/29 産経ニュース

 

*2 記憶で恐縮だが、確か、5/28の「早起き日経プラスFT(BSジャパン)」で、FTの記者が言っていたと思う。

 

*3 豊島逸夫氏のコラムは日経電子版では有料記事になっているが、ほぼ、同じものが以下に掲載されている。

 

Page2081 「超ハト派」の安倍首相に、G7首脳の「思いやり」 

5/27 三菱マテリアル/GOLDPARK 豊島逸夫の手帖

 

 

 

2016年5月24日 (火曜日)

564【番外編】企業と株主の建設的な対話〜答申

 

2016/5/24

このところ多くの地域で真夏日が続いているが、みなさんは変わらずお過ごしだろうか。このブログは、最近、記事と記事の間が長く空き、ツツジの花も散るなど、季節も変わってたりする。大変申し訳ない。

 

さて、この間、僕の関心を惹いたのは、4/18の下記の答申だった。

 

 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」

 

「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」(PDF:368KB)

(参考資料:「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」の概要(PDF:68KB)

 

例によって、ワープロの初心者がベタ打ちしたものにページ番号をつけただけのような、そっけない資料で、添付の“概要”なるものも、キーワードやキャッチ・フレーズを箱で囲って矢印で関連付けしたA4一枚の資料だ。見た目が全然楽しくない。しかし、どこの審議会も同じような答申を出す。“事務局”という官僚の創作物だ。

 

 

では、何に関心を惹かれたのか。「建設な対話の促進に向けて」というタイトルだ。ここでいう「対話」とは、投資家や株主と企業経営者の間のものと思うが、直接的には、繰返される粉飾決算と監査への批判が、企業情報開示制度が変わることで起きにくくなるかもしれないという期待があった。

 

さらには、企業統治の面から、次のような疑問が今後繰り返されにくくなることへの期待もあった。

 

  • 3年間の円安という莫大な補助金(=為替差益)をもらいながら日本企業はどれぐらい経営・事業を戦略的に改善できたのかという疑問

 

  • その補助金は消費者などが輸入物価上昇という社会的犠牲を払って、特定の企業が受け取ったものだが、それヘ報いようとしたかという企業経営者の倫理観に対する疑問。

 

前者は、以前から日本企業に対する批判としてよく聞く“戦略性の不足”の改善につながるのではないかという期待。後者は、労働分配率や仕入先対価の改善への期待。この後者の労働者や仕入先に関しては、企業に発生した為替差益の分配を巡って投資家と利害相反の関係にあるので、企業情報開示制度で改善しようというのは欲張りかもしれないが、「建設的な対話の促進」につながるのであれば、投資家が高い目線を持つことで、経営者に良い影響を与えられるかもしれない。全く、方向違いというわけでもないような気がする。

 

 

さて、この答申を読んでみて、期待は実現しそうか? 僕の感じでは、答えはNoだ。

 

証券取引所規則による企業開示制度(決算短信など)や、国の制度である会社法、金商法の開示制度・様式を共通化させようとか、四半期の短信には監査(正確にはレビュー)は不要であることを明確化させようとか、短信の速報性を生かすため開示内容の合理化を図るとか、株主総会における建設的対話の促進を図るための情報提供日と総会日の日程を改善するとか、非財務情報の開示の充実を図るとか、単体決算にもIFRSの適用を認めようとか。

 

要するに、開示にかかる手間・コストを省きたいという項目がたくさん並んでいる。それぞれはとても良い話だが、果たして「建設的な対話の促進」に対する効果はいかばかりか。

 

このほか、フェア・ディスクロージャー・ルール*1の導入や「中長期的な視点からの投資判断」という見出しもある。だが、「中長期的な視点からの投資判断」は、焦点のボケた短い段落で終わっている。というのは、別に“スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードの フォローアップ会議”なるもので議論するかららしい。ただ、これらの制度では個人投資は蚊帳の外、機関投資家と経営者が主役だ。いやいや、個人投資家については、申し訳程度に、教育してリテラシーを高めると書いてある。

 

 

ん〜、何かしっくりこない。もっと根本的な開示の改革が必要ではないか。対話の基礎になる企業情報、建設的な対話のネタになる企業情報とはなんだろう。

 

といっても、多くの方は「他にやりようがないじゃないか」と思われるかもしれない。でも、もし、このブログの最近の“使用価値”に関する長々とした退屈なシリーズを読まれた方がいらっしゃれば、僕の意図するものを感じられるかもしれない。僕は、“使用価値”こそ、キーになり得ると思う。

 

“使用価値”こそは事業の現況に関する経営者の見積りであり、意図であり、見通しであり、戦略も一部含むので、長期的な投資家が興味津々の情報のはずだ。しかし、それは減損会計の減損テストでのみ使用される企業の内部情報で、開示対象になっていない(減損損失を計上した時のみ、減損後の新しい簿価として表に出る)。

 

実際には、減損会計で使う目的以外に使用価値を計算している企業などないだろう。即ち、経営管理に使用価値を利用している企業はないと思うので、「開示のためだけに計算される使用価値に意味はあるのか」という疑問があると思う。それに使用価値は、本来、会計では扱ってはならない“自己創設のれん”を含んでいる可能性が高い。したがって、開示する場合でもその方法が難しい。

 

難しいが、ただ、ここで思考停止しない。(どうせ、自己満足の妄想に過ぎないが。)

 

なぜなら、投資家や株主が経営者と長期的・建設的なコミュニケーションをするには、経営者が事前に到達目標を示して投資家や株主と実績値について対話するという関係が必要だからだ。現在はその到達目標に関する情報が少なすぎる。抽象的でもビジネス・モデルの説明があればかなり良い方で、具体的な情報としては、精々、進行期に関する売上や利益の目標しかない(=業績予想。任意で中期経営計画などを開示する企業もある)。それより先の具体的な目標はない。それで「長期間建設的にお付き合い願います」と言われても…、ねぇ。

 

ということで、これに使用価値を利用できないだろうか。そうすることで、経営者の見積りの強気・弱気のバイアスを、投資家や株主が評価する材料も、新たに加えられる。監査の限界を補う材料にもなるだろう。

 

考えていると長くなりそうなので、使用価値をどのように使うかに関しては、次回にしたい。さつきの花が散る頃かもしれない。

 

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 “公平な情報開示”のルールだが、具体的には、企業が未公表かつ重要な情報を特定の市場関係者に明かした場合、一般投資家にも速やかに公表しなければならないこと。例えば、企業が一部のマスメディアやアナリストにのみ情報開示することは許されない。日本では証券取引所のルールはあったと思うが、法制化・制度化はされていないらしい。

 

 

2016年5月12日 (木曜日)

563【投資】ソフトバンク、また、単体の減損を連結へ反映せず?

2016/5/12

レスターのプレミア・リーグ優勝を心から祝福したい。岡崎慎司選手は、成し遂げた偉業を信じられないほど喜んでいるが、一方で、ジェイミー・ヴァーディ選手やリアド・マレズ選手のようなチーム・メイトが活躍し成長する脇で、自分が5得点に終わった(5/8、第37節終了時点)ことを悔しがっている。おそらく、喜びが大きい分、悔しさも深いのではないだろうか。だが、これが彼の来季の活躍につながる。みなさんも、そう思われると思う。良くても悪くても現状に満足せずに、さらに上を目指す並外れた向上心。これが岡崎選手の魅力なのだ。

 

なんて具合に、一人、悦に浸っていたところに冷水を浴びせたのは次の記事だ。

 

ソフトバンク、米子会社株で1531億円損失  5/10 日経電子版無料記事

 

抜粋は以下のとおり。

 

ソフトバンクグループは10日、2016年3月期の単体決算で、傘下の米携帯端末卸、ブライトスターなどの株式を減損処理し、1531億円の株式評価損を計上すると発表した。… 今回の評価損は、ソフトバンクグループの連結決算には反映されない。

 

「え〜っ、また、やったのか?」と思ったが、完全に僕の勘違いだった。今回の“連結決算には反映されない”理由は、前回とは異なり、「連結上、すでにそれに相当する損失は計上されている。改めて減損損失を反映させるとダブることになる」ためであることが分かった。“前回”とは、覚えておられる方もいらっしゃると思うが、米国子会社のスプリントの減損処理の件だ。

 

 

以下、この過程を記載する。まずは、疑問が湧いてきた様子から。

 

このブログでは、昨年の2月に、ソフトバンクが米子会社スプリントが2014/12期に計上した減損損失を連結に反映させなかった会計処理を検討した。ソフトバンクは、子会社が単体決算で減損と判断したものを覆し、スプリントが行った減損処理をソフトバンクの連結決算で取り消したのだ。もしかして、2年連続で、また、同じようなことをしたのか?

 

会社の公式説明としては、「会計基準の相違により、US-GAAPで減損されるものがIFRSでは減損にならないため」とされていた。しかし、疑問を感じたので、検証してみたのだ。

 

僕の結論としては、この処理が容認されるには、「親会社であるソフトバンクのレベルで、スプリント業績向上の秘策が、すでに、そして密かに進行している必要がある」みたいなものだった。減損テストにおいて、子会社のスプリントには見えていないが、連結レベルで親会社には認識できる追加の将来キャッシュフローの存在が必要と考えた。その追加の将来キャッシュフローのおかげで、親会社のレベルでのみ、減損が否定できたのだろうと想像した。

 

実際にそんな秘策があったかというと、なかったようだ。その後の経過を観察していたが、僕が期待したような、スプリントに不足する経営資源を補完し劇的な業績改善につながるM&Aのような案件は、その後、公表されることはなかった。今考えてみると、その半年ほど前に、マルセロ・クラウレ氏を外部からスカウトし、新しくスプリントのCEOに迎えたことが、その僕の言うところの秘策だったようだ。孫正義氏は、クラウレ氏とともに、スプリントの地道な経営改善、顧客獲得とコスト削減を積み上げている。(但し、それが許されるなら、US-GAAPでも減損不要だったのではないか、との疑問を感じるが…)

 

しかも、今回減損された“ブライトスター”は、そのマルセロ・クラウレ氏に関連して購入した株式だ。その減損損失を、連結に反映させないとは、一体どういうことだろう?

 

 

そして、この疑問が解消された過程が次の通り。

 

新聞報道のネタとなったソフトバンクの開示を確認してみよう。そこにもっと詳しい情報があるに違いない。

 

当社個別決算における関係会社株式評価損(特別損失)の計上に関するお知らせ
ソフトバンクグループ
HP 5/10

 

ポイントは次の箇所。

 

連結決算(IFRS)では、Brightstar Corp.の業績は子会社として連結損益計算書に反映されています。このため、上記の関係会社株式評価損が連結業績に与える影響はありません。

 

これ、連結会計の初歩だ。「そうか、連結手続の中でもう反映されてるんだ」と、ここでようやく気がついた。

 

親会社が計上した連結子会社株式に対する評価損は、連結開始仕訳で取り消し、その代わり、連結財務諸表に引き継ぐ子会社の利益剰余金を直接減らす。その結果、上記の会社の説明にあるように、期末連結剰余金はその子会社株式評価損を計上した場合と同じ金額に調整され、かつ、その損失は子会社株式評価損ではなく、(子会社に関係する事業の)業績の悪化として、損益計算書に表現される。

 

これにここまで気付かなかったとは、ちょっとショックだ。

 

 

実は、今回の記事を書き始めた時は「(冒頭の)新聞記事の表現が悪い」が結論になるかもしれないと思っていた。しかし、事実は「会計士として恥ずかしい初歩のミス、勘違い」だった。思えば、連結実務から遠ざかって、早くも5年の月日が経とうとしている。僕の会計脳がサビつき始めたことは否めない。

 

でも、「良くても悪くても現状に満足せずに、さらに上を目指す」岡崎選手なら、「錆びたら磨き直せば良い」と、事もなげに言うに違いない。「そんなこと、簡単だよ」と。そうか、簡単だ。なんかホッとする。

 

岡崎選手の楽観と飽くなき向上心。そういえば、孫正義氏もそんな人だ。将来に期待させる。改めて、ソフトバンク株は、まだ売り時ではないと思った。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 もし、ご関心のある方は、以下の記事をご覧いただきたい。

 

437.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~疑問 2015/2/7

 

さらに興味を持たれた方には、次の記事もある。

 

438.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~検証~資金生成単位の見直し① 2015/2/9

439.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~検証~資金生成単位の見直し② 2015/2/11

440.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~検証~減損テストの支配権 2015/2/13

441.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~あと書き 2015/2/17

442.ソフトバンクのスプリント減損の不計上~補筆~なぜ、固定資産の減損テストに子会社株式の公正価値を使うのか 2015/2/18

 

 

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