番外編

2019年5月12日 (日曜日)

609【番外編】平成の歌はスガシカオ『Progress』〜減損会計の歌『Progress』

2019/5/12

前回の記事(608-5/7)を読まれた方は、減損会計の目的や導入の背景、概要を理解できたと思う(あくまで僕が理解しているいい加減な解釈だが)。そして、前々回の記事(607-5/5)も読まれた方は、減損会計と『Progress』がどう関わるのか、その接点もご存知だ。

 

今回は『Progress』と減損会計の具体的なつながりを説明する番だが、「そんなのこじつけでしょ」「もういいよ、十分だよ」と呆れられている方も少なくないだろう。でも本当に今回こそ熱く語りたいところだ。減損会計を前向きに捉え、正確に理解する核となる概念が、『Progress』で説明されている(と僕は思う)。

 

まず、新しいタブで下記のリンクを開いて、この記事を読みながら時々参照してほしい。リンク先のページの一番下には『Progress』の歌詞の1番と2番が横に並べて書いてある。理解するにはこの配置が良い。

 

NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』の紹介ページ

 

『Progress』のメロディーは、AaBbCのパターン。Aの部分が歌詞の3行目まで、その後Aの繰り返しaが6行目まで、Bとbまでがサビ、最後にCのメロディーで1番が終わる。2番も同様。さらに最後にサビのBbとCが繰り返される。

 

Aaの部分は、1番も2番も自己分析。1番は過去と現在の自分の共通短所の洗い出す現状分析、2番は大きな目標に向かって自ら問題解決しようとする夢、計画の分析。サビのBbの部分では1番は“ジブン”、2番は“ミライ”を定義。Cの部分は1番も2番も同じ・共通で“あと一歩だけ、前に進もう”とアクションを促す内容となっている。

 

さて、いよいよ減損会計との関わりだ。

 

僕は、1番のAaBbは、今の自分、即ち、実績の捉え方・現状認識の方法を示していると思う。そして、2番のAaBbは、自分の夢や目標、即ち、事業計画の立案・変更の方法を示していると思う。ここまでで、いわゆるPDCAサイクルの“PDC”まで。そして1番も2番もCの部分で、PDCAの“A”の部分、アクションを促している。この結果として、“あと一歩だけ、前に進もう”が、とても重要なメッセージとして響いてくる。

 

これは、まさに減損会計のプロセスではないか。そして減損会計に欠かせない要素である、謙虚な自己分析(虚栄なしの業績把握)と、目標・事業計画の具体的な指針を、次の一歩のために、目的思考的に表している。

 

抽象的すぎるので、以下、逐条解説で行こう。

 

Aのエピソード〜「横一列でスタートし、あいつがつまずく」

 

ちょっと横道にそれるが、ここがこの曲の唯一の弱点だ。この“横一列でスタート”エピソードには新卒一括採用のイメージがあり、今の流れでは令和時代に陳腐化する可能性がある。いずれ歌詞が理解されづらくなると思うと残念だ。しかし、“平成を代表する歌”という意味では、これでも良いのかもしれない。それに生まれた時を“横一列のスタート”と解釈することもできよう。それであれば、この歌の普遍性は失われない。いきなり横道で済みません。

 

さて本筋に戻そう。このエピソードは、競争相手の失敗を喜ぶことの愚かさを表していると思う。皆さんには経験がないだろうか。新人研修の時にはドジでみんなに笑われていたやつが、1年後のフォローアップ研修の時、或いは数年後一緒に仕事をした時には大きく成長していて驚いたことを。

 

新人の頃など若い時代の失敗は、多くの場合貴重な教訓をもたらしてくれる。むしろ、失敗が多い方が成長が早いといっても良いかもしれない。

 

企業にとって競争は宿命で、競争相手がつまずいて出遅れれば、その分自分に需要が転がり込んでくるからシメシメと思うのは当たり前だ。しかし、一歩間違えると愚かになる。そう、油断だ。そんなことをしていれば、相手はもっと強くなって立ち上がってくる。喜んでる暇があったら、もっと先へ進んでおかなければ。

 

aのエピソード〜「相変わらず ダメなぼく

 

一列にスタートした時、“ぼく”は、愚かだった。エピソードAではそう言っているが、さらにエピソードaの最後に、“相変わらず あの日のダメな ぼく”と言っている。残念ながら、スタート時の愚かさは今も変わらないというのが、この歌の自己分析・現状分析の結論だ。

 

その根拠として、“誰かを許せたり”、“大切な人を守れたり”が、“サマになっていやしない”を挙げている。しかし、エピソードAの愚かさとはだいぶ次元が違うように感じるのは僕だけだろうか。

 

他人の失敗を期待するのは単に卑しい性根で、自分は何の努力もしていない。だが、他人を許せなかったり大切な人を守れなかったのは、精一杯戦っていて余裕のないときに犯しがちなミスだ。ミスは大いに反省すれば良いが、性根が腐っていればその反省も起こらない。

 

aの最後に“相変わらず あの日のダメな ぼく”とあるが、欠点の質はだいぶ改善していると僕は思う。着実に“あの日”より進歩しているのだ。ただ、彼はもっと進歩したいので問題点を挙げて改善しようとしている。謙虚に自己分析しているわけだ。

 

この姿勢は減損会計で事業の実績を捉える際に重要だ。甘く実績を計算・集計すれば問題点は隠れてしまうから改善もされない。謙虚に厳しい自己統制が必要なのだ。それが次のサビBbで念押しされる。

 

Bbの“ジブン”の定義〜「ぼくが歩いてきた 日々と道のりが“ジブン”

 

この詩は重い。ズシンと心に響く。前半のBが頭の中で想像している“理想の自分”で、それを漫画にすれば吹き出しの中に浮いて描かれる自分、それは宙に浮く軽さがある。だから余計に後半のbが重く感じられる。

 

bは実際の行いの積み重ねであり、そこには良いものだけでなく悪いものも含まれているだろう。それを“ほんとうのジブン”と言っている。誤魔化しようがないのである。“歩いてきた日々と道のり”は、単なる事実の積重ねだから、そこに嘘は入りようがない。勝手に変えられない。

 

この“ジブン”こそは、減損会計でいう実績だ。理想とは違っていても、事実ならそれを実績として受け入れる必要がある。現実は厳しいのだ。減損損失が発生していれば計上する必要がある。だからこそ、次のCが活きてくる。

 

Cのアクション〜「あと一歩だけ、前に 進もう」

 

Cの前半は、世の中がため息と挫折だらけの厳しいところであるように書いている。まあ、実際には楽しいことも一杯あるのだが、この歌は違う。なぜなら、この歌は最も厳しい極限状況で“プロ”と呼ばれる人がどうするかをテーマにしてるからだ。どんなに辛く苦しくても前進せよ、というのがこの部分のメッセージだ。

 

減損損失の発生を認めるのは辛いことだろう。しかし、その企業が歩いてきた日々と道のり、即ち、その実績が投資意思決定や事業運営の実態を示しているのだから、受け入れるしかない。

 

ミスを受け入れず曇ったメガネで事業を見ていれば、適切な改善策は見つけられない。だが、あるがままの実績を認識できる厳しさと謙虚さがあれば、その改善策を見つけるのは比較的容易い。時間を無駄にするな、現実を受け入れ、逆転・追撃の一歩を歩み出せ、まず一歩から。

 

以上が1番だ。大分ぶっ飛んだ解釈かもしれないが、この実績(=“ジブン”)に対する真摯な姿勢と成功を追い求めて最悪な時でも諦めずに前進するプロフェッションの姿が、減損会計と妙に重なってくるのを感じてもらえただろうか。

 

2番は実績のところが計画(=“ミライ”)に変わるが、基本的には1番と同じだ。もう飽きた方が多いと思うので、2番はなるべく簡単に記載したい。

 

Aaは事業計画の説明〜“世の中の悲劇・問題点を解決して夢に手を伸ばす”

 

Aは、非常に大きな夢に向かって事業をしている様子が描かれているように思う。特に“届かないその手を伸ばす”なんて表現に感じられる。

 

一方、aは世の問題点を描いていると思う。“ガラスケースに飾られた悲しみ”を傍観するのは“キライ!”で、自分で、この事業計画によって解決しようとしているのだと思う。素晴らしい事業だろうことが想像される。

 

Bbは事業計画の要件〜「誰も知らない世界へ向かっていく勇気」

 

Bでは、「事業計画はオリジナルなもので、誰かの真似っこじゃない」と言っているようだ。故に、bでは新しいものを生み出せ、技術革新へ向かえ、チャレンジせよ、といっているように思える。

 

Cは1番と同じだが…

 

ここまで2番を読んできて、この事業が相当凄そうに響いてくる。だからこそだろう、Cは1番と全く同じ歌詞だが、そこに出てくるため息と挫折は、事業計画の目標が凄すぎて容易に達成できないために生じているように感じる。1番は実績(=“ジブン”)に対する真摯な姿勢によるため息と挫折だったが。

 

目標が高くて実績が追いつかない場合、目標を下げるのが常識と思うが、この2番を何度読んでもそういう気がして来ない。ただ、高い目標を維持しつつも、そこへ至る具体的な道筋について色々思考しているのではないかという気はする。

 

そう思わせるのは、Bbのイノベーションを求める歌詞と、Cの最後の“あと一歩だけ”という部分があるためだ。Cでは、“あと一歩だけ”と言っているのであって、“目標まで届かせろ”とは言ってない。Bbは、目標に至る道は色々あるよ、自分のやり方・色を出せ、とチャレンジする勇気を求めている。

 

目標を変えずに、目標に至る道筋、事業計画のみを変更することは可能だ。ただ、将来キャッシュフローの見積もりが変わってくるから、減損損失が発生する可能性が高まる。それを恐れていては目標に近づけない、達成はできない。あと一歩だけ進もう、まず一歩踏み出せばまたその先が見えてくるに違いない。

 

最後

 

この2番の後に、1番と2番のサビの部分(=1番と2番のBb)とCが繰り返される。実績を真摯に受け止め、事業計画を見直せ(必要なら減損損失を計上せよ)、そして一歩踏み出せ、ということじゃないだろうか。

 

まあ、無理矢理減損会計にこじ付けてる感じがするかもしれない。でも、“プロフェッショナル”がこの曲のテーマで、その自分に厳しく夢を追う感じが、減損会計の僕のイメージに合っているのだ。多くの人は賛成しないだろうが…。

 

 

2019年5月 7日 (火曜日)

608【番外編】平成の歌はスガシカオ『Progress』〜平成を象徴する会計基準は減損会計

2019/5/7

すでにみなさんは、あちこちで耳にタコができるぐらい“平成”時代の位置付けを聞いているだろう。冷戦とバブルが終わり、昭和の清算を強いられた停滞の時代。大災害に見舞われた時代。国際化の時代。日本のスポーツが世界に躍進した時代。日本が戦争しなかった時代。

 

企業会計の世界では、2000年(平成12年)ごろに“会計ビックバン”なるものが起こった。日本の会計基準が一気に世界に追いついた時期だ。代表的なのは、減損会計、金融商品会計、退職給付会計だ。それを税効果会計がサポートした。

 

一部の方には意外かもしれないが、伝統的な“取得原価主義”はバブルを煽った。資産価額が支出額でB/Sに計上される取得原価主義は、取得額が割高でも是正されないため、いわゆる含み損の蓄積を誘発し、企業の財政状態を蝕んだ。それに気がつかない、或いは、気がつかないふりをした金融機関は融資額を膨らませた。これがバブルだ。もちろん、当時も著しい価値の下落について評価損を計上する実務はあったが、今に比べれば非常に限定されていた。

 

例えば、バブル崩壊後も「地価は下がらない」という神話がなかなか消えず、「土地の評価損計上などありえない」という人もいた。さすがに90年代後半(平成7年とか)になると、土地価格の下落が無視できなくなり、評価損を計上する企業も現れた。でも、“著しい下落”と“相場のある”という条件が、評価損計上対象を狭め、かつ、処理を遅らせていた。

 

取得原価主義はP/L中心主義でもあった。「事業利益が計算できれば良い、B/Sは気にしない」という考え方だ。財務諸表の作り手も読み手も、資産や負債の価値に対する関心が著しく低かった。ところが、バブルはB/Sに潜んでいた。上記の3つの会計基準はこれを是正するもので、バブルの反省でもある。もちろん、国際的な会計基準動向が大きいのだが。

 

金融商品会計基準は、相場のある、或いは、時価が計算可能な金融商品に対し時価を付すことを要求した。それ以外の時価のない資産・負債の価値については、減損会計が評価損を要求した。退職給付会計は、従来の“発生した(退職)コストをB/Sへ積立てる”のではなく、B/Sに計上すべき退職給付債務の価値変動から逆算した費用をP/Lへ反映させるという発想の転換を要求した。これらは全てB/S項目の価値変動を起点にしてP/L計上額を計算するという、従来のP/L中心主義と逆の発想を要求した。

 

企業はこれらの会計手法を導入するにあたり、痛みを伴うことが多かった。それまで監査人を応援団、若しくは、無害な人と思ってた経営者もいたかもしれない。でも、この3つの会計基準の導入は、監査人に対する見方を“サディスト”に変えていった。その責めの厳しさは、会計基準ごとに異なる。

 

金融商品会計には、評価益を計上できる可能性があったし、B/S項目に時価を付すことは比較的納得を得やすいので、財務諸表作成に手間がかかるものの、導入は割合スムーズだった(金融庁の検査対象となる自己査定のある金融機関を除く)。

 

それに比べると退職給付会計は、退職給付債務の価値を計算するにあたり、様々な前提・仮定をおいて自前ではできないような複雑な計算を行うし、一時的ではあっても多額の費用計上を伴ったので抵抗は大きかった。しかし、従来の退職給与引当金が全く経済実態を表しておらず、多額の費用計上が退職制度のあり方に起因したものであったことが多かったから、退職金制度見直しへもつながって、抵抗が吸収されていった。労働組合が弱いのも手伝った。

 

これらに比べ減損会計は企業経営者に大きなショックを与えた。即ち、「監査人=サディスト」のイメージを広げる働きが強かった。

 

すでに、この時期までに多くの会社がバブルの清算を済ませていた。清算の痛みは会社によって異なるが、会社によっては、せっかく蓋をして隠したバブル時代の臭いものを、蓋をこじ開けて腐臭を解き放ち、玄関前に並べさせられたというひどい体験をした直後の時期だった。しかし、それがバブルの清算であればやむをえなかった。むしろ、きっかけさえあれば早く処理したいという本音もあった。腐ったものは、隠しただけではなくならない。なくなるどころか、放置して腐敗が進めば会社の存続を危うくすることもある。実際に多くの企業が破綻していた。減損会計を導入した時期は、ようやく清算を終えて、ホッとしていたタイミングかもしれない。

 

バブル後に、新しい事業を始めるなど多角化したり海外進出する企業は意外に多かった。環境が変わって従来の事業だけでは成長できないのだから、企業としては生き残りをかけた当然の戦略だ。しかし、物が売れないデフレ時代に事業リスクは高まっていた。成功は厳しくなった。昔のイケイケどんどんの感覚が消え切らず、市場調査も製品研究も不十分な状態で進出した事業であればなおさらだ。

 

当時、単年度のP/L予算を策定している企業は多かったが、複数事業年度に渡るB/S・キャッシュフローを考慮した事業計画を策定している企業は少なかった。「日本企業は長期的経営」などと自画自賛の自画像を描いていたが、実際には、長期的経営は経営者(しかも、一部の!)の頭の中にしかなかった。それを実行するのに必要な経営管理ツール、将来像を社内で共有する具体的な経営管理ツールを、かなりの企業が持っていなかったのだ。

 

そこに減損会計が入るとどうなるだろう。せっかくの生き残り戦略が否定されかねない…

 

当時の経営者にすれば、バブルは先輩経営者の責任だからまだ言い訳ができるが、減損会計導入時の損失は、自らの経営責任が問われることになる。

 

・2期連続赤字で翌期も黒字が見込めない事業(キャッシュフロー生成単位)は減損対象。

 

・事業から見込まれる正味のキャッシュ・イン・フローが、事業資産評価額の上限。


・事業計画の策定や事業評価という経営の専権事項を、お節介にも、会計基準に要求される。

 

・割引価値の考慮までを求められる。

 

会計基準からこんなに鞭をいっぱい受けて、実行しても、監査人からさらに甘さを追求される。やむなく減損損失を計上した事業は、経営失敗の烙印を押されたも同然だったから、減損会計にナイーブになる経営者が現れても当然だ。

 

監査人が会計基準を作ったわけではないので、会計基準の中身について監査人が非難されるのは筋違いだが、一部の経営者は他に怒りの持って行きどころがなかった。それに監査人に凄みをきかせれば監査が甘くなるという期待もあったのだろう。この後、監査人交代の噂話・裏話で、減損に関する経営者と監査人の意見の相違というのがよく聞かれるようになるので、この基準の放つ鞭は監査人にも厳しかった*1

 

僕が監査報告書にサインするようになったのはちょうどこの頃だ。減損会計などを導入・定着させるちょうどその時期に、僕は監査の現場責任者やパートナーとして会社と密接にコミュニケーションする立場だった。おかげで緊張の瞬間を何度も経験した。

 

不思議とやり甲斐こそ感じたものの、不幸を嘆いたことはなかった(と思う*2)。この基準こそバブルの反省という思いが強かったからだ。あの悲惨なバブル清算を2度と繰り返さないために、含み損の可能性を徹底的に摘み取ろうと思っていた。

 

そもそも、事業に失敗はつきもので、悪いのは失敗を放置することだ。それが積み重なると企業の生き残りを危うくする。これは経営の怠慢だ。減損会計は、このような状況に対して次のような警告メッセージを発する。

 

減損が出ないように早め早めに問題解決の手を打とう、それでも減損が出るならもっと大きな方向転換をしよう、企業の存続自体を危うくする前に。そのためには長期・短期の目標と現実の差異、或いは、進捗状況をタイムリーに正しく認識しよう。PDCAサイクルを回せ!

 

どうだろう、前向きではないだろうか。そう、実は、前向きな会計基準だ。

 

今回は、『Progess』に触れずにきたが、ここから『Progess』の歌詞*3が関わってくる。しかし、長くなってしまったので続きは次回に繰り越したい。

 

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*1 この他、減損会計の厳しさのために、日本企業の経営が消極的になったという批判もあるかもしれない。

 

リーマン・ショック前の数年、そしてまたアベノミクスが始まってから、日本企業の経営者の能力に疑問符が投げかけられることが多くなった。日本経済が停滞しているのは経営者が投資を怖がって、B/Sに現金を滞留させているからだ、即ち、投資や従業員・仕入先に対する適正な報酬支払に対する経営者の消極的な態度が、日本経済の活力を奪っている、デフレの一因、という批判だ。

 

「もしかしたら減損会計の影響だろうか?」との考えが頭をよぎることがある。減損会計は経営者経由で日本経済にも鞭を入れてるのか!? 

 

ただ、減損会計は世界の主要国が似かよった内容(米国と日本はほぼ同じ、その他もIFRSで共通)で導入している。日本だけ厳しい基準、ということはない。それでも減損会計が日本の経営者を萎縮させたというなら、やはり日本の経営者に問題があるのだろう。と、僕は自分で納得している。

 

*2 カッコつけたつもりはないが… 例えば、愚痴を言って酔い潰れたようなことは覚えていない。都合の良い様にしか覚えていないという生来の性格によるのかもしれない。いや、他の件でなら頭にきて相手に説明資料を投げつけたくなったことを覚えているから、やはり、減損会計に関することではなかったと思う。ちなみに、書類を投げつけたくなった相手は経営者ではない。中の人だ。

 

*3 『Progess』にご興味のある方は、次のページをどうぞ。一番下に歌詞がある。

 

NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』の紹介ページ

 

 

2019年3月15日 (金曜日)

606【番外編】マイナンバー通知カード廃止!?

2019/3/15

みなさん、“マイナンバー”って覚えてますか?

 

政府はICカードに“マイナンバー”を記載した“マイナンバーカード”を普及させるために、その“通知カード”を廃止するつもりらしい。また、本末転倒の、上から目線の、官僚発想の施作を実行しようとしている。さて、政治家がこれに気づいて進路変更できるか。

 

 

マイナンバーは、政府が住民(国民と居住する外国人)との徴税や行政サービス提供の確実性・効率性を高めるために導入した個人番号で、2016年から利用が始まっている。2015年10月から“通知カード”によってみなさんにも個人個人に付番された番号が届けられている。

 

本来は、“通知カード”と交付申請書で“マイナンバーカード”を住民に申請してもらい、一人一人に“マイナンバーカード”を交付したいのだが、あれから4年経って交付率は12%程度だという。即ち、“マイナンバーカード”が普及してないのだ。

 

普及しないのは、必要がないからだ。或いは、あった方が良いと思えないからだ。要するに官僚が行なった“マイナンバーカード”の制度設計、“マイナンバーカード”を利用した行政サービスの改善に問題があったということのように思われる。

 

 

実際、“マイナンバーカード”などなくても困らない。どうしても“マイナンバーカード”が必要な場合は、“通知カード”+免許証などの身元確認書類で代替可能だ。僕の場合は運転免許を更新した時に、“通知カード”と免許証を一枚にコピーしたもの(=実質的にマイナンバーカードとして機能するB5版の紙)を10枚ぐらい作成した。これで十分だ。これで5年使える(免許はゴールド🌟)。

 

ただ、インターネット経由による公的書類の申請など、“マイナンバーカード”をもっと積極的に利用することもできる。ちょっと面倒だが…。

 

それには“マイナンバーカード”を申請するのとは別に「署名用電子証明書」、「利用者証明用電子証明書」の申込みを役所の窓口で行う必要がある。加えて、iPhoneのようにNFC機能に対応しないスマホをお持ちの方は「ICカードリーダライタ」を購入しなければならない(NFC機能のあるスマホは「ICカードリーダライタ」の代わりになるそうだ)。例えば、インターネット上で納税申告を行う際は、インターネットに繋がったPCに「ICカードリーダライタ」をセットし、それへ電子証明書が格納された“マイナンバーカード”を読み込ませることになる*2。どうも、Windows10ではEdgeはダメでInternet Explorerを使ってくれ、ということもあるらしい*3

 

ん〜、さらに最新のドライバをインストールせよ、なんて記載もあるが*4、“ドライバ”にアレルギーやトラウマをお持ちの方も多いのではないか。利用者に対しかなり威圧的な感じだ。腕に自信のない方は、この辺を読むだけで諦めてしまうだろう。

 

 

ところで冒頭に記載したように、政府は、“通知カード”の廃止を目論んでいるらしい*1。その目的は“マイナンバーカードの普及”で、その法案は今月中(2019/3)に国会へ提出されるとのこと。なんと手際の良いことか、但し、目標と手段が合っていれば。

 

残念ながら“通知カード”を廃止しても“マイナンバーカード”が普及するとは思えない。即ち、目標と手段が合っていると思えない。“マイナンバーカード”の普及には、“マイナンバーカード”が便利になることが必要なのであって、やむを得ない時に受身的に使用されるだけの“通知カード”には関係がないと思うからだ。

 

更に言えば、もし“通知カード”の廃止が、「(再発行等の)要請があっても通知カードの追加発行には応じない」だけでなく、「“通知カード”+身元確認書類で“マイナンバーカード”の代わりになる」という使い方の禁止にまで及ぶのであれば、利用者・国民・有権者にとって行政サービスの改悪だ。この点について、日経xTECHの記事*1からでは分からないが、もしそうなら、“通知カード”の代わりになるのは「マイナンバーが記載された住民票等」であり*5、一々、マイナンバーが必要になるたびに役所へその住民票を取りに行かなければならなくなる。

 

例えば、税務申告書にはマイナンバーが必要だが、今なら手元にある「“通知カード”+身元確認書類」のコピーを税務申告書に添付するだけで済む。しかし、これからは事前に市役所へ行ってマイナンバーの記載された住民票を入手しておく手間が生じる*6

 

まあ、最近は時間単位の有給休暇が取れる会社もあるようだが、今の時代に役所に住民票を取るために有給を取るなんて、即ち、官僚の尻拭いのために有給を消化するというのはやるせない。明らかな行政サービスの改悪だ。そして“マイナンバーカード”を取得したり、その他の準備をしないと、利用者に手間を課すというのは、利用者に対する鞭だが、鞭で打たれるべきは、制度設計に失敗した官僚や、その失敗を見逃した4年前の政治家や政府ではないのか。

 

 

では、“通知カード”でないなら何が本質的な問題だろうか。僕は、マイナンバーの本人確認手続の設計に問題があるのだと思う。それが今のように面倒なことがなくなれば、“マイナンバーカード”は、ずっと利用価値が上がるのではないか。

 

マイナンバー(個人番号)は、行政サービスやその他の取引の処理において、特定の個人を表わすものであるため、マイナンバーが行政サービス等に提示されるときに、それが本人によってなされた行為であることを確かめる必要がある。それが、上述したマイナンバーの本人確認手続だ。

 

現在は、上述のように“マイナンバーカード”に記録された個人ごとの「署名用電子証明書」または「利用者証明用電子証明書」、及び、“マイナンバーカード”の保有者が入力する「暗証番号」が、「ICカードリードライタ」やandroidスマホを通じて、行政や企業側のサーバーに届くことで、本人確認を行なっている。

 

しかし、本人確認手続は、“マイナンバー”制度特有の手続ではない。例えば、スマホの指紋認証や顔認証も本人確認手続だ。スマホは、悪意を持った人(例えばスマホを盗んだ人)が操作して、銀行口座から預金を引き出したり、ネットショップで多額の買い物をしたりするのを防ぐため、(完璧ではないが)精度の高い認証機能を持っている。それに、操作は簡単だ。指紋認証も顔認証も、時々認証手続していることを忘れてしまうほど、すっと済んでしまう。

 

なのに、“マイナンバーカード”の認証手続(本人確認手続)は、なんて面倒なのか。操作だけでなく、ドライバがどうだとか、「ICカードリーダライタ」が必要とか、準備や(アレルギーやトラウマを乗り越える)心構えも必要だ。

 

どうだろう、いっそのこと、“マイナンバーカード”の認証手続(本人確認手続)をスマホの認証手続で済ませてしまえば良いのではないか。

 

どういうことかというと、“マイナンバーカード”アプリをスマホにインストールし、そのアプリにマイナンバー(や「署名用電子証明書」・「利用者証明用電子証明書」)を登録しておく。そしてマイナンバーが必要になったらそのアプリを起動し、Wクリック(しながら顔認証)や指紋認証するイメージだ。ちょうどコンビニなどでスマホ決済するように。

 

確かにスマホの認証は完璧ではなく、例えば、iPhoneの顔認証は、メーカーの自己申告で百万人のうちに一人ぐらいは本人と間違えて認証してしまう可能性があるという*7。しかし、現在行われている本人確認だって、完璧ではないはずだ。それに比べて精度が劣るとは言えないだろう。例えば運転免許証の写真やそのコピーで、完璧に個人を確かめられるだろうか?

 

テクノロジーの進歩を利用できるようにしておくと良いと思う。“マイナンバーカード”制度が特定の技術に依存してしまうと、テクノロジーの進歩があった時に置いてきぼりを食うことになる。今、正にそうなりつつある。“マイナンバーカード”が普及しない本当の理由をちゃんと分析して欲しい。そして、正しい目標と手段を選択して、官僚が予算を無駄使いしないようコントロールを政治家に期待したい。

 

えっ、期待できるかって? じゃあ希望する。いや、お願いする。少なくともお祈りはする。そして、(関係ないけど消費税率を上げるなら)参院選で与党に投票しない。

 

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*1 先月の記事だが以下をご覧いただきたい。

 

政府、マイナンバー制度の「通知カード」廃止を検討 日経xTECH 2/20

 

*2 この段落に記載したことは、下記から始まる公的個人認証サービス ポータルサイトの各ページに記載されている。

 

事前の準備

 

*3 公的個人認証サービス ポータルサイトの以下の場所に記載されている。

 

認証局からの重要なお知らせ

 

*4 公的個人認証サービス ポータルサイトの以下の場所に記載されている。

 

ICカードリーダライタのご用意

 

*5 総務省の以下のホームページの下の方に記載がある。

 

マイナンバー制度

 

*6 最近はコンビニで住民票の発行が可能だが、静岡市の場合、その住民票にはマイナンバーが記載されない。また、コンビニで発行するためには“マイナンバーカード”が必要。

 

証明書コンビニ交付サービスのご案内

 

*7 あちこちにこの情報はあるが、例えば以下のページの下から2段落目。

 

iPhone Xの「Face ID」は使いやすい? 「Touch ID」と比べて分かったこと

ITmedia Mobile 2017/11/9

 

2019年2月25日 (月曜日)

605【番外編】統計問題の解決

 

2019/02/25

統計が信頼できるとメディア報道の検証もできる。そんな例を見つけたので紹介したい。英国では国家統計を“国家統計局”が作成しており、“国家統計局”は内閣から独立した機関となっている*1

 

ホンダ英国工場撤退で大騒ぎの不思議 コリン・ジョイス氏
 Newsweek日本版 2/23

 

みなさんもご存知のようにホンダが英国工場を2年後に締めることを決めた。これが英国でも大いに話題となって、3,500名の工場従業員や地元スウィンドンに同情し、さらには英国製造業全体に対する「ボディーブロー」だとするニュースがたくさん流されたそうだ。

 

しかし、コリン・ジョイス氏は、このニュースと同じ日、英国の失業率が「1975年以来で最低水準(最低水準とは失業者の比率が最も少なくて素晴らしい状態のこと)」というニュースもあったと指摘する。

 

この2つのニュースを合わせて理解すれば、「3,500人の労働者が職を失うが、イギリスでは日々1,216人が新たに職を得ている」ことになる。コリン・ジョイス氏は「今の状況は、良いニュースよりも悪いニュースを極端に偏重するメディアの傾向を物語っているように思う。それに、多くの人が「ブレグジット大惨事」の筋書きに飛びつきたくて常にうずうずしていることを明確に示してもいる。」としている*2

 

なるほど、事実は「3,500名の失業が発生する」と「毎日労働人口が1,216名増えている」であり、3,500名の失業など、たった3日で解消されるかもしれない。

 

ただ、当事者であるホンダのスウィンドン工場従業員にしてみれば、突然の悲報・悲劇であり、大袈裟な報道で注目が集まった方が多少心が鎮まるかもしれない。一方、スウィンドン以外の人々にしてみれば異なる評価だろう。このニュースがブレグジットに関連づけられ、大袈裟に英国衰退の予兆のごとく報じられたのは、事実を正確にイメージすることを阻害されたという意味で迷惑だったに違いない*3

 

さて、ここで日本の問題、例の国家統計問題へ話題を移そう。

 

毎月勤労統計は厚生省が不正の事実を認めたものの、報告書の適切性や肝心の防止策の策定が蔑ろにされていると僕は感じている。しかし、国会では首相官邸が不正の意図を持って統計を操作したのではないかと別の観点から問題提起され、その事実解明に衆議院予算委員会の多くの時間が割かれている。そして、「与党側は「予算委員会で審議時間は積み重なりつつある」として、新年度予算案の年度内成立に向けて来月1日にも予算案の採決に踏み切る方針*4」だそうだ。

 

仮に首相官邸に不正の事実が認められた場合、不正を企画した者・実行した者の処罰に焦点が当たってしまい、“統計の信頼性を担保するガバナンス問題”が蔑ろにされるのではないだろうか。

 

“統計の信頼性を担保するガバナンス問題”とは、厚生省は正確な統計を作成・公表しようという意欲に欠け、人事を含めた管理も適当だし、システム開発・保守にもコストをかけてこなかったことだ。それが今回の毎月勤労統計問題に表出したと僕は思っている。同様のことは他の省庁でも見受けられる。これをどう解決するかこそが僕の関心事だ。このままでは国家統計に対する信頼が回復されず、民主主義や適切な政策策定に支障をきたす状態が続くのではなかろうかと心配になる。

 

一方、首相官邸に不正の事実が認められない場合、或いは、野党がそれを追求しきれない場合は、全ての問題が蔑ろになる。上述のように与党は単に審議時間を消化させているだけで、本格的な問題解決をしそうにない。

 

野党はこの問題が発覚して、「厚生省が特別調査委員会の報告書を手際よく出してこの問題を早々に片付けようとするのは、何か裏がある。それは首相官邸によるもっと大きな不正だ」と考えたのだろうか。早々に照準を統計のガバナンス問題から首相官邸に移した。しかし、意図の有無を問うような、事実認定が難しいところに飛び込んで時間を費やしている。この努力は報われるのだろうか。どうも心配だ。

 

コリン・ジョイス氏は、英国の労働統計を特段疑問を持たずに用いてる。それによると、英国では賃金も実質で3.4%も上昇しているという。労働者不足で賃金上昇という市場原理に沿った自然な状態にあるわけだ。一方、日本では実質賃金が増加したのか減少したのか、どちらか分からない状態だ。これでは、政策の評価も立案も難しい。野党は何を解決しようとしているのか*5、無駄な政局争いにはしないで欲しい。

 

安倍政権に問題があるのは間違いないが、野党にそれを突き詰めて改善させる力はあるのか、足りないように感じる。有権者としては何をしたら良いのだろう。

 

 

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*1 Wikipedia「国家統計局 (イギリス)

 

*2 コリン・ジョイス氏は、さらに、英国における製造業、日本における農業の社会的イメージに視点を広げていて面白い。一読をお勧めする。

なお、僕はわざと、失業が発生するのは2年後で、労働人口が増えたのは2018/10-12の(前年同期比較)こと、という時間のズレがあることを記載しなかった。したがって、失業の発生と労働人口の増加はうまくタイミングが合わない可能性がある。ただ、スウィンドンの労働者は、直ちに職探しを始めることが可能だ。それほどタイム・ラグは大きくない。

 

*3 この伝え方は何かに役立っただろうか? もし、このニュースが双方の危機感を高め、交渉に向かう姿勢を変化させるのに役立ったのであれば良いのだが。

 

*4 NHKニュースWeb(2/25)より。

国会 新年度予算案の衆院通過めぐり 与野党攻防 今週ヤマ場

 

*5 現在の統計の不備は、統計の信頼性だけでなく分析の難しさにもある。

国家統計は単に算出して公表すれば良いというものではない。それを政策評価や政策立案に活かせなければならない。それには統計を分析できることが必要だ。なぜ統計数値が変化したのかしなかったのか、その理由を把握できる計算過程が必要だ。それには統計算出過程を絶えず見直す必要がある。統計対象事象の状況を反映するできているかどうか、毎年チェックすることが必要だ。ちょうど、会計方針の変更の必要性を毎年チェックするIFRSのように。

 

しかし、野党は「なぜ作成方法を変更したのか」と“変更”にばかり注目している。まるで変更してはいけないかのように! しかし実際は、「失業率が下がっているのに賃金が上がらない」という市場原理とは違う状況が何年も計測されており、それに関する有効な説明ができていなかった。したがって、説明のための分析ができるように作成方法を見直すのは当然だ。問題は、見直し内容がそういう分析に耐えられるようなものだったかどうかであって、見直し指示があったか、なかったか、というのは本筋ではないと思う。

 

ちなみに、官僚は「前年と同じ処理・同じ作成方法」が楽で、変更を嫌がると思う。より良い方法へ変更することは、必要なことであり、そうしなければ怠慢だ。したがって、変更を嫌がることそれ自体が問題だ。野党はそういう認識で統計を、この問題を扱っているだろうか。

2019年1月29日 (火曜日)

604【番外編】国家統計

2019/01/29

よく、経営者をパイロット、会計数値をコックピットの計器類に例える。経営者は計器類を見るように会計数値を見て、飛行機を操縦するように企業を経営するわけだ。国家統計は、ちょうどこの会計数値にあたり、政治家や経済アナリストなどは統計値を駆使して国の現状などを把握しようと努める。もし、これが間違っていれば・・・、飛行機なら墜落するかもしれないし、国家経済は崩壊することもある。

 

まあ、ちょっと大袈裟か。例えば、中国経済はまだ崩壊していない。

 

モリカケの公文書偽造もそうだったが、どうも官僚たちは”記録“に対する敬意がないようだ。自己保全を優先し、民主主義の基礎となる国の記録を改ざんしても良いと思っているらしい。これは、粉飾決算する経営者と全く同じ構図・動機だ。

 

官僚だけの問題ではない。それを管理・統括する政治家、現政権の姿勢がまた心もとない。公文書偽造対策もいい加減だったが、今回の「特別監察委員会」の調査もいい加減だ。

 

“第三者の視点”と言いながら、実際には仲間の役人がヒアリングしてたとか、さらには官房長という会社で言えば経営企画室長みたいな経営者の懐刀的な人物まで加わっていたという*1。もう、滅茶苦茶だ。

 

これらのニュースに接して、元監査人の僕が感じることは、調査チームと調査対象とのぐしょぐしょの馴れ合いの構図だ。この“特別監察委員会調査”というのは名称は仰々しいがその実態は厚労省の役人が自ら調査計画を作り、その通りに“有識者”なる人たちが動き、役人の下書きした報告書にサインしたもの、という印象だ(実際の報告書(P4)*2には「ヒアリングの企画及び実施は、外部有識者の参画の下で行われた」と表現されている。やはり計画も報告書も、役人の下書きではないか?)。

 

第三者が計画を作っていれば、厚労省の役人がヒアリング・メンバーになるなどあり得ない。大幹部の官房長が参加するなどもってのほかのはずだ。この大幹部は一体何をしていたのか?

 

或いは、第三者の有識者の先生方は役所の現場をよく知らないので、厚労省の役人が案内したということかもしれない。これはあり得る話だ。だが、その場合に調査対象者に質問することは許されないはずだ。話して良いのは「調査に協力しなさい」という趣旨のことだけだ。大幹部はそのためにいたのか? いや、怪しい。大幹部はいるだけで、調査対象者に無言の圧力をかけられる。ヒアリングの冒頭に「調査に協力しなさい」と発言したら、すぐに部屋を出て行くべきだろう。そうしたのだろうか?*3

 

官僚を管理・統括する政治家が、これらに気づかないとすれば鈍すぎる。気づかない振りをしているとすれば、有権者が問題意識を高める必要がある。政治家は官僚と慣れ合っているかもしれない。

 

そういえば、ゴルフ場利用税を廃止する法案がまとまったようだ*4。驚いたのは、これに合わせて、国家公務員が利害関係者とゴルフをすることを解禁しようとしていることだ。これも下書きは官僚だろう。ますます、馴れ合いの輪が広がっていくのではないか。

 

公文書は偽造する。国家統計は勝手に操作する。利害関係者とゴルフしたがる。そんな国家公務員が消費税を上げようとしている。彼らの言う「国家財政の危機」や「その解決策(増税)」を信じて良いのだろうか。僕は現政権も信じられなくなっている。

 

しかし、まあ、サッカー日本代表がイランに3-0で勝利しアジア杯決勝に進んだので、金曜の決勝まではそちらの夢を見ましょう。大坂なおみさんの全豪オープン決勝のように、また楽しめるに違いない。

 

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*1 このニュースはみなさんもご存知と思うが以下のような記事がある。

統計不正、異例の調査やり直し 「身内」批判高まり判断 朝日新聞デジタル 1/25

勤労統計の監察委聴取、官房長が同席 官房長官 日経電子版 1/28

 

*2 実際の報告書は、厚労省のホームページに掲示されている。

毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る 事実関係とその評価等に関する報告書

ざっと中身を見た印象では、やはり役人が作成したレポートっぽい印象だ。国民の疑問を解消して再発防止するためのもの、というより、「悪いことしましたが、事情もあったんです。ご理解ください」みたいな印象だ。調査の方法も具体的な記述はなく、調査対象者・発言者の氏名も明らかでない。問題となった事実が並べられているが、そうなった理由は書いてない。

 

例えば、「東京都の規模500人以上の事業所について抽出調査にすることについて、調査計 画の変更等の適切な手続を踏むことなく、担当課のみの判断として調査方法を変更したこと は、不適切な対応であったと言わざるを得ない。」と書いてあるが(P15)、なぜ、適切な手続きを踏まなかったのか、それは誰の判断か、についてはうやむやである。

 

また、「東京都における抽出調査の実施に伴い必要であった復元処理が 実施されなかったこと」については、3つの問題が記載されている。そのうち2つは次の通りだ。

 

一つは、抽出調査方法の変更に関しては雇用統計部署からシステム担当部署へ文書による指示があったが、それを具体的なプログラムにするシステム仕様書レベルのところは口頭だったらしい(仕様書レベルのことが明記されていない)。もう一つは、COBOLというプログラム言語を使っていたが、そのプログラマーは2名しかおらず、忙しくて相互チェックによる業務の漏れを防止できる体制ではなかったとされている。

 

この2つが意味するのは、システム部には典型的な無管理状態が発生していたということだ。このシステム部門の管理者(及びその上司)には明らかな責任があるが、その氏名は記載されていない。さらに怖いのは、このシステム部は他にも問題を起こしている確率が相当高いと思われることだ。それぐらい、この無管理状態は症状が重いと想像される。(今は大丈夫なのか?)

 

一応、言葉では厚労省を糾弾しつつ、当事者の処分は内部でゆっくり決めていいよ、みたいな雰囲気がプンプン臭うのは僕だけだろうか。

 

*3 残念ながら、そういう常識をこの官房長は持ち合わせていなかったらしい。

聞き取り調査、厚労官房長が同席…証言に影響も YOMIURI ONLINE 1/28

定塚由美子官房長が同席し、質問もしていたことが分かった」とのこと。

 

*4 単にゴルフ場利用税を廃止するだけじゃないようだ。

ゴルフ場利用税 廃止へ 法案骨子まとまる NHK NEWS WEB 1/28

なぜか、「また、国家公務員が利害関係者とゴルフをすることを禁止している「国家公務員倫理規程」についても、自分の費用を負担すれば認められるよう改正すべきだとしています。」ということになっている。

 

2018年12月25日 (火曜日)

603【番外編】加熱式たばこ

2018/12/25

最近「平成最後の…」というフレーズをよく聞くが、一昨日はまさに平成最後の天皇誕生日だった。みなさんは天皇陛下の会見もあって、時の移り変わりを感じるとる機会となったかもしれない。僕の場合は、その前の金曜日(21日)に体験した加熱式たばこがきっかけだった。世の中は変わるのだ。それは当たり前だが、時々、強く感じる。

 

 

金曜日、行きつけの喫茶店に行くと、お姉さんが「いつもの感じ?」といつものように聞いてきた。僕は大体そこで3時間過ごす。その間、ケーキセットとコーヒーのお代わり、トーストセットを1時間おきにいただく。「いつもの感じ」とはそのことを指し、「それでお願いします」と頼むと、一々注文しなくても、お姉さんがその流れで出してくれる。その間、僕はたばこを3本ほど吸う。

 

この日は、「最近寒いので、たばこを吸いに外へ出るのが億劫。で、加熱式たばこに興味がある」と話した。するとお姉さんは「私、3種類とも持ってるから、試しに吸ってみて」と、現在日本で販売されている加熱式たばこのIQOS、glo、Ploom TECHを次々と吸わせてくれた*1。親切な人で有無をいわせない。

 

おかげで、店に入った時には「興味がある」だけだったのに、3時間後にはすっかり加熱式へ切り替える気になっていた。煙はほとんど出ないし全然臭わないし、何より、その日はたばこを1本も吸わずにいられた。そういう知識はあったが、実際に体験すると強烈に後押しされるものだ。その足でいつものたばこ屋へ向かい、Ploom TECHを買った*2

 

その後は、カートン買いした残りのたばこから10本ほどと、Ploom TECH1カプセル(たばこ5本分に相当するらしい)を吸う日々となっている*3

 

 

しかし、Ploom TECHは全くたばこらしくない。例えば、食後の満腹感・幸福感を増幅させる効果はない。単なるニコチン吸入器だ。恐らく、麻雀のテンパイ時に吸っても気分は高揚しないだろう。ポジティブな感覚をより高めるたばこの効果がない。それが物足りなさを感じさせる。

 

確かに、Ploom TECHを吸えばたばこに対する渇望感(=ニコチン不足感)は抑制される。だが、Ploom TECHはまるでニコチン中毒の治療器具のようで、自分が病人だと意識させられる。音痴な人に音痴を指摘すれば気分を害するのと同じで、自分の弱点に意識を向けさせられるのは気分が悪い。

 

そうか、たばこは僕の弱点か。吸い始めた時(昭和)は、かっこいいと思っていたのだが。

 

 

思い返せば、平成になった頃はまだみんながたばこを吸っていて、職場でも各人の机の上に灰皿が置かれていた。東海道線などローカル線の電車のシートにも灰皿が備わっていた。歩きたばこも当然で、吸い終わるとポイっと前に投げて、歩きながら火を踏み消していた。そして、吸い殻を拾うこともしない。今では考えられないマナーの悪さだ。でも当時は、僕だけでなく多くの人がそうしていた。

 

それだけじゃない。その頃はたばこの健康への悪影響を意識することはなかった。精々、カラオケで高音を響かせようと数時間禁煙する程度だ。今は痰がからむのがたばこのせいではないかと、カラオケに行かない時も喉の具合を気にかけている。

 

平成の間に、たばこに関する世の中の意識は大きく変わり、僕の体も無理は無理とはっきり主張するようになった。

 

まあ、体のことはさておき、日本は平成の間に随分大きく変化したのかもしれない。特にマナーを含む意識面の成長にはもっと目を向けて良いのかもしれない。もちろん、たばこの話をどこまで広げて良いか、いろいろ意見があると思うが、少なくともたばこに関しては凄い。他のことでも変化があるはずだ。

 

例えば、中国人観光客のマナーが悪いというが、昭和の日本人も同じような感じだった。ところが今は随分スマートだ。昭和の頃の海外旅行は、せっかく来たのだから見られるものは全部見ようと、みんなでゾロゾロ移動した。今は各々の趣味や好みで個別に動くから、側からはスマートに見える。昭和の頃は、集団行動が日本人の特性のように思われていたが、実は、そうではなかった。

 

日本人が治ったのだから、中国人もそのうち治るだろう(すでに中国人旅行者も良い方向へ変化しつつあるらしい)。願わくば、他の問題でもそうなってほしい。後から振り返って、時代が変わったなあ、成長したな、と思えるように。例えば、知的財産の泥棒行為はたばこのポイ捨て以上の悪行だと理解して早く直して欲しい。まさか、泥棒が中国人の変えられない性分ということはないはずだ。

 

中国ときたから、米国にも目を向けてみよう。

 

米国は大統領の性格とマナーが悪い。が、これは属人的なものなので、治らないだろう。それより、その大統領の支持層に起こる変化こそ注目すべきと思うが、果たして、マティス国防長官が辞表で指摘したような同盟国への敬意・同盟国との連帯が復活する流れになるかどうか。長い目で見ればなると思うが、願わくば亀裂が修復容易なうちに現在の軌道を変えて欲しい。『アメリカ・ファースト』などというスローガンが心に刺さってしまうような状況に置かれた低学歴の白人層は、どのような刺激があれば、海外の仲間との連帯に目が向くようになるだろう。

 

すでに色々と報道されているように、米国政府高官が次々と辞職・失職している。今朝は、米国株式相場の下落に関連して、財務長官のムニューシン氏やFRB議長のパウエル氏の更迭をトランプ氏が検討したという報道もあった。良いことは自分の手柄にし、悪いことは他人のせいにする。仲間を信じないし尊敬もしない。常軌を逸している。

 

もはや、トランプ氏の性格や考え方を変えることより、トランプ氏の失職を期待した方が合理的だと思う。願わくば、国防長官のマティス氏が辞職(失職?)する1月1日より前に、ペンス副大統領によるクーデターが成功してほしい*4。低学歴の白人層がペンス大統領を支持するきっかけとなるような事件が起こらないだろうか。事件に期待するなんて筋が悪いことはわかっているが。

 

 

加熱式たばこで満足感を得られない僕は、少々イラついて過激なことを書いている。しかし、世の中は変わっていくし、何がどう変わるか予想するのは困難だ。だからこそ、逆に希望もある。というわけで今年の年末は、中国や米国が変化し来年は株が反転上昇すると、薄い、流れ星のようにすぐ消えてしまう加熱式たばこの煙に願いをかけながら、過ごすことになりそうだ。

 

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*1 3つの加熱式たばこの吸い心地について

関心のある方もいらっしゃると思うので、少し書いておこうと思う。

すでにネットに多くの記事が出ていて僕の感想もそれと同じだが、“たばこ”としての満足感は、次の通りだと思う。

IQOS > glo > Ploom TECH

それでもPloom TECHにした理由は、一番喉に負担がなさそうに思えたからだ。

 

*2 何かのキャンペーン中なのか、定価3000円のスターターキットが2個入り3000円で売っていた。

 

*3 最近は1日1箱(19本)ペースだった。Ploom TECHを吸うようになって1日15本ぐらいに減少しているが、Ploom TECHは喫煙の中断・再開が自由なので、ニコチン吸入量に過不足がなく、効率的なのかもしれない。

 

*4 米国大統領が失職するケース

メディアでは、ロシア疑惑に関連して議会による大統領弾劾手続が話題になることが多い。しかし、現在はクリスマス休暇で議会は休会中だし、上院は弾劾裁判になるので長引きそうだ。Wikiによれば、精神的な責任能力を失ったような場合を想定した次のような規定もあるそうだ。

 

『副大統領と閣僚の過半数が申し立て議会両院それぞれで2/3多数による承認議決があれば、大統領による反対申し立てがあった場合でも副大統領が大統領権限を代行する』

 

議会両院の2/3多数というのは難関だが、トランプ氏の無茶苦茶振りを見ていると、こちらの方が現実味があるように思う。

 

2018年11月21日 (水曜日)

602【番外編】ゴーン氏、いきなり逮捕!〜正義のコスト

 

2018/11/21

大変なことである。経営危機から日産自動車を救ったカルロス・ゴーン氏が、金融商品取引法違反の容疑で、19日、いきなり逮捕・身柄を拘束された。その主な理由が、従来比較的軽く見られていた金商法の企業情報開示(取締役報酬の開示)違反というのも凄い。これは良い兆候なのだろうか。

 

経営者不正というものは、白か黒か世間の関心を集めながらジワジワ調査・捜査が進み、数ヶ月、いや数年後に事情聴取・逮捕に至るものだと、僕は思っていた。その間株価は低迷し、取引先は距離を取り始め、従業員の士気も下がっていく。会社ののれん、ブランドが毀損していくのだ。東芝もオリンパスも、古くはカネボウや西武鉄道など多くの会社がそうだったと思う。先人達が築き上げた企業価値が失われていく。企業は正しく活動している限り社会の財産だが、不正を始めれば凶器になる。したがって、正義が行われる必要はあるが、不正を正すその代償はあまりに大きかった。

 

 

日産はこれからどうなるだろう。

 

ゴーン氏があっさり逮捕されたので、白か黒かで悶々とネガティブな世間の視線に晒される期間は、”短縮”というより”省略”された。これは大きい。先のことは分からないが、恐らく、今後速やかに再発防止策が練られるので、その結果、世間の関心はすぐ前向きな方向へ向かいそうな気がする。となると、ブランド価値の毀損は最低限で済むかもしれない。今回の正義のコストは比較的に安く済むかもしれない。それなら素晴らしいことだ。

 

 

だが、なぜ今回だけそうなのか? 即ち、なぜいきなり逮捕できたのか。そして、今後の経営者不正はみなこうなるのか?

 

報道から判断するに、今年の6月から日本に導入されたという司法取引制度の影響が大きそうだ。内部告発をきっかけに数ヶ月内定捜査が行われ、しかも、法律知識のある高位者から司法取引による証拠も得られたようだ。違法行為実行者の協力があったのだから、その証拠は強力だろう。それゆえ、東京地検はカリスマ経営者を逮捕するに足る十分な証拠が得られ、いきなりの身柄拘束に踏み切ることができたのではないか。もちろん、「逮捕=100%黒」ではないが、日産の対応は早かった。

 

注目すべきは日産社長の西川広人氏だ。西川氏は、直ちに記者会見を開いて速やかに事実を公表し、世間が白黒に関して悶々としないよう、ゴーン氏を庇うことなく解任する方針を示した。その効果として、日産としてはブランド毀損を最小限に抑えることが期待できる。「西川氏は予め準備していたのか?」と思わせるほどだった。

 

日本経済にとっても正義のコストは低い方が良い。

 

そしてもう一つ、このような司法取引を利用した内部告発の鮮やかな成功例によって、今後、内部告発者が感じる心理的な壁を低める効果もありそうだ。この点は重要だ。なぜなら、経営者不正等に関する内部告発が行われやすくなり、かつ、成功しやすくなるのだから。それは経営者に対する強い牽制になるだろう。これからは、経営者は社内外の専門家の忠告を無視して違法行為を行えば、いきなり逮捕されることになりかねない。仮に違法行為に及んでも、従来より早いタイミングで、ダメージの少ないうちに中止させられる確率が上がる。そうなれば日本経済全体としても正義のコストは低下する。

 

 

ということで、僕は今回の事件を前向きに評価したいと思っている。企業の内部統制機能・ガバナンスに活力を与える効果に期待したい。

 

ところで、監査人はこの件に関わったのだろうか。積極的な貢献をしたとしても秘守義務があるのでニュースにはなりにくいが、気になるところだ。

2018年10月28日 (日曜日)

601【投資】ハロウィン、悪魔祓いなるか!?

2018/10/28

みなさんもご存知の通り、今月に入って主要市場の株式相場は急落し、下げ止まらない。株式関係者は適正範囲の調整という人が多いが、政治・経済アナリストには景気後退の始まりと主張する人も増えてきた。さて、どちらだろうか。

 

結論からいうと、どちらでも良い。仮に景気後退だとしても、明けない夜がないのと同じで、後退し続ける景気はない。数年のうちに回復してくれれば良いのだ。以前記載したように、日経平均などのインデックス連動型投資信託などを中心に投資していれば、それほど深刻になる必要はない。

 

・・・などというのは、若者が好きな女性の前で張る見栄のようなもので、本心ではない。すでに磯野波平さんの年齢を超えた僕には、そんな見栄を張る元気もない。ただ、開き直る図太さはだけは多少出てきたようだ。だから、中間選挙明けの米国相場の反転に期待して、ハロウィンの悪魔祓いの効能に賭けることにした。要するに、祈るのだ。

 

細かくいうと、米国景気の見通しは良好だ。トランプ氏はFRBの利上げを攻撃しているが、FRBは景気が良いから過熱しないよう利上げしている。最も経済情報が集まっているFRBの判断を、いずれ市場が評価する時が来ると思う。住宅市場の減速や債務(特に学生ローンや国債)の増大が危惧されているが、FRBも承知していることだ。FRBが承知していないのは、トランプ氏の予測不能な意思決定で、これは妙なことにならないよう祈るしかない。

 

中国経済は成長が減速しているが、特色ある社会主義市場経済はまだコントロール可能と思う。僕と同年輩のみなさんは、日本のバブル経済が失速した頃のことを思い出されるかもしれないが、当時の大蔵省の場当たり的な資金総量規制などに比べれば、今の中国の方がよっぽど大胆かつ繊細な、そして戦略的な政策運営をしているように思われる。いずれは90年代の日本のように、閉塞感が社会に広がってくると思う。そうなると経済の落ち込みも厳しくなるが、まだ海外旅行も盛んだし中国の国民はまだ自信を失っていないようなので大丈夫そうだ。ただ、明確な根拠はなく僕の勘に過ぎないので、当たってることを祈るしかない。

 

EUはお家芸のまとまりのなさが投資家の不安を誘っているが、ECBは域内経済の先行きに自信を持っている。Brexit交渉の行方やイタリア予算に関するEU・伊政府対立への不安は確かにある。ポーランドやハンガリーの反EU的な政治思想やドイツのメルケル政権の揺らぎも心配だ。ただ、ユーロ危機・ギリシャ危機の頃の緊迫感ほどではない。ギリシャ危機当時、ECB総裁のドラギ氏は「ユーロを救うためならなんでもする」と言ったが、25日のECB理事会では、年内の資産買入終了及び来年夏まで金利維持という従来の方針を踏襲した。落ち着いたものだ。EUは危機感を盛上げてユーロ安を誘うが、やり過ぎて本当の危機にならないよう祈りたい。

 

新興国は一時期の不安を脱しつつある。危機が囁かれたのはトルコとアルゼンチンだが、トルコリラやブラジルレアルといった新興国通貨は急速に相場を回復しつつある。トルコは利上げもしたし、サウジによる記者殺害事件では正義の味方的な立ち位置を確保するしたたかさを見せた。

 

日本の株式市場は外部環境次第だ。日本人がもっと投資しして、相場動向を支配できるようになれば違うと思うが、現状では外部頼みだ。すなわち、日本人には祈ることしかできない。幸いにも為替相場が安定しているので、悪魔(=売って儲ける短期筋)祓いができれば、なんとかなるのではないだろうか。ハロウィンは、タイミングよく10/31に訪れる。日本のイベントであろうとなかろうと、楽しんで気分を変えたいものだ。

 

2018年9月19日 (水曜日)

600【投資】夏の終わりの身体測定

2018/9/18

天災のような猛暑がようやく去り、特に朝晩は涼しさを感じられるようになった。7月下旬から8月は、毎日2Lボトルの水を少なくとも1本飲み干していた。おかげで災害時用に備蓄してあった水を全て飲み干してしまった(もちろん、もう、新しいボトルを補充した)。ところが、今は1Lも飲んでいないかもしれない。涼しいのだ。

 

実は、水が必要だった理由は猛暑だけではない。夜、ジョギングしてダイエットに励んでいたのだ。水をかぶったように汗が出るから、水分補給が必要になる。運動の後には牛乳を飲むと良い*1らしいのでそうするが、過ぎたるは及ばざるが如し、全てを牛乳に頼れないので水を飲む。これは至福のときである。なにせ「死ぬ、死ぬ」とうめきながら冷蔵庫に駆け寄り、ごくごくと喉を鳴らすのだから。

 

そのダイエットの成果を計測してみた。次の通りだ。(申し訳ないが、ダイエットに成功しているので、若干自慢になるのはお許し願いたい。)

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体重と体脂肪率はタニタで計測したものを転記した。そのほかの寸法はZOZOスーツを着て、ZOZOアプリとスマホにより計測し、アプリ画面をスクリーンショットして並べた。

 

今年、最も重い時には体重が74kg、体脂肪率も20%を超えることがあった。我ながらよくここまで絞ったと思う。

 

特にウェストが84.1cmから76.1cmに減っているのが嬉しい。ジョギングのコースは長さは5.5〜6.2kmだが、高低差が100m以上あり急な傾斜も登るため、太ももや脹脛が太くなっている(走るのは登りだけ。僕の場合下りを走ると腰がダメになる)。

 

股下が伸びているが、O脚矯正の成果と思われる。O脚のまま走ると膝や足首そして脚の付け根など関節を痛めるため、O脚の矯正を試みているところだ。ストレッチで足首を柔らかくし、膝をちょっと内側へ入れながら脚の親指で蹴るように、普段の歩きでも心がけている。要するにガニ股を直しているところだ。

 

今でも両足のつま先と踵を付けてまっすぐ立った時に両膝の間に隙間ができる。これがO脚の印だ。しかし、その隙間が段々狭くなっているように感じていたので、この計測でそれが裏付けられた。嬉しい。その隙間を消せれば、もっと脚が長くなるかもしれない。(それでも短い… ( T_T ) )

 

一方、腕の長さが縮んだのは解せない。まさか、脂肪が減ると腕が縮むということはあるまい。とはいえ、概ね、計測結果には納得が行く。だからダイエットの励みにもなる。

 

さて、ここからが本題だ。

 

この計測に利用したZOZOスーツ(とアプリ)は、健康管理用のツールではない。ご存知の方が多いと思うが、ネットショップでもピッタリサイズの洋服を購入できるように、スタートトゥデイという会社(“ZOZOTOWN”の方が通りが良い)が(初回のみ)無料で配布しているものだ*2

 

このアイディアは画期的だ。ネットで衣料を購入する際に最も心配なのはサイズだからだ。僕は早速Tシャツやボタンダウンを購入した。ボタンダウンは、リアル店舗でもスキルのある店員さんに相談すればちゃんとしたサイズを買うことができる。しかしTシャツは意外に難しい。サイズがS・M・Lだけでは、自分に合わないこともある。しかし、ZOZOスーツの計測値をもとにZOZOアプリが提案したTシャツは、丈も胸囲も肩幅も最適になる(自分の好みで個々の寸法を微調整してオーダーすることもできる)。おかげで今年の猛暑はZOZOのTシャツが大活躍だった。

 

こんな素晴らしい会社は、スーツだけでなく株も買う必要がある。投資家としての僕はそう考えた。ところがどうして甘くない。現在は多額の含み損を抱えている。その経緯をざっと説明しよう。

 

僕は、ZOZOスーツの申込受付が始まるとその日のうちに申し込んだ(確か昨年11/22、勤労感謝の日の前日)。だが、株は我慢した。メディアなどで話題になると株価は上がるが、そのあと下げるケースが多いのだ。この会社も、翌営業日11/24に3,745円(多分、その時点での上場来高値)を付け下落に転じ、今年3/20には2,622円で底をつけた。僕は1月に3,200円ほどで最初の取得取引を行った。その後株価はZOZOスーツ期待で7/19に4,830円(終値)まで上昇したが、7月末の1Q決算が失望を誘い*3、9/14は3,280円で取引を終えている。

 

当初、昨年11月末にも出荷開始される予定だったZOZOスーツは、測定精度に問題があり数次にわたって出荷延期が繰り返された。そのたび株価が揺さぶられ、結局今年5月にようやく本格的な出荷が始まった(僕には5月末に発送された)。すると、ZOZOへの期待は高まり上述の7月の高値につながっていく。ただ、7月末に公表された1Q業績は期待に及ばず*3その後下落し現在に至っている。

 

これ以外に社長の前澤友作氏が、人気女優(剛力彩芽さん)との交際やテスラCEOイーロン・マスク氏の会社スペースXで、史上初の月旅行客になりそうだと話題を振りまいている。株主の僕としては、そのたびにZOZOの知名度が高まり嬉しい限りだ。ZOZOの経営が疎かにならない限り、話題提供は歓迎だ。ただちょっと羨ましい、妬ましい。

 

さて、こんな状況のZOZO社株を、最初に3,200円で購入し、現在も同水準の株価なのになぜ多額の含み損があるか。みなさんもすでにお分かりの通り、7月に高値で買い増したからだ。昨年11月下旬から今まで約10ヶ月、その間、株価が4,000円を超えたのは6月と7月の2ヶ月間だけだ。特に7月は高かった。選りに選って、そこで追加購入してしまった。下手としか言いようがない。

 

夏のダイエットの成果を計ろうとして、久しぶりにZOZOスーツを着てみた。すると、ダイエットの成功は分かったが、株では大失敗しいたことを思い知らされた。ただ、「ZOZOスーツは画期的なアイディア・ツールだ」という思いは変わらない。上記のように健康維持のためにも利用可能なZOZOスーツの精度は、時が経てばきっと会社の業績に反映され、株価の回復に役立つに違いない。

 

というわけで、僕はZOZO社株の損切りをしないつもりだ。その代わり、秋も走る。夏は脂肪を減らすためだったが、これからは含み損が減ることを願いながら淡々と走ろうと思う。O脚が治れば足も伸びる。またZOZOスーツを着るのが楽しみだ。

 

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*1 下記の記事では、筋トレの後にタンパク質+糖質を採ると、筋肉を2倍効率よく増やせると主張している。そして、タンパク質の例として牛乳が挙げられている。

結果にコミットー!効果2倍の筋肉UP術 NHK ガッテン 2016/4/20

 

*2 ZOZOスーツについては、下記が説明及び申込みのページとなっている。

http://zozo.jp/zozosuit/

計測は、明るい部屋で行う必要がある。例えば僕の家では、夜は灯りをつけても計測できない。昼、しかも晴天の日に、カーテンを開けて明るくした部屋でないとうまくいかない。(もしかしたら、改善されているかもしれないが。)

 

*3 会社四季報ON LINE

スタートトゥデイが大幅反落、低調な1Q決算発表を嫌気 8/1

売上高は前年同期比24%増の265億5200万円と伸びたものの、純利益は25%減の41億6300万円にとどまった」とし、その原因は「「ZOZOSUIT」の無料配布に伴う広告宣伝費の増加や運搬費の増加」だとしている。

 

 

2018年8月 6日 (月曜日)

599【番外編】異常気象、異常気性?

2018/8/4

もうだいぶ昔のことになったが、ロシアW杯はフランスの優勝で幕を閉じた。日本代表はとても頑張ったが、これだけは言っておくべきだろう。強豪ベルギー相手とはいえ、2点差をひっくり返されるのは醜態だ。これからもあるだろうが、なるべく見たくない。

 

それにしても、ベスト8まであと一歩に迫った一連の戦いは素晴らしかった。乾選手、香川選手、本田選手、一人ひとり挙げていくと切りがないが、ベテラン勢に加え柴崎選手なども、よく連動していたと思う。見ていて楽しかった。西野監督の戦略・戦術にも敬意を評したい。

 

そんなW杯期間中に猛暑が始まった。異常な暑さだ。あまり「暑い、暑い」と書いても涼しくならないので一々例は挙げないが、一つだけどうしても書きたいことがある。トランプ氏の異常気性だ。これがそれでなくても暑い夏をさらに耐え難いものにしている。

 

例えば、6月のG7サミット首脳宣言を巡る罵り。

 

トランプ大統領、G7首脳宣言を承認せず-加首相を批判 6/10 Bloomberg

G7首脳会議、混乱して閉幕 トランプ氏、合意文書の不承認を指示 6/10 BBC

G7閉幕後も舌戦 「トランプ氏を裏切る者には地獄の特別な場所」と側近 6/10 BBC

 

この見出しだけでトランプ氏の直情・瞬間湯沸かし器振りを思い出せた方が多いと思う。サミット後のトルドー・カナダ首相の発言にも問題があったとの報道も一部見られたが、7カ国首脳の合意事項を移動中の飛行機の機内からのTwitter でひっくり返すというのはありえない、即ち、異常だ。

 

3つ目の記事は、その直後の米政府高官(ナバロ国家通商会議委員長)の発言が記事のタイトルだ。このような政権幹部が同盟国の首相に向かって「裏切り背中を刺した」とか「地獄の特別の場所へ行け」みたいな発言をするのは、元のトランプ氏の発言の熱量の高さとそれが周囲へ及ぼすエネルギーの強さを表していると思う。

 

今年に限っても、鉄鋼・アルミ関税、イラン核合意からの離脱、対中国関税対象・率の段階的拡大・引上げ、自動車関税の脅し、キムジョンウンとの(いい加減に思える)首脳会談、プーチン大統領との(選挙介入疑惑に関する弱腰)首脳会談と、ニュースが流れるたびに僕の感情は刺激されて体温も上昇するようだった。みなさんはどうだろうか。冷静に聞いてられるだろうか。

 

民主的に選ばれた他国の指導者を、一部ではなく丸ごと批判するということは、選んだ国民を批判するに等しいし、越権行為のような気がする。そうしたくないので、今秋の米国中間選挙に期待してしまう。もっと、トランプ氏にタガが嵌められる形にならないかと。

 

しかし、米国は極端な二極化が進み、良い結果が得られるか難しそうだ。ご存知の通り共和党支持者の大多数がこのトランプ氏を支持し、一方の民主党支持者はかなり左寄りの候補者・政策を好むようになっているらしい*1。中間選挙後に、議会の両党がある程度団結してトランプ氏を制御する流れになるのは、現在よりさらに難しくなるかもしれない。

 

さらに最近、トランプ氏に対して、“気紛れ”とか“行き当たりばったり”とか、“感情任せ”などといった批判の頻度が減った気がする。代わりに、(選挙公約に対して)“一貫性がある”とか、(特に対中国において)“意外に戦略性がある”といった肯定的な見方が披露される場面が増えたように思う*2

 

W杯は決勝戦とともに終わる。猛暑も彼岸を(最悪数週間)過ぎれば終わる。しかし、どうやらトランプ氏から感じる暑さは、中間選挙後も続きそうだ。異常気象への備えは重要だが、異常気性対策も、当面、忘れてはならないようだ。

 

 

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*1 下記の記事によれば、米共和党は「トランプの党」へ変貌しつつあり、その反作用として米民主党は左寄りの主張が米国民を引きつける正しい選択と考えているようだ。即ち、両党の主張はますます遠く離れていく。

 

民主・女性候補が米中間選予備選で躍進 党は左傾化強め“極端な戦い” 産経ニュース 8/2

 

*2 例えば次のような記事がある。

 

冷静に見てトランプ政権の対中強硬策は悪くない 日経ビジネス 6/25

米国のアジア外交専門家へのインタビュー記事。この専門家は米国政治家やアジア専門家が中国の脅威に気付くのが遅れたことを認め、トランプ氏の対中強硬姿勢に一定の評価を与えている。

 

トランプ氏の通商戦略、部分的「和解」にシフト WSJ 8/6 有料記事

断定はできないが、ユンケル委員長との会談でEUとの貿易戦争の停戦に合意したことは、トランプ氏が本当はより完全な自由貿易を目指している可能性を示した、としている。即ち、この記事は、関税などによる同盟国への恫喝は、同盟国を強引に従えて中国との交渉に完全な優位性を得るための、大戦略に基づいた戦術だと評価しようとしているように読める。

 

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