番外編

2017年7月19日 (水曜日)

585【番外編】重要性のない子会社に潜む悪魔-富士フイルム

2017/7/19

一昨日、日経電子版での『富士ゼロ会計不祥事、HDの責任追及「不十分」 *1という記事を読んだ。「そうだそうだ」と思い、改めて、先月富士フイルムホールディングスに提出された第三者委員会報告書*2を読もうと思った。“改めて”というのは、一回挫折したのだ。この報告書、AAだのHHなど、短縮略号・記号が多すぎて、内容が頭に定着しない。僕の頭は、ワーキング・メモリーの容量が乏しいので、この手の文書は苦手だ。更に言えば、会計処理の記述が分かりにくい。

 

さて、文句は脇に置いて話を進めよう。

 

真正面から勝負を挑んでダメな場合でも、ほかの方法でなんとかなることがある。そこで、目次を眺めながら「僕が本当に興味があるのはどの領域だろう」と考えてみた。要するに、全部読むことは諦めて、関心のある領域に集中することにした。妥協したのだ。

 

すると、次の領域に目が留まった。

 

第3章 FXNZにおける問題点
(注:“FXNZ”とは富士ゼロックスのニュージーランドの会計単位、2つの子会社を同国において連結したもの)

 

第10章 会計監査人による監査

 

その結果、異常な会計処理の内容(粉飾の具体的手口)と、監査人の監査対応に関する第三者委員会の評価に関心を持っていることを、自分で自覚することになった。

 

みなさんは「冒頭の“HDの責任追及”、即ち、企業統治の話はどうなった?」とご不満かもしれない。しかし、その前にこの問題の性質・本質を僕なりに理解したいのだ(と後付けで解釈した)。企業統治の話はこれを理解した後が良かろう。もし、上記の2つの章を読んで、まだ企業統治への関心が続いていれば企業統治へ話を進めれば良い。(だが、きっと気力が続かず事切れるだろう・・・)

 

というわけで、全部で12章もある報告書をたった2章で済まそうという僕のいい加減さに呆れない方は、どうぞ、この先をお付き合いいただきたい。とりあえず、これらの概要を記載することにして、力が残っていれば、続きを次回以降に繰り越したい。

 

「第3章 FXNZにおける問題点」の概要

 

FXNZについては、純資産を318億NZドル(75%の持分比率を勘案し2016/3/31基準日で換算すると185億円)の減額修正を要するとしており、そのうち、247億NZドルは“リース取引に係る会計処理の修正等”によるものとしている。

 

富士フイルムは米国会計基準を採用しているが、日本のリース会計基準でいうところのオペレーティングリースとファイナンスリースの区分に問題があり、本来オペレーティングリースとして契約期間にわたって収益認識すべきものを、ファイナンスリースとして契約時にリース料総額を一括して売上計上していた、ということのようだ(社内でMSA契約・GCSA契約と呼ばれているものが対象)。

 

オペレーティングリースは長期契約であっても(レンタル)サービスの提供として、サービス提供期間にわたって収益を期間配分すべきだ。しかし、それを物品販売のように一時に売上計上していた。したがって、収益の計上が年単位で早過ぎたことになる。大胆な粉飾だ。巨額(=247億NZドル)になるわけだ。

 

しかも、これらの契約ではリース料はコピー機等の使用量に応じて回収される契約になっていた。そのため、契約時に見積使用量を計算して売上計上していたがこれが過大であったり、また、最低使用量が決まっていても顧客側に義務を負わせる契約でないため、コピー機等の原価を回収できないものまであったらしい。要するに、売上時のリース料総額の見積もり(=売上高)が過大となっており、その相手勘定の売上債権(=リース債権)の回収可能性に問題が発生していた。これらについてリース料債権を減額したり、貸倒引当金の追加計上が必要とされている(それぞれ23億NZドル、12億NZドル)。

 

上記のほか、いわゆる未受注・未出荷売上のようなもの(架空取引を含む)で23億NZドル、費用の繰延べに係る不正処理12億NZドルが指摘されている。

 

以上が、上述の318億NZドルの内訳となる。

 

同種の問題はオーストラリアでも発生しており、その必要修正額は111豪ドル(持分比率を考慮した2016/3/31時点の円換算額は96億円)となるという(第4章)。全て合計すると、日本円で281億の純資産のマイナスとなる。(なお、これら以外に、付随してリース資産の減損や税効果に関するさらなる修正が必要になるが、この報告書では金額を算定していない。)

 

 

「第10章 会計監査人による監査」の概要

 

会計監査人は、2016/3期までが会計事務所1-1*3、2017/3期から会計事務所2-1*3が担当しており、海外子会社はそれぞれの海外メンバーファームが行なっている*3。連結監査においては、ニュージランド子会社もオーストラリア子会社も、親会社(=富士フイルムホールディングス)の監査責任者(監査報告書に署名する公認会計士)が、これらのメンバーファームの業務を、監査上の重要性を考慮して管理する。また、両子会社とも各国の会社法の規定による法定監査も受けているという。

 

この報告書では、日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書600号「グループ監査」に照らして、会計事務所1-1や2-1の評価を試みたようだ。しかし、限られた期間に過去数年にわたる詳細まで調査することは現実的でないと判断し、結論は留保している。

 

以上がこの章の概略だ。

 

思わず引き込まれたのは、この事案が現地ニュージーランドで報道され(2016/9/22)、その情報が会計事務所2-1にもたらされた後の、会計事務所2-1の対応について記載された部分だ。会計事務所2-1は、2017/3/21、ついに不正に関する追加の調査が必要である旨、富士フイルムホールディングスの経営陣へ正式に通知した。

 

しかし、この問題を理解する上で僕が重要と思ったのは、親会社の監査責任者が各現地監査人の専門能力や業務をどう評価するか、および、連結子会社のグループ監査上の重要性の評価に関する記述だ。特にニュージーランド子会社は、いずれの監査人にも、この件が発覚するまで重要性なしと判断されていた。

 

この報告書は、複数の財務数値などに基づいて行われたというこの重要性の判断について、具体的な問題を指摘していない。仮に僕が調査したとしても、指摘できないだろう。しかし、どうも引っかかる。どうもすっと先へ進めない。

 

というのは、この問題のニュージーランド子会社が法定監査の対象になっているからだ。現地監査人は、法定監査において、この子会社の業務内容(経営環境、業務フロー、内部統制、および会計処理プロセス)をどのように理解していたのか。法定監査は連結監査とは別物なので、グループ監査上の重要性の基準とは別に、法定監査のための重要性、即ち、遥かに細かい基準値を利用して、会社を理解しチェックしていたはずだ。上記のリース取引区分のような本業の根幹の問題に気づく機会、リスクを感じる機会はなかったのだろうか。

 

何れにしても、今後、親会社監査人が行うニュージランド事務所の専門能力や業務の評価は、今までと同じ「メンバーファームなので限定的な手続きでOK」というわけにはいかなくなるのではないか。いや、ニュージーランドだけではないかもしれない。例えば、日本の会計事務所から派遣された駐在員が安いスタッフを使って数日で監査を仕上げる、現地事務所での審査も特別扱いで緩い、監査報酬も激安、みたいな実態があるかどうかわからないが、もしあるなら、そうした現地会計事務所の評価は、メンバーファームであっても特別な注意が必要になるのではないか。

 

さて、こんなことを書きながら、ちょっと後ろめたいものを感じている。実は、僕も監査人だった頃、重要性のないものを軽視していたからだ。当時も「重要性のない子会社こそが危ない」と、審査部門から口を酸っぱく何度も言われていた。しかし、僕は、そのたびに「重要性がないものには重要性がないんだよ」と、叫んでいた。もちろん、心の中で。マンパワーもないし、コストの無駄使いに繋がることは極力避けたかったのだ。

 

しかし、改めて考えてみると、本業でない事業をひっそり行っている重要でない子会社であっても、粉飾が発覚すると連結財務諸表に相当なインパクトを与えることがある。最近では、この富士フイルムのように、株主総会までに監査報告書が入手できず、有価証券報告書の提出期限を延長しなければならないような大事になる。

 

覚えていらっしゃる方も多いと思うが、次のような事例がある。

 

 ・本田技研工業

誰もが知る超有名自動車会社だが、子会社のホンダトレーディングの食品事業部で150億円の損失(2011年)。このニュースが流れるまで、ホンダに食品事業があることを知っていた人は少なかったと思う。詳細は同社ホームページ

 

 ・メルシャン

これも有名ワイン会社で当時はキリンの上場子会社(この反省からキリンが100%子会社にした)。地方の水産飼料事業で循環取引が発覚、65億円の損失(2010年)。同事業部は、メルシャンの子会社ではなく事業部だが、本業とかけ離れており、メルシャン社内での関心が薄かったとされている。詳細は第三者委員会報告

 

 

監査上の重要性の判断は、会社およびそのグループの事業内容(事業環境、内部統制、会計処理プロセスなど)を全て理解していることが前提で、金額基準はその上で成り立つものだ。これは、外部監査も内部監査も同じだと思う。

 

そう書くのは簡単だが、実行にはコストがかかる。規模が大きい会社ほど大変だ。しかし、やらなければならない。経営者がそのコストを低く抑えたいのであれば、社内コミュニケーションが重要だ。部門・子会社の垣根を低くして風通しを良くし、光が当たらない影の部分を減らす努力をするのが賢明だと思う。(これが賢明な策なのは、“監査のため”ばかりではない。)

 

 

ここまで考えて、改めて、今回の第三者委員会報告書の目次に戻って眺めてみると、さっきと違って見えてくる。

 

読み飛ばした第5章から第9章、第11章には、きっと、富士ゼロックスの隠蔽体質・風通しの悪さが、特にアジア・パシフィックエリアの組織を中心に、色々な角度から記載されているのだろう。そしてその改善に積極的に取り組まなかった富士フイルムホールディングス経営陣への批判も記載されているに違いない。そして最終章の第12章には、社風を変えるための組織改革とか、内部監査体制の改善とか、内部通報制度などが記載されているのではないかと思う。

 

ん〜、ここまで整理できるとだいぶ読みやすそうだ。じゃあ、もう一度チャレンジしてみようか。

 

いや、多分しないと思う。僕のパソコンの中でもう1ヶ月以上開きっぱなしになって、貴重なメモリを占有し続けているこの第三者委員会報告書のPDFファイルを早く閉じてしまいたい思いが強いのだ。でもその気持ちを抑えて、リース会計にかかる粉飾のところを、次回、もう少し詳しく書いてみようと思う。

 

富士フイルムホールディングスは米国会計基準を採用しているが、リース会計に関しては、日本基準とそう違わないはずだ(僕の記憶だが)。それをお読みいただければ、ニュージランド子会社の会計基準の解釈の何が悪いのか、そして、僕が“大胆な粉飾”と書いた理由について、もう少しわかっていただけるように思う。

 

 

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*1 この記事へのリンク。

 

富士ゼロ会計不祥事、HDの責任追及「不十分」  7/17 日経電子版有料記事

 

有料記事の内容を記載することは憚られるが、最終段落の見出しが(富士フイルムホールディングスの)「ガバナンスは最低ランク」であり、その文章の最後が『カーン氏は「株主の代表である社外取締役が最高権力者の古森氏を監督するガバナンス体制作りが何より必要だ」と指摘する。』であることを紹介しておこう。かなり辛辣に経営者を批判した記事となっている。

 

翌日の日経ニュースメールでは「これでよかったのか 富士フイルムの富士ゼロ不正対応」というタイトルで、同じ記事へのリンクが配信されていた。

 

*2 富士フイルムへの第三者委員会報告書へのリンク

 

(差替)「第三者委員会調査報告書の受領及び今後の対応に関するお知らせ」の ファイル差替について 6/12 同社ホームページ

 

*3 監査法人の名称がなぜか報告書に記載されていないが、次のようになる。

 

会計事務所1-1 = 新日本有限責任監査法人

会計事務所1-2 = アーンスト・アンド・ヤング(EY)のニュージランド事務所

 

会計事務所2-1 = 有限責任あずさ監査法人

なお、あずさ監査法人はKPMGのメンバーファームなので、会計事務所2-2はそのニュージランド事務所と思われるが、会計事務所2-3という記述もある(P177)。僕にはそれが何を指すのかよくわからなかった。

 

 

2017年6月28日 (水曜日)

584【番外編】「粉飾の傷口広げた“第三者”の助言」

2017/6/28

前回(5/16)、東芝のことを書いて自損事故を起こしたような気持ちになった(=自分で自分の気分を悪くした)僕は、もう2度と東芝に触れまいと思っていた。しかし、日経ビジネス(6/26号)の「粉飾の傷口広げた“第三者”の助言」という記事を読んで、また戻ってきてしまった。ありえない、と思いたい。

 

この記事は、4つのパートの2つ目、即ち、起承転結の“承”の部分に当たる。内容は、デロイトトーマツが、ウェスティングハウス社に関連する減損損失不計上や、有償支給取引を利用した“バイセル取引”という不正行為の隠蔽に関連した助言を行い、当時の東芝の経営陣が監査人を欺く手助けをしていたというのだ。それだけではない。前回の記事に書いた「第三者委員会の調査対象から原子力事業を外した東芝経営陣の判断の軽さ」にも関わっているという。これらが、東芝が真面目に問題に向き合う機会から遠ざけ、その傷口を広げた、というわけだ。

 

これらは新しい話ではない(=以前から日経ビジネスなどが主張していた*1)が、今回のように問題全体の中で整理されると説得力が増す。

 

これが事実なら、業界を代表する大監査法人(の実質的子会社)が、自らの利益のために、公認会計士の社会的存在意義を否定するような反社会的行為を行ったことになる。東芝同様、監査法人トーマツも天に唾を吐いたのか。

 

おっと、待て。日経ビジネス誌の巧みな論理展開と熱い主張の勢いにのまれて大事なことを忘れてないか。そう、情報を理解し受け入れるには検証が必要だ。

 

 

そこで冷静に読み返してみると、デロイトトーマツに関連する記述は直接的な証拠・事実を押さえておらず、状況証拠から推測したものになっていることに気づく。例えば、日経ビジネス誌は、契約案件「名」は入手できたが、契約の詳細とか、その契約による成果物は確認できていないようだ。だから、東芝の社内メールや粉飾隠蔽のマニュアルなどの間接証拠からキャッチーなキーワードを取り出して、デロイトトーマツと関連付けている。即ち、東芝がデロイトトーマツに何を依頼しどんな助言を受けたかは、具体的な事実として記事になっていない。だが本来は、それこそがデロイトトーマツ関与の決め手だろう。

 

日経ビジネス誌は状況証拠から問題提起型のストーリーを作り、それに沿って入手した材料を解釈しているようだ。従って、そのストーリーが正しいかどうかについては、読者が判断することになる。

 

でも、どうやって?

 

それは日本公認会計士協会や公認会計士・監査審査会の検査だと思う。日経ビジネス誌には、取材上の限界があるが、これらの検査では監査法人内のあらゆる情報を入手できる。契約前のプレゼン資料から契約内容の詳細や遂行プロセス、その成果物(助言の内容も含む)も閲覧できるし、監査法人には「そんなものはありません」と言い訳することは許されない。財務省や文科省とは違うのだ。保管してなければ、それ自体が重大な問題だ。

 

ただ残念ながら、これらの検査では個別の案件について「〇〇は白でした」などと分かりやすい結果報告はしてくれないかもしれない(“黒”なら、その内容がある程度公表される)。でも、もし、これらの、通常は決まり文句しか記載されない検査結果に余計な記述があれば、そこは日経新聞がきっちり取材し報道してくれるだろう。それを待つしかない。いつ検査が行われ終了するかは分からないが、必ず行われるはずだ(もう行なっているかもしれない)。そして、早く白黒がはっきりすることを期待したい*2

 

 

何れにしても、繰り返しこのような報道がなされることの影響は大きく、この先、トーマツのブランド毀損は免れないのではないか。そして、このようにタチの悪い話は監査法人のブランドに留まらず、公認会計士全体や監査制度への信頼にも影響しかねない。

 

そう考えると、トーマツには説明・釈明の機会があっても良いと思う。だが、記事によれば秘守義務があるためにトーマツ関係者は取材に応じていないようだ。昔は秘守義務が会計士や監査制度を守ったかもしれないが、社会一般に情報開示が進んだ今もまだ同じだろうか。

 

やるべきことをやっている、或いは、問題があったので改善した、などとタイミング良く知らせる方法があると良いのだが。日本公認会計士協会や公認会計士・監査審査会の検査が、企業の第三者委員会調査のようにタイミングよく機能すると良いかもしれないが、現実的でない。それより外部法律事務所に調査を依頼し報告書をまとめてもらうといった対応が、秘守義務に抵触しないでできると良いと思う。

 

今日は東芝の株主総会が開催される。長期保有株主の方々は、この日経ビジネスの記事を読んでどんな感想を持たれただろうか。会計士に愛想をつかしていなければ良いのだけれど。それを想像すると、また自損事故を起こしたような気持ちになる。会計士が業界内で生臭く共食いしてる、或いは、会計士のコンサルはなんでもありだ、みたいなイメージが定着しないことを祈りたい。

 

 

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*1 このブログでも、以前、この件に関連する文藝春秋の記事を扱ったことがある。

 

556【番外編】3/15公表の東芝報告書と文藝春秋の記事をざっと読んでみた。2016/3/16

 

*2 白か黒か、早く結果を公表してほしい。

 

*1の記事にも記載したが、僕の経験からは、日経ビジネス誌が主張するような内容の契約が、監査法人の受注承認プロセスを通過できるとは思えない。一方で、いかに良いルールでも、その目的が正しく理解され賛同されない限り、不正な運用がなされる可能性がある。

 

したがって、日経ビジネス誌が問題提起型の報道をするのは、マスメディアの役割として大切なことと思う。しかし、社会全体としては、それだけでは中途半端だ。結果に白黒をつけ、黒であれば責任を取るべき人に責任を取らせ、再発防止を図るところまで見届ける必要がある。白であれば嫌疑を晴らしてもらわなければならないし、おそらく、この問題の起承転結には別の“承”があるだろう。日経ビジネス誌や他のマスメディアには、そこまでのフォローを期待したい。

 

このようにメディアの関心が続くことで、日本公認会計士協会や公認会計士・監査審査会などの検査も洗練されていくと思う。だが、社会の関心がそこまで続くかが問題だ。途中で忘れ去られてグレーな印象だけがもやっと残る、というのが最悪だ。

 

というわけで、検査結果を早く、分かりやすく公表してほしいと思う。

 

 

2017年5月16日 (火曜日)

583【番外編】東芝の意見不表明レビュー報告書

2017/5/16

僕は、投資家としては、東芝に興味がない。しかし、意見不表明経験のある元監査人としては惹きつけられる部分もある。東芝の監査人はどんなレビュー報告書を書いたのだろう。

 

しかし、「粉飾発覚 監査人交代 また粉飾発覚 意見不表明」 の流れからすると、レビュー報告書を読むことは、癌の告知を聞きに行くようなもの、いやいや、最近癌は治る病気になっているのでこの表現は適切ではない、要するにとても希望のない作業となる。だから、ずっと先送りにしてきた。

 

そんな時に次の記事に接した。

 

東芝、15日に3月期業績概要を公表 監査法人意見付かず  日経電子版 5/12

 

意見不表明のレビュー報告書は2016年度第三四半期決算に関してだが、年度の決算についても(現時点では)監査意見がつかないという。だが、みなさんも、この程度の見出しでは驚くまい。「ああ、そうなったか」という程度の感想ではないだろうか。なるべくしてなったのだ。東芝は天に向かって唾を吐いたのだから、自分の顔が汚れても仕方ない。

 

それにしても、汚い唾だ。あれから3ヶ月経っても落ちないのだから。一体、どんな汚れ方をしたのだろう。という興味が湧いて、ようやく、このレビュー報告書を読む気になった。今回は、その報告をさせていただこうと思う。

 

 

焦点になるのは「結論の不表明の根拠」第2段落の次の記載だ。

 

 継続中の評価の対象事項には、注記19.企業結合に記載されている、2016年度第3四半期末における四半期連結貸借対照表計上額495,859百万円の前提となる取得日現在の公正価値635,763百万円の工事損失引当金について、当該損失を認識すべき時期がいつであったかを判断するための調査に対する当監査法人の評価も含まれている。また、その他にも当監査法人の評価が終了していない事項があり、これらの影響についても、確定できていない。

 

少し分かりやすく書くと次のようになると思われる(正確ではないかもしれないが)。

 

 まだレビュー手続が終わっていないのは、連結B/Sの工事損失引当金約5千億円に関してで、特に、この損失をどの時期に計上すべきであったかが不明である。これ以外にも不明な点が残っている。

 

Edinetを見る限り、東芝はこの企業買収を行なった2015年度や、2016年度の第1四半期、第2四半期の開示書類について、この問題に関する訂正をしていない。したがって東芝としては、この2016年度の第3四半期に全額損失計上するのが正しいと判断したと思われる。しかし、監査人はそこに納得していない。

 

みなさんは、この監査人の意見には同感されるのではないか。総額6千億円を超える複数案件の巨額の工事損失が、まるで災害にでもあったが如く、この第3四半期一期間に集中して生じたとはとても信じがたい。

 

一方で、第1四半期や第2四半期にいくら損失が発生したかは不明であっても、第3四半期P/Lは、4月から12月までの9ヶ月間を対象としているので、第3四半期のP/LとB/Sは正しいのではないか、と思われる方もいらっしゃると思う。それなら、第1四半期や第2四半期はダメでも、第3四半期のP/LとB/Sには意見表明しても良いのではないか、と。

 

これについて監査人には、おそらく次のような危惧があったと想像される。

 

・3ヶ月情報の重要性

開示資料から3ヶ月単位の売上高や利益などの業績指標を計算し、その推移を分析することが一般的であることを考慮すると、四半期財務情報には、どの四半期に損失が生じたかが正確に表現されていなければならない。しかし、その確証が得られない。

 

・その時点の経営者の最善の見積もりを後から再現することの難しさ

いわゆる“経営者の見積もり”という会計手法の弱点だが、このような問題があって遡求修正が必要な場合に、各々の決算当時に遡って、その当時に知り得た情報のみで会計上の見積もりをやり直すということは、意外に難しい。時の経過と共に新しい情報に更新され、新しい事象が発生し、試行錯誤していたことにも結果が出ている状態から、それらの影響を一つ一つ引き剥がして元に戻していくことは、古い絵画や遺跡を修復するような作業であり、極めて手間・暇がかかる。

 

・2015年度に損失が生じていた可能性

この企業買収(=WECによるS&Wの買収)は、当時米国原子力事業が抱えていた訴訟問題を一挙に解決する起死回生の策として実行されたが、そもそもその判断があまりに楽観的すぎたのではないか、さらには、問題の本質を隠蔽する意図があったのではないか。WECの経営幹部が会計上の見積もりにプレシャーを与えたという内部告発は、そういう可能性を示唆していると監査人がリスクを感じても不思議はない。

なお、東芝は米国弁護士などに依頼して、約60万件のメールをチェックしたり、数十名のインタビューをするなどして、過去の決算に訂正は不要と判断している*1。しかし、監査人はその判断をそのまま受け入れなかったのだろう。これには検証が必要だ。この損失の質的・量的重要性を考慮すると、手間のかかる検証手続が想像される。

 

恐らく、東芝と監査人は、これらについてお互いの意見をぶつけ合い、監査スケジュールの見通しなどを検討したことだろう。ところが納得が得られず、ついには、東芝が一時会計監査人の選定、即ち、監査人交代までしようとした。だが、問題を改善するための原因追求と正しい開示のためには、東芝も監査人も相当な時間が必要、というのが、僕の妄想の結論だ。

 

改めて残念に思うのは、2年前、2015年に最初の粉飾が疑われ第三者委員会を設置した時に、原子力事業を調査対象から外した東芝経営陣の判断の軽さだ。その後も外した理由の説明さえない。そして、それが尾を引いて今の問題につながっている。この問題が発覚するまで原子力事業は好調だと言い続けていた。まさに、唾を吐き散らし続けてきたのだ。

 

僕の記憶が正しければ、2月に、東芝が上場を維持するために、メモリー事業を分離して売却するというニュースが流れた時に、日経プラス10のキャスター山川龍雄氏は次のようなコメントを述べた(記憶なので正確ではない)。

 

東芝は上場にこだわるより、しっかり出直した方が良い。即ち、一旦非上場になって、しっかり再生することに集中した方が良い。

 

全く賛成だ。というか、すでに現時点で上場会社であるべきではないように思う。投資家、或いは、監査人という立場からすると、撒き散らしているのは、唾というより、毒かもしれない。次は東証の判断が注目される。

 

 

ん〜、みなさんは、僕の東芝批判を読んでとても嫌な気持ちになったかもしれない。大変申し訳ない。実は、書いてる僕も自己嫌悪だ。そして恐らく、一生懸命やっても意見不表明という結論しか得られなかった監査人もやりきれない思いでいることと思う。とにかく、「粉飾+意見不表明」は、誰にとっても最悪の組合せじゃないかと思う。

 

 

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*1 日経電子版の以下の記事による。

 

東芝、適切な監査に疑問 上場維持へ苦渋の選択 4/26 有料記事

 

 

2017年2月16日 (木曜日)

582【番外編】東芝ドタバタ劇場

2017/2/15

日米でドタバタが世間の注目を集めている。両者の共通点は、情報開示が規格外なことだが、相違点は動機だ。自国民のためにやっているトランプ大統領に対して、東芝は保身に手一杯で、周囲にまで思いが及んでいないようだ。

 

 

すでにみなさんもご存知の通り、東芝が決算発表を1ヶ月延期した。もし詳しい経緯が知りたい方は、例えば日経電子版の無料記事*1、シンプルに延期理由を知りたい方は、Reutersの記事*2がコンパクトだ。東芝のホームページにはプレスリリース*3が開示されている。

 

これらを読んでみると、どうやら、ウェスチングハウス経営者が会計上の見積もり(2015/12の原子力施設建設会社の買収資産に関連したもののようだ。特に未成工事支出金が疑われる)に不適切なプレッシャーを与えていた可能性があるらしい。要するに粉飾決算の可能性が示唆されている。内部通報は1/8と1/19にあり(タイミングからすると、連結パッケージに絡んでいるようだ)、通報者へのインタビューは1/28に行われたという。しかし、まだプレッシャーの存否やその影響の大きさに関する評価が終わらない。経営陣は、この状況を決算発表予定日の前日、すなわち、2/13の午後に把握したという。

 

なぜすぐ(2/13)に決算発表や四半期報告書提出の延期を申し出なかったのか。なぜ決算発表開始時間を過ぎてもなおバタバタしていたのか。

 

以下は、全く想像に過ぎないが、あえて書こうと思う。というのは、これは単なる企業情報開示の問題ではなく、企業がその存在を社会に許されている原点・理由を東芝上層部が忘れているように見えるからだ。すなわち、重症なのは財務状況だけではない。

 

13日に分かっていたことへの対応が、14日の昼過ぎまでバタバタしたのは、その現実を受け入れ、如何に対応するかについて、東芝の上層部がまとまらなかったからだと思う。予定通り決算発表を強行しようとする一派がいて、そんな状況ではないと対抗するもう一つの派とせめぎ合い、時間切れが後者に味方したと想像される。

 

しかし、報道やプレスリリースなどを見る限り、常識的に後者の対応が当然ではないだろうか。それ以外に選択肢があったように思えない。それにも関わらずここまで縺れたのは、前者の勢力が強大だったこと、すなわち、前者が東芝上層部の主流派・多数派だったから、と想像される。後者は、時間の助けを借りてギリギリ主張を貫いた、という感じがする。(だからといって、後者が今後の主導権を勝ち取ったとは限らない。)

 

今回の東芝の決算は減損金額の確定が予告されていたことや、内容によっては日本の原子力戦略に影響を与えかねないために、世間の注目を集めていた。それを分かった上でもなお繰り広げられた東芝ドタバタ劇場は、その主流派・多数派が如何に世間常識から外れ、自己中心的で閉鎖的な井の中の蛙集団であったかを示しているように思う。

 

 

TBS系列の日曜夜9時“日曜劇場”は、最近では「倍返しだ!」の『半沢直樹』が話題になるなど、永く世間の注目を集めてきた。遡るとかつては東芝が一社でスポンサーを務め、“東芝日曜劇場”と呼ばれていた。長い歴史があるのだ。

 

今回のドタバタ劇場も、繰り返されて長い歴史を刻んでいくのだろうか。主流派・多数派の頭の中を変えるのは容易ではない。しかし、東芝に残された余裕・時間はわずかしかない。

 

 

 

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*1 東芝迷走の1日 「不適切」の影再び 」(日経電子版 2/14

 

*2  東芝、決算発表を1カ月延期 提出期限延長を申請」(Reuters 2/14)

 

*3 第178期第3四半期報告書(自 2016年10月1日 至 2016年12月31日)の 提出期限延長に関する承認申請書提出に関するお知らせ (東芝ホームページ)

 

 

2016年11月 3日 (木曜日)

581【番外編】Pokémon GO

2016/11/3

みなさんは、Pokémon GO を楽しんでおられるだろうか。このゲーム、なかなか奥の深いところがあって、考えさせられる。もしかしたら、我々人間社会の縮図かもしれない。

 

プレーヤーを青・赤・黄の3チームに分けてポケモンをバトルさせ、チーム間で“ジム”と呼ばれるバーチャルな施設を奪い合うのだが、どうも多くの地域で青チームが圧倒的に強いようだ*1。しかし、恐らく、かなり多くの青チームのプレーヤー(以後、“青プレーヤー”と記載する)は、あまり幸せを感じてないと思われる。実は、意外と多くの青プレーヤーが劣勢である赤や黄プレーヤーより不遇なのだ。そのため、敵である赤や黄プレーヤーに、期待を託しているようだ。何を? それが信じられないことに、「青チームが支配しているジム(以後、“青ジム”と記載する)への攻撃を」だ。

 

こんなチーム戦にあるまじき思考がなぜ生じるのだろうか。それは邪悪な考えなのだろうか、それとも、何か前向きな意味があるのだろうか。ちなみに、僕は赤チームだ。

 

 

Pokémon GO にはポケモン採集や健康的な運動促進など色々な側面があって、もっと違う遊び方、楽しみ方もあると思うが、上記に関連する部分について、ちょっと書いてみようと思う。

 

僕の理解では、Pokémon GO は現実世界をゲーム盤に見立てたモノポリーのような面がある。 ジムポケモンのバトルに勝利して、ジムをより多く占有したチームのプレーヤーが、多くの利益を得られる仕組みになっている。そうしたプレーヤーは、ポケコインというゲーム上の通貨による配当を得られるのだ。一つのジムについて最大10名までがポケモンを配置でき、その10名が配当を受けられる。

 

ところが、そう単純ではない、モノポリーより複雑な面がある。

 

ゲーム盤を(青・赤・黄のいずれか)一色に染めてしまえば、そのチームが勝ちというわけではない。いや、仮に全てのジムが青一色に染められたら、即ち、すべてのジムが青チーム10名によって“完全支配”されたら、もはや青プレーヤーはポケモンのバトルができなくなる。バトルという楽しみが奪われる。それでも、ジムにポケモンを配置して配当をもらえるプレーヤーはまだいいが、配当をもらえないプレーヤーは、一切、配当をもらう道が絶たれる。青チームは貧富の差が完全に固定化される。

 

なぜなら、プレーヤーは自分が所属するチームが“完全支配”したジムを攻撃できないからだ。やってもいいが、徒労に終わる。何も得るものはない(というか、バトルさせたポケモンの元気を回復させるために、手持ちの道具を消費する分、持ち出しとなる)。というわけで、青プレーヤーはバトルという楽しみがなくなってしまうとともに、配当も増やせない。もはや、このゲームにおける自分の状況を向上させられない。

 

一方、赤や黄プレーヤーは、青チームのジムを自由に攻撃できる。青チームが支配しているジムがたくさんあるから、辺り一面にバトル・チャンスがゴロゴロある。ポケコインという金貨がそこら中に転がっているようなものだ。スマホ片手に、そこら中歩き回って良いポケモンをゲットし、進化・強化させてバトル力を高めれば、ゲームにおける自分の環境をいくらでも向上させられる。

 

青プレーヤーにはさらに悲劇がある。青ジムを、他のチームが攻撃するよう願うようになるのだ。即ち、味方の悲劇・損失を望むようになる。

 

例えば、もし、10人で完全支配している青ジムを赤プレーヤーが攻撃すれば、10人のうち何人かが削られて、ポケモンの配置に空きができるかもしれない。そうなれば、自分のポケモンを配置して配当をもらえるチャンスが出てくる。或いは、赤プレーヤーが完全に勝利して青プレーヤー10人全員のポケモンを削れば、そのジムは赤ジムになるので、青プレーヤーが攻撃できるようになる。バトルという楽しみ、配当への期待が復活する。

 

おまけに、青ジムの10人は、多くの場合、お互いに面識があるわけではない。中には、集団でジム・バトルを仕掛け、リアルな仲間でジムを支配することもあるが、大概は、たまたま同じ船に乗り合わせた程度の間柄でしかない。いや、お互いに顔も知らないのが普通だろう。

 

だから無理もない、不遇な状況にある一部の青プレーヤーは、味方の悲劇を願い、敵を応援するという居心地の悪い願望を持つようになる。中には、もう一つ、赤や黄チームのアカウントを持っていて、そのアカウントで青ジムを攻撃して仲間のポケモンを削って自分のポケモンの空きを作ってしまう青プレーヤーもいるようだ(青プレーヤーだけじゃないけど)。ここまでやると、本当に邪悪だ。

 

この状況は、まるで“独占”、或いは、“寡占”が経済に与える影響を表しているようだ。或いは、既得権者が支配する社会の縮図と言えなくもない。ジム支配にも参加できず、バトルする場を奪われた青プレーヤーは、息苦しいにちがいない。

 

ジムに参加し配当を受取っている青プレーヤーにとっても、Pokémon GO がつまらないゲームになってしまうと思う。もう何もやることがない。ポケモン採集しても、それを使う機会がないから、楽さ半減だ。そんな時に、赤や黄プレーヤーが青ジムを攻撃しているところに出くわすと、思わず、嬉しくなるだろう。「この野郎!」と思う反面、また「バトルができる」とほくそ笑むに違いない。

 

既得権者や支配層が入れ替わるなど、社会の流動化を促す現象を、人々が望むのは自然なことだ。だから、青プレーヤーが、ジムの既得権を持った仲間が他チームに削られるのを願うのは、自然なことなのだ。それによって、青チームの活性化が促される。赤や黄プレーヤーの活躍で、青プレーヤーも生き返る。

 

 

社会は、既存の枠組みを壊す新しい勢力が台頭できるようにしておかないと楽しくない。既得権がのさばり、強固なガードを築き上げてしまうと、変化も進歩も止まってしまう。階層が固定されてしまい、頑張っても報われないから、希望もない。Pokémon GO では、3つにチーム分けすることで、その固定化を防いでいる。

 

さて、日本社会は、現在どんな状況なのだろう。階層の流動性が失われてないか。新しいものが既存の“常識”によって排除されてないか。既得権が固定化されてないか。多数派の青をも楽しくする少数派の赤や黄の価値は尊ばれているだろうか?

 

という、疑問形でこの記事を書き終えるが、僕は、「尊ばれていない」と感じている。それは僕が赤チームだから、というわけではない。ニュー・カマーや新世代への注目やサポート、多様性の尊重などが足りないように感じるのだ。恐らく、みなさんの周囲でも、様々な場面でみられるのではないだろうか。(とまた、疑問形で終わる。)

 

 

 

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*1 青チームが強い理由は、青チームに所属することを選んだプレーヤーの人数が一番多い、という単純な理由によるものらしい。青チームが優遇されるようなゲーム上の仕様はないと思う。

 Pokémon GO を起動したスマホの画面は、 800m ぐらい先までの現実世界の地図に、ゲーム上のジムやポケスポットが表示されたバーチャル・リアリティになっている。例えば、電車の中でスマホの Pokémon GO の画面を見ていると、ほとんどのジムが青チームに支配された青ジムになっている。たまに赤ジム、稀に黄ジムがある。新幹線に乗っても同じ状況だ。

 

 

“ジム”とは、プレーヤーが捕獲したポケモンをバトルさせる場で、このバトルに勝つために、各プレーヤーはより多くのポケモンを探してGet、進化させ、強化する。バトルに勝つと、ジムはそのプレーヤーが所属するチーム(青・赤・黄の3チームがある)のものとなり、そのチームのプレーヤーはジムに自分のポケモンを置くことができるようになる。ジムにポケモンを配置すると“ポケ・コイン”と呼ばれるゲーム上の通貨で配当を得る権利を与えられる(実際に配当を得るには、別の操作が必要)。ポケ・コインは、ゲームを有利に進められるグッズ購入に使用できるので、とてもありがたい。

 

だが、オセロのように対面勝負のゲームではないから、ゲーム参加者(=プレーヤー)ははるかに多く、かつ、青・赤・黄の3チームに分かれているから、なかなか決着がつかない。ポケモンのバトルによってジムの占有は覆され、改めてジムを占有するための競争・バトルが繰り返される。但し、争いに敗れたプレーヤーが諦めない限り、だ。この点が重要だ。プレーヤーが諦めたらこのゲームは誰もいない寂しい世界になってしまう。

2016年9月27日 (火曜日)

580【番外編】日銀はやった。政治と国民は?

2016/9/27

先週日銀が公表した歴史的な政策転換について考えてみた。もちろん、僕は金融の専門家ではないので詳しいことはわからないが、どうも日銀は、(広義の)ヘリコプター・マネーをやってしまったようだ。政府が増発した国債を、日銀が買い入れる仕組みができてしまった。もはや、国債市場は国家財政の健全性に警鐘を鳴らしたり、健全性維持をサポートする機能を果たせなくなった。そのことを、政治家や国民はよく理解する必要があるのではないか。

 

 

総括的検証の結果、日銀が公表した新しい金融政策方針は、以下のように要約される*1

 

  1. イールドカーブ*2・コントロール
        
         従来の短期金利だけでなく、10年国債の長期金利までもコントロール対象とする。要するに、国債市場は短期から長期まで日銀に支配される官製相場となる。

 

短期は従来通り金融機関等から預かる当座預金に日銀が金利をつけることでコントロール(現在はマイナス0.1%)。長期は日銀が国債市場の売買取引に参加することで、当面、10年ものの金利をゼロ程度(=現状と同程度)で推移させることを目指す。

 

「長期金利はコントロールできない、市場に任せるしかない」というのが過去の日銀の立場だし、世界の常識だった。しかし、このイールドカーブ・コントロールによって次の状況となる。

 

この4年間大量に購入し続けたことで日銀には大量の国債があって、金利が目標を下回れば(=国債価格の上昇)売りを出してマーケットを冷やせる。

 

金利が上がり過ぎれば(=国債価格の下落)いくらでも買うことができる。というのは、年間80兆円という従来の国債購入枠は、実質的に取り下げられたからだ。枠より金利コントロールの方が優先される。

 

  1. オーバー・シュート型コミットメント

物価上昇率が2%を達成するまで上記の緩和を継続する(上記には記載していないが、他にETFやCP、社債などの資産買入れも7月の決定を継続する)。

 

従来は2年という目標達成期限を設けていたが、それを止めて、その代りに「達成するまで継続する」という“しつこさ”を全面に出したようだ。

 

 

本来であれば、政府が財政赤字を拡大させ国債を大量発行すれば、引受手がいなくなって金利が上昇する(=国債価格は下落する)はずだ。しかし、上記の金融政策によって日銀が国債を購入するので、その心配はなくなった。よって、政府はいくらでも赤字国債を発行できる。それを日銀が(形式的に市場を通して)全て引き受けてくれる。

 

この政策は、物価上昇率が2%を超えるまで続けることができる。2%を超えないと、永遠に続く可能性がある。そうなると、政府はデフレが続く限り実質的に国債の償還財源を心配する必要がなくなる。そして財政規律がボロボロに緩む可能性がある。

 

結局、これは(広義の)ヘリコプター・マネーと言えるのではないだろうか。

 

もはや、日本の財政規律維持に国債市場は貢献しない、と思う。このまま国家財政が悪化し続ければ、いずれ、円は国際的な信用を失い、暴落するのではないか。

 

あとは、政治家と国民が考えるしかない。デフレのぬるま湯に浸かりながら円の暴落を待つか、それともデフレから脱却し国債市場の機能を取り戻すか。デフレ脱却には、成長戦略に真剣に取り組むしかない。日銀は、我々にボールを投げたのだ。そもそも、アベノミクスの中で金融緩和の役割はカンフル剤であって時間稼ぎにすぎない。日銀はその役割を果たしている。

 

 

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*1 9/21に公表された日銀金融政策決定会合の「金融市場調節方針に関する公表文」は、以下のページに掲載されている。

 

金融市場調節方針に関する公表文 2016年

 

*2 (この場合は国債の)市場金利の期間別のグラフ、利回り曲線のこと。通常は、機関が長くなるほど金利が大きくなるため、右肩上がりの曲線となる。しかし、1月末のマイナス金利導入以降、長期金利が日銀の想定以上に下がってしまい、7月末の日銀会合までは、ほぼ、水平線となっていた。(8月からは若干長期金利が上昇している。)

2016年6月30日 (木曜日)

569【金融商品/番外編】英国EU離脱と欧州不良債権問題

2016/6/30

以前、「欧州には不良債権問題がある」と書いた*1。当時、欧州版の自己査定が始まるので、不良債権額が意外に膨らむかもしれない。新たな危機が生じないだろうか、と危惧したわけだが、大きく市場を揺るがすようなことはなかった。でも、くすぶっている。ん〜、熟成してきたというべきか。実は、蔵出しのタイミングも決まっている。2018年だ。まだ先だが、東京オリンピックよりは近い。

 

今回は、久しぶりにこのブログの本題であるIFRSにも絡む話題だ。

 

IFRS9の金融商品の減損についての規定が、2018年(に開始する事業年度)に適用される。すると、貸倒引当金の積増しが懸念されるのだ。みなさんもご存知かもしれないが、貸付金や売掛金などの評価規定が厳しくなる(“発生損失”から“予想損失”による減損計上へ変わる)。

 

非常に大雑把に言うと、現行IFRSの規定では、日本基準で言うところの、不良債権を認定して個別引当するようなケースしか貸倒引当金が計上されない。いわゆる、“一般繰入れ”の部分がほぼない。損失発生の事実を確認してから貸引計上するので、どうしてもタイミングが遅くなる(too little too late.)。リーマン・ショックの際にこれが批判されて、予想される損失を予め計上する考え方へ変更することになった。これが上述の2018年のIFRS9の改定(の一部)だ。

 

欧州の銀行は2014年に自己査定を始めたので、不良債権額は十分な精度で把握できるようになった。しかし、日本や米国から見ると、まだ引当不足の状態にある。それが2018年に解消され、積増しされる(ことが予想される)。そうなると、もっとも状況の悪いイタリアなどでは、銀行が資本不足に陥ることが予想される。これが蔵出しだ。

 

とはいえ、みなさんは「これと英国のEU離脱とは関係がないのでは?」と思われたかもしれない。僕もそう思う。しかし、現実には、次のような記事があって、どうも、この件を材料にしたヘッジ・ファンドの攻撃を心配しているようなのだ。

 

取り付け騒ぎ回避であらゆる手段=ユンケル欧州委員長 6/29 REUTERS

UPDATE 1-イタリア、銀行セクター支援策を準備 英EU離脱受け=関係筋 6/28 REUTERS

 

Brexitが確定した6/24以降急落していた欧州銀行株は、幸いなことに、6/28には一転反発した*2。これらの報道も影響したかもしれない。

 

マネックス証券のチーフ・アナリスト 大槻奈那氏(金融分野に強い)は、Brexitに関する最近のレポート*3の中で次のように指摘している。

 

中でもイタリアは、不良債権の総額は約30兆円と欧州の中でダントツである(図表5)。貸出に対する不良債権の比率は16.8%と日本の金融危機時を上回る高い比率となっている。引当金は計上されているが、不良債権額の約半分程度であり、残りは今後の損失に繋がりやすい。

 

・・・英国からの資本流出など悪い条件が重なった場合に、欧州側の金融システムの脆弱な部分(これがイタリアなど)にも刺激が及ぶ可能性が、指摘されている。それにしても、イタリアの状況は相当悪そうだ。

 

確かに、ヘッジ・ファンドが攻撃のネタにしそうな感じだ。単なる杞憂ではすみそうにない。恐ろしい話だ。でも、EUは対応の準備ができているようだ。これが大事。

 

金融市場は、変動することで実体経済の弱点を知らせてくれる。会計もそれに寄与している。これは便利な機能だが、行き過ぎると実体経済を過度に刺激し、悪化させる。これが難点だ。「Brexitなど、精々、関税がかかるぐらいなもので大したことない」と達観できれば、本当に大過なく過ごせるのだが、さて、どうなるだろうか。

 

特に、英国内、或いは、英国とEUの間で感情的なもつれが生じると、影響が大きく広がりそうだ。人々が冷静でいられるように祈るしかない。

 

 

 

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*1 404.【番外編】欧州の不良債権問題 2014/10/5

 

*2 欧州株は反発、金融株持ち直す 6/29 REUTERS

 

*3 BREXIT後の日・欧金融セクター:株価暴落の背景と今後 6/28 マネックス証券HP

 

 

 

2016年6月28日 (火曜日)

568【番外編】英国EU離脱とアベノミクス第4の矢

 

2016/6/28

実は、このブログも今週で6年目に突入した。その記念すべき最初の記事にふさわしくないのだが、今回は、全くのおふざけ記事になる。申し訳ない。

 

というのは、みなさんが、もう耳にタコができて、飽き飽きしている思われているであろう“英国のEU離脱問題”について書きたいのだ。おふざけでなければ、読んでもらえないだろう。僕の推理は、「これはアベノミクスならぬ、EUノミクスの隠された矢、“危機を煽って通貨安を誘導”する情報戦略の矢、情報操作の一環ではないか」というものだ。

 

世界中の権威あるニュース・メディアが悲観論を拡散しているが、ん〜、そんなに大変なことだろうか? これが、僕の率直な印象だ。英国の首相が辞任を表明し、EU主要国の指導者が失望感をあらわにするという凝った演出で、こんな小事を大事のごとく嘆き悲しむ結果、通貨ユーロとポンドは安値に沈み、そのうちに、英国とEU(特にドイツ)は輸出が増加し、経常黒字がチャリンチャリンと溜まっていく。

 

一方、円は“安全資産”などと言われて急騰し、日本株は下落し、アベノミクスが崩壊する。だが、日本もこれを参考に、金融政策、財政政策、構造改革の3本の矢に加え、情報戦略を第4の矢に加えたらどうだろう?

 

 

みなさんは「これが小事か?」と疑問を持たれると思う。なんせ、英国にとっては、第2次世界大戦後で最も大きな決断の一つなのだから。しかし、もし、英国と欧州の指導者が裏で結託していたらどうだろう。例えば、「英国はEUの単一市場からは離脱するが、安保・政治的な立場は従来通りEUと協調する」みたいな暗黙の了解があればどうか。

 

実際、安全保障は北大西洋条約機構(=NATO)による同盟関係が維持される。ロシア対応で協調できれば、英国と欧州は親しい友人のままでいられるのではないか。今後、英国は米国との結びつきを強め、対ロシアでは、より強硬な立場を強めるという見方をする専門家もいる。EUにとっては、内部に強硬派の大国を抱えるよりも、強硬な英米との間を取り持つような形でロシアと接する方が、心地良いだろう。

 

一方、単一市場から離脱した際に問題になるのが、関税や国際取引に係る規制や手続だ。英国とEUの間でFTAなどの貿易に関する取決めが(離脱通告から2年以内に)まとまらない場合、関税および貿易に関する一般協定(=GATT)のルールが適用されるらしい。

 

GATTのウルグアイ・ラウンドの合意に基づいて設立された世界貿易機関(=WTO)のアゼベド事務局長は追加負担が巨額になると警告した*1が、仮に全ての輸出に10%の関税がかかったとしても、為替レートが10%安くなれば相殺できる。上述の大芝居のおかげで、問題は軽くなるのでは? 日本と異なり、英国は通貨安が輸出増に直結する普通の経済構造がある*2ので、景気浮揚効果も大きい。(但し、輸入物価が上昇するので、消費者には、それに見合う所得増や政策経費が必要になるかもしれない。日本はアベノミクスで80円から125円の約5割の通貨安を経験したが、経常黒字が増えたのは原油などエネルギーの輸入価格の低下によるもので、景気は十分良くならなかった。)

 

国際取引に係る規制や手続、そしてサービス取引については、両者の意見が相違する分野となろう。しかし、英国の主要な不満の一つは、EU規制の細かさにあったわけで、EUと取引を継続するなら妥協が必要だし、むしろ、EU以外とは自由にやれると喜ぶことだろう。とはいえ、この分野の交渉は難しいし長引くに違いない。だが、これぐらいは仕方ないだろう。

 

このように考えてみると、ポンドが急落し、ユーロが連れ安するこの離脱問題は、英国やEUにとってそれほど悪いイベントではない。いやいや、もっと複雑な問題があると思うが、ロシアが重しになって、「なんとかの終わりの始まり」みたいな大袈裟なものにはならないかもしれない。なったとしても、たっぷり時間があるので、状況の進展に応じて対応を考えればよいのではないか。

 

 

しかし、そう悠長なことを言ってられない人々もいらっしゃるだろう。株や為替の取引をやっている方は(僕もそう)、思わず天を仰いだら日光で目眩しにあって、足元がふらついたような状況かもしれない*3

 

でも大丈夫。おそらく近日中に財務省のHPに、日本政府の貸借対照表が公表される。それを見ると国債が300兆も減っている。同時に、日銀が「300兆円の国債券を紛失し、同額の損失が発生しました」と臨時報告書を公表する。そう、ヘリコプター・マネーだ。日銀は大幅な債務超過に陥るから、きっと、円は大暴落するだろう。アベノミクスの第4の矢、情報戦略の矢だ。

 

海外の格付け会社が日本国債を格下げするが、損をするのは為替差損を被る海外の投資家だけ。そしてその後は、円が“安全資産”などと言われることは2度となくなるに違いない。(あくまで冗談。)

 

 

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*1 英国、EU離脱なら巨額の関税負担の可能性=WTO事務局長 REUTERS 5/25

 

*2 アベノミクスでは、円安が輸出を数量ベースで増加させなかった。そのため、円安の景気浮揚効果は限定的で、トリクル・ダウンが起こらなかった。しかし、英国経済は事情が異なるようだ。次のような報道がある。

 

英国EU離脱問題、期待できる好影響とは WSJ 2/23(多分、有料記事)

 

2008年の金融危機のポンド下落と翌年の輸出の増加、1992年の欧州為替相場メカニズム(ERM)脱退後のポンド急落とその後5年間の輸出の増加を例に挙げている。

 

4月の英貿易赤字は予想下回る120億ポンド、モノの輸出が大幅増 REUTERS 6/9

 

この記事にはないが、4月の対ドル平均レートは近年で最も安い(1.4310ドル/ポンド)。

 

 

*3 こんな報道もある。

 

円急騰で自殺者続出か 英EU離脱でFX投資家“数千万円損”も 日刊ゲンダイ 6/27

 

ちょっと大げさなタイトルになっているが、もし、本当にこのような個人投資家がいれば、ご愁傷様としか言いようがない。

 

 

2016年6月22日 (水曜日)

567【番外編】英国の大脳皮質

2016/6/22

Jリーグ第1ステージがいよいよ大詰めだ。先週末は、浦和レッズが優勝戦線に残れるかどうかを賭けて、因縁のサンフレッチェ広島と戦った。この好カードを、珍しく録画ではなくテレビ放送を直接見ようと思った僕は、ゲーム開始前の暇つぶしに他のチャンネルを窺っていた。すると、AKB総選挙が行われていた。

 

「16位、にゃんにゃん仮面」

 

ん!? 詳しくはないものの、AKBにそういうキャラクターがいるとは意外だったので、思わず、目が止まった。すると、にゃんにゃん仮面の正体は、僕が贔屓にしている“こじはる”こと、小嶋陽菜さんで、その正体を明かす流れで、彼女はAKBを卒業すると宣言した。

 

う〜ん、ついに、こじはるも卒業かあ。それじゃあ、英国もEU卒業(=Brexit)かなあ。こじはると英国に何のつながりもないが、そう思った。

 

こじはるは一昨年に、一度、卒業を匂わせたらしい(僕は知らない。忘れたのかもしれない)。その時は残留したものの、その後の総選挙には参加していなかった(これは知ってる。覚えている)。しかし、今回は最後の総選挙なのでAKBへ何か貢献したいと思い、仮面をかぶって参加したとのこと。そして、その仮面を剥いで、卒業宣言した。

 

 

そういえば、ちょうど1年前に大騒ぎしていたGrexit(=ギリシャのユーロ圏離脱)問題について、当時の名だたる英国メディアは、ギリシャに離脱を勧める意見を、結構、掲載していた。勇ましいと思ったものだ。離脱のショックは大きいが一時的なもので、長期的にはその方がギリシャのためになると。ユーロのような財政制度を伴わない不完全な通貨制度から飛び出して、通貨・金融政策の主権を取り戻せと。

 

その昨年7月のギリシャ国民投票でギリシャ国民は、EUECBなどの債権者たちの提案を拒否した(但し、ギリシャ・チプラス政権はそうしなかった)。そして今年は、英国がEU離脱を決めるかもしれない。先週時点では離脱派に勢いがあるとの報道だったが、もしかすると1年前の英国メディアは、今年を踏まえた仮の姿、にゃんにゃん仮面だったのか。その時点で、実は、彼らは密かにEU離脱の決心を固めていたのではないか。

 

いや、違う。というのは、当時、ギリシャにGrexitを勧めていたメディアは、今回、明確に残留を主張しているからだ。Financial TimesやThe Economistは、現在、離脱した場合の悲惨な経済効果を盛んに警告している。驚くほど厳しい表現で離脱派を批判している。ん〜、ギリシャには「混乱は一時的」と言っておきながら、自らのことになると安全第一か。

 

僕は英国に離脱を勧めたいわけではない。それは英国人が決めること。重要なのは議論の中身だ。だが、ちょっと期待はずれな印象を持っている。

 

英国といえば、市場で働く“神の見えざる手”を発見し、自由貿易を掲げて世界覇権を確立し、市場が破綻して大恐慌が起こると市場の不備を(賢い?)政府が補うケインズ理論を生み、その政府が肥大化するとサッチャー改革を行った。2度の世界大戦でも常に勝者の側にいる。要するに、大きな環境変化に柔軟に対応し、政治や経済の舵を切ってきた。EUを離脱するか留まるかという大問題を判断するに際しても、きっと興味深い議論がなされるに違いない。そう、期待していたのだ。

 

しかし、みなさんもご存知の通り、残留派は離脱リスクを強調して人々の不安を煽るばかりだし、離脱派はテロ・難民(移民)問題を足がかりに離脱楽観論を展開しているそうだ。テロも難民も(特に難民問題について)、傍観しているがごとき日本にいて、無責任な言い方かもしれないが。

 

でも一つ、“さすが”と思うことがあった。

 

Britain First!」と叫んだ暴漢(=離脱派と推定されている)による残留派下院議員殺害事件、Jo Cox 氏の悲劇への対応についてだ。両派は投票1週間前という重要な時期に、丸2日間も活動を停止した。

 

同じことが日本であったらどうだろうか。もし、国論を2分する大激論の最中に、一方の陣営の中枢にいる人物が他方に賛同する者に殺害されたら。

 

国論を2分する議論、ん〜、なんだろう。アベノミクスの是非か、原発問題か、或いは、憲法9条改正問題か。それで殺人事件? まあ、リアリティがないが、それでも頭に浮かんだのは、「弔合戦だ」と騒いで、悲劇を利用することだ。活動を中止するどころか、敵意剥き出しのキャンペーンを始めてしまうのではないか。もはや、冷静な議論は期待できず、扇動的な感情論に支配される …かもしれない。僕の妄想だ。

 

とにかく、英国は、この悲劇を反省のきっかけにしたようだ。先週まで議論がヒートアップし、お互いの非難・中傷合戦になっていたらしいが、平静を取り戻した。このような急激な感情の流れが正常な判断力を鈍らせることが予想されるときに、それをコントロールできる社会は素晴らしい。社会全体として、大脳皮質、理性を働かせたのだ。

 

 

さて、広島と浦和の試合は4対2で広島が勝利した。この結果、浦和の第1ステージ優勝の可能性はなくなった。広島がトドメを刺したのだ。かつて広島は、浦和に監督や主力選手をごそっと引き抜かれたが、その後4年間で3回もリーグ王者に輝いた。その当初こそ、広島は浦和に分が悪かったが、2014/9 以降は負けがなく、現在2連勝中だ。今や広島は、浦和の天敵なのかもしれない。

 

この両チームでは、明らかに残留した広島の選手たちに福があった。いや、こういう言い方はおかしい。“福”ではなく、努力と戦略の結果だ。浦和のようなビック・クラブではない広島が、限られた予算の中で素晴らしいチームを育成し、かつ、維持できるのは、もう驚異としか言いようがない。

 

全く関係ないが、英国も残留の方が福があるだろうか。いや、何に向かってどのように努力するか、議論の中から戦略を見出す必要があるように思う。それが重要だ。

 

ただ、大脳皮質の働きがしっかりしている英国社会のこと、実際には大切な議論が行われているのかもしれない。いずれ、日本にも報道・紹介されることを期待したい。

 

2016年6月10日 (金曜日)

566【番外編】企業と株主の建設的な対話〜3つの企業価値

2016/6/10

今回は「564【番外編】企業と株主の建設的な対話〜答申」の続編だ。ところで、“建設的な対話”って、なんだろう。

 

首脳会談などのインタビューで「建設的な対話だった」と首脳が答える場合は、議論が決着せず物別れに終わった時だ。でも、「お互いが納得・共有できる結論に向かっている」という雰囲気を醸し出そうとする印象・意図を感じることができる。おそらく、“建設的な対話”とは、結論を得られたかどうかの問題ではなく、お互いの共通認識の幅が広がったかどうかを指すのだろう。

 

企業と株主に結論が必要な場合は、株主総会の議題にあげれば良い。企業開示制度の改善・充実を図る場合の“建設的な対話”とは、株主(や投資家)が、その企業への投資を継続するかどうか、追加の投資を行うかどうか、経営者をどのように評価するかを判断するために、有用な情報を効率的に提供できる状況のことだと思う。

 

これは、IFRSの概念フレームワークに記載されている一般財務報告の目的と概ね同じだ。ただ、IFRSと違うのは、このテーマには財務情報のみならず非財務情報も含まれる。財務情報は会計基準や場合によっては監査基準によって厳密に範囲が限定されている。例えば、自己創設のれんは財務報告・財務情報には含まれない。会計上の見積りは財務情報だが、将来情報・予想は財務情報ではない。

 

今回のテーマは、財務情報の範囲にとらわれず(=財務情報も非財務情報も含めて)、株主や投資家が企業を理解するために、どんな情報があったら効率的かを考えてみたい。僕は3つの企業価値を企業が提供することで、現状を大きく改善できると思う。

 

 

3つの企業価値とは次のものだ。

 

A. B/Sの純資産(=会計上の企業価値。これのみ財務情報)

 

これは現在も提供されている情報なので特に説明は不要かもしれない。上場企業の場合は一株あたり純資産(=BPS:Book-Value Per Share)や株価純資産倍率(=PBR:Price Book-value Ratio)として、株価との比較で分析に利用されることが多い。しかし純資産は、企業の特定の価値を表しているわけではなく、資産と負債のそれぞれの項目を各々の基準で評価して差し引きした結果であり、計算上の差額に過ぎない(IFRSにしても日本基準にしても、会計基準は企業価値を算定するようには設計されてない*1)。即ち、実は、それほど意味のある数字ではなく、利用価値は高くないと思う。

 

例えば、極端に悪い場合(例えば、債務超過など)は上場維持が困難になったり、金融機関から融資の返済を迫られたりするケースがあるが、企業は純資産が小さいから倒産するのではない。手元資金が不足するから倒産する。純資産の大小は、上場規則や財務制限条項で規制の対象となっているなどの極端なケースを除き、企業価値をダイレクトに表現するものではない。

 

とはいえ、資産は金を生むもの、負債は逆に金を流出させるもの、という会計上の定義(大雑把な言い方で申し訳ない*2)を考慮すると、為替換算調整勘定などの資産・負債評価の調整項目を除く株主資本については、企業所有者の新たな意思決定や新たな減損が発生しない限り「外部流出せず企業内部にとどまる可能性が高い資源」と考えることはできる。

 

但し、それを企業価値と言うかどうか。言ったとしても、限定的・消極的な意味しかないと思う。(財務情報は、業績を表すP/Lの方が利用価値があると思う。)

 

B. 期末時点の使用価値(=Aに自己創設のれんを加えたもの。企業の自己評価価値。非財務情報)

 

企業は資産・負債を、概ね公正価値か原価でB/S計上する。原価計上される資産は、必ず、減損テストを受ける。減損テストとは、原価と使用価値を比較し、原価が過大評価でないことを確認する手続きだ。使用価値とは、資産をそれが使われている事業の一部として評価した価値だ。それには、その企業が資産を使用してキャッシュ・フローを生み出す事業運営能力の評価・価値が含まれる。すなわち、自己創設のれんが含まれる。

 

その資産を利用する企業の能力がプラスである限り、BAより大きい。即ち、企業が事業からプラスのネット・キャッシュ・インフローを獲得することが見込まれる限り、BAより大きくなる。

 

将来キャッシュ・フローの見込みは経営者の見積りなので、Bは企業の自己評価価値と考えることが可能だ。また、おおよそ、投資家の株価評価とも理論的にある程度の親和性がある。したがって、Bと市場株価を比較すると、興味深い分析が可能なように思われる。特に、B(=企業の自己評価)より株価が著しく低い場合、経営者が企業の先行きに過度に楽観的でないか(減損テストが甘くなっていないか)について、投資家や株主に警告を与えてくれる可能性がある。

 

企業の多角化・グローバル化の状況を考慮すると、大きくてもセグメント情報の単位では使用価値を公表すると良いと思う。一株あたり使用価値と株価の差の分析は、企業と株主の対話の良い材料になると思う。

 

減損テストのために、現在の企業会計制度の中でBはすでに算定されているか、或いは、すでに算定されているものを改良すれば算定できる。

 

C. 将来時点の使用価値(=将来の企業像を金額的に示したもの。経営目標となる価値。非財務情報)

 

5年後、10年後、その企業は、どんな事業を営み、どれぐらいのキャッシュ・フローを生み出す能力を持っているか。そのイメージを金額にしたものがこのCで、これを計算している企業はあまりないに違いない。

 

でも、日本企業に足りないと言われる戦略的思考をスタートさせるには、長期的な目標を持つことが必要だ。その目標は実績と比較しやすいよう会計上の概念と親和性の高いものであることが望ましい。それはABとの共通概念である“(事業が生み出す)将来キャッシュフローの現在価値”だと思う。それがCだ。

 

Cを計算するには、製品/サービス市場の変化を予想し、戦略的対応行動の計画を立てることになる。と言っても、大雑把なものにならざるえないが、目標となるイメージを持つことが重要だ。

 

長期的な投資家や株主は、BよりCをイメージして投資する。現在ではなく将来を想像して株式を購入するかどうかを決める。企業が自らの将来イメージをCとして公表すれば、投資家や株主がAB、その他過去のP/L情報、事業モデルの情報などから実現可能性を評価し、投資の意思決定を行えるようになる。

 

投資家や株主が、このCABとの差、Cを実現するシナリオを企業へ質問すれば、企業の戦略性がみえそうな気がする。企業がおとぎ話をしているのか、それとも、事業環境の変化・事業の進化を真剣に考えているのか、或いは、真剣に変化に対応する気がないのか。このような対話をして投資を決めた株主は、その後の企業の経営状況に関心を持つことができて、その株式を長期保有するのではないだろうか。

 

 

子供と将来について語り合おうとすれば、その子の夢が分かっているかどうかで会話の内容が随分変わってくるだろう。夢が分かっていれば、そこへ向かう経路をある程度特定できるから、親としては、“いくらぐらいかかりそうだ”という現実的なイメージにもつながる。これがちょうど Cに当たる。Cは子供の夢のようにきっちりしたものにはならないだろうが、子供じゃないのだから事業のプロとしての先見性やセンスが求められる。

 

子供の現在の実力・能力が分かると、その経路の出発点を確認できる。特に、子供が自分自身や身の回りの状況をどう評価・理解しているかは重要だ。親は、単なる希望なのか、本気でやる気があるのかの見当がつく。これがBだ。

 

親としては、さらに、子供の過去の行動を振り返ることだろう。この子はすぐ諦めてしまう子なのか、それとも言い出したら止まらない子なのか。これが過去の財務情報、ここではAに当たる。

 

企業と株主、或いは投資家との対話も、このようなABCの材料が必要なのではないだろうか。親が子供の夢の実現にコミットするかどうかは、このような対話によって、夢を実現する経路のイメージを互いに共有できるかどうかにかかっている。同様に、企業と株主・投資家にとっても、ABCを材料とする対話こそが、共通認識の幅を広げる“建設的な対話”じゃないかと僕は思う。

 

 

さて、僕は、このテーマの前回の「564【番外編】企業と株主の建設的な対話〜答申」で、次のように記載した。

 

これに使用価値を利用できないだろうか。そうすることで、経営者の見積りの強気・弱気のバイアスを、投資家や株主が評価する材料も、新たに加えられる。監査の限界を補う材料にもなるだろう。

 

使用価値の利用方法について記載してきたが、果たしてこれが監査の限界を補うことになるだろうか。

 

Bのところに記載したように、現在の使用価値であるBと株式市場の評価である株価を比較すれば、面白い分析ができそうに思う。株価は将来の使用価値であるCを織り込むので、通常であればBより高くなるはずだ。しかし、意外に多くの会社でそうならないことが予想される*3。そうなると、簡単に経営者の見積りの強気・弱気のバイアスを株主や投資家が察知するのは難しいかも知れない。

 

このABCが監査の限界を補えるかどうかについて結論を出すには、もっと具体的な検討が必要だ。BCが開示されてないので難しい検討になるが、引き続き、考えてみたい。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 例えば、IFRSの概念フレームワークには次のように記載されている。

 

一般目的財務報告書は、報告企業の価値を示すようには設計されていない・・・(OB7

 

IFRSも日本基準も、会計期間における企業の変化をP/Lに業績として表現するものだと思う。資産や負債について公正価値測定を多用しても、それは前期末との変化を記録するためであって、B/Sは企業価値にならない。

 

もし、企業価値を算定するなら、自己創設のれんや企業ブランドの価値評価を避けることはできないが、会計はそれを行っていない。

 

*2 これは僕のお気に入りの言い回しだが、詳しくは次の記事をご覧いただきたい。IFRSにおける資産の定義について記載している。

 

IFRSの資産~会計上の「資産」とは 2011/11/1

 

*3 例えば、現在、銀行の株価は株価純資産倍率が1を割り込んでいるところが多い。日銀のマイナス金利政策の影響もあるが、それだけではない。株価はBどころか、会計上の企業価値であるAよりも低いのだ。ということは、株式市場は、銀行のB/Sに減損すべき不良資産がたくさんあると評価しているのだろうか。

 

米国のエネルギー関連企業に多額の融資をしている銀行は、昨年来の原油価格の下落による信用不安で株価が低下している可能性がある。しかし、日本の地銀にそのような心配はない。日本では企業倒産が減少を続けており、信用不安はない*4。では、何が原因だろう。

 

僕は、Cを十分に投資家や株主に理解させていないからだと思う。或いは、そもそも、投資家や株主にしっかり説明できるようなCを持っていないか。即ち、戦略性にかけると評価されている可能性が考えられる。そのような場合、自己創設のれん(或いは企業のブランド価値)に対する株式市場の評価が低くなる。例えば、人口減少や産業空洞化に対する銀行の対応の不透明さがこれに当たるのではないかと思う。

 

株価純資産倍率が1を割り込んでいるというのは、自己創設のれんがマイナス評価されている。異常事態だ。株式市場が銀行業界へ強烈な警告を発していることになる。もちろん、銀行も理解しているはずだが、まだ業界再編などの動きは低調。また、M&Aだけでは対応不足だ。地銀の海外展開も時々話題になるが、インパクトに欠ける。銀行業界がどのように経営環境の変化に対応しようとしているか、よくわからない。

 

 

*4 例えば、東京商工リサーチのHPには、昨年2015年の倒産件数について次のように記載されている。

 

倒産件数が8,812件 25年ぶり9,000件割れの低水準

 

 

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