時事・ニュース

2011年7月27日 (水曜日)

NHKスペシャル「なでしこジャパン 世界一への道」 に関連して

先ほどビデオを見たが、みなさんに報告したいことがある。それは選手が自分で考え、行動し始めたことを、なでしこのチームとしての成長ととらえ、優勝の要因としていることだ。トップダウンも大事だが日本企業はもともとボトムアップの優秀さが評価されていた。もう一度それを見直そう。原則主義のIFRSを導入するには現場力が重要だ。

(番組のあらまし)

勝手な僕の解釈で申し訳ないが、NHKは選手へのインタビューから、サッカーの技術論ではなく、チームが成長する過程で起こった個々の選手の精神的な成長に焦点を当てていると思われる。特に次の2つだ。一つはよく言われる諦めない気持ち、もう一つは優勝という目的のために選手がより積極的自主的に考え行動するようになったことである。特に後者の観点から番組内容を要約すると以下の通りであると見える。

①若い選手は澤選手にあこがれて日本代表に入ってきた。

 ・北京オリンピックでは「苦しいときは私の背中を見なさい」と澤選手が若い選手を
  引っ張っていた。

③予選リーグではまだなでしこの歯車は噛み合っていなかった。

 ・イングランド戦では疲れもあって積極性が出せず、かつ、試合中にその軌道修正が
  できないまま完敗した。

 ・準々決勝のドイツ戦の前まで練習を減らして疲れを取ること、試合では積極的な
  気持ち(パス回し)を選手側から提案し、議論し、監督も受け入れた。

④決勝のアメリカ戦では、逆に若い選手たちが澤選手を後押しした。

 ・開始20分はアメリカの勢いを止めるのに精一杯だったが、なでしこは監督からの指示を
  きっかけにキーパーの海堀選手、センターバックの岩清水選手が中心となって試合中
  に軌道修正し、ペースを引き寄せた。
 

 ・後半アメリカの戦術変更が当たり先制された。すると監督の指示を待たずに澤選手は
  自主的な判断でポジションを前目に変え、それが宮間選手の同点ゴールの背景と
  なった。

 ・延長前半に追加点を取られると川澄選手の提案によって右サイド前目のポジションを
  丸山選手と入替した。それがアメリカの猛攻を防ぎ、かつ、あのコーナーキックの背景
  となった。

 ・コーナーキックからの同点弾は宮間選手の発案に澤選手が反応し成功したもの。

 ・澤選手はPK戦を若い選手に委ねて自分は蹴らなかった。

(僕の解釈)

どうだろうか。時間の経過とともに若い選手の成長がチームの成果に結びついてきているのがお分かりになるだろうか。監督と選手、チーム内での澤選手と他の若い選手の関係が変化してきているところが面白い。その結果チーム全体が活性化している。

北京五輪後と今回のワールドカップでの宮間選手のコメントの違いが象徴的だ。北京のインタビューでは澤選手に対するあこがれが表情に現れているのだが、今回は澤選手を尊敬しつつも、チーム全員の勝利であることを強調している。

また佐々木監督も、澤選手が単独に素晴らしい選手というよりは、なでしこのなかにいてこその澤選手だ、という感じのコメントをしていた。まわりの選手の成長があってこその発言だ。

(IFRSで成功するには)

いままで何度も「より高次元の目的・目標を持つ」ことを強調してきたが、そうなることは現場の成長なくしてありえない。細かいルールで縛るのではなく、現場にもっと自由と責任を与え、成長を促すことが重要だ。現場とはいわゆる営業現場や製造現場ということだけでなく、CFOにはCFOの、経理部長には経理部長の、経理部員一人一人にも現場がある。もちろん、営業も製造も、研究開発部門にも現場がある。要は、一人一人がもっと自由と責任を持てる仕組みを構築する必要がある。

IFRSを導入するに当たっては、IASBのせいにしてはならない。IASB頼みはだめだ。原則主義のIFRSに細かいことが書いてないのは当たり前だ。趣旨を理解し、現場を理解し、判断に各自が責任を持つのが良い。だからFASBの影響を受けてIFRSが細則主義的になることを僕は危惧している。次回からはこの観点から、日本公認会計士協会が7月22日に公表した下記の文書を検討してみよう。

『IFRS財団評議員会の戦略レビューの報告「グローバル基準としてのIFRS:財団の第2の10年に向けての戦略の設定」に対する意見について』

これはいま企業会計審議会で議論されている日本のIFRS導入に関する議論を理解するうえでも重要な視点を与えてくれるだろう。なぜなら、IFRSが何を目指しているのかの一端が垣間見られるからだ。我々は、或いは企業会計審議会のメンバーはIFRSの性格を正しく理解しているだろうか。さて、お楽しみに。

2011年7月22日 (金曜日)

なでしこJAPANの勝因

僕がブログをサボっていた一週間の間に素晴らしいことが起こった。ご存じのとおり「なでしこJAPAN」がワールドカップを制覇した。その勝因を僕なりに考えてみた。それは「目的・目標」の持ち方にあったのではないだろうか。僕はサッカーは好きだが、戦術や技術論、個々の選手の活躍をここに記載するつもりではない。「意識の持ち方」が結果を左右する可能性ついて書いてみたい。

 

(フジテレビのアナウンサーへの違和感)

準決勝のスウェーデン戦はフジテレビで観戦した。フジテレビのアナウンサーは終始「メダルの確保」に意識を置いた話し方をしていて、僕はそれが嫌だった。しかし、宿泊していたホテルのテレビでは衛星放送、BS1が見られなかったので、チャンネルを変えられなかった。

 

なでしこJAPANが前回五輪で成しえなかったメダルを取ることを今回目標に掲げていたのは、僕も知っている。しかし、アナウンサーが「メダルを取るために」とか「ここで勝利すればメダルが確定する」などというたびに違和感を覚えた。選手や我々観戦者にとってメダルを取ることがそんなに大事だろうか? それより決勝戦に出場してアメリカと優勝を争う権利を得ることの方が大切なのではないだろうか。ついそう思ったのである。

 

(選手は、NHKアナウンサーは)

昨日帰宅して録画されていたBS1を見たが、試合前のインタビューで選手たちは「メダルを確保するために」とは決して言わなかった。みんな決勝へ行くんだと口をそろえていた。「メダルを確保する」などというのは3位決定戦に進んだチームの低い目標であって、準決勝を戦う選手がそんなことを口にするはずがない。NHKのアナウンサーも「決勝に進むために」とは言ったが、「メダルを確実にするために」などとは言わなかった。

 

僕は理屈をこねているつもりではない。むしろ精神論ではないが、それに近いことを書いているかもしれない。ある目標を達成するためには、その目標より大きな、より高い次元のところに視点を置き、そこから戦略を考える。するとより柔軟にアイディアが生み出せるし、変な緊張感に苛まれずリラックスしやすくなる。諦めない気持ち、粘り強く頑張るエネルギーも持ちやすくなる。

(IFRS導入・運用) 

IFRSの導入・運用も同じだと思う。東京電力の損害賠償に関する偶発債務の注記について記載した「目的に向かったか~東京電力の損害賠償引当金府警上の判断」や同じルールを採用しても運用次第で結果が変わることを記載した「日英サッカー審判の違い」でも同じことを強調したが、より大きな「目的」「目標」を強く意識することが困難に向き合う最善の方法だと思う。細則にばかり目を奪われ、本当に実現しなければならないことに意識が向けられないと、場当たり的で戦略性のない対応になってしまう。

 

ところで、アメリカとの決勝戦に勝利した後、澤選手はインタビューで次のような趣旨の発言をしたそうだ。「(私たちは)サッカーの大会というより、もう少し大きなことができるかもしれないと思っていた」 高い目線、志、目標が感じられる。

2011年7月 8日 (金曜日)

最後の送別会~継続企業の前提

今日(7/7)、僕の最後の送別会があった。例の「最後の監査報告書」のクライアントが開いてくれたものだ。みなさんには報告が遅れたが、「あること」は予定通り発生し、幸いに予定した監査報告書が僕の在職期限ぎりぎりに発行できた。クライアントの関係者にもお礼を申し上げたい。

ところで、このブログは実名でなく仮名で開設しているのだが、この送別会にiPadを持ち込んで、僕が話した近況からキーワードを見つけ、このブログを検索してしまった人がいる。例の最後の監査報告書で、僕の上にサインした人、即ち、元の上司だ。その人に「やっぱり長文だね」と言われてしまった。みなさんも僕の長文に辟易しているかもしれない。申し訳ない。

実はこの上司とは不思議な因縁があり、僕の在職時代の2大エピソードの両方にかかわっている。ひとつが、クライアントの営業の最高責任者の不正をあぶりだした時、もうひとつが東証から前例がないと言われながら継続企業の前提を理由とした意見不表明の監査報告書を書いた時だ。

さて、東京電力の2011/3期の監査報告書を意見不表明にすべきだったという意見が一部にあるようだ。意見不表明とする理由が、損害賠償引当金を見積もれなかったこと、即ち、あまりにも大きい未確定事項があってそれが財務諸表に重大な影響を与えていることを理由とするのであれば理論展開として理解できる。しかし、継続企業の前提が不確かであることを理由に意見不表明とするという話であれば、この制度を誤解している。

継続企業の前提に関連する制度は、2009年の監査基準の改定によって大きく変わった。当時意見不表明が多すぎるとの批判があったこと、および、国際的な実務と調和させることが改正の理由だ。改正前は、決算日後1年間企業が存続する可能性が高いと判断できるような経営計画を、経営者が監査人に提出できなければ、重要な監査手続が実施できなかったことに準じて意見不表明とする制度だった。改正後はそのような場合の多くは継続企業の前提の注記を会社が記載していれば、「適正意見+監査報告書に注意喚起の追記をする」という制度に変わったのである。今回の東京電力がこのパターンだ。

みなさんは、GMが破たんしたときのことを覚えているだろうか。ちょうどこの監査基準改定の直前のことだったが、GMの監査人は意見不表明とせず、「適正意見+注意喚起の追記」とした。当時GMは、政府の援助がない限り資金繰りが数か月で破たんすると公言していたので、僕は当然意見不表明になるだろうと思っていた。したがって違和感を覚えた。僕の英語力が乏しいのかとも思った。しかし、改定された監査基準を読んで国際的な実務とはそういうことだったのか、と納得した。

ここに現在の開示制度の本質がある。会社が倒産寸前であったとしても、そのリスクをちゃんと開示していれば、あとは投資家が判断するということだ。逆にいればリスクの開示はしっかりやらなければならない。例えば継続企業の前提の注記が必要なのに会社が行わなかった場合は、監査人は不適正意見か限定意見を表明する。注記を軽んじてはいけない。リスク情報を開示することで、リスクを投資家や株主に移転するのである。それに見合うだけの情報開示を東京電力は求められていたということだ。

なお、「目的に向かったか・・・」などの記事で、「準拠性の枠組み」「適正表示の枠組み」という言葉を使ったが、そもそも日本の制度はどちらの考え方なのか、という疑問を持たれた方がいると思う。詳細は別に記載したいと思うが、「以前から制度の建前は適正表示の枠組み、しかし実務が追い付いているだろうか」と僕は感じている。

また長くなってしまったが、前回約束したIFRS関連本の話の前に、「目的に向かったか・・・」で書き残したことを書かせてもらった。ちなみにIFRSの継続企業の前提の制度といまの日本の制度でなにか異なる点があるかというと、僕は特に感じていない。

2011年7月 6日 (水曜日)

目的に向かったか~東京電力の損害賠償引当金不計上の判断

「財務諸表は一定のルールで作成されるものだし、そうであれば適正」というのは正しい。但し通常の場合に限る。問題は「想定外」なことが起こった時の対応だ。そういう意味では会計も(監査も)今回の原発と同じだ。では何が想定外だったか、原発にとっては津波だったが、会計にとっては損害賠償額の決まる仕組みである。そして、ここにくどくど説明してきた「適正表示の枠組み」がどのように関わるか、僕の考えを説明する。

東京電力は偶発債務の注記の中で債務計上しなかった理由を「…賠償額は原子力損害賠償紛争審査会が今後定める指針に基づいて算定されるなど、賠償額を合理的に見積ることができないことなど」と記載している。さらに継続企業の前提の注記では、原子力経済被害担当大臣に対し原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」と呼ぶ)第16条に基づく国の援助の枠組みの策定をお願いし、それを踏まえた原子力損害賠償支援機構法案が国会で可決されるか、さらに枠組みの詳細が今後検討されることを考えると継続企業の前提に重要な不確実性があるとしている。

なるほど大変だ、これじゃしょうがない。とても引当金を計算できるレベルじゃないな。単純に日本の会計ルールを当てはめると、合理的に金額を算定できないので引当金の要件を満たさず負債計上しない、その代り注記で説明するという判断になりそうだ、となる。ここまでは決められたルール通りに財務諸表を作成すればよいという「準拠性の枠組み」での話。問題はここからだ。

よく考えてみると、金額が分からないのは次の点なのではないだろうか。
 ① 将来のこと。例えば…
  ・どれぐらいの期間被災者が避難生活を続けるのか。その所得補償額(生活費補償額)、精神的補償額など。
  ・将来発生するセシウムなどの放射線発生物質を除去するコスト。
  ・将来発生するかもしれない放射線による健康被害の医療コスト。
 ② その他、避難している人以外の放射線被害額。例えば…
  ・自主的に避難しているとか、子供を疎開させているとか、その他の放射線被害を防止するための費用。
もしかして、冷温停止になる予定の来年初までの今避難されている方々に対する補償額は、ある程度の合理性を持って見積もれるのではないだろうか。また、原子炉を廃炉にするコストについては外国の例を参考に見積もって特別損失にしているから、上記についても同様にすれば注記にできる程度の粗々の概算ならできる項目があるかもしれない。

そもそも、原子力経済被害担当大臣に対し原賠法第16条に基づく国の援助の枠組みの策定をお願いしたとき、損害賠償額の総額を大雑把にでも見積もらなかったのだろうか、その規模感についてどういう説明をしたのだろうか。或いは国はそれを求めなかったのだろうか。

そんな疑問を持ってもう一度注記を読むと、注記には一切金額や数量などの定量的な情報がないことが分かる。もしかして、今後も上記審査会が決めた賠償額だけを未払い計上していくつもりだろうか。しかし、そもそも「原賠法」では損害賠償請求は訴訟によることが原則で、この審査会が決めるのはその前払い、仮払いにすぎないだろう。新設される予定の原子力損害賠償支援機構も、経産省の資料によると「被害者からの賠償相談窓口の設置等賠償実施の円滑化」と東京電力の資金繰りのサポート役に過ぎない。原賠法では債務は東京電力が直接全額集中して負うのである。そのうちの一部を新設される予定の機構を通して国が最小限補助する。したがって、審査会が決めた分だけ未払い計上すればよいとする判断は考えられない。

そこで冷静に別の経産省の資料(7/1付で更新されている)を見てみると、「機構が原子力事業者に資金援助を行う際、政府の特別な支援が必要な場合、原子力事業者と共に「特別事業計画」を作成し、主務大臣の認定を求める。」とされており、「特別事業計画には、原子力損害賠償額の見通し」も記載される。するとそう遠くない将来に損害賠償額の総額の見積もり額が計算されるので、そのとき引当計上するつもりではなかったかと思う。しかし、その際にその賠償額のインパクトがあまりに大きければ、2011/3期の決算はなんだったのか、ということになりかねない。株主や投資家がそれでよし、とするのだろうか。

長くなるが、これは一筋縄ではいかないのである。ご辛抱願いたい。ここから僕の結論を記載する。
現状の開示は、日本の会計基準の細部に照らして問題があるとは言えない(準拠性の枠組み)。しかし、注記で定量的な情報が全くないことから、株主や投資家は2011/3期時点に既に存在していて、そう遠くない時期に計上される損害賠償額のイメージを持てない状況だ。損害賠償額の総額を合理的に見積もれないことには疑いはないが、もっと踏み込めばその一部を引当てできたのではないか(そうすれば前出の修正後発事象の問題も起きなかったかもしれないし、少なくとも軽減された)、引当てできない分についても、被災地域の人口でもGDPの減少額の推定値でもなんでもよい、なんらかの規模感を出せる定量的な情報を注記に書けなかっただろうか。そういう努力があればこそ、株主や投資家の判断を誤らせないという大きな目標を目指していた、適正開示の枠組みだったと言えるのではないだろうか。そんなことを書けとは日本の基準には書いてないけれども。

東京電力の関係者、監査人等、当事者のみなさんは大変な思いをして会社法の計算書類、金商法の有価証券報告書を作成し、監査されたと思う。それに対し部外者が勝手なことを書いてしまい申し訳ないと思う。しかし、もしJリーグの観客が審判に精度を求めるなら、Jリーグの審判はひとつひとつのプレーに対する判定を慎重に行うことが正しいが、もしかしたらJリーグの審判は観客が切れ目のない試合運びを見たいと思っていることを知らないかもしれない。したがって、観客の側からなにが適正開示になるのかを申し立てることも意味があるのではないかと思う。お許しください。

なお、IFRSは完全に「適正開示の枠組み」の会計基準だ。日本基準は、以前記載したように「基準からの逸脱」が必要となることがあるとを明文化してないので、今回のようなケースに対応しづらい。ちょっと半端になっている。さらにIFRSは引当金も計上しやすい。
また、今年3/10に日本公認会計士協会から会長通牒なる文書が出ており、これにも触れたいと思っていたが、長くなりすぎるので割愛する。

2011年7月 4日 (月曜日)

日英サッカー審判の違い

もうひとつ、このブログらしくない記事を経由してから、東京電力の件に戻ろう。僕はこのブログの冒頭で「ルールには支配者がいるらしい」と書いた。そして、それを好ましくないと感じている。しかし、IFRSは勝手が違いそうだと思っている。そこに通ずる話だ。

以下は僕が最終出勤日の帰宅直前に監査法人でお世話になったみなさんに送った最後のメールの一部だ。
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もしお時間のある方は、このリンク先の記事をお読みください。日経電子版のスポーツ記事です。

簡潔に要約すると、サッカーの審判の日・英の違いを書いてあります。Jリーグの審判は個々のプレーを正確に判定することに重きを置き、プレミアリーグの審判は観客が試合を楽しめるよう試合が途切れなく流れることを重視します。その結果審判によるゲーム運びはだいぶ変わってきます。ルールは同じなのにです。
どちらがよいかというと、この記事も私もプレミアリーグの審判の方がよいと思っています。記事ではプレミアリーグの審判の求めるものを「美」、Jリーグを「精度」と書いていますが、私はショービジネスの目的に照らしてルールを解釈・運用するのがプレミアリーグ、個々のルール運用の正確に積み上げると結果として目的を達成できると考えているのがJリーグ、と思っています。

私が監査法人で働いている間にも、日本社会も株式市場も我々監査業界も、すべからく多くのルールで縛られるようになってきました。ルールはますます高度化し複雑化しています。蜘蛛の巣のように張り巡らされたルールに抵触しないよう気を使っていると、本来の目的へ向かう気持ちが疎かになっていたり、貴重なタイミングを逸したりすることがあります。この現象は曲がり角を迎えた日本経済、国力の衰えが目立つ日本にとって果たしてプラスなのでしょうか。

共通ルールといえば、IFRS、監査基準(監査アプローチ)、などと我々も多くに接しています。それぞれ重要な目的がありそれを達成するために設定されたルールなのですが、我々はその重要な目的を達成するためにルールを解釈し運用できているでしょうか。細部の積み上げに時間を費やしていないでしょうか。それが我々の、或いは我々のクライアントのグローバルでの競争条件を不利にしていないでしょうか。偉そうなことを書きましたが、こんな問題意識を持っています。
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多くの方から、このメールの末尾に記載されていた僕の個人メールアドレスへ返信をもらった。「何を言いたいのか良く分からなかった(が、とにかく頑張れ)」と。このブログを読まれているみなさんもそうかもしれない。

くどくなるが、僕が言いたいのは「ルールが同じなら同じ結果が保証される」わけではない、それが現実だと。だからより詳細なルールを決めようとするのがアメリカ、そして日本も然り。そうじゃなくて原則を決めて、あとは個々の状況に応じてより大きな目的を果たせるようルールを運用しようとするのがIFRSであり、そういう能力(≒常識)を社会として持っていこうよ、そして個人が責任を持ってルールを解釈しようよ、というのが僕の考えである。そうすればIFRSに限らず、社会ルールはシンプルで分かりやすく親しみやすくなる。もっと自由で効率的な社会になる。

果たしてIFRSは本当にそうなっているのか。それをこれからみなさんとこのブログで検証していきたい。まずは東京電力の件を次回に見てみよう。

2011年6月30日 (木曜日)

最後の監査報告書~後発事象について東京電力でケーススタディー

昨日監査法人事務所に寄り、監査報告書に最後のサインをしてきた。予定通りであればこの監査報告書が本日発行される。そしてこの監査法人での僕の役割は終了する。「予定通り」とは、後発事象のことを指す。

後発事象とは、監査報告書対象年度の財政状態、経営成績には影響しないが、翌事業年度以降の財務諸表に重要な影響を与える、翌事業年度に発生した事象のことである。厳密には「開示後発事象」と呼ばれ、財務諸表の注記として開示される。例えば重要なM&Aが翌期に確定したり、実行されたりした場合が該当する。

このほかに「修正後発事象」というのもあって、これは発生したのは翌期になってからというのは開示後発事象と同じだが、その対象年度の財政状態、経営成績に反映させるべきものであるため、財務諸表の注記ではなく、その年度の会計処理に反映させる。例えば、重要な得意先の倒産が翌期になって発生した場合、期末日現在のその得意先の売上債権に追加の貸倒引当金を設定するのである。

僕が今回直面したのは前者の「開示後発事象」の方。6/30にあることが起こる予定なので、起こった場合の財務諸表の注記案を会社が用意しそれを監査した。そしてそれが起こる前提の監査報告書を用意している。したがって、今日それが予定通り起こったと僕のスタッフが確認し、かつ、それ以外に注記すべき重要な後発事象がなかったことも確認し僕に報告をするまでは、監査報告書は発行されない。

さて東京電力は、福島第一原子力発電所関連の損失の一部(原子力損害賠償紛争審査会が今後決定する指針に基づき算定される損害賠償額)を未確定として2011/3期決算に織り込まなかったが、その一部が確定したとして追加の損失額880億を注記で有価証券報告書に開示した。また併せて事故終息に向けたロードマップがその後の状況変化に応じて改定されたので、それに伴いコストが380億追加で発生することも注記で開示した。これらは性質としては「修正後発事象」であるが、「開示後発事象」として扱われた、というのは上記の説明からご理解いただけるだろうか。

実は、会社法の監査報告書(招集通知に添付されるもの)を発行した後に修正後発事象が起こっても、遡って会計処理を修正する必要はなく、有価証券報告書で注記として開示すればよいというルールがある。東京電力はそのルール通りの処理を行った。だから会計上、或いは開示上、東京電力の対応が適切であったと言えることになる。

しかし、である。投資家や株主はこの情報開示で満足したのかである。
ルールにはすべて目的があり、目的を達成するために設定されている。ルール通りにやったが目的が達成されなかったというのはルールの解釈・運用が間違っている、というのが僕の主張である。したがって、もしこの情報開示で投資家や株主が満足できなかった場合は、ルールの解釈・運用が間違えていたことになり、「適正ではない」と監査人が判断することもありえたと思っている。ちなみにIFRSにはこのような場合「IFRSから逸脱しなければならない」という規定がある。ただ、日本の会計基準には同様の規定はない。

さてそうすると、何が目的かが問題になる。その目的が満たされなかった、だからルールの運用が間違っていると主張するのだから。長くなるのでここでいったん終了する。ただ、僕の意図は東京電力やその監査人の対応を批判することにあるのではなく、ルールの解釈・運用についての問題提起や、IFRSについて説明することにあることを念のため記載する。

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