IFRS個別基準

2016年9月13日 (火曜日)

579【投資の減損 06】両者の主張〜コロンビア炭鉱事業(ドラモントJV)

2016/9/13

もし、北朝鮮が核兵器を実戦配備したら。考えるのも嫌だが、そうは言っていられない。現実は認めなければならない。議決権比率20%以上だが、実質的な拒否権を持つほどの影響力はない投資に持分法を適用している現状も同様だ。

 

「そんな投資はリスクが高いだけ。同じP/L起点の原価法の会計処理でドラマの共演はしたくない(=一般投資と同様に公正価値測定で良いではないか)」と主張しても、「粉飾防止・阻止のために、(持分法の)未実現利益消去手続の対象となるようにしておく」ことの方が重要性が高いという現実がある。あとは、“20%”が妥当かどうか、“20%”以外のより良い基準はないのかを検討する必要はあると思うが、「拒否権のない投資にも持分法を適用する考え方」を否定するのは難しいようだ。

 

 

さて、グラウカス・レポートが問題提起したのは、持分法適用の関連会社と原則公正価値測定される一般投資の区別だった。具体的には、伊藤忠の会計処理について、次の3点の指摘があった(574-7/28 からの再掲)。

 

 持分法を適用すると巨額の投資損失・減損損失となるため、それを回避するために(再評価せずに)持分法適用の範囲から除外したケース(コロンビア石炭鉱山、減損回避見積額1,531億円)

 

 逆に持分法を適用すべきでない投資へ持分法を適用することで、(2016/3期以降の決算やその後の業績予想へ)利益を取り込んだケース(2015/1の中国中信集団の株式取得)

 

 持分法適用の範囲から除外する際に行われた投資の再評価益の計上が、あからさまな決算対策と見受けられるケース(頂新、不正な特別利益600億円)

 

今回は、コロンビア石炭銅山のケースについて、グラウカス・レポートと、前回(578-9/6)紹介した“お怒り”の伊藤忠CFO氏の記事から、説明を対比させてみたい。まず、グラウカスの主張から(主なもの)。

 

(グラウカス・レポート P8〜21)

 

・投資環境の悪化と損失回避

 

伊藤忠が投資した2011年以降、石炭価格は著しく下落しており、最悪のタイミングの投資だった。2011/10、伊藤忠はドラモントJV社の20%の議決権を15億ドル(当時のレートで1,265億円)で取得。残り80%は米国鉱山大手ドラモント社が保有。

 

(販売価格の下落)

伊藤忠が出資した日から、燃料炭価格の下落率は最大57%に達した。

2011年10月24日 118.10 ドル/トン
2012年3月26日
  105.20
2013年3月25日
  91.22
2014年3月31日
  74.07
2015年3月30日
  56.31
2016年4月5日
 51.18
(出典はBloomberg (COASNE60)とされている)

 

(生産量の減少)

炭鉱事業は運営上の困難にも直面し、伊藤忠が取得時に見込んでいた生産量を大きく下回った。

   伊藤忠の見込み    ドラモントJV実績

  (会計年度;3月末締め)  (暦年)

2012  31.0百万トン      26.0

2013  35.0百万トン      22.0

2014  35.0百万トン      26.8

(出典は伊藤忠の開示資料とドラモント社資料やReutersのニュースとされている

 

以上の結果、グラウカス・レポートは、「いかなる計測値をもってしても、伊藤忠の投資は失敗だったというほかない」ので、「出資持分の帳簿価格に関して評価損または減損損失を計上するべきだった」としている(P10)*1

 

そして、その損失回避のために、2015/3期決算でドラモントJVに対する投資を関連会社から一般投資へ区分変更したと断じている*2。また、「ドラモントJVを一般投資へ分類することで、業績予想と実績の説明から同社の説明を省くことができる」旨の、伊藤忠にとっての区分変更のメリットを指摘している。

 

 

(区分変更が不当な理由1)持分20%を維持している。

 

伊藤忠は炭鉱事業への議決権比率20%を維持している。しかし、伊藤忠CFOはReutersに対し、2014/12期の決算に関連して「優先株を引き受けないので、伊藤忠の議決権比率が20%を切る予定」である旨の説明をした。しかし、実際には優先株は発行されなかった。

 

(区分変更が不当な理由2)重要な影響力を維持している。

 

伊藤忠は2015/3期有価証券報告書(P104)で、「ドラモントJVの予算及び設備投資等の重要な決議事項に対する承認権限を有しておらず、同社の営業及び財務方針に重要な影響力を行使することができないため」であると説明した。しかし、以下の理由により、重要な影響力を引き続き維持していると主張している。

 

・取締役会または同等の経営機関への参加、方針決定プロセスへの関与

 

グラウカス側の調査員が、伊藤忠幹部(鈴木氏)がドラモントJVの取締役会長(兼Itochu Coal Americasの現CEO)であることを確認した。これは調査員が電話で会社に鈴木氏の肩書きを照会したもの。伊藤忠・米州石炭事業の責任者が、ドラモントJV の取締役会長をしているのだから、伊藤忠がドラモントJVの経営意思決定に影響力を持っていると考えられる。この関係は鈴木氏の前任者(2011/8〜)の稲垣氏のときから継続している。

 

・(影響力行使の背景となりうる)重要な取引

 

伊藤忠はドラモンドJVで産出した石炭の対日向け独占販売権に加え、親会社のドラモンドと共同でアジア各国の電力会社をはじめとする顧客にマーケティング・販売する権利を獲得した。伊藤忠とドラモンドJVとの間の重要な取引である。

 

・経営層の人事交流

 

上述の鈴木氏や稲垣氏は、JVの相手方(=ドラモントJVの親会社)であるドラモント社と同じビルに勤務しており、伊藤忠幹部社員とドラモント社の交流があったと推定されている。

 

・技術情報の提供

 

伊藤忠はプレゼンテーションの中で、JVにおける同社の機能の一つとして、同社の短期的・長期的物流ノウハウの活用を挙げている」として、炭鉱物流のノウハウ提供を推定している。

 

以上により、IAS28.6に記載されている“重要な影響力”のすべての要件に合致したとしている。したがって、ドラモントJVは関連会社であり続けており、2015/3期以降についても、持分法が適用されるべきだし、少なくとも2015/3期には減損損失を認識すべきだったとしている。

 

以上が、グラウカス側のコロンビア炭鉱事業の投資に関する主な主張だが、もし、こんな監査調書をスタッフが上げてきたら、僕がどんなパートナー・レビューをするか考えてみた。

 

・減損判定には為替レートの変化を考慮すべき。

 

2012/10ぐらいから為替レートは急激に円安に振れている(80円台〜120円台)。

 

・公正価値測定で損失は出ないのか。

 

持分法は減損会計の対象になる。一方、一般投資へ区分変更すると公正価値測定される。減損が生じるくらいなら公正価値も低下しているはずなので、そこを突っ込む必要がある。要するに、関連会社のままであろうが一般投資へ振替られようが、損失は生じるのではないかと感じられる。

 

とはいえ、「ドラモントJVは関連会社である」という主張には説得力がある。特に、伊藤忠の幹部社員が、パートナーであるドラモント社と同じビルに勤務し、ドラモントJV の取締役会長(=プレジデント)を務めている事実は重い。ドラモントJVが伊藤忠グループのドラマに出演している感じが濃厚に感じられる。

 

 

さて、伊藤忠CFO氏は、これについてどのように回答したか。CFO氏の主な主張は以下のとおり。

 

・毎年度末に(ドラモントJVを直接保有する)Itochu Coal Americasの資産を公正価値評価しているが、減損には至っていない。

 

・Itochu Coal AmericasはKPMGが資産評価を行い、アーンスト・アンド・ヤング(EY)が監査をしている。さらに伊藤忠がその数字を確認し、トーマツが伊藤忠の連結監査をしている。

 

・確かに持分比率は20%のままだが、ドラモント社から追加資金提供の要請があった時に断った。その結果、伊藤忠の持分は(実質的に)20%を下回っている。

 

・資産評価の方法は(グラウカスが採用した売上高マルチプル)だけではない。資源事業ではディスカウント・キャッシュ・フロー*3の方が一般的。

 

・伊藤忠幹部の肩書きなどにミスが見られる。事実誤認がある。

 

さて、スタッフから「CFOにインタビューしたらこんな感じでした」と報告を受けた、或いは、これが自分でCFO氏にインタビューした時に得られた回答だとしたら、やはり、減損テストや公正価値評価についてより詳細な質問を追加するだろう。そして、追加資金の要請を断った経緯やそれがドラモントJVの経営に与える影響を確かめるにはどうすればよいかを考えるだろう。

 

それともう一つ、なぜ、伊藤忠と100%子会社であるItochu Coal Americasの監査法人が異なるのかを聞くと思う。監査法人が異なれば色々流儀が変わるので、同じ監査法人に担当させた方が、情報のやりとりがスムーズで効率が良く、監査の質も上がるはずだからだ。

 

みなさんはどのように感じられただろうか。

 

 

コロンビア炭鉱事業であるドラモントJVが関連会社かどうかというのは、なかなか判断が難しそうだと思われただろうか。一方で、減損テストに使う使用価値と公正価値の計算方法と計算結果は、両者ともDCF(=ディスカウント・キャッシュ・フロー)なので、このケースではそんなに違わないのかな?なんて印象を持たれかもしれない。

 

僕の感想は、グラウカスは詳細な根拠を示して迫力があるが、一つの結論に向かって有利な情報のみを載せている印象がある。一方、CFO氏については、雑誌のインタビューだから仕方ないが、根拠が今ひとつ具体的でない。監査のとっかかりにはなるが締めには程遠い感じがした。

 

グラウカス・レポートに従って関連会社かどうかの区分にこだわるとすると、僕は20%の形式基準より、取締役会長が相変わらず伊藤忠から出ていてドラモントJVの経営に重要な影響を与えている可能性の方を注目する。伊藤忠がドラモントJVと同じドラマを共有する意思を失っていないと思うからだ。ただ、これは一般的な考え方ではない。一般的には、このCFO氏の主張の(前提にある)ように、20%かどうかをより重視するだろう。それが IAS28.5の規定の素直な読み方だと思う(578-9/6*1を参照のこと)。

 

ただ、監査ではこのポイントを後回しにすると思う。グラウカス・レポートも最終的には伊藤忠株式の評価を目的にしているのであり、一般投資家と変わらない。それにはP/Lをしっかり固める必要がある。関連会社か一般投資かは損益に大きな影響を与えない印象があり、評価損益(=減損テストや公正価値測定)が正しいかどうかの方が、情報価値が高い。まず、それに精力を集中させると思う。すなわち、減損テストや公正価値測定のプロセスおよび結果のチェックから始めると思う。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 グラウカス・レポートは、詳細なデータで主張を根拠づけているが、なぜか、アベノミクス&黒田バズーカによる著しい円安の影響を分析していない。円安は外貨建て投資の採算を向上させるので、もしかしたら、伊藤忠がこの投資に関して減損を回避できていたのは、円安が理由かもしれない。

 

*2 区分を関連会社から一般投資へ変更するとなぜ損失回避できるのか、そのロジックは分からない。しかし、グラウカス・レポートはそう断じている。

 

*3 ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF法)とは、将来キャッシュフローを見積もり、割引率で割り引いて現在価値を求める方法で、会計で使用価値や公正価値を計算する方法と基本的に同じだ。

なお、グラウカスが売上高マルチプル(=売上高から事業価値を推定する方法)を採用したのは、公開情報が限られているからで、もし、ドラモントJVのコストや利益の情報が開示されていればDCFによる試算が示されたのではないかと思う。CFO氏はおそらくそれを分かった上で、「資源事業はDCFが一般的、売上高マルチプルは適切ではない」などと述べていると思われるが、フェアな姿勢とは思えない。

 

 

2016年9月 6日 (火曜日)

578【投資の減損 05】持分法〜“重要な影響力”の意図

2016/9/6

前々回(576-2016/8/16)は、持分法が P/L 起点会計処理であり、連結財務諸表の中で連結グループのドラマに能動的な役割を果たす企業に適用されるものの、子会社のように各科目ごとに集計されるのではなく、持分法適用による投資損益を計上するためのたった2科目に要約されて連結 P/L に計上されることから、おそらく、重要性のない端役のような企業を想定しているのだろうと書いた。しかし、実際には決算に大きな影響を与える可能性があったり、規模の大きな投資先に対しても持分法は使われている。

 

前回(577-2016/8/23)は、持分法が適用される“関連会社”は連結グループにとって、出資額(実質的な投資とみなされる長期貸付などを含む)の有限責任では割に合わない、危険な存在になりえると書いた。特に、他に意思決定を牛耳る多数派が存在し、実質的な拒否権がないままに 20% 以上議決権を所有している状況は、その多数派が連結グループの守るべき価値を無視した意思決定を行って企業イメージを損ねたり、損失を出したりする可能性があり、投資額を超えるリスクがあるのではないかと書いた。

 

持分法という会計手法、及び、関連会社という存在は、一見地味だが、実は会計や経営上の問題を孕んだ急所だという気がしてきた。グラウカス・レポートは、そこを突いてきたのだ。

 

そして、僕には一つの疑問が浮かんできた。

 

“重要な影響力”という捉えどころのない抽象的な表現と、“20%”という具体的な根拠のない数値基準がいけないのでは? なぜ“拒否権”にしなかったのか。実態判断上も、経営上も、より明確で重要なラインなのに。

 

こうなっているのは、IFRSも日本基準も同じだ。きっと何か理由があるに違いない。もう少し、規定をじっくり読んでみよう。

 

 

IAS28の“重要な影響力”というセクションは、5から9までの5つの段落で構成されている。5は、例の“20%”基準、6は投資先の意思決定機関や方針決定プロセスへの参加など“重要な影響力”の実質的な中身の例示列挙、7と8は潜在的議決権の考慮、9は“重要な影響力”の喪失について記載されている。

 

そして、“重要な影響力”の定義は、IAS28.3 に次のように記載されている。

 

重要な影響力とは、投資先の財務及び営業の方針決定に参加するパワーであるが、当該方針に対する支配又は共同支配ではないものをいう。

 

ん〜、やはり分からない。捉えどころがないし抽象的すぎる。

 

 

いやいや、本当にそうか。実はちゃっかり本質を表現しているのではないか? というのは“投資先の財務及び営業の方針決定”という書き方に「あれっ?」と思ったからだ。なぜ、営業(方針)より前に財務(方針)が来てるのか。財務は営業のサポート役ではないのか。財務が営業に優先するとはどういうことか・・・(ここにポケモンがいる! うまくモンスターボールを当てればゲットできる。)

 

そこで想像だが、もしかしたら、“重要な影響力”とは「粉飾決算に加担させるパワー」のことではないか。「財務及び営業の方針決定に参加するパワー」とは、例えば、企業が押し込み販売で粉飾しようとすれば、その受け手となって在庫をたくさん持ってくれる会社を探さなければならない。その時役に立つほど強い影響力、パワーこそが、“重要な影響力”ではないか。

 

相手を支配する必要はない。連結財務諸表を作成すると、グループ内での未実現利益は消去されてしまうので、むしろ、支配関係にない(=連結子会社でない)協力者が必要になる。このような通常の商取引とはいえない取引、はっきり言えば、不正取引への協力を求めるには、何か特別な関係や力が必要になる。それが“重要な影響力”の意図するところではないか。

 

Great!  或いは、Excellent!

 

と、自分で自分を褒めたいところだが、残念ながら、これでは“議決権20%基準”を明確に説明できない。「逃げられたっ! ダダダン」って感じだ。

 

 

とはいえ、やはり“重要な影響力”の意図するところの本質は、ここにあると思う。連結財務諸表は、企業の経済実態を単体財務諸表より適切に表現するため、企業グループとしての経営成績や財政状態を表そうとするものだが、その裏には、子会社を利用した粉飾を無効化することがある。持分法も同様で、子会社ではないため連結では無効化できない粉飾を無効化する目的がある。未実現利益消去の手続きはその重要な手段だ。

 

ということは、関連会社にするかどうか(=持分法を適用するかどうか)は、本来、粉飾決算に協力しそうな相手かどうかで決定すべきだ。しかし、会計基準にそう書いてあったら、どんな会社も関連会社に指定されることを拒むだろう。名誉に関わるからだ。企業ののれんを汚すことになる。形式基準である20%に引っかからないよう、あらゆる手を尽くそうとするに違いない。すると、実態を映す鏡であるべき会計が、逆に実態を歪めかねない。

 

IFRSなどの会計基準はこの理由から、ネガティブな印象を与えないような関連会社や重要な影響力の定義・判断基準等を採用しているのではないかと思う。その結果が、根拠や背景がよく分からない“20%基準”というわけだ。しかし、そのものズバリの定義や判断基準が採用できないのは、やはり弊害がある。こんな数値基準に、経済の本質を表現させる力はない*1、と思う。

 

 

さて、IFRSの関連会社の規定を批判するために、このシリーズを始めたわけではないが、考えれば考えるほど、難しい規定であることは分かってきた。次回からは、グラウカス・レポートを見ながら、さらにIFRSの規定を読んでいきたい。

 

 

古い話で恐縮だが、1ヶ月ほど前に伊藤忠のCFOのインタビュー記事が日経ビジネスに載った*2。「…怒りの大反論」というタイトルで分かるとおり、このCFO氏は怒っている。が、違和感を感じた。この記事は、最後に次のようなCFO氏の発言で締められている。

 

「法的対応も選択肢の1つだが、皆様の意見を参考にして決めていきたい。少なくとも、私どもには一点の曇りもない。こういう対応を許していいのかと言うのは、私どものだけの問題なのか、証券市場全体の問題なのか、日本全体の問題なのかという問題意識を、僕は持っている」

 

僕の感想は次の通り。

 

・やるべきは、法的対応などではなく、投資家・株主との対話だと思う。

 

・一点の曇りがないかどうかは、疑問への合理的な説明によって証明してほしいと思う。

 

・許す、許さないは、伊藤忠ではなく、株主や投資家が判断することだと思う。

 

・関連会社に関する疑問は、伊藤忠の問題というより、IFRSなど会計基準に起因する問題かもしれない。という意味では、市場全体、日本全体、いや、世界全体の問題かもしれない。

 

但し、IFRS規定の弱点を伊藤忠が突いた、悪用したと言うなら、伊藤忠固有の問題にもなる。舛添氏の都知事辞任やPCデポ炎上でも分かるとおり、今や人々は、適法性や準拠性より適切性・適正性で判断する。

 

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 もちろん、IFRSも日本基準も“20%基準”だけでない、実質的な判断を求めている。しかし、特にIFRSに顕著だが、“20%基準”への依存も大きい。IAS28.5を見てみよう。

 

企業が、投資先の議決権の20%以上を、直接的に又は(例えば、子会社を通じて)間接的に保有している場合には、重要な影響力がないことが明確に証明できない限り、企業は重要な影響力を有していると推定される。反対に、企業が、直接的に又は(子会社を通じて)間接的に、投資先の議決権の20%未満しか保有していない場合には、重要な影響力が明確に証明できる場合を除き、企業は重要な影響力を有していないと推定される。他の投資者が大部分又は過半数を所有していても、ある企業が重要な影響力を有することを必ずしも妨げるものではない。

 

実質判断で、20%未満の議決権で関連会社にする場合、逆に、20%超の議決権を持ちながら関連会社にしない場合は、企業に“明確な証明”を求めている。この書き方だと、“20%基準”に従っていれば、楽だし、安全だ。繰り返しで恐縮だが、僕はこの形式基準のあり方には疑問を持っている。

 

*2 伊藤忠CFO、「不正会計」指摘に怒りの大反論 日経ビジネス 8/3

2016年8月23日 (火曜日)

577【投資の減損 04】持分法〜関連 会社、その存在の危うさ

2016/8/23

リオ五輪では、日本は史上最高の41個ものメダルを獲得し、多くのドラマと感動を我々に提供してくれた。勝利に喜び駆け寄ったコーチを、受け止めると見せかけて投げ飛ばした女子レスリングの金メダリスト川井梨紗子選手、銀メダルをとりながら強い責任感から謝罪した「霊長類最強女子」の吉田沙保里選手など、もう数えたらきりがない。どれも強烈だ。

 

僕が思うに、すべてのドラマに共通しているのは、選手の競技と勝負に対する強い意志だ。ドラマが生まれるのは、選手たちの“強い意志”の存在が一つのキーワードかもしれない。もし、受動的な姿勢が見えたら、感動は霞んでいただろうと思う。

 

 

さて、前回(576-8/16)は、持分法という会計手法に次のような特徴があると書いた。

 

・B/S価額は原価ベースとなること(よって、減損会計の対象となる)。

 

・投資先のP/Lを集約して連結P/Lに取り込むという、P/L起点の会計処理であること。

 

原価ベースのP/L起点の会計手法ということは、持分法が適用された関連会社は、連結グループの物語・ドラマの一部になる。但し、主要な登場人物としての活躍が期待されていないようで、持分法は関連会社のP/Lを極端に簡略化して連結P/Lに取り込む手続きとなっている。

 

現実には、関連会社絡みで連結グループの財務業績(=物語・ドラマ)が大きく変わることがあり得るので、会計手法と現実の間に齟齬が生じている。それを埋める努力を開示企業に期待したいところだ。

 

グラウカス・レポートは、そんな持分法に絡んだ伊藤忠商事の会計処理について、問題提起をした。具体的には、関連会社かどうかの伊藤忠の判定に疑問を呈したのだ。ということで、今回は、IFRSが関連会社をどのように規定しているかを検討していきたい。

 

 

さて、IAS28「関連会社及び共同支配企業に対する投資」(2015/3に適用されるもの)は、“関連会社”および“重要な影響力”について次のように定義している(IAS28.3)。

 

関連会社とは、投資者が重要な影響力を有している企業をいう。

 

重要な影響力とは、投資先の財務及び営業の方針決定に参加するパワーであるが、当該方針に対する支配又は共同支配ではないものをいう。

 

重要な影響力については、IFRSにしては珍しく、数値基準がある。

 

企業が、投資先の議決権の20%以上を、直接的に又は(例えば、子会社を通じて)間接的に保有している場合には、重要な影響力がないことが明確に証明できない限り、企業は重要な影響力を有していると推定される*1(IAS28.5の前半部分)

 

そしてIAS28.16では、次のように記載して、関連会社の投資には、持分法を適用しなければならないとしている。

 

投資先に対して共同支配又は重要な影響力を有する企業は、関連会社又は共同支配企業に対する投資を持分法で会計処理しなければならない。ただし、当該投資が第17項から第19項に従って免除の要件を満たす場合を除く。

 

 

これらの規定を読んで、ちょっと、想定外の方向へ思考が飛んだ。それは、“関連会社の危うさ”だ。それは20%という数値基準に根拠が見当たらないからだ。20%の議決権を持つと、企業統治上の何が変わるというのか?

 

上述したように、前回は「重要性がない会社に適用すべき会計手法(持分法)が、企業グループの連結業績に重大な影響を与える可能性のある企業に適用されている」旨を指摘した。これは情報開示上の問題に過ぎない。しかし今回は、企業統治・企業グループ経営のリスクとして、関係会社の危うさを感じた。

 

特に実質的な拒否権を確保できていない場合、かつ、他に多数派がいる場合、“出資比率に応じたリスク負担”というのは割に合うのだろうか? そのような関連会社における企業統治上の立場は、むしろ、20%以下の一般会社の方へ近いのではないか。仮に取締役会に人を出していたとしても、だ。

 

 

企業経営は、民主主義ではない。民主主義では少数派意見の尊重が強調されるが、企業経営は一貫した戦略・戦術を決定し徹底する場だ。例えば、賛成派と反対派の双方の顔を立てて、足して2で割るような中途半端な経営方針で顧客に喜ばれるのか、或いは、競合先に勝てるのか。そうではないだろう。他社がやらないことをやり、他社の上を行くには、一方向へエネルギーを集中させることが重要だろう。足して2で割ってなどしていられない。

 

すべての株主が同じ方向を向き、協力・協調できている間は良いが、そんな理想的な状況が永遠に続くとは限らない。経営環境が厳しさを増すにつれ、意見が割れ、一部の投資者・株主のポリシーに反したり、利益にならない決定が下される場合が増えるだろう。そのような時、少数派が我慢を強いられる可能性が高いのではないか。拒否権を持っていれば別だが。

 

結局、拒否権なしの他に多数派が存在する関連会社については、ピンチを戦うのに多数派頼みになりやすい。少数派にとっては、経営にタッチするといっても受動的になりがちだ。多数派が成功すれば恩恵をえ、失敗すれば損害を受ける。上述したように、重要な関連会社の場合、連結グループの経営戦略・戦術に悪影響を与えたり、評判(=ブランド)に傷がつくといった無形資産の価値が毀損する可能性もある。

 

要するに、連結グループのドラマ・物語、のれんに傷がつく。出資額の問題だけで済むとは限らない。そもそも、ドラマになるほどの主体的な強い意志を持てる環境が整っていないのではないか。

 

 

一方、僕の経験では、企業が投資先を子会社でなく関連会社とする場合、リスク軽減策のように監査人たる僕に説明するケースが多かったように思う。実質的な拒否権を持っていればそうかもしれないが、そうでない場合は本当にリスク軽減になるのだろうか。その事業が失敗した場合の損失額を、子会社にした場合より減らせるという意味ではそうだが、失敗の確率を高めはしないだろうか。

 

このように考えてみると、グラウカス・レポートが伊藤忠の持分法・関連会社に着目したのは、単に会計処理の問題を超えて、鋭いかもしれない。拒否権なしの関連会社は、どうも危ない気がしてならない。しかし、その割に、一般的にはより手軽な出資のように考えられている面があるように思う。

 

なお、直近の伊藤忠の終値は1,202円(8/22)。グラウカス・レポート公表日終値の1,182円より上昇している。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 IAS28.5の続き(後半部分)は、以下のとおり。

 

反対に、企業が、直接的に又は(子会社を通じて)間接的に、投資先の議決権の20%未満しか保有していない場合には、重要な影響力が明確に証明できる場合を除き、企業は重要な影響力を有していないと推定される。他の投資者が大部分又は過半数を所有していても、ある企業が重要な影響力を有することを必ずしも妨げるものではない。

 

本文に記載した通り、IFRSには珍しい数値基準で、かつ、「他の投資者が大部分又は過半数を所有していても、ある企業が重要な影響力を有することを必ずしも妨げるものではない。」に、非常に違和感を感じている。

 

僕には、IFRSの根底にある経営実態重視の考え方に反しているように思える規定だ。

 

グラウカス・レポートが指摘した3つ問題は、いずれも、拒否権なしで他に多数派がいるケースのようだ。IAS28の20%という数値基準に従えば、関連会社として識別し持分法適用の対象となっても不思議はない。一方で、企業統治上の立場としては、20%未満の一般の投資先とあまり変わりがない(=多数派の意志に逆らえず、経営に受動的に関わっているにすぎない)ような実態を持っている可能性も考えられる。

 

僕には、これらが数値基準の弊害の例のような気がしてならない。

 

 

2016年8月16日 (火曜日)

576【投資の減損 03】持分法〜ドラマの共有

2016/8/16

サッカー手倉森ジャパン、イチロー、体操、柔道、水泳、フェンシング、7人制ラグビーなどなど、そして天皇陛下のお気持ち表明。どれもドラマだなあと思う。DoCoMo のCMのキャッチ・コピー、“世界はひとりの複数形でできている”が頭に浮かんでくる。勝敗、ヒット数、メダルの色や数、ご公務への思いなどは、それぞれの人生の切り取られた一断面に過ぎない。しかし、それぞれの“ひとり”たちは、そこにこだわって生きてきたから、結果を万感の思いを持って受け止める。我々一般人もそれぞれの人生に同じようなシーンが思い当たる。だから、(一部に過ぎないが、)その感覚がジーンと伝わってくる。そして、企業にもドラマがある。

 

 

さて、IAS28「関連会社及び共同支配企業に対する投資」(2015/3に適用されるもの)は、持分法を次のように定義している(IAS28.3)。が、長い割につまらないので読み飛ばしてもらって問題ない。

 

持分法とは、投資を最初に取得原価で認識し、それ以後、投資先の純資産に対する投資者の持分の取得後の変動に応じて修正する会計処理方法をいう。投資者の純損益には、投資先の純損益に対する投資者の持分が含まれ、投資者のその他の包括利益には、投資先のその他の包括利益に対する投資者の持分が含まれる。

 

ただ、次の点は押さえておこう。重要だと思う。

 

・B/S価額は原価ベースとなること(よって、減損会計の対象となる)。

 

・投資先のP/Lを集約して連結P/Lに取り込むという、P/L起点の会計処理であること。

 

要するに、日本基準の持分法と同じだ。異なるのは、投資差額(連結子会社への投資の場合の旧連結調整勘定、のれんに相当する部分)を償却しないことぐらいか。

 

上に、“原価ベース”と“P/L起点の会計処理”を別なものとして2段書きしたが、これらはとても密接な関係があると思う。もしかしたら、一つのことの裏表と言えるかもしれない。

 

 

まず、原価について考えてみよう。

 

“原価”を“歴史的原価”と呼ぶことがある。どこかのテレビ番組で見たが、歴史を意味する英単語の“history”とは“his story”、すなわち、“彼(=勝者・支配者)の物語”なのだそうだ。すると歴史的原価とは、その企業が資産を取得してから収益化(=例えば、加工して販売)するまでの物語と考えることができる。

 

なるほど、原価は数字であり言語ではないが、付随費用を賦課したり原価計算したりといったプロセスは、まさに、その企業と資産の関わりの物語を表しているといっても良いのかもしれない。

 

これは、原価ベースゆえの会計プロセスであり、時価主義であれば不要だ。もし、時価主義ならば、期末の数量と時価さえ分かれば B/S 価額を決定でき、期首評価額との差額を P/L へ計上するだけで良い。したがって取得時点、場合によっては取得前からその資産に合わせてコストを集計するような作業・プロセスは全く不要になる。したがって、時価主義だとストーリーは生まれにくい。

 

 

次に、P/L だ。

 

これには、IASBのB/SやP/Lなどへの期待、すなわち、「B/SやP/Lがどの様に利用されるべきとIASBが期待しているか」を知ると良いと思う。現行概念フレームワーク(2010/9)の第1章「一般財務報告の目的」を読むと分かる*1

 

僕の結論は、B/Sは結果の表示、一方、P/Lはドラマや物語りだと思う。要するに、持分法がP/L起点の会計処理だとすれば、持分法の対象である関連会社の物語りは、連結グループのドラマの一部になる。もちろん、敵対する役どころではない。関連会社の利益が増えれば連結グループの利益も増えるのだから、両者は同じ方向を向いた味方同士のはずだ。

 

 

このように、持分法は原価ベースとP/L起点という特徴を持つことで、連結グループのドラマを表現する会計手法ということになる。

 

ただ、連結子会社のように、売上高のような科目ごとの詳細を連結P/Lへ引き継ぐわけではない。引き継がれるのは、純損益とその他の包括利益それぞれの区分を集計・要約した持分法による投資損益だけだ。同じドラマの味方同士だが、これでは関連会社のドラマは見えてこない。見えなくても良いのだろうか。

 

今回、もっとも強調したいのは、この点だ。

 

恐らく、関連会社という登場人物は、ドラマの本筋を味わう上で詳細を知らせる必要のない程度の存在感の薄さが想定されているのではないか。例えば通行人のような。エキストラが演じるような。

 

まあ、IASBが「関連会社はエキストラ」と考えているかどうかは別にして、持分法については、連結グループの主要企業や個性の際立った企業への適用を想定していないように思われる。想定しているのは、連結グループのドラマの筋書きへ大きな影響を与えない程度の、人的要素の際立たない、個性の目立たない役柄・人物だ。実際には強い個性の企業かもしれないが、持分法の性格上、連結グループのドラマの行方を左右しない程度の重要性のない投資先が想定されているように思われる。

 

しかし、グラウカス・レポートは、本来重要性がないはずの持分法を問題とした。2015/3期の伊藤忠商事の決算では、幾つかの関連会社(或いは、関連会社と一般会社の出入り)が、重要な役割を果たしたようだ。その影響たるや、もしグラウカスの主張が正しければ、伊藤忠の株価が半分程度に下落するほどだという。ここまで書いてきたような、持分法の地味なイメージではない。

 

ところが、理屈と実際は異なるのだ。持分法は理屈の上では地味な会計手法だが、現実には重要な影響を及ぼすケースがある。例えば、みなさんもご存知のように、ソフトバンク・グループは、アリババという巨大企業を関連会社にしている。

 

ということで、会計手法としての持分法の性格は別にして、持分法かどうかは、経営上の重要性と関係ないと考えた方が良さそうだ。この理屈と実際の不整合さは、持分法の欠点といえるだろう。それは、会計を行う企業が補う必要がある。例えば、次のような工夫をして。

 

もし、持分法適用会社が決算に重要な影響を与えるなら、その会社の個性やドラマが理解できるよう注記で情報を充実させる。

 

ちなみに、持分法が地味な、決算に影響の少ない企業に対する会計手法だとすれば、IFRS9が適用される一般株式投資などはどう考えれば良いのだろうか。これらは、原則として決算日時点で公正価値測定される資産であり、B/S起点で会計処理が適用される。その結果がP/Lへ影響する。すなわち、P/L起点の原価ベースの会計処理のようなドラマ性はない。

 

一般株式と連結グループは、共有するドラマがない。一般株式は赤の他人のようなものだ。統治は相手企業には及ばない。したがって、期末評価手法は受動的な方法(=外部データに基づく客観的な方法)に寄らざるをえない。公正価値は受動的な測定方法だ。

 

(公正価値における企業の見積もりは能動的であってはならない。あくまで客観性が重要となる。見積もりを能動的に行えるのは、原価ベースの資産に適用される減損会計の使用価値測定の算定時のみ。)

 

ということになりそうだ。これらの点を伊藤忠の開示とグラウカス・レポートを読む際に考慮すると良いかもしれない。今後、注意していこうと思う。

 

なお、直近の伊藤忠商事の終値は1,196円(8/15)。グラウカス・レポート公表日終値の1,182円より上昇している。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 ご存知のように、IASB 概念フレームワークの改定作業中だが、ここでは現行のバージョンを対象に、B/SとP/Lに対する IASB の役割期待を考えていく(改定後もB/SとP/Lの役割期待に大きな変化はないと思う)。

 

まず、利用者が財務情報を使う目的・必要性について。

 

現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者は、企業への将来の正味キャッシュ・インフローの見通しを評価するのに役立つ情報を必要としている。(OB3の末尾)

 

そして、上記の目的を果たすためのより具体的な情報の説明は以下のとおり。

 

将来の正味キャッシュ・インフローに関する企業の見通しを評価するために、現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者が必要としているのが、企業の資源、企業に対する請求権、及び企業の経営者や統治機関が企業の資源を利用する責任をどれだけ効率的かつ効果的に果たしたかに関する情報である。(OB4の冒頭)

 

ここでの“企業の資源”とはB/Sの資産のことであり、“企業に対する請求権”とはB/Sの負債のことだ(資産や負債の定義を見ていくと分かる)。さらに、“企業の経営者や統治機関が企業の資源を利用する責任をどれだけ効率的かつ効果的に果たしたかに関する情報”という長い文章は、その後“経済的資源及び請求権の変動”という表現に置き換わっていく(例えば、OB15と16を括る見出しに使用されている)。すなわち、一時点の企業の資源や偉業に対する請求権の情報がB/Sであり、それらの変動についての情報がP/L、持分変動計算書、キャッシュフロー計算書を示すことになる。さらに、これらからP/Lを抜き出して“財務業績”という言葉が使われていく(OB15〜)。

 

さて、いよいよB/SやP/Lはどのように利用されるとIASBが期待しているか。

 

B/S項目については以下のとおり。

 

報告企業の経済的資源及び請求権の内容及び金額に関する情報は、報告企業の財務上の強みと弱みを利用者が識別するのに役立つ。当該情報は、報告企業の流動性及び支払能力、追加的な資金調達の必要性、企業がその資金調達に成功する可能性はどのくらいかを利用者が評価するのに役立つ。現在の請求権の優先順位と支払要求に関する情報は、将来のキャッシュ・フローが報告企業に対する請求権を有する者の間でどのように分配されるのかを利用者が予測するのに役立つ。(OB13)

 

要するに資産や負債の種類・大きさから、支払能力や財務的安定性、配当能力などを読み取る参考になることを期待している。対象企業の物理的・法的側面に焦点が当たっており、不確実性の程度が低く、分析作業は比較的楽だ。しかし、経営者や組織風土など人的要素の香りがしない。

 

P/Lについては以下のとおり。

 

報告企業の過去の財務業績、及び経営者がどのように責任を果たしたかに関する情報は、通常、企業の経済的資源に対する将来のリターンを予測するのに役立つ。(OB16の末尾)

 

過去の財務業績(=過去数期のP/L)の分析や経営者の能力評価は、その企業のビジネス・モデル、それによって成し遂げようとしたことと結果を理解することであり、ドラマ性がある。人が活躍する様子が目に浮かぶよう。分析や評価は手間がかかるし難しい作業だが、将来キャシュフローの見通しという将来予測を行う利用者にとって、人的要素の理解は欠かせない。そこにはB/Sに計上されない企業の無形資産、自己創設のれんの存在があると僕は思う。

 

上記は、B/SとP/Lに記載された情報に優劣をつけようとしたものではない。ただ、人的要素の香りがする、企業のドラマが見えるのは、プロセスが記載されたP/Lということだ。オリンピックを見る際に、結果を知りたければハイライト情報を見れば良い。それはB/Sだ。しかし、ドラマを楽しみたければ P/Lの方が合っている。

 

 

 

2016年8月 2日 (火曜日)

575【投資の減損 02】検討方針

2016/8/2

元横綱千代の富士の九重親方が、7/31に亡くなったという。僕は相撲にあまり興味はないが、一時だけ夢中になったことがある。千代の富士が“前廻しを取ってからの一気の寄り”のスタイルを確立し、大関・横綱へ昇進していった頃だ。大学受験を控えた高校時代と重なっていたせいか、“最短距離での勝利”を恰好良く感じた。ご冥福を祈りたい。

 

 

さて、前回(574-7/28は、例のグラウカス・レポートが、持分法適用範囲の変更を中心に伊藤忠商事の会計処理を批判している一方で、僕の関心は、次のようなものだった。

 

 コロンビア炭鉱事業の投資の評価がどのように行われたか。持分法かどうかで評価額に大きな違いが生じるのだろうか。

 

 コロンビア炭鉱事業の投資と頂新の投資は、前者が大きな損益なく持分法適用範囲から除外されたのに、後者はなぜ巨額の特別利益が発生したのか。

 

これらを検討するには、次のようなステップを踏むことが予想される。(これらはあくまで予想であり、やりながら変更するかもしれない。)

 

① IFRSで、持分法がどのように描かれているかを理解する。

 

皆さんも、持分法を連結と一緒に習ったのではないか。僕もそうだ。そのため、持分法は投資先の業績を企業業績に取り込む手法というP/L面のイメージが強い。持分法の“投資の評価手法”という側面はあまり意識してこなかったように思う。一方で、持分法を資産評価の手法とする考え方も聞いたことがある。

 

今回のグラウカス・レポートは、“持分法を適用するかどうかで評価額が変わる”ことに焦点を当てているので、持分法を資産評価の手法という側面から見ているのかもしれない。僕は、持分法かどうかより、減損テスト(特に使用価値の見積もり)や公正価値の測定手法がどうであったのか、これらに差異が生じるのかについて関心を持っている。

 

どちらの見方がより妥当性を持つかについては、IFRSが持分法をどのように扱っているかが重要になると思う。

 

IFRSの減損の種類や、見積もり要素の強い公正価値(レベル3)測定の相違の理解を深める。

 

このレポートの中で引用されているIFRSの個別基準は、ざっと見たところ、IAS28 「関連会社及び共同支配企業に対する投資」のみだ。例えば、IAS36「資産の減損」の引用はない。このことは、上述したように、このレポートが“持分法を適用すべきかどうか”へ焦点を当てていることを示している。

 

一方、僕が関心を持っている減損については、関連会社(IAS28)、子会社(IFRS10)、共同支配企業(IFRS11)についてはIAS36が適用され、それ以外の金融商品の減損については、IAS39「金融商品:認識と測定」を参照することとされている(IAS36.4。但し、実際にはIFRS9「金融商品」やIFRS13「公正価値測定」の規定も関連する)。

 

すなわち、持分法が適用されるならIAS36の減損会計、適用されないならIAS39の減損会計か公正価値測定となることから、グラウカス・レポートは、両基準における減損会計の差異、或いは、IAS39の公正価値測定(実際はIFRS13「公正価値測定」)との差異を伊藤忠が利用して減損を逃れていると言いたいのかもしれない。

 

よって、これらの個別基準の関連規定に関する理解を深める。

 

グラウカス・レポートの指摘する3点を具体的に検討する。

 

検証する3点に関しては、グラウカス・レポートは詳細な情報がある一方、伊藤忠側の説明は極めてざっくりしている。おまけに、グラウカス側は“実態”、伊藤忠側は“契約(形式)”を根拠にしているので、“実態重視のIFRS”に照らすとグラウカス側の主張の方が妥当に思えるかもしれない。

 

しかし、予断を持たずに、① や ② の理解に基づいて、何が起こっているのかについて可能性を想像・妄想してみたい。

 

金融商品については、IASBが大幅改定中であることもあって、あっちこっちの規定を、行ったり来たりしながらの神経質な読み解き作業になりそうだ。とても千代の富士関のような、一気・一直線での勝負は難しい。でも、慎重こそが最短の道であると信じてやっていこうと思う。

 

 

ところで、伊藤忠商事は8/1に以下の追加開示を行った。

 

当社の会計処理に関する一部報道について(その3)

 

グラウカスの投資手法(空売りしているので、株価が下がると儲かる)を強調し、投資家等に冷静な対応を求めている。しかし、提示された疑問に対する回答はない。8/1の終値は1,170円なので、今の所、同社の株価は落ち着いている(レポートが公表された7/28の終値は1,182円)

 

 

2016年7月28日 (木曜日)

574【投資の減損 01】伊藤忠のグラウカス・レポート

2016/7/28

ポケモンGOも面白いが、これはもっと興味をそそる。元監査人の僕としては、“気の引き締まる思い”というか、スリルを感じる。グラウカス・リサーチ・グループ(=Glaucus Research Group California, LLC.)*1は、公表資料から企業の不正をあぶり出して、その企業の株を空売りするファンドだそうだ。株価が下落すると、このファンドは儲けが増える。

 

今回は、伊藤忠商事の株式評価に関する会計不正・粉飾決算を発見したとして、レポートが公表されている。40ページを超える詳細なもので、ざっと目を通したところ、迫力満点な出来栄えとなっている。要点は、すでに報道機関が報じている*2

 

それらによると、レポートには、2015/3期決算において3つの投資(コロンビアの石炭鉱山への投資、中国中信集団(CITIC)への投資、頂新(ケイマン)ホールディングへの投資)の評価に問題が指摘されており、伊藤忠商事の株価は、50%下落すると予想している。

 

レポートのサマリー部分の記載によると、上記投資の評価の問題点は、主に持分法を適用するかどうかの観点から論じられている。すなわち、

 

 持分法を適用すると巨額の投資損失・減損損失となるため、それを回避するために(再評価せずに)持分法適用の範囲から除外したケース(コロンビア石炭鉱山、減損回避見積額1,531億円)

 

 逆に持分法を適用すべきでない投資へ持分法を適用することで、(2016/3期以降の決算やその後の業績予想へ)利益を取り込んだケース(2015/1の中国中信集団の株式取得)

 

 持分法適用の範囲から除外する際に行われた投資の再評価益の計上が、あからさまな決算対策と見受けられるケース(頂新、不正な特別利益600億円)

 

伊藤忠商事といえば、資源投資の巨額の減損損失でガタガタだった三菱商事や三井物産を尻目に、非資源分野の安定した収益で、ついに商社トップに躍り出たと大評判だった(2016/3期)。上記の指摘がもし事実なら大ショックだが、伊藤忠商事側の反論が、同社のホームページに開示されている*3

 

グラウカスのレポートが「実態が従前と変わらないのに持分法適用を除外した」とか、「実際には経営に重要な影響を及ぼしえないのに持分法を適用した」といった“実態”に関するポイントを突いてきているのに対し、伊藤忠商事側の反論は“契約内容の変化”の観点から簡潔に説明している。数十ページに及ぶ迫力満点の問題提起に対して、たった1ページの反論であることもあり、ちょっと噛み合わない印象もある。

 

伊藤忠商事の株価は、このレポートが公表された7/27に 6.3%下落した(1,262円1,182円)。この下落幅は決して小さくはないが、この程度で済むのであれば、証券取引所も、金融庁も、日本公認会計士協会も、特別な対応は取らないかもしれない。しかし、今後さらに株価が大きく下落し、市場関係者や投資家が騒ぎ出せば、このレポートが言及している東芝の時のような展開へ向かうかもしれない。第三者による調査委員会の設置や、特設注意市場銘柄への指定、監査法人に対する特別の検査などだ。真相に興味をお持ちの方は、それを待つと良いだろう。

 

その間、このブログはどうするかというと、IFRSの金融商品や持分法の規定に照らして、両者の主張を検討してみたい。真相や実態は、僕には分からない。でも、このレポートが詳しい情報をまとめくれてるおかげで、IFRSの個別規定の勉強にはうってつけの材料になる。

 

とりあえず、現時点で感じているのは、関連会社(持分法)とその他の投資で、評価方法にどのような違いがあるか、及び、このような分類・区分を変更する際にどのような会計処理が要求されているかだ。

 

持分法は、投資先の期間利益を投資損益として連結財務諸表に取り込む手法で、原価主義ベースの会計処理だ。原価主義ベースの会計処理には減損会計が適用されるはず。一方、その他の投資は原則として公正価値評価されると思うが、仮に原価評価されるにしてもやはり減損会計が適用される。

 

持分法であれ、その他の投資であれ、同じ減損会計が適用されるのなら両者に発生する損益に大きな違いはないと思う。であれば、持分法かどうかでこの指摘ほど大きな違いが出るのだろうか。また、市場価格のない株式に対する公正価値評価と減損会計の使用価値評価にどんな差が生じるのだろう(コロンビアの石炭鉱山)。

 

そして、持分法適用範囲から除外された2つの投資(コロンビアの石炭鉱山と頂新)は、一方には大きな損益が発生しなかったのに、なぜ、もう一方には多額の特別利益が生じたのか。

 

レポートの問題提起とはちょっとずれるが、興味の湧くテーマとなりそうだ。“債務超過の優良会社”シリーズは、いよいよ自己創設のれんに焦点が当たり始めて面白いが、その一方で僕には荷が重くなっていた。そこでちょっとお休みして、こちらの問題を検討していきたい。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 ホームページはこちら。

ここで、話題のレポートを入手できる。僕はメールアドレス等を登録したが、登録しなくても入手できるかもしれない。

 

https://glaucusresearch.com

 

*2 グラウカス・リサーチに関して、或いは、今回の伊藤忠の開示に関して、次のような報道がある。

 

企業の不正を調査・空売り、米グラウカスが日本株投資へ 7月めど REUTERS 6/23

 

この記事は、今回の件に先立ち、グラウカスの紹介がされている。「これまでに米国、香港、インドなどの計22銘柄に投資をし、うち5社の経営者は証券詐欺で告訴された。」とされている。

 

伊藤忠を日本初の標的に、空売り投資家グラウカスが会計手法批判 Bloomberg 7/27

伊藤忠株が下落、米グラウカスのレポートを嫌気 REUTERS 7/27

伊藤忠、米社が不正会計指摘 議論の焦点は連結の範囲 日経電子版 7/27 有料記事

 

これらの記事には、レポートの要点が記載されている。特に、有料だが、日経電子版の記事は詳しい。

 

*3 当社の会計処理に関する一部報道について(その2)

 

“その2”とあるが、“その1”はグラウカス側の40ページに及ぶ詳細な問題指摘に対して、全く具体性のない、そっけないものだったため、改めて、より多少詳しい反論を“その2”として出したもののようだ。

 

 

2016年6月30日 (木曜日)

569【金融商品/番外編】英国EU離脱と欧州不良債権問題

2016/6/30

以前、「欧州には不良債権問題がある」と書いた*1。当時、欧州版の自己査定が始まるので、不良債権額が意外に膨らむかもしれない。新たな危機が生じないだろうか、と危惧したわけだが、大きく市場を揺るがすようなことはなかった。でも、くすぶっている。ん〜、熟成してきたというべきか。実は、蔵出しのタイミングも決まっている。2018年だ。まだ先だが、東京オリンピックよりは近い。

 

今回は、久しぶりにこのブログの本題であるIFRSにも絡む話題だ。

 

IFRS9の金融商品の減損についての規定が、2018年(に開始する事業年度)に適用される。すると、貸倒引当金の積増しが懸念されるのだ。みなさんもご存知かもしれないが、貸付金や売掛金などの評価規定が厳しくなる(“発生損失”から“予想損失”による減損計上へ変わる)。

 

非常に大雑把に言うと、現行IFRSの規定では、日本基準で言うところの、不良債権を認定して個別引当するようなケースしか貸倒引当金が計上されない。いわゆる、“一般繰入れ”の部分がほぼない。損失発生の事実を確認してから貸引計上するので、どうしてもタイミングが遅くなる(too little too late.)。リーマン・ショックの際にこれが批判されて、予想される損失を予め計上する考え方へ変更することになった。これが上述の2018年のIFRS9の改定(の一部)だ。

 

欧州の銀行は2014年に自己査定を始めたので、不良債権額は十分な精度で把握できるようになった。しかし、日本や米国から見ると、まだ引当不足の状態にある。それが2018年に解消され、積増しされる(ことが予想される)。そうなると、もっとも状況の悪いイタリアなどでは、銀行が資本不足に陥ることが予想される。これが蔵出しだ。

 

とはいえ、みなさんは「これと英国のEU離脱とは関係がないのでは?」と思われたかもしれない。僕もそう思う。しかし、現実には、次のような記事があって、どうも、この件を材料にしたヘッジ・ファンドの攻撃を心配しているようなのだ。

 

取り付け騒ぎ回避であらゆる手段=ユンケル欧州委員長 6/29 REUTERS

UPDATE 1-イタリア、銀行セクター支援策を準備 英EU離脱受け=関係筋 6/28 REUTERS

 

Brexitが確定した6/24以降急落していた欧州銀行株は、幸いなことに、6/28には一転反発した*2。これらの報道も影響したかもしれない。

 

マネックス証券のチーフ・アナリスト 大槻奈那氏(金融分野に強い)は、Brexitに関する最近のレポート*3の中で次のように指摘している。

 

中でもイタリアは、不良債権の総額は約30兆円と欧州の中でダントツである(図表5)。貸出に対する不良債権の比率は16.8%と日本の金融危機時を上回る高い比率となっている。引当金は計上されているが、不良債権額の約半分程度であり、残りは今後の損失に繋がりやすい。

 

・・・英国からの資本流出など悪い条件が重なった場合に、欧州側の金融システムの脆弱な部分(これがイタリアなど)にも刺激が及ぶ可能性が、指摘されている。それにしても、イタリアの状況は相当悪そうだ。

 

確かに、ヘッジ・ファンドが攻撃のネタにしそうな感じだ。単なる杞憂ではすみそうにない。恐ろしい話だ。でも、EUは対応の準備ができているようだ。これが大事。

 

金融市場は、変動することで実体経済の弱点を知らせてくれる。会計もそれに寄与している。これは便利な機能だが、行き過ぎると実体経済を過度に刺激し、悪化させる。これが難点だ。「Brexitなど、精々、関税がかかるぐらいなもので大したことない」と達観できれば、本当に大過なく過ごせるのだが、さて、どうなるだろうか。

 

特に、英国内、或いは、英国とEUの間で感情的なもつれが生じると、影響が大きく広がりそうだ。人々が冷静でいられるように祈るしかない。

 

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 404.【番外編】欧州の不良債権問題 2014/10/5

 

*2 欧州株は反発、金融株持ち直す 6/29 REUTERS

 

*3 BREXIT後の日・欧金融セクター:株価暴落の背景と今後 6/28 マネックス証券HP

 

 

 

2015年10月 9日 (金曜日)

518【税効果17】まとめ〜日本基準のゆくえ

2015/10/9

先日、渋谷から皇居手前の最高裁判所まで、青山通りを一気に歩く機会があった。お天気は申し分なく、ちょっと早足だったが、熱を持った体に当たる風は涼しかった。田舎にはない景色の連続なので、退屈もしなかった。道は、途中、赤坂見附で少しうねった以外、ほとんど真っ直ぐだった。

 

妙な考えが頭に浮かんだ。「青山通りって、税効果会計の日本基準みたいだなあ。」

 

若者文化を代表する街、渋谷。そこから、最高裁判所までのハイソで落ち着いた街道、青山通り。最高裁判所は、社会的な欲望の対立や矛盾を収める典型的な大人の世界だ。青山通りは、まるで、若者が大人の振る舞いを勉強して成長していく過程のようだ。(ただ、行き着くところが裁判所というのはいただけないが。)

 

一方、2000年の会計ビックバンで欧米の会計レベルに追いつこうと導入された金融商品会計、減損会計、退職給付会計、そして税効果会計。最初の3つは税務上の処理と著しく異なるので、税効果会計なしには導入できなかった。そういう意味で、税効果会計は日本の会計基準がグローバル基準に追いつく基盤だった。グローバル基準を“大人”とすれば、まだ幼かった当時の日本基準を一応一人前にさせたのが、税効果会計だった。

 

さて、それから十数年が経ち、グローバル社会とますます関係を深めた(一部の)日本企業は、日本の会計基準にもう一段の成長を求めている。もっと使いやすい会計基準をと。それが、今回の繰延税金資産の回収可能性に関する基準の改定へと繋がった。

 

僕は、今回のシリーズで、この公開草案をIAS12「法人所得税」と比較することで、その成長ぶりを確認したいと思ったが、ちょっと不満を持つことになった。定着している実務を大きく変更しない配慮により、従来の監査委員会報告第66号の枠組みを踏襲したことで、会社分類やスケジューリングに関する細かい規定が残ったからだ。

 

しかし一方で、公開草案のその会社分類の方法は、従来より将来思考的になり、企業が責任を持って作成した業績見通しを反映しやすくなっている。企業が将来思考的になることは戦略的になることだから、企業経営の進化であり、歓迎すべきことだ。当然、会計はそれをサポートしたり、促したりする役割が期待される。それに貢献しそうな進化を確認できた。

 

それにしても、日本基準はIAS12と違いすぎる。

 

企業に自由と責任を与え、その見積りに全面的に依拠しているように見えるIAS12に対して、日本基準は箸の上げ下ろしまでを指示している。まるで細則主義の基準だ。IFRSとのコンバージェンスやIFRSへの移行が検討されているのに、ASBJは、この差は解消するつもりがないのだろうか。

 

この疑問を解消するために、今度はUS-GAAPを見てみることにした。IFRSUS-GAAPは、かつて、熱心にコンバージェンス・プロジェクトを進めていたし、細則主義的な日本基準の将来の方向性を見るのに、細則主義のUS-GAAPが役立つと思ったからだ。

 

結果は、予想外のものとなった。US-GAAPでは、意外なことに、企業分類は要求されないし、スケジューリングも必要最小限の場合にしか要求されない。積極的証拠とか消極的証拠とか、MLTN基準といった日本基準にはない概念はあるものの、それらは抽象的なことであり、結局、繰延税金資産の回収可能性の見積りは、企業の判断に任されている。

 

結局、日本基準の規定が細かいのは、日本の税法に原因がありそうだということになった。日本の税法の、税の繰戻しや繰越欠損金の使用期限に係る規定が、繰延税金資産の回収可能性の見積りを難しくしている。米国連邦税の規定に比べると、税効果の実現が遥かに困難で不安定なのだ。そのために、日本基準は細かい規定を設けざる得ないのだろうと感じた。

 

即ち、単なる“会計基準のコンバージェンス”では越えられない壁がある。この会計基準を進化させるには、日本の税法を変えるしかない。

 

日本は、国家財政難の折、増税は議論されても減税は難しい。しかし、税効果会計の不安定さ(企業の業績が悪化すると、繰延税金資産が取り崩され、損失を大幅に拡大させる)は、経営上大きな問題であり、それに対処するため日本企業は、他国企業に比べて余分なエネルギーが必要となる。

 

消費税率を上げるために、そして法人税率を下げるために、税収を下げない工夫がされているが、そのために税効果会計は益々不安定になっていく。繰越欠損金は益々税効果の実現が不安定になっていく。結局、“法人税率の引下げ”という形式だけを求めて、企業経営の負荷を重くするというよく分からない税制改革が行われている。経済のパイを大きくするとか、経済成長率を上げる政策は、骨抜きにされたり、効果を相殺させられたりしている。

 

税の繰戻し制度や繰越欠損金制度は、企業の生涯納税額を負担能力に応じて平等にするものだが、それを制限する現行の税法は、経営が失敗した企業に冷たい制度になっている。納税負担が軽減されず、再起する資金を減らされてしまうからだ。これは個人所得税も同様で、事業や投資を失敗したり、災害や病気で思わぬ費用負担を強いられたりした個人にも冷たい。

 

経済的弱者となった企業や個人を税制上どのように扱うかについては、社会的な議論が必要かもしれないが、「払過ぎとなっている税金を取戻す(=繰戻し)権利」や、「払過ぎにならないように課税所得を調整する(=繰越欠損金による課税所得控除)権利」は、もっと大切に扱ってもらった方が良いように思う。もっと企業や個人がリスクを取りやすい社会にするために、必要な考え方ではないかと思う。

 

ということで、日本基準の一層の進化は、このような税制の社会的議論の有る無しや、そのゆくえに掛かっている。とはいえ、会計の世界からの問題提起が行われていないのは寂しい(少なくとも、僕はそのような問題提起が行われているのを知らない)。

 

 

青山通りは最高裁判所の脇で皇居にぶつかって終点を迎える。それ以上まっすぐ伸びることはない。税効果会計はどうだろうか。果たして、税法が皇居のように神聖にして犯すべからざるものなのか、それとも、その壁を越えてもう一段進化できるのか、もちろん、僕は後者となることを望んでいる。

 

ところで、青山通りには、羊羹で有名な“とらや”の本店がある*1。その有名な羊羹は少々高くて手が出なかったので、それはお土産用にして、自分用に“栗ごよみ”という季節限定の和菓子をバラで購入した。これが大正解。みなさんも、機会があったらお試し願いたい。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 本社ビル建替えのため、10/7をもって約3年間休業するとのこと。

 

https://www.toraya-group.co.jp/toraya/shops/

 

2015年10月 6日 (火曜日)

517【税効果16】US-GAAP)スケジューリング②&日本の税法の課題

 

2015/10/6

昨日、ちょうどパソコンの前にいるときに、ニュース速報が通知された。また日本人がノーベル賞を取ったという(生理学・医学賞)。凄い。快挙だ。大村智という方だが、僕は知らない方だったので、急いでWikipediaを見た。するとなんと、“主な受賞歴”のところに、「2015年 - ノーベル生理学・医学賞」と記載されている。早い。驚いた。

 

このブログの歩みは遅々としているが、世の中の動きは早い。反省してみても、どうしたら改善できるか分からない。みなさんには申し訳なく思いつつ、とりあえず続きを進めるしかない。

 

 

ということで、今回は、このシリーズの前回(515-9/29)に引き続き、「US-GAAPではどのような時にスケジューリングが必要か」について、個別の規定を見ていきたい。日本基準では、会社分類が②になると、早くもスケジューリングを求められる。僕はこのシリーズの前回、「日本基準に慣れた僕の感覚では、US-GAAPの書き振りが楽観に満ちていると感じる。」と記載したが、今回こそ、皆さんにそれを感じていただけると嬉しい。

 

なお、今回、主に記載の対象となるUS-GAAPの適用ガイドの段落番号は、740-10-55-15  740-10-55-17だが、以下、段落番号は「740-10」(income tax overall)を省いて記載する(例えば、今回の記載対象は“55-15 55-17”と記載する。

 

最初に要点を書き出すと以下の通り。

 

・スケジューリングが必要とされるのは、必要最小限のケース。

 

主に、企業が繰越欠損金の期限切れを回避するために税務戦略を持っているような場合に限定される。

 

・日本基準と相違する理由は、恐らく、税法の違いが大きい。

 

特に繰越欠損金の有効期限の長さの違いや繰越欠損金を前期以前の納税額から繰り戻せる制度の存在が原因と思われる*1。特に下記“多額の将来加算一時差異がある場合(55-17)”をご覧いただきたい。

 

(ただ、それだけではなく、企業が会計上の見積りを行う姿勢の違いもあるかもしれない。508-9/8の後半や510-9/15の末尾へ記載した東芝の税効果会計への疑問、見積りが甘いのではないかという疑問がそう思わせる。)

 

では、個別の規定をざっくりと見てみよう。ただ、下記は僕の理解を記載したのであって、正確なUS-GAAPの解釈ではないことをお断り申し上げる。原文は英語で、僕は英語が苦手だ。

(なお、僕は原文の“Reversal patterns”や、動詞の“schedule”を、“スケジューリング”を表すものとして記載している。)

 

 ・スケジューリングが必要となるケース(55-15

 

a. B/Sの流動・非流動の区分を決める際に必要となるケース

 

繰延税金資産(・負債)のB/S流動・固定区分は、いつ解消されるかではなく、元となる一時差異が流動項目関連か、それとも固定項目関連かで判定される。したがって、繰越欠損金にかかる繰延税金のように、特定の資産・負債と関連しない場合にのみ、スケジューリングが必要になる。

 

b. 繰延税金資産の回収可能性を決めるケース

 

多くの場合は、スケジューリングなしで「評価性引当金の必要なし」と決定できる。“税務上の有効期限や金額”等の注記が必要とされる営業損失(≒繰越欠損金)等であっても、スケジューリングは必要とは限らない。

 

c. 測定に利用する税率の変更が予定されるケース

 

多くの場合、スケジューリングは必要ない。段階的に税率が変わる場合には、時々必要になる。

 

・将来課税所得の見積りとスケジューリング(55-16

 

MLTNベース*2で税効果を実現するに足る十分な将来課税所得を容易に見積り説明できる場合は、一時差異のスケジューリングは不要。

 

・多額の将来加算一時差異がある場合(55-17

 

より判断が容易なのは、将来減算一時差異を遥かに超える多額の将来加算一時差異がある場合(特に、将来加算一時差異の解消期間  将来減算一時差異の解消期間の場合)。例えば15年間もの有効期限*1があれば、繰越欠損金の税効果が実現する可能性は、スケジューリングなしのMLTNベースの課税所得の見積りだけでも判断が容易に行える。

 

・税務戦略、タックス・プランニング(55-39

 

普通なら行わないような固定資産の売却を計画するなど、企業は、繰越欠損金の期限切れ回避などのために税務戦略・タックスプランニングを持つ場合がある。このような場合、事業から十分な課税所得を得られるなどの積極的な証拠がない限り、評価性引当額を不要と判断することはできない。( ⇨こういう場合は、評価性引当額を評価するために、必然的にスケジューリングが行われる。)

 

というわけで、最期の繰越欠損金の期限切れが見込まれるようなケース以外は、本格的なスケジューリングが必要になりそうにない。日本基準でいえば、会社分類④や⑤になるまでは、スケジューリングが不要といえそうだ。

 

 

今回の記事の冒頭は明るい、素晴らしいニュースで始まったが、ここまで書いて、寂しく、暗い気分になっている。なぜかというと、清水エスパルスの戦績や株式相場が奮わないことではない。税効果会計の企業経営に与える影響が思い浮かんだからだ。

 

税効果会計は業績に与える影響が大きいため、非常に重要な項目だ。それは日米ともに同じだが、日本の場合は加えて、振れ幅が激しい。日本企業の業績が悪化すると、繰延税金資産も取り崩されて、輪をかけて悪い数字が出てしまう。経営者としては気になって当然だろうし、実際に税務負担も重くなるが、米国企業(恐らくヨーロッパ企業も)は、そういう余計な心配がいらない。これは国際競争において不利にならないだろうか。繰越欠損金の繰戻しや繰越控除の制度を、国際基準に直す必要があるのではないか。

 

このような主張は、「企業ばかりを優遇する」と猛反発を喰らうかもしれないが、それなら個人もマイナンバー制度導入と共に、同様の制度を創設すれば良い。マイナンバーがあれば、税務当局も手間なく個人の所得税の繰戻しや繰越しが事務管理できるはずだ。

 

国の財政を考えると税収減につながるような改革はやりにくいかもしれないが、企業や個人の生涯税負担、リスク耐性強化の観点で考えると、繰戻しや繰越控除は、本来、必要な制度だ。企業の国際競争力の強化や国民の税負担の平等、損失時発生時の負担軽減を図ってこそ、経済の繁栄と税収増につながるのではないか。

 

税効果会計から、日本の税制の意外な課題が見えてきたように思う。

 

 

🍁ー・ー🍁ー・ー

*1 “(繰越欠損金の)15年間の有効期限”という記載にびっくりされた方もいらっしゃると思う。514-9/25にも記載したが、US-GAAPは、米国の連邦税の状況を念頭に「税務上の繰越欠損金は、その前の3年間(の繰戻し額)やその後15年間の課税所得と相殺できる税法」という前提を置いている(55-1)。一方、日本では、法人税法で厳しく制限されている(514-9/25*2)。

 

*2 MLTNベースとは、513-9/22にも記載したが、“more likely than not”の略で、(資産や負債を認識する際に)実現する可能性が50%を超えるかどうかで判断することをいう。上のケースでいえば、将来課税所得の見積りの実現可能性が50%を超えていれば、繰延税金資産の回収可能性の判断にそのまま使用できることになる。

2015年9月29日 (火曜日)

515【税効果15】US-GAAP)スケジューリングの要否①

2015/9/29

今年のリーグ、みなさんの贔屓のチームは好調だろうか。ご存知の通り、僕の贔屓の清水エスパルスは絶不調であり、J2降格の危機に陥っている。年間順位は最下位で、J1残留圏の15位アルビレックス新潟との勝ち点の差は8、これを残り5試合でひっくり返えす必要がある。

 

一方、年間順位7位の横浜F・マリノスの年間の勝ち点は40で、降格圏トップ16位の松本山雅FCが全勝してようやく届く。マリノスは、1つでも勝ち点を積み上げればJ1残留確定だ。

 

これを税効果会計の会社分類で表せば、マリノスはJ2陥落の心配がほぼないに等しいが、まだ完全には残留確定してないので分類2の会社になるだろう。しかし、エスパルスは陥落確定ではないが、かなり困難な状況になっており、分類4ぐらいか。

 

この話は、年間順位の16位から18位の3チームがJ2へ陥落するというリーグのルールを前提としている。しかし、もし、この前提が変われば、当然会社分類は変わってくる。例えば、年間順位最下位のチームのみがJ2へ陥落するというルールだった場合、エスパルスの残留はかなり明るい見通しとなる。あと5試合で、勝ち点2点差の松本や勝ち点差なしのモンテディオ山形を上回れば良いのだから。もしかしたら、MLTN(=more likely than not)ベースで評価性引当は不要になるかもしれない。

 

と、ここまで読まれて、みなさんは「何でありえない話をしてるんだ?」と思われたかもしれない。「前提を変えたらダメだろう」とか「意味がないよ」と。

 

だが、前回(514-9/25)、US-GAAPと日本基準は、税法の繰越欠損金の有効期限や繰戻しに関して全く異なる前提を置いており、それを反映して日本基準は、米国にはない“企業分類”を要求しているのではないか、と記載した。

 

要は、前提となる税法の違いは、絶望的(“絶望”ではない)な状況が全く希望に満ちた状況へ変わるほどのインパクトがあると、改めてここで強調したいと思ったのだ。

 

 

さて、前回は、US-GAAPの税効果の適用ガイドの最初の1段落目(74010551)を読んだ段階の推測で記載したが、その後、読み進めていくうちに、益々、確信を深めた。日本基準に慣れた僕の感覚では、US-GAAPの書き振りが楽観に満ちていると感じる。今回は、その一つの例を紹介しよう。テーマは「どういう場合にスケジューリングが必要か?」。日本基準では、会社分類2でも必要とされている(例えば、公開草案20)が、果たしてUSーGAAPはどうか。

 

と、ここまで記載したところで、今日は力尽きそうだ。「えっ、やっと今日の本題に入ったのに?」と思われるかもしれない。しかし、英語相手のスクラムはパワーを消費する。ただ、せめて、今の段階で僕が感じていることの要約だけは記載したいと思う。

 

・スケジューリングって、滅多にしないの?

 

これは誤解を生みそうだが、適用ガイドの書き振りが「〜の場合でもしなくて良い」という感じに終始している。不要の場合ばかりが書いてある。よく考えれば「それ以外はスケジューリングするんですよ」ということなのだが、受ける印象は楽観に満ちている。

 

US-GAAPは細則主義と言われるが、経営者の判断が極めて重要

 

見積もり等に関して有名な言い回しがある。それは、「… depend on the facts and circumstances of each situation」(=それぞれの状況における事実と事情に依存する)だ。これを直接的に表現すれば「判断にバイアスを懸けてはならない。ひたすら客観的に」ということになる。これが、スケジューリング要・不要の判断についても記載されている(740-10-55-18)。

 

また、別の言葉で言い換えると「ルールで規定しきれないからしっかり判断してくれ」ということにもなると思う。すなわち、スケジューリングする・しないの判断は、簡単にルール化できない高度なものとして扱われているようだ。

 

日本基準は分類2の会社ならスケジューリングが必要だし、その会社分類は要件への当てはめで機械的に決められる(=分類1と2は、繰延税金資産と課税所得の大きさの関係で決まる)。ここに大きな差が浮かび上がってくる。その意味を問わずにいられない。やはり、税法の違いか。それとも…。

 

 

というこで、次回は上記の要約を具体的な規定に照らして検証していく作業になる。えっ、「面白くなさそうだ」って? いやいや、まだ本当にざっと見ただけで、しっかり読み込んだわけではない。もしかしたら、この要約が間違っていて、別の結論へ変わるかもしれない。次回を読まずに今回の記事は完結しない。

 

「そんな、いい加減な」って?

 

これもMLTN基準なので、あしからず。(MLTN基準はかなり使いやすい。)

 

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