IFRSの前提となる内部統制

2015年4月22日 (水曜日)

463.【収益認識'14-04】“顧客との契約”~収益認識モデル

2015/4/22

金融庁は4/15に“IFRS適用レポート”を公表した1。これは同日開催された企業会計審議会第2回会計部会において金融庁から報告されたもの。2014/6/24に閣議決定された“『日本再興戦略』改訂2014”において、

 

「IFRSの任意適用企業がIFRS移行時の課題をどのように乗り越えたのか、また、移行によるメリットにどのようなものがあったのか、等について、実態調査・ヒアリングを行い、IFRSへの移行を検討している企業の参考とするため、『IFRS適用レポート(仮称)』として公表するなどの対応を進める」

 

とされたものを受けている。

 

僕は“監査対応”の部分などを読んだが、原則主義の解釈の仕方、監査人との意見相違など問題、その乗越え方などについて個別基準レベルの記載があり、大変面白かった。もし、まだお読みでない方は、欄外の脚注にリンクを貼ったので、ご覧いただけると良いと思う。

 

 

さて、このシリーズの前回(4604/14)は“キャッシュ・フロー”に着目した。本来、収益金額とキャッシュ・フロー金額は別もので、この基準でもそれはその通りだが、しかし、僕はこの基準で使われている“キャッシュ・フロー”という言葉に“測定基準”のような意味があるのではないかと感じた。従来の収益金額より、より回収されるキャッシュ・フローを強くイメージし、回収までのすべてのリスクを測定に織り込むというようなIASBの意思を感じたことを記載した。

 

今回は、IFRS15のタイトルにも付いている“顧客との契約”にこだわってみたい。「そんな“言葉”にこだわってどうするの? 文学作品でもないのに」という声も聞こえてきそうだが、僕には、IASBがこだわっているように思えるのだ。

 

そもそも、P/Lの一行目の“売上高”は、単なる収入ではない。企業が事業目的を遂行することで稼ぐ収入を計上する。不要になった固定資産の売却収入、損害をカバーするための保険収入などは計上されない。それらは顧客からの収入ではないためだ。IFRS15のタイトルは、“顧客”が経営の最上位にあること、そして、それを反映するかのように、P/Lも顧客からの収入を最上位に記載することを改めて思い起こさせる。

 

というのは僕の感想で、IASBがそういってるわけではない。では、どういってるかについて、今回と次回の2回に分けて、IFRS15の結論の根拠を見ていきたい。今回は“収益認識モデル”、即ち、IFRS15の根底にある認識(=いつ記帳するか=伝票日付)や測定(=いくらで記帳するか=伝票金額)の考え方に、“顧客との契約”がどのように関わっているかがテーマだ。

 

IFRS15の基準本体には“収益認識モデル”という言葉は出てこないが、結論の根拠には、“代替的な収益認識モデル”という言葉を使って、IFRS15で基準化されたものとは別のタイミングや金額で収益認識する方法を検討したことが記載されている。その“代替的な収益認識モデル”がなぜ採用されなかったかを考えることが、この基準の理解に役立つように思う。

 

 

まず、このIFRS15に採用された収益認識モデルと、代替的な収益認識モデルのそれぞれを代表する、そして、特徴づけるテクニカル・タームを紹介したい。

           
 

 

 
 

   IFRS15       ⇔ 代替的な収益認識モデル

 
 

認識

 
 

支配の移転、履行義務の充足   ⇔ 活動モデル

 
 

測定

 
 

配分後の顧客対価(=取引価格) ⇔ 現在出口価格

 

 

 

次に“認識”のテクニカル・タームから、代替的な収益認識モデルが採用されなかった理由について、“顧客との契約”がいかに深く関わっているかについて記載したい。

 

“認識”の“支配の移転”と“履行義務の充足”は、概ね同じことを表現していると思う(詳しくは、いずれ検討する)。一方、これらと“活動モデル”は異なっており、その最も重要な相違”は、「顧客との契約を前提としているか否か」だと考えられる。具体的に見てみよう。

 

A.“支配の移転”や“履行義務の充足”は、特定の顧客との契約(或いは約束)が前提にある。

 

“支配の移転”や“履行義務の充足”は、顧客に対する契約(や約束)の内容として存在するもの。財・サービスの提供企業側だけの状況や都合ではない。

 

例えば、検収基準は、“検収”が顧客との契約(や約束)を顧客が確認する手続なので、こちら側に属する考え方になると思われる。(但し、IFRS15は“検収”だけに焦点を当てておらず、顧客との契約(や約束)が成立するところから履行義務を把握・管理する点(=5つのステップ2)が、単純な検収基準とは異なる。)

 

B.“活動モデル”は、企業活動の進行状況によって収益を認識する。顧客との契約を意識する必要がない。

 

例えば、税法の出荷基準は“出荷”という企業活動にのみ焦点を当てるので、こちらに入ると思われる。また、費用の発生状況で収益実現の進捗を測る従来の進行基準もこちらに属する考え方と思われる。

 

IFRS15が A を採用した理由をIASBは次のように記載している(BC17)。

 

両審議会は、顧客との契約から生じる資産又は負債の認識及び測定と、契約の存続期間にわたる当該資産又は負債の変動に焦点を当てることで、利益稼得過程アプローチに規律がもたらされると判断した。したがって、従前の収益認識の要求事項の場合よりも、企業が収益をより整合的に認識する結果となる。

 

規律がもたらされる」とは、概ね、“不正防止に有効”という意味だろう。Aのような顧客との契約や約束を前提としたアプローチの方が、企業の活動だけに着目するより不正が行われにくいと両審議会(IASBとFASB)は考えたようだ。この結果、IFRS15は、受注活動の段階から補足することが求められる5つのステップ2が設けられた。恐らく、内部統制報告書制度へ対応している既存の上場企業にとっては、特別なことではないと思われる。逆に、IFRS15がCOSOフレームワークに歩調を合わせたともいえる。

 

また、純粋理論的には、顧客に対する“契約資産”(=対価を受取る権利)及び“契約負債”(=財・サービスを移転する義務)を認識するとしている。収益は、これらの資産・負債のネット・ポジションの変動によって認識される(あくまで理論的なものであり、実際にこのような会計処理は行われないが)。この考え方は、概念フレームワークの収益や費用の定義が、資産や負債の増減に伴うものとされているので、それと整合させる意味があると思う。

 

ただ、それだけでなく、収益の側については、実務的に次の点には注意する必要がありそうだ。

 

・顧客との契約がなければ(=受注前は)契約資産は生じない。即ち、収益は認識されない(BC19BC22)。

 

・受注時点では「契約資産=契約負債」からスタートする。即ち、受注時点で収益は認識されない(BC19)。

 

・収益は、企業が約束した財又はサービスを顧客に移転し、それにより契約における履行義務を充足した時にのみ認識する(BC20)。

 

そのタイミングで、契約資産が増加(又は、契約負債が減少)し、資産・負債のネット・ポジションが変動すると考えるため。これは、契約の有無に関係なく、企業活動の進捗によって収益を認識する活動モデルを否定することへ繋がる(BC23(a)など)。

 

一方、費用については、特定の顧客があろうがなかろうが使えば発生するため、別途規定があり3、それに従うことになる。顧客から回収可能なものなど一定のものは資産計上できる。日本の感覚とあまり変わらないようだ。いや、むしろ、緩いかも。という表現は宜しくない。これを“合理的”というのだろう。事実認定をしっかりやれることが鍵になりそうだ。(恐らく、これについても、後日、立ち寄ることになると思う。)

 

以上は、IASBが“顧客との契約”へこだわりを見せた部分だが、これらの他、“活動モデル”でなく A を採用した理由として、次の点も挙げている。

 

・多くの財務諸表利用者にとって直観に反する(BC23(b)

 

約束した財又はサービスを顧客が交換に受け取っていない時点で、企業が対価を収益として認識することになる。しかし、財務諸表の利用者はそのように考えない。

 

・従前の収益認識の要求事項及び実務の重大な変更となる(BC23(d)

 

IFRSでは、従来から、財の販売による収益の認識を、企業がその財の所有権を顧客に移転した時に要求していた。また、進行基準についても、“支配の移転”や“履行義務の充足”を基礎とする考え方で適用可能(…適用できる範囲は狭まると思うが)。

 

 

最後に、測定のテクニカル・タームについて。

 

契約資産及び契約負債を“現在出口価格”で測定すると、受注時点で見込み利益(又はその一部)が計上されることになり、受注時点で収益認識をしないとする(認識の)方針に反することになる(BC19BC25(a)など)。したがって、“現在出口価格”アプローチは採用しなかったとしている。

 

この場合の契約資産や契約負債の“現在出口価格”とは、例えば、受注金額や見積りコストをイメージしてみると良いと思う。また、IASBは、契約負債の“現在出口価格”は、観察不能で見積りやその検証も困難なことが多いとしている(BC25(c))。

 

なお、今回は“配分後の顧客対価”について触れないが、いずれ、検討することにしたい。しかし、“顧客対価”という表現からも分かる通り、これも“顧客のと契約”が前提になっていると思われる。

 

 

以上から、改めてIFRS15の収益認識モデルを考えてみると、その特徴は次のようになるのではないかと思う。

 

・“顧客との契約”を前提に考える。

・5つのステップを想定する。

 

この2つから導き出されたものが、IFRS15になっている。そう思われるほど、“顧客との契約”という言葉は重要な役割を果たしているように思う。

 

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1 IFRS適用レポートの公表について(金融庁HP)

 

(関連記事)

[データは語る]システム対応期間は1年4カ月、金融庁がIFRS適用企業の実態を調査ITpro 4/17

「IFRS適用レポート」の公表と日本の会計基準の今後(新日本監査法人 5/15

 

2 459.【収益認識'14-02】5つのステップ4/10)を参照。

 

 

3 IFRS15.9198

2014年11月 6日 (木曜日)

415.【QC02-09】その他の内部統制

2014/11/6

暫くこのシリーズから離れていたが、その理由はご想像の通り「行き詰ったから」だ。その間、米 FOMC(=連邦公開市場委員会)は、QE3(=量的金融緩和第3弾)を終了し、声明で「未活用の労働資源が、徐々に縮小している」と、従来よりタカ派的な見方を公表し世界の投資家を身構えさせた。それは日本時間の10/30日未明のこと。ところが、翌 31日には、みなさんもご存じのとおり日銀が予想外の“黒田バズーガ2”(“KB2”と呼んだらどうだろう?)を炸裂させ、見事に世界の金融市場を躍らせた。日経電子版(11/1 有料記事)では、米市場の様子を次のように伝えている。

 

画面にはたなびく日の丸に「ありがとう」のひらがな。31日の米経済チャンネルは、追加金融緩和と公的年金資産の運用見直しという日本発のニュースを材料に過去最高値を更新した米株式相場を興奮気味に伝え続けた。

 

僕も嬉しい気持ちはあったが、残念でもあった。日銀は、断固として物価安定の目標(=インフレ目標)をやり抜く構えだ。FOMC 委員長でもあるイエレンFRB 議長も、格差問題にまで守備範囲を広げられないのだろう。これらは、それぞれの中央銀行が担った役割を果たすために止むを得ないものではあるが、インフレと実質賃金下落リスクから生活を防衛するには、我々は自ら備えなければならない、ということでもある。企業と同様、個人レベルでも環境変化へ対応が重要だ。確かに、大きなリスクではあるが・・・(ご参考;10/28411 但し、上記のとおり株価は既に上がってしまったので、次の調整局面~例えば、安倍首相が消費税率アップを検討するころなど~を待つという手もある。)

 

そんな、米経済チャンネルの雰囲気とは違うもやもやした気持ちでいたが、それを吹き飛ばしてくれたのが、翌 2日の清水エスパルスだ。試合終了間際の劇的逆転弾を、相手ゴールへ叩き込んでくれた。村田和哉選手、ありがとう。同選手の決勝ゴールは、今季2発目だ。(これを“KG2”と呼んだらどうだろう。“KG”は“和哉ゴール”或いは“決勝ゴール”。“KG3”も“KG4”も期待して!)

 

 

さて、「IFRSと日本基準の根源的な差異はなにか」を調べるために、IFRS概念フレームワークの“有用な財務情報の質的特性”と企業会計原則の一般原則を比較するシリーズは、今回、両者に含まれる内部統制要素の最終回で、検討済みの“統制環境とリスク管理”以外の内部統制だ。

 

まずは40510/7 の記事で企業会計原則の一般原則を整理した表から、今日のテーマに該当する内容を若干詳しく記載してみよう。

           
 

 

 
 

 内部統制面-その他
    (統制活動、情報と伝達、モニタリング、
ITへの対応)

 
 

正規の簿記の原則

 
 

正確な会計帳簿の作成

 

“企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。”

 
 

単一性の原則

 
 

信頼しうる 会計記録

 

“・・・種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたもの・・・”

 

内部統制と関連すると僕が考えた言葉は、“正確な会計帳簿”とか“信頼しうる会計記録”だ。しかし、こんな簡単な言葉、というか、単語を取上げて、その裏に、統制手続、情報と伝達、モニタリング、IT(情報技術)への対応といった内部統制の構成要素が「実は存在してました」なんて主張しても、虚しい気がする。

 

これが、冒頭に記載した「行き詰ったから」の内容だ。

 

行き詰った時には、スタート地点に戻ってみる。このシリーズは、企業会計原則の一般原則に内部統制的な要素があるかどうかを検討するのではなく、IFRSの概念フレームワークとの違いを検討することにある。そう考えると、概念フレームワークの記述を確認すべきだと気付いた。概念フレームワークに、、統制手続、情報と伝達、モニタリング、IT(情報技術)への対応といった内部統制の構成要素と関連するような記述があるのか。あれば、それが探していた違いになる。

 

そして、その結果は“なし”だった。驚いたことに、企業会計原則の一般原則のような“単語レベル”の記述さえない。その様子をご確認いただくために、“正確”や“信頼”で概念フレームワークの該当箇所(=“第3章:有用な財務情報の質的特性”)を検索した結果をお知らせしよう。

 

検索ワード:“正確”

 

忠実な表現とは、すべての点で正確であることを意味するものではない。誤謬がないとは、その現象の記述に誤謬や脱漏がなく、報告された情報を作成するのに用いられたプロセスが当該プロセスにおける誤謬なしに選択され適用されたことを意味する。この文脈においては、誤謬がないことはすべての点で完全に正確であることを意味しない。例えば、観察不能な価格又は価値の見積りは、正確であるとも不正確であるとも判断できない。しかし、その見積りの表現は、その金額が見積りであるものとして明確かつ正確に記述され、その見積りのプロセスの内容と限界が説明され、その見積りを作成するための適切なプロセスの選択と適用の際に誤謬が生じていない場合には、忠実となり得る。QC15

 

検索ワード:“信頼”

 

検索されない。

 

“会計帳簿”とか、“会計記録”といった内部統制と会計の連結環になるような単語もない。ん~、IFRSは企業会計原則に比べても、内部統制色が薄いのだろうか?

 

恐らく、そういうことではないと思う。このようになった理由は、10/9406 の記事「会計基準における不正防止の表現」にも記載したように、企業会計原則は“行為を規定する”方法で、概念フレームワークは“情報を規定する”方法で記述されているためだと思われる。仮に違うとしても、そもそも企業会計原則の記述も内部統制色が濃いとは言えないので、僅かな濃度の差にしかならないと思う。

 

 

ということで、内部統制に関してはたいした分析にならずに終了することになる。しかし、それでは物足りないという方のために、せめてもの償いとして、最近ネットで読んだ気になる記事を紹介して終えたい。内部統制を、リスク低減だけでなく収益獲得のためにも鍛えるという「GRC」の導入例について記載している。最終頁には次のように記載されている。

 

GRCは日本では全くと言っていいほど流行っていないが、「欧米の大手企業は、当たり前のように導入している。アジアでもASEAN地域を中心に、脚光を浴びつつある。主要国で、いまだに動きが鈍いのは日本だけではないか」

 

目指すは「守りながら攻める」内部統制! 東京海上日動システムズ3年間の挑戦10/23 ITpro

 

要は、2004年に新しく COSO から公表された"Enterprise Risk Management - Integrated Framework"(「全社的リスクマネジメントのフレームワーク」)を採り入れましょう、ということだと思う。この概要については、次の資料の6ページ、7ページにまとめられている。

 

COSOレポートの概要等について(金融庁検査局 専門検査官 窪寺信氏)

 

 

2014年10月30日 (木曜日)

412.【番外編】小売世界第2位の英テスコで粉飾?

2014/10/30

会計不正など不祥事が発生すると、臨時報告書や適時開示などの開示が必要かどうか、必要なら、いつ、どういう内容を開示するか、そして原因究明と再発防止をどうするかで、企業は頭を痛める。僕も監査人として関わった企業で、何度か相談を受けた経験がある。といっても、テスコのような深刻なケースはないが、内容と状況によっては経営者を説得したり、僕の判断を監査法人内でチェックする手続が必要になるなど緊張を強いられるイベントが続く。しかも極めて短期間のうちに。したがって、強烈な印象が残っている。

 

日経電子版では、Financial Times の一部記事の翻訳を読むことができる。これらはみな有料記事と思っていたが、それは間違いで、誰でも読める記事だったので紹介したい。どうやら英スーパー最王手のテスコは、少なくとも前期から、売上と、仕入先に対する未収リベートを過大計上(=仕入原価の過小計上)していたらしい。

 

[FT]テスコ会計疑惑で英企業統治に課題(社説)10/27

 

 

さて、テスコは事件の発覚からどのように対応しただろうか。WSJでは、以前から記事が掲載されていたので、他紙の情報も補足しながら、時系列に並べてみたい。

 

8/29 英テスコ、業績予想を下方修正

 

記事の概要】

2015/2期(通期)の予想利益を、27億〜28億英ポンドから24億〜25億ポンド(当時のレートで約4130億〜4300億円)へ修正している。業績予想の下方修正は、この3年間で3度目。

 

修正幅は3億ポンドで1割強の下方修正だから、一見、なんてことない記事に思える。しかし、気になる記載もある。CEO(最高経営責任者)の交代を、1カ月早めて、9/1 に行うというのだ。CEOの就任時期が前倒しされるというのは異例だ。交代でさえ、数年に1度なのだから。

 

CEO が交代する理由は、日経 7/21 の無料記事によれば英国での業績不振らしい。テスコは8/23に第2四半期末を迎えたが、第1四半期に輪をかけて悪かったようだ。第1四半期(5/23)は、売上が前年同期比で 3.8% 減少していた。これは、当時の CEO 2011年に就任して以降最悪(ロイター 6/4)だっただけでなく、40年間の歴史でも最悪だったという(ロイター 10/23)。

 

なお、別のロイターの記事(9/22によれば、同時に上期の利益予想も公表していたらしい。

 

この段階では、不正会計のことは一切記載されていない。

 

9/23 テスコ、業績予想を下方修正―会計上の問題で

 

【記事の概要】

22日、新 CEO は深刻な会計上の問題を発見し、通期の業績予想が 2億5000万英ポンド(当時のレートで約445億円)かさ上げされていたと公表。同時に、調査終了までに幹部を 4 名停職処分にしたとも公表している。調査は外部の法律事務所及び監査法人に依頼。

 

ここで不正が公表された。この記事については、次の点に興味を持った。

 

「不正にかさ上げされていた」のは“業績予想”であり、決算数値ではない。英国の開示制度や慣習では、業績予想に関する不正も、決算の不正と同様に法的・道義的責任を追及されるのかもしれない。

 

上述したロイターの記事(9/22)によれば、同時に上期の予想利益も修正された。

 

9/23 テスコ、新CFOが繰り上げ入社―会計操作問題に対処

 

【記事の概要】

CFO(=最高財務責任者)は、就任時期を12/1 から急遽繰り上げ、不正問題への対応に当たることとなった。CFO 職は、前任者が 4月に退社して以来空席で(CEOが直接統括)、7/10 に指名が行われていた。新CFOは、マークス・アンド・スペンサーのCFOで、指名日以降は同社を休職していた。

 

これは、上記の業績予想下方修正の翌日 23日に公表されたもの。この記事では、不正が従業員の告発によって発覚したことも伝えている。

 

ところで、2月決算会社の CFO 4月に会社を辞めるとは、どういうことだろう? 日本なら株主総会まで務めると思うが。

 

調べてみると、英国の会社法(2006年)では、決算期末日から6カ月以内に年次株主総会を開催し、完全な決算書を提出する(JETRO Report5 P51)。4月は決算発表の時期と思われるので、それを終えたタイミングで辞めたということかもしれない。6ヶ月も待つのは確かに長過ぎる。

 

それにしても、4月から11月まで CFO が空席の予定だったとは。CEOが会計の専門知識に自信があったのだろうか。また日本なら、CFO には、イケイケの現業部門責任者に慎重さをもたらす役割があるが、英国では保守主義(=リスク管理)が現業部門責任者にも浸透していて、あまりそういう役割を期待されていないのかもしれない。この辺りには、お国柄の違いを感じる。

 

10/1 テスコの会計不正、当局が調査開始

 

【記事の概要】

英金融行動監視機構(FCA)*1が、本格調査の着手を通知していたことが明らかになった。また、英財務報告評議会(FRC)*2も24日、会計不正を受けテスコを監視対象に置いていることを確認した。

 

日本でいえば、証券取引等監視委員会や公認会計士・監査審査会が動き出したという記事。会社や担当監査人にとっては、背筋がゾクゾクするニュースだ。

 

さらに、「テスコは、922日、・・・過去3カ月で3回目となる業績予想の下方修正を明らかにした」とあるので、上記の 8/29 9/22 以外にも下方修正の発表があったようだ。会社の混乱ぶりが窺える。

 

10/6 会計操作発覚のテスコ、取締役会を強化―社外取締役2人追加

 

【記事の概要】

かねてから批判のあった「取締役会に小売経験者が少ない」ことを解消するため、テスコは11/1より2名の社外取締役を追加すると発表した。

 

まだ、外部の調査報告はでていないが、早くもガバナンス強化に動いている。日本なら、調査結果が出てから動くような気がする。

 

10/6 テスコ会長、不正会計調査完了後に辞任か=関係筋

 

【記事の概要】

事情を知る関係者から、テスコ会長(CEOとは別の人)は調査が終わり次第、辞任する意向であることが分かった。

 

9/22 の不正会計の公表からまだ 2週間。かなり早い決断だ。誰かが説得したのだろうか・・・。ただ、調査が終わるのは、来年半ばという見方が紹介されている。調査期間が長い!

 

10/15 テスコ、不正会計めぐり社員3人を新たに停職処分

 

【記事の概要】

すでに4名の幹部が停職処分となっているが、追加で3名の停職処分を公表した。

 

外部監査法人に、調査を阻害する恐れがあるとこの3名の停職を要請されたのか、それとも独自の調査で3名の関与を確認して停職にしたのか。合わせて7名の停職者は、調査に協力しているのだろうか、それとも自宅や特定の場所に待機しているのだろうか。確か、オリンパスのときは、調査に協力していたように記憶している。

 

10/23 英テスコ会長が辞意表明、3-8月期は大幅減益

 

【記事の概要】

調査の途中経過の公表と上期の決算発表、会長の辞意表明が行われた。不正会計の影響は2億6300万英ポンドへふくらみ、それは上期決算に反映されたが、通期の業績予想は、調査が進行中であるとして示されなかった。会長は新たな事業計画策定後に後継者へ交代する。不正会計に絡んだ横領や詐欺などの犯罪はなかったとしている。

 

9/22 からちょうど1ヵ月。会長は辞意表明したが、辞任する時期は未定で、新しい事業計画策定に関わる(恐らく、後継者も一緒に作りながら引継ぎをする)のだから、会長自身は不正会計に関与していないと判断されたのだろう。

 

ロイターの記事(10/23では、すでに資金繰りを確保するための資産処分の検討も行われているようだ。上期決算は黒字(営業利益は93700万ポンド、純利益は600万ポンド)なので、形式的には、日本基準でいうところの“継続企業の前提に関する重要な疑義”には当たらないが、テスコはそういう想定も踏まえて、リスク管理しているようだ。若しくは、金融機関や取引先の不正会計に対する態度が日本より厳しくて、具体的なリスクを感じているのかもしれない。

 

また、このロイターの記事では「不正な利益計上が予想を上回る長期間にわたって行われていたことを公表」としているので、上期決算や通期業績予想だけでなく、すでに確定した過去の決算についても不正があったことが、この時点で判明したことになる。日本ならば、ここで初めて“不正会計”と表現されるだろう。即ち、日本であれば、10/23 に「不正会計がありました」と公表されていた可能性がある。

 

 

以上の中で、僕が特に関心を持ったのは次の点だ。

 

・不正の発覚から一連の対応が早い(オリンパスのときに比べても)。決算以外は、調査報告を待たずに対応(処分や再発防止・経営改善)を進めている。

 

・業績予想についても“不正会計”と表現されている。確かに業績予想は重要だ。日本はこの感覚に欠けているのではないか。

 

・未収リベートは、いわゆる会計上の見積りであり、経営者の判断だ。それを“不正”と断定できた要因・状況とは、どういうものだったのだろうか。

 

 

最後の点については、改めて記事を書くかもしれない。

 

この記事を書くために「欧州流通、値下げ消耗戦 カルフールやテスコ 節約志向にらみ 海外縮小、国内に集中」(7/30 日経電子版有料記事)を読んだが、今、欧州はまるで日本の2000年前後のような小売業受難の時代を迎えている。ヤオハンやダイエーが経営破たんした頃だ。テスコのような伝統的なスーパーマーケット事業は、消費者の節約志向が進むなか、新興のディスカウント・ストアから標的にされ、脅威を受けている。

 

このような環境では過去の実績は当てにならず、売上の減少が予想を超えることも当然起こるが、その結果、未収リベートの見積りも過大となる。どこで、“不正”と“予想の誤り”の線を引いたのだろうか。何があったのだろうか。普通なら、かなり難しい判断になるはずだ。その線引きには、我々の知らない“原則”のようなものがあるのではないか。元監査人としては、興味が尽きない。

 

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*1FCAは、“Financial Conduct Authority”の略で、英国中央銀行(=イングランド銀行)の中に設けられた金融サービス業の規制を担当する組織。日本の金融庁に当たる FSA(=金融サービス機構)が金融危機の反省から解体され、健全性規制機構(The Prudential Regulatory Authority…金融機関の監督を担当)とともに、その機能が中央銀行へ移管された。詳細は、こちら(ニッセイ基礎研究所の資料)。

 

*2FRCは、日本の公認会計士・監査審査会のような役割を持つが、日本公認会計士協会のような職業会計人協会の下にある自主規制組織。詳細は、こちら(龍谷大学経営学部 加藤正浩教授の論文)。 

2014年10月21日 (火曜日)

410.【QC02-08】リスク管理ーIFRSの保守主義

2014/10/21

このシリーズの前回(408-10/16)は、日本の保守主義の意味するところについて僕の思うことを記載した。保守主義は、評価額などの会計上の見積りの高低、費用の早期計上や収益の遅延認識などを要求しているのではなく、現状を正しく、予断なく理解しようとする態度・姿勢であり、経営者が経営環境の実態を理解しようとする場合の態度・姿勢と共通している。

 

今回は、それに対してIFRSがどうなっているかを検討する順番だ。といっても、すでに「【製造業】マーフィーの法則と保守主義(2012/9/18」に記載しているので、重複してしまう。まず、これを簡単に要約しよう。

 

結論からいうと、この記事にも、前回の日本の保守主義と同様、IFRSでも保守主義は態度の問題だから、「資産の評価額を低めに、費用を早めに」といった会計の問題以前の問題である、と僕の考えを記載した。即ち、保守主義とは「リスク管理をしっかりやること」だと書いた。その結果の見積りなら、IASBがいうところの適切な「中立的な」金額となる。

 

そう考えると、IFRSに「保守主義がない」というより、IFRSは保守主義を前提としているが、「保守主義はリスク管理、つまり、内部統制の問題なので、概念フレームワークに記載されていない」というのが、僕の解釈だ(僕の考えに過ぎないが、一応、概念フレームワークの文章から類推して、この結論に至った)。

 

では、今回は何を書くか。

 

「内部統制の問題である保守主義を、会計規準に記述すべきかどうか」というのはどうだろう。ただ、正直言って、僕にはあまり関心が湧かないテーマだ。どちらでも、使い勝手が良ければよいと思う。

 

ということで、書くことが思い浮かばなかった。要するに、IFRSだからといって、日本の保守主義と違うことはないのではないだろうか。

 

 

 

2014年10月16日 (木曜日)

408.【QC02-07】リスク管理-リスクへの備え(日本の保守主義)

2014/10/16

アギーレJAPAN のブラジル戦、残念でした。ボール支配率も圧倒されたが、日本のテレビ中継なのに、サッカー解説者の話題支配率もネイマール選手に圧倒された。しかし、見所が全くなかったわけではない。元清水エスパルスの太田宏介選手(現 FC東京)のクロスは冴えていた。これでは、インテル長友佑都選手さえもうかうかしていられないだろう。アギーレ監督のJリーグ重視は正解かもしれない。他にも柴崎岳選手(鹿島アントラーズ)、塩谷司選手(サンフレッチェ広島)などに期待感を持つことができた。

 

 

さて、今回のテーマは「リスクへの備え」。会計的には保守主義とか慎重性などと呼ばれ、一般的には「日本基準にはあるが、IFRSにはない」ため、IFRSの問題点の一つとされている。欧州でもこの点が批判の対象になっている。しかし、日本の保守主義は正しく理解されているだろうか。IFRSには本当に保守主義はないのだろうか。

 

まずは40510/7 の記事で企業会計原則の一般原則を整理した表から、今日のテーマに該当する内容を若干詳しく記載し、ついでに僕の注目点を加えよう。

           
 

 

 
 

リスク管理

 
 

僕の注目点

 
 

保守主義の原則

 
 

(本文)企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。
    (注解4)過度に保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない。

 
 

本文で楽観を、注解で悲観を戒めている。総合するとどうなる?

 

実は、「日本の会計基準には保守主義があるが、IFRSにはない」と言われることについて、すでに以前何度か記載した(例えば 2012/9/4 「脱線4~保守主義の本質はリスク管理?」など)。また同じことを繰返すのでは申し訳ないので、最初に、僕の意見をなるべく簡潔に記載させていただく。

 

保守主義はリスク管理(=内部統制)の問題。会計への関わりとしては「判断に際して、楽観ではなく慎重な態度で臨むこと」であり、将来事象への会計上の判断・見積りの精度を高める要求だと思う。良く聞かれるような「費用を早め多めに」という単純な、そして、些末な意味ではない。

 

「不測の事態に備える」という場合の“不測の事態”とはテール・リスクのことだから、「費用を早め多めに」程度の備えでは、全く不十分。もし、保守主義がそんなものであれば、企業経営にとって重要な意味がないから、企業会計原則の一般原則になるはずがない。精々、重要性の一部として扱えば足りる。

 

企業会計原則がこのような重い扱いをしているのは、保守主義が(テール・リスクだけでなく)“不確実性への対処(=リスク管理)”という経営の主要活動・機能と直接関連しているからであり、保守主義とは、「その主要機能を働かせるのと同等の慎重な態度で会計上の判断をして、その精度を高めてほしい」という要求だと思う。

 

ここまで読んで、ふんっ、と鼻で笑われた方もいらっしゃると思う。例えば、次のような理由で。

 

・うちの経営陣は楽観的・直感的で、そんな面倒な、慎重な判断をしてないよ。

・うちの経営陣は創業社長の言いなりで、そんな慎重な判断をしてないよ。

・うちの経営陣は稟議書にめくら判を押すだけ。

 

会計上の判断は、これと同じ態度でいいの?

 

そういえば、お隣の国の上場企業の取締役会が、凄い意思決定をしたと話題になっていた。

 

現代自動車の取締役会、1兆円の土地購入を価格知らずに承認」(10/13 WSJ無料記事)

 

ん~、確かに問題だ。しかし、みんながみんな、そういうことでもない。

 

むしろ、直接経営者に話を聞くと全く違う印象を受けることが多い。実に考えが深いというか、顧客を良く知っているというか、マーケットや競合先の出方などを多角的に見ているとか。そういう経営者からすれば、次のように思っているだろう。

 

・経営判断は不確実性との戦いであり、たいした根拠もなく直感に頼ることもやむをえない。

・すべて分かっているなら経営者などいらない。分からないなかで判断を下すのが経営者だ。

・経営者も間違える。だが、ここ一番では間違わない。少なくとも考えうるあらゆる努力をする。

 

少なくとも不確実性への危機感はありそうだが、これならいい?

 

ちなみに、経営陣のリスク感覚と責任感の評価は、監査人にとって極めて重要な監査手続だ。監査の依頼が来た段階で手続きが始まり、監査契約締結前に一定の評価を行い、所属監査法人における審査を受ける。合格しなければ、監査を引受けられない。即ち、監査契約を受嘱できない。(その会社の事業内容・市場環境などその他の評価項目もある。)

 

リスク感覚や責任感といった内面の問題は、簡単に評価できるものではないから、監査契約締結後もあらゆる場面で更新されていき、場合によっては監査を途中で止めて、契約解除させていただくこともある。翌年の監査契約を更新する際には、改めて所属監査法人の審査を受ける。(僕は監査契約の途中解除はないが、受嘱をしなかったことや、更新しなかった経験はある。内部統制の整備状況など、この評価以外の理由も総合しての判断だった。)

 

同じようなことは監査契約に限らず他の契約、例えば、長期的な、或いは、金額の多めの契約であれば、一般に行われている。契約相手が信用できるかどうかを確かめることは当たり前だ。ただ監査契約では、“企業統治に重要な役割を果たす人々”のリスク感覚と責任感の評価に対する比重が大きい。

 

日本の経営者クラスの人は、そこまで上り詰めるために、数十年キャリアを積上げていることが多い。多くの場合、リスク感覚や責任感が備わっている。しかし、そうでない人がいた場合は、その人の発言力や影響力の大きさが問題になる。いざという時、その人を説得できる慎重派の人が他にいるかについて心証を得ておく必要がある。役職など公式の制度だけでなく、人間関係や相性はもとより、姻戚関係にまで関心を持つことがある。

 

“リスク感覚と責任感”について、もう少し掘り下げると、僕の観点は「事実が見込みと違った時(=悪い報告を受けた時)にどう対処するか」にあったように思う。普通なら、事実を事実として受入れる。そうしないと適切な対応策は見いだせない。しかし、もし然したる根拠もなく「この報告は事実ではない」とか、「報告を変えてしまおう」などとする姿勢が垣間見えると警戒レベルが一挙に上がる。「この人は、使命より、体面を優先する」とか、「本当の問題を分かってない」と思うからだ。こういう人はリスクの認識や評価も、対応策の選択も間違えるし、責任感の置き場所もおかしい。

 

会計における保守主義も、同じような感覚だと思う。事実を事実として受入れる。上も下もない。楽観も悲観もない。事実に冷静に向き合う。事実を大事にする。だからこそ、面倒がらずに実態の把握に力を尽くし、手間をかける。

 

このように書くと、「なんだ、保守主義なんて当たり前で簡単なこと。大袈裟に一般原則にする必要はない」と思われるかもしれない。しかし人間、特に僕のような凡人は、意外に認めたくない事実も多い。だから、この難しさが分かる。一つ例を挙げよう。テレビ・ニュースで流れたので、ご存じの方も多いかもしれない。

 

乗客が冗談で「エボラ患者」機内は騒然10/11 NHK

 

ブラック・ジョークのつもりが大騒動になってしまったという話で、このHPでは、「(エボラ出血熱に対する)警戒を強めていることがうかがえます。」と結んでいる。米国航空会社のリスク管理の厳格さ(保守主義?)で記事をまとめているが、僕は、彼(=このジョークを言った人)の態度に焦点を当てたい。保守主義は態度や心構えだからだ。

 

日本でも、くしゃみをした後に「あ~、びっくりしたあ」とか、「誰か噂してるな」など、照れ隠しに一言付け加える人がいる。アメリカ人も同じ感覚を持っているようで、彼は「俺はエボラだ」と言ったらしい。恐らく笑顔か、おどけた表情で。だがこの結果、彼は目的地に到着するやいなや、大袈裟な防護服に身を包んだ当局職員たちに、直接座席から連れ出されることになった。

 

彼は、防護服の職員たちに「ジョークだ」と言って抵抗したらしいが、さて、みなさんならどうする?

 

 彼と同じように、「ジョークだ」と事実を知らせて抵抗する。

 ジョークである旨丁寧に伝えて、周囲の旅行客などに謝罪する。

 

僕はこのジョークが好きだ。自宅などで家族や気心の知れた人に言うなら傑作だと思う。それに、彼には悪気はなさそうだ。退屈な機内でみんなを一時楽しませることができたと、むしろ、得意気な気持ちでいたかもしれない。

 

しかし、悪い知らせがきた。本当に防護服を着込んだ対策チームが機内に乗り込んできたのだ。彼の失敗は、周りが見知らぬ他人ばかりで、しかも密閉された飛行機の機内でこのジョークを言ったことだ。直前に米国のエボラ患者が亡くなっていたこともあり、周りの旅行客のなかに恐怖に震えたか、ジョークにしても質が悪すぎると怒り心頭の人がいたに違いない。恐らく乗務員もだろう。しかし、彼はそこまで気が回っていなかったと思う。だから、防護服の職員に腕を掴まれ引き立たされた時に、さぞや気が動転しただろうし、たかがジョークなのにこの扱いは承服しがたかったと思う。

 

まさに、自分の予測と全く異なる事態に陥った。そのときどんな判断ができるか。果たして、あのジョークで気分を害した人がいた事実に思いを巡らせることができるか。気が動転し、かなり難しいだろう。恐らく僕にはできない。

 

ただ多くの場合、経営者にはもっと時間的な余裕があるし、周りからのアドバイスもある。本人にその気があれば、それに耳を傾け、真摯に事実に向き合うことが可能だ。それでこそ、適切な対応策立案への第一歩が踏める。不都合であれ、不条理であれ、事実なら受け入れなければならない。

 

その同じ態度で会計にも向き合えるか。その態度で会計上の見積りや会計方針の選択などの判断を行えるか。これこそ企業会計原則の一般原則として規定された保守主義の本質だと、僕は思う。

 

 

ところで、上記自動車会社の監査人は、今頃頭を抱えながら経営者評価の監査調書を更新し、所属事務所の審査の準備をしていることだろう。健闘を祈りたい。

2014年10月14日 (火曜日)

407.【QC02-06】リスク管理-重要性の原則

2014/10/14

先週に続き、今週も週の初めに台風19号が来日。しかし、アギーレJAPAN は一足先にブラジル戦に備えてシンガポールへ移動済み。今日はどんな試合をしてくれるか、楽しみだ。

 

さて、企業会計原則の一般原則とIFRSの概念フレームワークを比較するシリーズは、前回(40610/9)、不正防止に関する表現について比較し、どちらも一丁目一番地の扱いだが、表現方法の違いから、企業会計原則の方が強くメッセージが伝わってくると記載した。表現方法の違いとは、企業会計原則が作成者の行為を規定するのに対し、概念フレームワークは財務情報が有する特性を規定する形式になっていること。行為規定の方が読み手により直接的に響いてくる。

 

しかし、どちらも「不正をするな」と直接書いてあるわけではない。前者は「こうすべきだ」とか「こうしないように」と書くことで、財務諸表を作成する際の心構えというか目指す方向を示し、間接的に、不正へ向かわないようにしている。後者も、開示する財務情報の性質を記述することで、そうでない性質の情報が開示されないようにしている。

 

 

ということで、前回は統制環境の話だったが、今回は内部統制の2番目の基本的構成要素である“リスク管理と対応”に関する話だ。まずは、40510/7 の記事で整理した表から、今日のテーマに該当する内容を若干詳しく記載し、僕の注目点を加えよう。

           
 

 

 
 

リスク管理

 
 

僕の注目点

 
 

正規の簿記の原則

 
 

(注解1)重要性の原則
    重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも認められる。財務諸表の表示に関しても適用される。

 
 

会計目的(=財務内容を明らかにし、企業の状況に関する“利害関係者の判断”を誤らせないこと)の範囲で重要性の判断が認められる。重要性は外部利害関係者目線か?

 

・「リスク管理に重要性の原則が入るのか?」と疑問をお持ちの方もいらっしゃると思うが、そういう方でも「リスク管理の対象となるものには重要性がある」、或いは、「重要性のないものをリスク管理から外す(或いは、リスクを受容する)」ことにはご賛同いただけると思う。重要性の判断は、まず、このようなリスク管理の入り口で行われる(その後もリスク評価の都度行われる)ので、リスク管理に重要性を含めている。同じようなことを、現 coso 会長のロバート・ハース氏も、講演で述べていた(3898/29 を書いたときの講演)。

・僕は、このような重要性と、会計上の重要性は同じものと考えている(2012/9/7の記事など)。財務諸表規則などで「~の1%」などと数値基準が示されることがあるが、これらは上記とはレベルの違う、開示専用の重要性の基準だ。詳細は下記を参照。

 

以上の注目点について、企業会計原則をさらに深掘りしたうえで、IFRSの概念フレームワークの規定を見てみたい。

 

(注目点-重要性は外部者目線?)

 

注解1では、明らかに外部利害関係者目線から重要性を考えている。しかし、一般原則の第7番の単一性の基準を見ると、経営者の判断(=経営者のための重要性)がその前提にあることが分かる。ちょっと見てみよう。

 

(単一性の原則)

株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。

 

これに関する“会計学を学ぼう!”の解説には、次のように記載されている。

 

すべての財務諸表の情報ソースを一元化すること

 

即ち、単一性の原則は、財務諸表の様式は様々でも、そのデータ・ソース(=総勘定元帳などの会計帳簿)は同一でなければならないとしている。財務諸表ごとに、一部を欠落させたり逆に加えたりしてはならない。会計帳簿に記帳するかどうか、資産にするか費用にするか、といった判断は、どのような目的の財務諸表でも共通、或いは、整合していなければならないということだ。

 

実は昔、「原価計算には財務会計用と経営管理用の2種類がある」とされていたことがあった。しかも、経営管理用の原価計算は、財務データとの関連性・整合性が問われなかった。企業独自の考え方、管理手法が尊重されたからだ。しかし、今は違う。両者はなるべく共通化が図られ、異なる場合も整合性が確認される。これは、会計データと乖離した管理情報の信頼性が疑われたこと、及び、2種類の情報作成にかかる手間が嫌われたためだが、きっかけは、Windows パソコンが企業に導入された 1995年以降の企業の基幹システムの変更だったように思う。

 

上表の脚注で「重要性の判断は、まず、このようなリスク管理の入り口で行われる」と書いたが、会計上も、会計帳簿に記帳する入り口の段階で、最初の重要性の判断が行われる。この判断は、財務諸表規則等に記載された重要性の数値基準とは異なる。財務諸表規則等の数値基準は、財務諸表作成時、即ち、会計帳簿の出口で利用される。入り口時点と、同じものでないことがご理解いただけると思う。ただ、出口の基準をそのまま入り口にも適用することがあるが、それは企業の(=経営者の)意思・判断であり、外部者視線というわけではない。

 

結局、会計帳簿の出口では、外部者目線による重要性の判断が求められるものの、入口では経営の都合で判断される。出ていくときのことを考えれば、入口では出口と同じか、それ良い細かいレベルの判断が行われる。

 

では、IFRSの概念フレームワークでは、どのように規定されているだろうか。

 

・・・財務情報に基づいて利用者が行う意思決定に影響する可能性がある場合には、重要性がある。

言い換えれば、重要性は目的適合性の企業固有の一側面であり、・・・(QC11

 

これは、企業会計原則の注解1の重要性の原則の記述「利害関係者の判断を誤らせない」と実質的に同じ記述になっている。そして重要性は、2つある基本的な質的特性のうち、目的適合性に属するものとされている。これも、注解1の会計の目的に関連させる書き方と同じ意図を感じる。

 

では、IFRSにも単一性の原則のようなものがあって、入り口の重要性が経営者の判断であると書いてあるのだろうか。

 

これはない。でも次のように書いている。

 

・・・当審議会は、重要性についての統一的な量的閾値を明示することや、特定の状況において何が重要性があるものとなり得るかを前もって決定することはできない。QC11

 

IASBは重要性を決められないとしている。すると、決められるのは経営者しかない(入口も、出口も)

 

ということで、入口の重要性は経営者目線の判断だが、出口の重要性は、外部利害関係者目線による判断が必要だ。但し、具体的な数値基準は設けられない。

 

以上の結果、企業会計原則でも概念フレームワークでも、重要性の原則に差はないように思う。(日本基準で重要性の原則について数値基準が設けられているのは、個別基準や財務諸表規則等であり、企業会計原則ではない。)

 

蛇足だが、概念フレームワークの見直しプロジェクトで昨年公表されたディスカッション・ペーパーでは、不確実性を資産等の定義や認識規準から外すことが提案されていた。不確実性と重要性は密接な関係があり、もしこの提案が確定すると、IFRSの重要性の原則は影響を受けて変化することになる。これは今後の注目だ。

2014年10月 9日 (木曜日)

406.【QC02-05】会計基準における不正防止の表現

2014/10/9

ノーベル・物理学賞の受賞おめでとうございます。これは大ニュースだが、実は、僕がもっと驚いたのは、日本の若者が戦闘員になるためにイスラム国へ渡航を企て、阻止(正確には事情聴取)されたことだった。驚いた理由は2つある。

 

 社会に対する閉塞感や絶望感から、残虐な組織へ加わろうとする若者が日本にもいたこと。

 日本に、このような行為を罰する法律が存在したこと。

 

①については、大人の我々が大いに反省しなければならない。社会に対する不満や不安は、若者ならだれでも持つ可能性がある。だが、それが前向きに解消されるなら、社会の進歩へつながる。したがって、若者が不満や不安を持つことは社会にとってポジティブだ。恐らく問題は、不満や不安を持った若者が、孤独なことではないか。周りの大人が良い方向を示せなかったか、その若者の周りに頼りになる大人がいなかったか。ここまで考えると、確かにありがちな状況で、そんなに驚くべきではなかったかもしれない。

 

②については、NHK のニュース・サイト(10/6によれば、その道の専門家でも驚いている。しかし、日本でも過去に日本赤軍のような組織が存在していたので、考えてみれば、あっても不思議はない。

 

ちゃんと考えてみると日本でも当然起こりうる。それをノーベル賞のニュースより驚いてしまったことを、僕は反省しなければならない。いわゆる“平和ボケ”、即ち、「日本にだけは起こらない」という根拠のない自信を、僕も持っていたということだ。

 

でも、ノーベル賞受賞のニュースには驚いてよいのか。それこそ当然ではないか!(これも根拠のない自信?)

 

いずれにしても、人間だれでも“思い込み”がある。60年以上前に制定された企業会計原則に、内部統制の要素などあるはずがないと思っている方がいたら、それも“思い込み”に過ぎない。そもそも会計原則は、みんながバラバラな会計処理をして、財務情報を見る人に混乱や誤解を与えてはいけない、特にそれを意図的にやるのはもってのほかだ、というところから始まっているので、考えてみれば、会計原則において不正防止は一丁目一番地だ。企業会計原則の一般原則に、その要素が散りばめられているのは、むしろ当然だ。

 

では、IFRSはどうか。同じだろう。でもどういうふうに?

 

ということで、この面から、真実性の原則以外の一般原則(日本基準)と基本的な質的特性(IFRS)を比べてみよう。まず、前回(40510/7の記事で)分類・整理した表から、今回に関係する部分を抜き出して再掲する。

                           
 

他の一般原則

 
 

(内部統制面)統制環境

 
 

正規の簿記の原則

 
 

不正防止“正確な(会計帳簿)

 

    “判断を誤らせない”

 
 

資本・利益区別の原則

 
 

 ---記載なし---

 
 

明瞭性の原則

 
 

不正防止“判断を誤らせない”

 
 

継続性の原則

 
 

不正防止“判断を誤らせない”

 
 

保守主義の原則

 
 

不正防止“歪めない”

 
 

単一性の原則

 
 

不正防止“歪めない”

 

要するに、色々な一般原則において、“正確な”とか、“判断を誤らせない”とか、“歪めない”などといった言葉を使って、不正防止の趣旨をにじみ出している。“不正防止”とは書いてないが、読んでみると「不正はダメ」というメッセージが伝わってくるようになっている。

 

では、IFRSはどうか。基本的には同じように“不正防止”とは書いてないが、それがにじみ出るようになっていることが予想できる。多分、基本的な質的特性である“目的適合性”と“忠実な表現”がどのようなものであるかを説明することで、暗に、そこに不正があってはならないことを表現するといった形で。

 

ところが実際に読んでも、そういうメッセージはほとんど伝わってこない。例えば、“正確”、“判断”、“歪”といった単語で概念フレームワークを検索してみても、ヒットした箇所に記載されているのは、期待外れの内容ばかりだ(その具体的な内容は、いずれ紹介する機会があると思うが、ここでは省略する)。それはなぜか。次の2つの考え方がありえると思う。

 

A. 書き方の違いで、このメッセージが伝わりにくくなっている。

 

IFRSの概念フレームワークでも、企業会計原則同様“不正防止”は重要なテーマなのだが、表現方法の違いによって、それが伝わりにくくなっている。

 

具体的には、企業会計原則(の一般原則)は、会計をする人を対象に置いて、「こうしなければならない」とか、「こうしてはいけない」という書き方をしている。この書き方は、“人”に語りかけて、“人”の行為を規定しているので、「不正をしてはいけない」というメッセージが伝わりやすい。

 

一方、概念フレームワークの質的特性は、財務情報を対象に、「こういう性質を持っている」という書き方をしている。“人”に語りかけてないし、“人”の行為を直接規定するのでもない。よって、「不正をしてはいけない」という人の行為を規定するメッセージが伝わりにくい。

 

B. COSO などの内部統制に関する基準、監査基準が別にあるので、IFRSは“不正防止”を扱う必要がない。

 

こういう考え方もあるかもしれないが、僕は否定的だ。それは「IFRSの原則主義は、不正防止に役立つ」などと、不正防止がIFRSのメリットとして主張されるからだ。不正防止が軽視されるはずがないと思う。

 

ただ、会計上の見積りなど判断を要する会計規準の増加もあって、会計規準だけで不正防止ができるとも考えてないと思う。したがって、COSO などに対する依存はあるだろう。これは当然のことであり、企業会計原則も監査基準に依存している。

 

ということで、表現方法の違いで伝わりにくいが、IFRSにも不正防止の意図は隠れているがちゃんとある。むしろ、情報が持つべき性質(=質的特性)を詳細に記述することで、なんとかその効果を上げようとしていると感じる。

 

 

以上の結果、企業会計原則の一般原則には、不正防止のメッセージが、行為を規制する書き方で散りばめられており、概念フレームワークでは、財務情報の性質(=質的特性)を詳述することで、その効果を出そうとしていることが分かった。方法は違うが、両者は同じところを目指している。

2014年10月 7日 (火曜日)

405.【QC02-04】真実性の原則以外の一般原則(日本基準)の分類・整理

2014/10/7

台風18号はホントに迷惑だった。通勤時間を直撃し、過ぎたら過ぎたで夏が戻ってきたよう暑さを置いて行った。しかし幸いなことに、直撃を受けた割には近所の被害は少なかったようだ(だが浸水被害はあったし、ちょっと東方では崖崩れでJRの線路が埋まった)。みなさんのところはいかがだろうか。

 

こんな台風でも、ちょっと見方を変えると興味が湧く。僕には一つ注目していたことがあった。それは、台風の進路が富士山にまっすぐ向かっていたことだ。果たして、この台風は富士山とガチンコ勝負していくのだろうか。富士山が台風に押し出されることはないだろうが、台風が富士山頂を乗り越えていくことはありえる。そんな大胆な台風をいままで見たことがない。しかし、この台風は大型で強い勢力を保っているので、やってくれるかもしれない。

 

結果は、浜松に上陸する直前に北向きに進路を変えたと思ったら、浜松インターで東名高速に乗ったらしく、今度は東向きに進路を変えた。結局、富士登山コースを南に外れ、駿河湾の北端を渡って箱根を超えた。午前9時前後に僕の真上を通過したようだ。9時過ぎに雲の切れ間から青空が見え、「これが噂に聞く台風の目か」と思った。しかし、そのままたいした雨も降らずに天気が回復してしまった。恐らく、時計の反対周りをしている雨雲が富士山で遮られて、台風の背後が晴れてしまったのだろう。台風でも避ける。雨雲も遮る。富士山は偉大なのだ。

 

会計界において、その富士山のように偉大にそびえたつのが、企業会計原則。と言いたいが、会計ビックバン以降は「改正したいが改正できない」とされ(修正を要する個所が多過ぎるらしい)、ちょっと蔑にされている。しかし、このシリーズの前回(40310/2の記事で)見たように、1949年制定の真実性の原則は、60年のときを超えて見事に2010年の基本的な質的特性に対応していた。改めて読んでみると、凄いのだ。

 

とはいえ、真実性の原則は企業会計原則の第1行目。残りの行はどうなのだろう。特に、我が国会計規準の基本中の基本である残りの一般原則は、今も生きているのだろうか。

 

ということで今回は、真実性の原則の色々な側面を表現したとされる、その他の一般原則を分析の対象としたい。その切り口は“会計面と、統制環境/リスク管理/その他という内部統制面”としてみたい。下表では、関連する企業会計原則注解も、分類・整理の対象にした。

                                                                     
 

 

 

その他の一般原則

 
 

(会計面)

 
 

(内部統制面)

 

統制環境

 
 

 

 

リスク管理

 
 

 

 

その他

 
 

正規の簿記の原則

 
 

 

 
 

不正防止

 

“正確な(会計帳簿)

 

“判断を誤らせない”

 
 

重要性の原則

 
 

正確な会計帳簿の作成

 
 

資本・利益区別の原則

 
 

会計の基本計算理

 
 

 

 
 

 

 
 

 

 
 

明瞭性の原則

 
 

F/Sの表示、注記

 
 

不正防止

 

“判断を誤らせない”

 
 

 

 
 

 

 
 

継続性の原則

 
 

同一事象には同一処理

 
 

不正防止

 

“判断を誤らせない”

 
 

 

 
 

 

 
 

保守主義の原則

 
 

会計上の見積り

 
 

不正防止

 

“歪めない”

 
 

リスクへの備え

 
 

 

 
 

単一性の原則

 
 

複数のF/Sがあっても会計記録は同一

 
 

不正防止

 

“歪めない”

 
 

 

 
 

信頼しうる 会計記録

 

・統制環境の列で“”されているのは、原則や注解で使われている表現(をちょっと短縮したり、意味が明確になるよう足したもの)。

・このほか、後発事象などの具体的項目に関する規定もある。IFRSでは個別規準の扱いなので、分類・整理の対象から外している。

・一般原則の規定や注解をご覧になりたい方は、次のリンクをご覧いただけると良いと思う。

一般原則Wikibooksの企業会計原則)

注解(同注解)

・これらの解説をご覧になりたい方は、このシリーズの前々回(4019/30)にも紹介した下記のHPをどうぞ。

企業会計原則の解説(会計学を学ぼう!)

 

上表は、僕が勝手に作ったものなので、異論・違和感をお持ちの方もいらっしゃると思う。他にもっと良い整理がきっとあるだろうと僕も思う。ただ、どのように整理してもこのような切り口でやれば、内部統制へ分類される原則や注解が多くなるだろう。企業会計原則制定時の事情(=会計の普及・啓蒙の必要性)が影響しているのかもしれない。

 

次回から、この切り口を軸にしながら、IFRSの概念フレームワークの質的特性を中心に比較してみたい。それによって、日本基準の基本にある企業会計原則とIFRSの基本がどのように異なるか、なぜそれが異なるかを考えていきたい。両規準の、枝葉ではない、根本的な違いが見えてくると嬉しい。

 

 

 

さて、前回(40410/5)触れた清水エスパルスのセレッソ大阪戦との残留争いは、とてもラッキーな勝利を挙げることができた。スコアは3-0だが、うち2ゴールは、シュートがデフィンダーに当たってコースが変わったり、キーパー(敵ながら良いキーパーだ)の滅多にないファンブルを押し込んだもので、こんな幸運は連敗中にはなかった。流れの変化を感じるが、みなさんの暖かい応援のお陰があったように思う。選手たちも献身的に運動量をかけて前線からの守備と、素早い攻撃をしており、以前に増して見どころの多いゲームしてくれている。もしよければ、引続き応援をお願いしたい。

2014年9月16日 (火曜日)

397.CF-DP69)このDPシリーズ、とりあえず終了。最後に再度“不確実性”

2014/9/16

概念フレームワークについて、長々と書いてきたが、そろそろ幕引きをしようと思う。果たして、このシリーズを始めた時に掲げた目標は達成されているだろうか。「目標? そんなものあったの」とみなさんが思われるのも当然だ。僕も具体的内容は忘れていた。そこで、改めて見返してみた。

 

2962013/10/7 の記事

 

・・・とりあえず、このブログでは、次の角度については見ていきたいと思っている。

 

 ・その他の包括利益(OCI)と純利益の区分の考え方

 ・原価、公正価値や使用価値の位置づけや適用ルールの整理方法

 ・資産の定義の修正のされ方

 

これに対して、“会計上の不確実性”と“純損益とOCI”の2つをテーマに検討してきた。前者はまったく成果なく終了したが、後者はそれなりに掘下げることができたように思う。一応これらによって、“目標”の1つ目、OCIと純利益の区分と、3つ目、資産の定義の修正については、触れることができた。2つ目については、ASBJ ペーパーや FASB ペーパーの中で重要性が強調されていたので、来年の1Qに公表予定の概念フレームワークの公開草案に、IASBの考え方が整理されるはずだ。それから改めて考えようと思う。

 

1勝1敗1問題先送り。あまり誇れる状況ではない。特に“会計上の不確実性”については、悔しさが生々しく残っていて、まるで採りたての渋柿を食べた口の中のようだ。渋い、苦い。

 

しかし、多少甘味も感じている。実は、その後も“不確実性”について考え続けていて、少しは理解が進んだのだ。今回はそれを簡単に紹介して、概念フレームワークの締めとしたい。

 

 

IASBはこのDPの提案で、“不確実性”を資産の定義や認識規準から追出して、測定規準の中に押込めようとしている。その結果、“不確実性”は、概念フレームワークから削除され、個別規準の中でのみ記述されることになる。会計にとって、これは何を意味するのだろうか。

 

企業は不確実性へ対処する。対処できなければ存続できない。経営を一つの物語とすれば、顧客や取引先、経営者、従業員などの様々な利害関係者がメイン・キャストとして登場する。その裏には常に“不確実性”が共通のテーマとなっているはずだ。企業環境変化への対応、将来への対応。これらを言い換えれば“不確実性”への対応だ。企業経営にとって、“不確実性”は常にメイン・テーマだ。

 

会計上の不確実性と経営における不確実性は、相当重なっている、かなり共通しているというのが僕の考えなので、それが概念フレームワークから消えてしまうことの意味を考えずにいられなかった。IASBは不確実性を軽く考えているのではないか。もしかしたら、会計と経営の距離が離れてしまうのではないか。そんな心配をしていた。

 

結論からいうと、これは杞憂だったようだ。

 

逆に、概念フレームワークの定義や認識規準の段階で“不確実性”による選別・切捨てを止めて、個別規準の測定規準の段階まで引込んでからより深く“不確実性”を評価しよう、という趣旨ではないかと思うようになった。即ち、可能性のある事象は一旦すべてテーブル(=B/S)に載せ、その後で評価しようということだ。その結果測定値がゼロになるなら、B/Sには載らないこともあるが、定義や認識規準から“不確実性”を追出しておけば、予め切り捨てられてしまうことはない。

 

「手間がかかるなあ・・・」と思われるかもしれない。

 

でもこの考え方は、リスク(及び機会)管理と親和性がある。リスク(及び機会)管理ではいったんすべてをテーブルに載せて評価・検討し、その後に可能性のないもの、重要性のないものを外したり、対応に手間をかけないようにコントロールする。このリスク(及び機会)管理は、経営プロセスそのものだから、会計は経営とより親和性が高まると考えて良いのではないか。その代り、会計を経理部門だけのものにせず、企業の経営組織に浸透させていく必要がある。それによって、各部門が事業運営のために判断したことが、同時に会計へ生かせるようになる。完全な一致は理想に過ぎず、実現は無理かもしれないが、この理想により近付けられる。その結果、コスト・ベネフィットはむしろ高まる可能性がある(リスクだけでなく機会も、コストだけでなく収益も考慮する)。

 

COSO Chairman Bob3898/27 の記事参照)も言われていた。「重要性は企業のリスク管理で決められる」と。(僕はちょうど2年前の“脱線シリーズ”に、自分の経験からくる感覚のみを頼りにそういうことを書いたが、どうやら当たっているらしい。)

 

機会やリスクを過小評価して手痛いしっぺ返しを食らうことは、企業の生き死に係ることだから、機会の探索やリスクの識別、そしてこれらに対する重要性の評価は、企業の管理組織にとっての生命線だ。財務諸表規則や会計基準で決められたものとは次元が違う厳しさがあるはずだ。IASBのこの提案には、その厳しさを会計に取込みたい、或いは、企業ごとのその厳しさの程度・優劣を会計で分かるように表現したい、そんな意図があるのではないだろうか。或いは、結果的にそうなるのではないか。今は、そんなふうに考えている。

 

 

 

2014年9月 5日 (金曜日)

392.CF-DP66)純損益とOCI~まとめの前に~株式持合いや安定株主は悪か?

2014/9/5

実は、前回(9/2の記事)に引続き、まだ悩み中だ。いわゆるOCIオプション(=資本性金融商品について、「公正価値の変動をOCIを通じて測定する FVTOCI」へ指定をすること)が、「余計な目的を会計に持ち込んでおり、良くない」と言いたいのに、これに実益はあっても、実害が思い浮かばない。だから言えない。それで困っている。前回は、今回この悩みのプロセスを記載するとしていた。

 

だが、考えているうちに、ちょっと気になったことがある。

 

僕は、「株式持合いや安定株主は良くない」ことを前提に話を進めているが、本当にそうだろうか。OCIオプションは、この“良くない”ことを抑制する、或いは、業績から除外するのでやっても無意味にする実益があると考えたが、本当に“良くない”と決めてかかってよいだろうか。もし、ここが間違っていたら大変だ。議論が根底からひっくり返る。しっかり固めておく必要がある。それに、ここにこの悩みを解決する突破口があるかもしれない。

 

みなさんは、僕が「藁をも掴む」感じで、溺れかかっているように感じられるかもしれない。しかし、ここで溺れても命を取られるわけではないし、もう一度、水に入ってみようと思う。

 

 

昔、株式持合いや安定株主は、年功序列型賃金制度や終身雇用制度と同様、長期志向の日本的経営を支える誇るべき慣習と考えられていたように思う。つまり、“安定株主”という言葉・用語は、ポジティブなイメージだった。今はどうだろう。一般的にはどう思われているだろうか。ネガティブ・イメージか? 

 

これを調べるため、試に、久しぶりに EDNET でいくつか検索・分析してみた(9/4 現在)。結論から書くと次のようになる。

 

・“安定株主”が使われている場合、ほとんど、ポジティブ・イメージだった。

 

株式を保有する目的が、単に「取引先との関係の維持・強化」の場合は、“安定株主”という言葉・用語は使われていない。それより包括的な信頼関係を表現するために“安定株主”が使われているようだ。

 

・一方で、“安定株主”は、あまり使われなくなっている。

 

以前はもっと気軽に使われていたように思うが、今では“安定株主”はかなり限定的な用語になっている。例えば、この1年間の有価証券報告書を対象に全文検索すると、僅か、85 件しかヒットしない。投資信託等ファンドを除く有価証券報告書は、4,199 件もある。さらに、新規公開会社や、増資・売出し時に発行される有価証券届出書も同様で、投資信託等を除く 801 件のうち、“安定株主”にヒットしたのは、僅かに 21 件だった。うち、新規公開会社が発行したものに限ると、68 件のうち、2 件にしか使われていなかった。

 

この結果を見る限り、株式持合いとか安定株主というのは、日本の慣習から消えてしまったように見える。本当にこれだけしかないのだろうか。ん~、俄かには信じがたい。

 

一方で、株式の保有目的を「取引先との関係の維持・強化」などと表現するケースがたくさんあるようだ。こういう保有目的の場合は、株主総会の議題について真剣に賛否を検討し、必要があれば反対もするのだろうか。もし、あまり深く考えず、すべての議案に賛成するなら、これも実質的に安定株主だ。“安定株主”のような固定的な用語がないので、残念ながら検索では拾い切れず、実態はつかめないが。

 

“安定株主”は、開示資料から消えていく傾向にあるが、実態はこのような形で残っているように思う。つまり、“安定株主”のアングラ化が進行しているということではないか。実際は安定株主だが、それを言いにくくなっている。ということは、“安定株主”は、社会的にネガティブ・イメージが付いている、少なくとも、付けられつつあるのだろう。

 

なぜそうなのか。或いは、そうなりつつあるのか。株式持合いや安定株主は、本当に社会的に悪なのか。そこをもっと掘り下げる必要がありそうだ。

 

 

なお、上記の検索と分析のプロセスを、下記に追記する。もし関心があれば、お読みいただきたい。

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昔は、企業が株式持合いで安定株主作りをすることは当たり前だった。旧財閥系企業はもちろんのこと、その他の企業も、多くはそうしていた。総会屋などという不逞の輩がいたこともあるし、株主総会を短く終わらせることが良いことのようなイメージもあった。そのためには、株主総会から議論を取り去り、単に経営者の提案を追認する場とする必要があった。そのために、安定株主が必要だったのだ。

 

新規公開企業も例外ではない。新規公開企業が従業員持ち株会を作るのも、従業員の資産形成や会社に対するロイヤルティ育成以外に、その目的があった。上場準備期間中に、従業員持ち株会を作り、さらに金融機関、取引先へ安定株主になってくれるよう依頼し、それでも足りずに会社幹部の個人的伝手などを頼って、株を持ってくれそうな会社・人を探した。こうして、上場後の株主総会を円滑に運営できる株主構成にすることを、資本政策と称していた。

 

現在(9/4)も、例えば EDNET で“安定株主”で全文検索すると 1,962 件もヒットする(その他の条件はデフォルトのまま。検索対象期間は1年となる)。しかし、検索範囲を有価証券報告書に限ると、85 件(=85 社)へ激減する。ほとんどは、大量保有報告書や変更報告書であり、株式の保有目的欄に“安定株主”という用語を使用している。

 

では、大量保有報告書や変更報告書は全体で何件あるかというと、この1年間で 12,498 件提出されている。意外と保有目的に“安定株主”と記載されるケースは少ないことが分かる。数件閲覧してみたが、“安定株主”に代りに“長期保有”という用語が使用されることが多いようだ。その他には、投資信託による信託財産としての保有も多い。証券業務によるもの、ディーリング目的といったものも散見される。

 

もう少し分析を続けよう。

 

新規公開や増資等の際に提出される有価証券届出書は、この1年で 5,103 件。だが、投資信託の組成等に関するものが多い(4,302 件)ので除くと、残りは 801 件となる。このうち、“安定株主”が使用されているのは 23 件で、うち 2 件は外国投資信託受益証券と債券の発行に係るものだったので除くと、残りは 21 件。“たった 21 件”といえると思う。内容は次のようになる。

 

・新規公開に係るものは 2

 

1件目)公開前の第三者割当増資(いわゆる資本政策)。相手は、親会社、従業員持ち株会、取引先(2 社)等で、まさに発行会社の応援団になりそうだ。

 

2件目)これも公開前の株式の移動(いわゆる資本政策)。異動元は投資ファンドで、移動先は従業員持ち株会、従業員や関係会社役員、その他の大株主。これも応援団づくりといえる。

 

(参考)この1年間の新規公開 68

 

有価証券届出書を“【株式公開情報】”で全文検索すると 68 件ヒットした。上記 2 社以外は安定株主作りをしていないのかというと、各社の【株式公開情報】を眺めていると、そうはいえないケースもあると思う。恐らく、「“安定株主”という用語を簡単に使わなくなった」のではないか。

 

18 件は、第三者割当(増資、自己株式処分、新株予約権付社債の発行)

 

特定の相手に割当てを行う場合、事業上の関係強化や財務上のサポートを目的とすることが多いが、必要以上に経営に入り込んで欲しくない。そういう相手を選んでいるようだ。なるほど、安定株主だ。

 

・残る 1 件は、株主(創業家)に対する説明で使用

 

再建過程で、創業家が持ち株の一部を失ったが、引続き安定株主として長期保有するという説明。

 

数は少ないが、記載のある会社は“安定株主”を有難い存在として、ポジティブなイメージで使用している状況が窺える。

 

85 件の有価証券報告書も見てみよう。有価証券報告書はこの1年で 9,884 件提出されたが、投資信託等(5.685 件)を除くと 4,199 件となる。そのうち、85 件に“安定株主”が使われている。その内容を見てみよう。

 

(使われ方)

 

ポジティブ・・・83

ネガティブ・・・2 件(下記の【対処すべき課題】の“2-”)

 

(記載場所)

 

【コーポレート・ガバナンスの状況】 72

【自己株式等】   2

【注記事項】    1

【対処すべき課題】 2-、1

【第三者割当等による取得者の株式等の移動状況】 1

【事業の内容】   1

【事業等のリスク】 3

 

【コーポレート・ガバナンスの状況】に、なぜ“安定株主”がたくさん出てくるかというと、ここに“特定投資株式の保有理由”の記載が要求されているからだ(2010/3期から。経緯や内容については、大和総研の資料“株式の保有状況開示”が詳しい)。“特定投資株式”とは、IFRS流にいえば、公正価値の変動を純損益を通して測定する(=FVTPL)ような純投資以外の目的で保有される株式だ。即ち、OCIオプションが指定されるような株式が、そこにリストアップされ、かつ、保有理由の記載が要求される。上記の場合は、保有理由として“安定株主”が記載されている。

 

なぜ、それが【コーポレート・ガバナンスの状況】に記載されるかだが、恐らく、そこにリストアップされた会社が、株式の持ち合いによって、有価証券報告書の発行会社の株式を保有しており、株主総会で無条件に賛成票を投じると疑われているのではないか。もしそうだとすると、株式総会の企業統治機能が阻害される。金融庁は、株式総会の意思決定を歪め、企業統治を阻害する可能性を、そこで表現させようとしていると思われる。

 

このため、多くの企業は“安定株主”という表現を避けるようになったと思われる。その結果、“取引先との関係の維持・強化”みたいな表現が増えたのだ。もしそうであれば、単に表現が変わっただけで、“安定株主”の実態は依然として残っているのではないか。

 

 

ところで、EDINET を久しぶりに利用したが、非常に便利だ。使いやすくなったので驚いた。例えば、上記の 85 件は、検索結果を Excel へダウンロードできたので、簡単に分析できた。検索の選択肢の分かりにくさや、検索から除外する条件が設定しにくいなど、改善した方が良い点もあるが、全体としては素晴らしいと思った。

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